メニュー>「月刊児童文学翻訳」>バックナンバー>2001年9月号 オンライン書店
※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
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M E N U
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賞情報1 |
―― オーストラリア児童図書賞発表 ――
8月17日、オーストラリア児童図書評議会が選出する、本年度の児童図書賞(THE CHILDREN'S BOOK OF THE YEAR AWARDS)が発表された。今年度より、新たに Early Childhood(幼年向け)部門が設立され、全部で5部門となっている。 幼年向けの部門が新設されたのは、読者の年齢により細やかに対応するため。絵本ではなく読み物を対象とするが、「挿絵が効果的に使われ、幼い読者の理解を助ける役割を果たしている」ことが審査の重要なポイントとなる。その他の部門の詳細については、本誌バックナンバーを参照のこと。
◇「月刊児童文学翻訳 情報編」1998年9月号「世界の児童文学賞」 |
2001年の ★Winner(受賞作)、☆Honor(次点、各部門2作品)は以下の通り。 |
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【Older Readers】(高学年向け) |
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★ "Wolf on the Fold" by Judith Clarke (Silverfish / Duffy & Snellgrove now Allen & Unwin) ☆ "Dogs" by Bill Condon (Hodder Headline) ☆ "Fighting Ruben Wolfe" by Markus Zusak (Omnibus Books) |
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【Younger Readers】(低学年向け) |
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★ "Two Hands Together" by Diana Kidd (Penguin Books) ☆ "Away with the Birds" by Errol Broome (Fremantle Arts Centre Press) ☆ "Nips XI" by Ruth Starke (Lothian Books) |
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【Early Childhood】(幼年向け) |
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★ "You'll Wake the Baby!" text by Catherine Jinks, illustrated by Andrew McLean (Penguin Books) ☆ "Max" by Bob Graham (Walker Books) ☆ "Pog" text by Lyn Lee, illustrated by Kim Gamble (Omnibus Books) |
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【Picture Book】(絵本) |
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★ "Fox" illustrated by Ron Brooks, text by Margaret Wild (Allen & Unwin) ☆ "The Singing Hat" by Tohby Riddle (Penguin Books) ☆"The Lost Thing" by Shaun Tan (Lothian Books) |
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【Eve Pownall Award for Information Books】(ノンフィクション) |
