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若い時分にこそ味わえる感情もあれば、年齢を重ねることでより深まっていく感情もある。幼い頃に読んでおきたい絵本もあれば、老人になってもまた読み返したい絵本だってある。 ガブリエル・バンサンの「くまのアーネストおじさん」シリーズ最新巻『とおいひのうた』は、10年後、20年後にまた読み返したくなる作品だ。街角でバイオリンひきに出会い、「何か」に心乱されるアーネスト。いつも互いを思い、心を通い合わせるアーネストとセレスティーヌだが、今回は、簡単には分かち合うことのできない感情がテーマとなる。個のなかでわきあがり、くすぶる想い。ふたりはそれにどう対処していくのだろうか? 完全に大人向けの絵本なのが、サンペの『サン・トロペ』。60年代に高級リゾート地として名を馳せた港町サン・トロペを舞台にしたこの作品、断片的なスケッチと小さなコママンガなどで構成され、一貫したストーリーというものはない。一貫して流れているのは、退廃した雰囲気とでもいうべきもの。「ささやかな漁師町なんです。」という冒頭、満艦飾のヨットとスポーツカーがひしめきあっている図は、サンペ独特の皮肉たっぷり。ヒッピー、反体制、インテリ、開放、セックス――そんなキーワードで彩られた、たくさんの青春。そして、若者たちも確実に年をとっていく。ため息とともに語られるのは、美しい思い出か、若者へのルサンチマンか。大人になると、説明のしようがない感情が増えてくるものだ。 『みどりの船』などで知られるクエンティン・ブレイクの新作『シンプキン』は、「へなちょこのときもあれば、つよいときもある」男の子の気まぐれと多面性を、単純に楽しく描いている。そう、「内気な子ども」「元気な子ども」なんていうレッテルはもうやめようじゃないか。いつも元気な子どもなんて、いるわけないんだから。 (ながさわくにお) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年3月号掲載)のホームページ版です。
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