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昨年3月号、「やまねこ翻訳クラブ99年注目の作家」として本誌でご紹介したフィリップ・プルマン。あれから1年、話題作 THE GOLDEN COMPASS の翻訳、『黄金の羅針盤』が、99年11月、ついに新潮社より刊行された。さっそく、訳者・大久保寛さんのもとへ! 大久保さんは、ミステリやハードボイルドでは多くの訳書を出しているが、児童書は『黄金の羅針盤』が初。子どものころはほとんど読まなかったという児童書のおもしろさを知ったのは、娘さんが生まれて読み聞かせをするようになってからだった。いつか自分でも訳してみたいと思っていたところへ、新潮社より本書の翻訳依頼があり、原書を一読して迷わず引き受けた。物語は、勇敢な少女ライラが、次々襲いかかる困難を乗り越えていく壮大な冒険ファンタジー。宗教の問題も含んだ重厚なテーマは、大人の読者にも読み応えじゅうぶんだ。イギリスでは多くの賞を受賞し、世界中で大ベストセラーになっている。大久保さん自身の嗜好にも、ぴったり合った。「これほどの作品に出会えたのは、宝くじに当たったようなものです」 しかし、初めての児童書ということもあり、翻訳には苦労も多かった。対象年齢を小学校高学年以上として、まずはその年代向けの本を読んで雰囲気を研究。漢字の多用でページが黒っぽく読みづらくならないよう、含有率を決めるなど、事前のイメージ作りにも気を配った。 「児童書は、なによりも『子どもにわかる』という点に気を使わなくてはいけません。一度日本語に訳したものを、さらにもう一度子どものことばに置き換えるという、二段階の作業が必要になりますね」結局、原稿を仕上げるまでに「いつもの2〜3倍の労力、1.5倍の時間」がかかったそうだ。とは言え、訳文は、そんな苦労を感じさせず、淡々とした印象すら受けるほど、さらりと読みやすい。 子どもが読む本は、教育的な意味よりも「おもしろさ」が大切なのでは、と大久保さんはいう。そういう意味で本書に始まる「ライラの冒険シリーズ」は、これ以上ないくらい「おもしろい」話。完結編である3作目は未発表だが、世界中のファンが出版を待ちわびている。大久保さんも、先が気になって仕方がないまま、先日2作目 THE SUBTLE KNIFE を訳了した。 今後も、いい出会いがあれば、また児童書の翻訳をやってみたいという大久保さん。おもしろい話にテンポのいい翻訳。児童書ファンに、またまた楽しみが増えた。 (森 久里子) |
シリーズ第2作 THE SUBTLE KNIFE 邦訳『神秘の短剣(仮)』は3月出版の予定 |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年3月号掲載)のホームページ版です。
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