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★ "Olympia: Warrior Athletes of Ancient Greece" text by Dyan Blacklock, illustrated by David Kennett (Omnibus Books) ☆ "Building the Sydney Harbour Bridge" by John Nicholson (Allen & Unwin) ☆ "A is for Aunty" by Elaine Russell (ABC Books) |
●受賞歴など
●受賞作家の邦訳など
●受賞作の紹介
今年度受賞作には、「家族」「異文化と自己」をテーマとした作品が多かった。
Older Readers 部門受賞作は、親子5代がそれぞれ時代や場所を超えて、自らの内面に住む "wolf"(恐怖)と向き合うというシリアスで感動的な作品。次点2作品も、それぞれドッグレースやボクシングを通じて、父と息子、兄弟が絆を確かめ合う物語だ。また Early Childhood 部門受賞作では、わんぱく姉弟と、赤ちゃんを寝かせたい母親のやりとりがユーモラスに描かれる。Younger Readers 部門受賞作は、隣家のアボリジニ家庭との交流の中で、人種差別の問題に目覚める少女が主人公の作品。
異色作としては、以下の2作が挙げられる。Picture Book 部門受賞作の "FOX" は、手書き文字を縦横に配した大胆なデザインが、友情と裏切りという深いテーマを象徴的に表現していると高い評価を受けた(ちなみに英国版は活字を使った普通の横書きレイアウト。グリーナウェイ賞候補となったが、受賞は逃している)。Eve Pownall 賞受賞作は、古代ギリシャ兵の姿を、簡潔な文章と表情豊かな絵で忠実に描き、ノンフィクション作品としても読み物としても秀作と、審査員の絶賛を集めた。
(森久里子)
☆ "FOX" レビュー(「月刊児童文学翻訳 書評編」2001年6月号掲載) |
◇編集部注:当メールマガジンでは、これまでこの賞のことを「オーストラリア児童文学賞」と表記しておりましたが、既訳の賞名を検討の上、今後は「オーストラリア児童図書賞」と表記することといたします。
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
賞情報2 |
―― ブランフォード・ボウズ賞発表 ――
ブランフォード・ボウズ賞は、1999年に亡くなった児童文学作家 Henrietta Branford と編集者 Wendy Boase 両氏に追悼の意を込め、昨年より設けられた。この賞は英国在住の新人作家の、英国内で初出版された児童文学作品に対して贈られる。賞金は1000ポンド。また受賞作の担当編集者に対し、新しい才能を育てた功績をたたえて編集者賞(Editor's award)が贈られる。
7月11日、ウォーカー出版にて授賞式が行われた。受賞作は以下の通り。
★2001 Branford Boase Award
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イングランドが水没し、ノリッジは島と化した。脱出の騒ぎの中、10歳のゾーイは両親とはぐれ、取り残されてしまう。なんとかボートを見つけ、ひとり漕ぎ出したゾーイは、ある島にたどりつき……。斬新な設定の作品、"Floodland" でデビューを飾った Sedgwick。精力的に作家活動を進めており、半年後には次作 "Witch Hill" を出版している。今後の作品も期待できそう。両作品とも、挿絵(版画)も自分で担当している。
尚、昨年の第1回受賞作 "Song Quest" by Katherine Roberts は、2000年10月1日『ライアルと5つの魔法の歌』(吉田利子訳/サンマーク出版)として邦訳出版されている。
(西薗房枝)
【参考】 |
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
賞情報3 |
―― ガーディアン賞ショートリスト発表 ――
英国の児童文学賞、ガーディアン賞は、作家が審査にあたるという特色を持つ。今年の審査員は、ジャクリーン・ウィルソン、アン・ファイン、フィリップ・プルマンと、錚々たる顔ぶれだ。例年の発表は春であったが、今年は秋に変更されている。すでに10作が候補作として挙がっていた中で、9月11日、以下の5作がショートリスト(最終候補作)に残ったと発表された。受賞作の発表は9月29日。
