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絵本とは、めくる芸術である。1ページ1ページ開いていくことによる世界の広がり、それは、インパクトのある絵や奇想天外な展開で驚かせるタイプの絵本に限ったことではない。 『シェイカー通りの人びと』は、全ページさして変化のない構図で、シェイカー通りに立つ家々とそこに住む人々を描いていくだけの絵本だ。しかし、そこには、人々の「生活」と「気配」が、ページをめくるたびに濃厚に伝わってくる。淡々としつつ心に染みいる。短い物語のなかで、からりとした感傷とでもいうべきものを見事に実現させた、おすすめの1冊。 文章の長い絵本というものは、えてして「めくり」の効果が薄いと思われがちだが、『大森林の少年』はちょっとちがう。インフルエンザの大流行する町から送り出され、大森林できこりたちとともに生活することになった少年マーベン。少年の心の機微が繊細な文章で綴られるとともに、厳しい大自然のなかでたくましく生きる人間たちの姿が、やわらかな筆致で描かれる。人間の営みと雄大な大自然の対比の妙。めくるたびに、一面の雪景色もなぜか暖かげに見えてくる。 本が右開きで文章が縦書きという、翻訳絵本としては非常に珍しい体裁なのが、『どこにいるの、おじいちゃん?』。物語は、おじいちゃんの葬儀のシーンから始まる。死を扱った絵本というものは、今や珍しくはないが、この作品は、死を乗り越えて悲しみから立ち直るパターンのものではない。幼い少年にとって、死とはなんであるかを漠然と(ほんとに漠然と)認識させる、それが主題となる。そこに強い感傷はなく、無邪気な好奇心からくる素朴な疑問がいくつも提示される。ときにはユーモラスに、ときにはシニカルに。泣かせのパターンになりがちなこのタイプの絵本としては、くすりと笑えるオチがなかなかきいている。 (ながさわくにお) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』2000年2月号掲載)のホームページ版です。
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