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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

マイケル・L・プリンツ賞(アメリカ)  レビュー集

Michael L. Printz Award

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最終更新日 2009/04/01 レビューのリンクを1点追加

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このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"American Born Chinese" * "Chanda's Secrets"『沈黙のはてに』 * "The House of the Scorpion"『砂漠の王国とクローンの少年』 (リンク) * "Speak"『スピーク』(リンク)  * "The Disreputable History of Frankie Landau-Banks"(リンク)←追加 * 


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

2009年オナー "The Disreputable History of Frankie Landau-Banks"( 全米図書賞) * 2003年オナー "The House of the Scorpion"『砂漠の王国とクローンの少年』(全米図書賞) * 2000年オナー "Speak"『スピーク』 (ゴールデン・カイト賞) 


2007年マイケル・L・プリンツ賞受賞作品

"American Born Chinese" (2006)  Gene Luen Yang ジーン・ルエン・ヤング作 (未訳読み物)  やまねこ公式レビュー 月刊児童文学翻訳2007年2月号

その他の受賞歴 ・2006年全米図書賞ファイナリスト


 中国のファンタジー『西遊記』の主人公孫悟空。サンフランシスコからほとんどアジア系のいない地域に引っ越して、新しい学校に通い始めた中国系アメリカ人少年。そして、一風変わった台湾人のいとこの毎年の訪問に翻弄される白人の少年。
 3人の物語が交互に語られ、それぞれが「自分は誰なのか」を探していく。そして最後にたどりついた答は……?

 グラフィックノベルとして初めてプリンツ賞を受賞した作品。どれほど訴えてくるものがあって受賞したのかと興味津々で読み進めたが、なるほどこれか、と納得。孫悟空はデフォルメされ、アジア系少年に対する白人少年たちの辛辣な言葉や態度は大げさに描かれ、台湾人のいとこの行動はあまりにも常識を逸脱しているが、最後にすべての話が収束を迎える時、そうした誇張の意図がわかる。オムニバスという形態は、結局語りたいことはひとつなのだと、あらためて感じた。
 著者の仕掛けたからくりに、どうかあっと驚いてほしい。

(冬木 恵子) 2008年12月公開

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2005年マイケル・L・プリンツ賞オナー作品

"Chanda's Secrets" (2005) Allan Stratton アラン・ストラットン作
『沈黙の果てに』 さくまゆみこ訳 あすなろ書房 2006 (邦訳読み物)

その他の受賞歴


 ここはとあるアフリカの国。16歳の少女チャンダは、母と異父弟妹とともに、頼りにならない飲んだくれの義父と暮らしている。すべてのきっかけは、10年ほど前に起きた鉱山の爆破事故だ。その事故で夫と息子を亡くしたチャンダの母は、生きるために再婚を繰り返すほかなかった。だが、チャンダの異父妹で、現在の義父の娘であるサラは、わずか2歳半で死んでしまった。そして、しばらく失踪していた義父は、病魔に冒され変わり果てた姿で家に送りつけられる。やがて、母も体調を崩してゆき、チャンダは、恐ろしい考えにとりつかれる。もしかして母さんの病気は……。

 貧困、児童虐待、売春、レイプ、そしてエイズといった、アフリカの国が苦しむさまざまな不幸が描かれている。これは、フィクションではあるが、現在のアフリカが直面している現実の姿だ。もちろん、このような不幸は、先進国とて他人事ではない。だが、貧困であるがゆえに知識がなく、知識がないゆえに風聞ばかりが先にたち、生きていくために聞かぬふり見ぬふりをせざるを得ない開発途上国の現状は、あまりにも悲しい。だが、チャンダは強かった。子どもなのに、とても強かった。母を愛するゆえのその強さが、隣人の心を揺り動かし、希望の灯をともすことに成功する。このチャンダの姿に、「人間も捨てたもんじゃない」と思わされるのは、わたしひとりではあるまい。勇気を持つことのすばらしさを教えてくれる作品だ。エイズは他人事ではない。だからこそ、あらゆる人にぜひ読んでほしい1冊だといえる。

(村上利佳) 2008年12月公開

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