★The shortlist for the Guardian Children's Book Prize
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"Arthur: The Seeing Stone"、"Witch Child" の2作は、本号の「注目の本(未訳読み物)」コーナーで取り上げているので、ぜひご参照いただきたい。
(菊池由美)
【参考】◇ガーディアン賞サイト
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
―― 子どもの成長を温かく見守りたい ――
『おっかなびっくりしまうまくん』 "VALENTIN LA TERREUR" |
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真夜中、小さなしまうまくんがたった1頭で水飲み場に向かう。星をつかまえようと張り切っていたが、ハゲワシにギロリとにらまれ、おっかなびっくり。だけど、途中で出会ったキリンやゾウがしまうまくんに驚くものだから、しまうまくんは自分が恐ろしがられる動物、すごい動物なんだと勘違いして、だんだん大胆になっていく。ライオンを見たことがないしまうまくん。危険な夜の草原から、無事に帰ってこられるのかしら。
このお話には、草原に住むたくさんの動物たちが登場する。白と黒を中心とした迫力のある構図で、ページをめくると、キリンの足だけが4本の棒のように現れたり、ゾウの顔のアップが迫ってきたりする。きっと、幼い読者は、絵を見ながら動物の名前あてゲームを楽しむことだろう。それに加えて、小学生くらいになると、しまうまくんの夜の冒険に共感してわくわくするのかもしれない。
だが、子育て中の私にとって、この絵本の内容は、わくわくというより、ハラハラするものだった。子どもは危険を経験して大人になっていくとわかってはいる。けれど、ひとつ間違えて命を落とすことを考えると、どこまで危険に近づけていいものか、悩みは大きい。
一方、そんな親の悩みを忘れさせてくれる部分もある。それは、ゆったりとしていて、すべてを包み込んでしまうような日本語のリズム。まるでゆりかごの中でゆられているような安心感がある。訳者の岩切氏は、お子さんといっしょに絵本を楽しんでいるそうだ。ふだん、子どもに語りかける調子が、そのまま絵本の文章になっているのかもしれない。
しまうまくんを心配する動物たちは「夜中にひとりであるいてちゃだめよ!」「おや! おっかないね、ぼうや」と、まるで近所のおばさんやおじさんのよう。私が子どもの頃は、田舎ということもあって、学校の行き帰りに声をかけてくれる大人がたくさんいた。親だけでなく周囲の大人たちに見守られて育った。
懐かしい子ども時代の想い出に浸っていると、ふと、息子のことが頭に浮かぶ。交通量が多い割に、ほとんど人通りのない国道沿いの通学路を帰ってくる小2の息子。ハラハラ、ドキドキ。一気に悩み多き親に戻る。
(河原まこ)
【作者】マリオ・ラモ(Mario Ramos) 1958年、ベルギーのブリュッセル生まれ。学生時代にトミー・アンゲラーなどの作品と出会い、影響を受ける。広告デザインの仕事をした後、絵本の仕事をはじめた。"Orson"(邦訳『くまのオルソン』ラスカル文/堀内紅子訳/徳間書店)など、初期の作品では絵のみを担当していたが、1995年頃から、文と絵の両方を手がけた作品を年に数冊ずつ発表している。 【訳者】岩切正一郎(いわきり しょういちろう) 1959年宮崎県生まれ。仏文学者。フランス文学の研究のほか、詩と翻訳の仕事で注目されている。訳書に『ガラ―炎のエロス―』(ドミニク・ボナ著/筑摩書房)、『ノアノア』(ポール・ゴーギャン著/ちくま学芸文庫)、詩集に『秋の余白』(ふらんす堂)がある。 |
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 現代の吟遊詩人が深い愛で詠うアーサー王伝説 ――
『アーサーの鏡石』(仮題) "Arthur: The Seeing Stone" 324pp. ★ガーディアン賞最終候補作 |
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1199年、英国は王権交代などで過渡期にさしかかっていた。13歳のアーサーは、一日も早く兄のような騎士見習いになりたいが、父のコルディコット卿はなぜか認めてくれない。アーサーは、身分差別が厳しい中世にあっても、召使いを同等の人間として思いやる優しい子である。そういう彼に父の友人、マーリンは目をかけてくれた。
ある日、アーサーはマーリンから黒曜石でできた秘密の「鏡石」を授かる。その石が映し出すアーサー王の物語とアーサー少年自身の物語が、不思議にも重なっていく。
この小説は、一人称で書かれた、1、2ページ程度のごく短い100章から構成される。各章が、散文詩のような完成度の高さをみせ、まるで中世に育つ少年のひとときを捉えた肖像画のようだ。しかも物語としての連続性は保たれている。
著者ホーランドは詩人でもあるため、ことばの使い方が実に意味深い。題名にも多くの思いが込められ、鏡石が見せる(See)ものは、アーサー王の物語だけではない。見つめるアーサー自身の心のうちを映し出し(See)、将来まで占う(See)。また、アーサー少年自身が、読者にとっての一つの "Seeing Stone" だといえる。現代の子どもにとって、アーサー王は遠い伝説上の人物。しかし、中世の少年の眼を借りることによって、時や文化の距離はぐっと縮まり、アーサー王は身近な存在に変わる。
アーサー王には "The King Who Was and Will Be" という別名がある。波乱の時代には偉大なアーサー王が蘇って、英国を救ってくれるという願いを込めた名だ。作中ではこの名が何度も使われ、アーサー少年が鏡石を授かった理由を示唆する。
また、この呼び名は、読者への呼びかけともいえるだろう。中世に比べると自由になったはずの現代社会だが、人種や宗教、慣習などが身分に代わって人々の枠になる。アーサー王は、高貴な精神をもち、弱き者への配慮を忘れず、裏切りにも屈せず、大切なことのために戦った。ホーランドは、小さな枠に収まりがちな現代っ子の中にも潜む、"The King Who Will Be" を目覚めさせようとしているのではないか。
(池上小湖)
【作者】Kevin Crossley-Holland(ケビン・クロスレー=ホーランド) 『あらし』(島田香訳/ほるぷ出版)でカーネギー賞を受賞。創作以外にも神話・伝説書の執筆を行い、語り部としての活躍も盛ん。ホーランドはアーサー王物語を長年愛し続け、研究を重ねてきた。自分の中で煮詰めた十数年の思いが、オリジナルストーリーを織り込んだ今回の作品として誕生したという。本作は今年のウィットブレッド賞の候補作にあがったが、受賞は逃した。三部作となる予定で、今年8月には第二部、来年以降に第三部が出版されるとのこと。 |
【参考】◇作者インタビュー記事
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― わたしは魔女。わたしの生きる場所はどこにあるのか。 ――
『魔女の娘』(仮題) Bloomsbury Publishing Plc, 2000, ISBN 0747550093(UK)
Candlewick Press, 2001, ISBN 0763614211(US) ★ガーディアン賞最終候補作 |
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17世紀半ば、イギリスでは異端撲滅の名の下に、恐ろしい魔女裁判が行われていた。少女メアリーの祖母は有能な産婆だったが、魔女の汚名を着せられ惨殺される。祖母の処刑の日、孫娘メアリーの身にも危険が迫った。間一髪、見知らぬ貴婦人に救われ、メアリーは新教徒のもとへ逃走する。新教徒たちはイギリスでの弾圧から逃れて、アメリカに渡り新しい生活を始めようとしていたのだ。その船旅は辛かったが、メアリーは産婆マーサの見習いになり、自分の将来の役割を見いだす。メアリーは過去を捨て、アメリカで新しい生活を築こうと希望を抱くのだった。
しかしアメリカでの暮らしは想像以上に過酷だった。大陸の厳しい自然は脅威となって襲いかかり、新教徒の堅苦しい規律は自由な生活を許さなかった。しかも入植してきた人々は、ここアメリカにまで魔女裁判を持ち込んでいた。作物の不作、貧困、病気など人々を苦しめるものは限りなく、神に祈ってもどうしようもない苦しみに耐えるために、彼らには憎悪の対象が必要だった。それが魔女だったのだ。メアリーは過去の秘密を隠し通さなければならなかった。気づかれてはならない、でなければ、待っているのは迫害と死、それだけだ……。
物語はメアリーの手記の形で語られている。淡々としたその口調から、どこにいてもよそ者として生きねばならなかった、少女メアリーの孤独が骨に沁みるほど強く伝わってくる。彼女はアメリカの原生林に生きる一匹狼のように、孤独という崖っぷちに、自らのやり場のなさに苛立ちながら、立っていた。後半に登場するネイティブ・アメリカンの少年とメアリーとの友情により、物語はさらに深みを増す。入植者に故郷の地を荒らされた少年もまた、行き場を失った存在だったのだ。
作者リーズは史実に基づき、リアリティのある作品に仕上げながら、単なる歴史ものにはしていない。主人公メアリーの姿を通して、現代の若者にも通じる、孤独な心情や生きる上での居心地の悪さを、創造性あふれる筆致で描き出している。メアリーは、不安の多い今の時代を生きる者にとっても、心優しい寂しい友になるだろう。甘い癒しを許さない、痛切な物語である。
(中務秀子)
【作者】Celia Rees(セリア・リーズ): 1949年、英国のワーウィックシャーに生まれる。ワーウィック大学でアメリカ史と政治学を学ぶ。その後、中学校で国語教師を務め、1993年に最初の作品 "Every Step You Take" を出版する。現在 "Witch Child"の続編 "Sorceress" を執筆中。他の作品に "The Vanished"、"Truth or Dare" などがある。ワーウィックシャーに夫と娘とともに住んでいる。 |
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 殺人事件を通して見える、少女の成長と家族の絆 ――
『あたしは殺してない』(仮題) "Dovey Coe" 181pp. ★2001年度MWA賞(エドガー賞)最優秀児童図書賞受賞作 |
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1928年、アメリカ、ノース・カロライナの山岳の町で、殺人事件が起きた。被疑者の12歳の少女が語り出す。「あたしの名前はダヴィ・コウ。パーネル・キャラウェイのことは大きらいだったけど、殺したのはあたしじゃない――」
ダヴィの家族は、両親、姉、兄の5人。コウ家は代々この地に住みつき、貧しいながらも、他人に頼ることなく、誇り高く暮らしていた。両親は優しさと厳しさをもって、子どもたちに愛情を注ぐ。ダヴィは感受性が強く、怖いもの知らずで、本音をすぐ口に出してしまう。姉のキャロラインは教師になる勉強をするため、町を出る予定。兄のエイモスは、幼い頃に患った病気が原因で耳が聞こえず、まわりから差別を受けている。ダヴィは、兄を支えられるのは自分しかいないと思っていた。
町で一番裕福なキャラウェイ家の長男、パーネルが美しいキャロラインに熱をあげる。お金で何でも手に入れるパーネルも、キャロラインの心だけは思い通りにできない。ダヴィはパーネルの傲慢で意地悪な性格に我慢がならないが、姉は曖昧な態度をとり続け、両親はふたりの問題だと取り合わない。結局、キャロラインは送別パーティーの席で、パーネルの求婚を断った。大勢の前でプライドを傷つけられたパーネルは、キャロラインのみならず、コウ家を罵倒し、姿を消す。翌日、キャロラインは両親に送られ新しい町に旅立った。ダヴィが兄とふたりで残された夜、事件は起きる。
南部なまりの英語で、ダヴィが事件をふりかえり、心をさらけだして語りつくす一人称小説。事件の行方を追いながら、家族ひとりひとりへのダヴィの愛情や、成長過程の少女ならではの心理状態を読みとることができる。とりわけ、耳の聞こえない兄とダヴィの関係は、この物語のなかでもっとも心を動かされるものであり、もっとも重要な鍵でもある。裁判が始まり、ダヴィは明らかに成長する。無実を信じる家族の愛情をあらためて実感する場面が印象深い。
表紙カバーの淋しげに微笑む少女の写真は、著名な写真家ウォーカー・エヴァンズの1936年の作品。エヴァンズといえば、カレン・ヘスの "Out of the Dust"(邦題『ビリー・ジョーの大地』伊藤比呂美訳/理論社)のカバーに使われていた少女の写真を思い出す。両書ともに、貧しいけれども家族の絆が強かった大恐慌の頃のアメリカを、少女の目から描き出す秀作である。
なお、本書はMWA賞(エドガー賞)の2001年度最優秀児童図書賞に選ばれている。
(よしいちよこ)
【作者】Frances O'Roark Dowell(フランシス・オウローク・ダウエル) マサチューセッツ大学で詩を学び、文芸修士号を取得。その後、さまざまな文芸誌に詩を発表したり、英語教師や弁護士補助員を務めたりするが、本当にしたいことは子ども向けの本を書くことだと気づき、デビュー作となる本書を執筆。その後、少女向けの文芸雑誌 "Dream/Girl" を創刊し、編集にも携わる。幼い息子の母親でもある。 |
【参考】 ◇MWA賞(エドガー賞)(本誌情報編2001年5月号掲載「世界の児童文学賞」) ◇"Out of the Dust" とエヴァンズについて(本誌書評編2000年6月号掲載) ◇作者インタビュー記事 |
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Chicocoの親ばか絵本日誌 第13回 | よしいちよこ |
―― 「いろんな音」 ――
「しゅんね、いろんなおと、すき」ある日、おやつを食べながら、とつぜん息子がいいだしました。2歳半になり、おしゃべりが上手になったとはいえ、その場の状況と関係のないことをいわれると、何のことだかわかりません。「ふーん」とてきとうに相槌をうっていると、しゅんは「うぃーん、うぃーん、せみないてるね」「だれか、じてんしゃ、のってるね」といいました。窓から聞こえる音の話をしていたのです。
しゅんは、いろんな音がたくさん出てくる絵本『きこえる きこえる』(マーガレット・ワイズ・ブラウン作/レナード・ワイズガード絵/よしがみきょうた訳/小峰書店)が大好きです。子犬のマフィンは目にごみが入って痛くなりました。お医者さんに包帯をまかれ、何も見えなくなりましたが、耳をぴんとたて、音を聞きます。チックタック、シューシュシュー、グルルルル……。さあ、何の音でしょう。
次々に出てくる音の正体を、しゅんも真剣な顔であてていきます。「クシャーン。何の音?」ときくと、「おいしゃさん、くしゃみした」と即答。「お日さまが顔をのぞかせた音」や「雪がふってきた音」など、答がのっていないページでは、ずいぶん考えたあとに「きらきら」「ぽろぽろ」と教えてくれました。キュッ、キュッという小さな音の正体がマフィンにはわかりません。馬の鳴き声? 飛行機の音? なかなかあてられず、「まさか」「とんでもない」「ちがう、ちがう」と否定語のオンパレード。いま何でも否定するしゅんは、大喜びでボキャブラリーを増やし、生活のなかで「まさかー」「とんでもなーい」を連発。これを聞くと、息子の反抗期にいらいらするわたしも腰がくだけ、笑ってしまいます。原書出版から60年近くたっていますが、「音のあてっこ」遊びは、いまも変わらず2歳児の心をとらえるのです。
もう1冊、音が効果的に使われている絵本、『おばけの地下室たんけん』(ジャック・デュケノワ作/おおさわあきら訳/ほるぷ出版)を紹介します。古いお城で、なかよしおばけがトランプ遊びをしていました。夜中の12時、どこかで「どすん! どすん!」とすごい音。おばけたちは震えながら、音の正体をつきとめようと、地下室を探検します――。わたしが大きな声で「どすん! どすん! どすん!」と読むたびに、こわがりのしゅんはびくっとして苦笑い。ドアが風で閉まったり、物が落ちたりして大きな音がなると、「どすん、なんのおと?」と、しゅんは不安そうな顔でききます。この夏、しゅんははじめておばけを知りました。
オーストラリア児童図書賞発表 ブランフォード・ボウズ賞発表 ガーディアン賞ショートリスト発表 『おっかなびっくりしまうまくん』 "The Seeing Stone" "Witch Child" "Dovey Coe" Chicocoの親ばか絵本日誌 MENU |
●編集後記●
何が真実かは決めつけられないけれど、大きな悲しみがそこにあるのは事実。これ以上の悲劇がもたらされないことを祈ります。(き)
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【待望のハリー・ポッター・ウオッチ、フォッシルより発売!】 |
アメリカ生まれの人気カジュアル・ウオッチ『FOSSIL』は、一味ちがうデザインのキャラクター・ウオッチにも定評があります。最新作は話題の「ハリー・ポッター・ウオッチ」。文字盤には"賢者の石"、パッケージには"みぞの鏡"を使った、ハリポタ・ファン必買の逸品です。数量限定なのでご予約は店頭にてお早めに。詳しくはフォッシル・ホームページまで。 |
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発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 瀬尾友子(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | かもめ 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー どんぐり NON BUN ベス みーこ みるか MOMO YUU りり Rinko ワラビ わんちゅく |
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