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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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賞情報1 |
―― 2002年MWA賞(エドガー賞)発表 ――
5月2日、MWA賞(エドガー・アラン・ポー賞)が発表された。この賞はアメリカ探偵作家クラブ(Mystery Writers of America)が主催。前年度に出版された広義のミステリー作品の中より選出される。現在12の部門賞が設けられているが、ここでは児童文学に関係する2部門のみ掲載する。エドガー賞についての詳細は本誌2001年5月号情報編を参考のこと。
2002年の★Winner(受賞作)、☆Nominees(候補作)は以下の通り。
【最優秀ヤングアダルト小説賞】(Best Young Adult)
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ヤングアダルト部門を射止めたティム・ウィン=ジョーンズは、"The Maestro" でボストングローブ・ホーンブック賞を受賞したことがある。邦訳には、カナダ総督文学賞(児童書部門)を受賞した『火星を見たことありますか』(山田順子訳/岩波書店)他、絵本「ズーム」シリーズ(エリック・ベドウズ絵/えんどういくえ訳/BL出版)などがある。今回の受賞作は、2年前に突然姿を消した父親の謎に迫る少年の話。候補に挙がったフェダーは同じ作品でアガサ賞にもノミネートされた。マクドナルドはデビュー作『カタログ注文できた弟』(久米穣訳/文研出版)が邦訳されている。"Witch Hill" のセジウィックは、昨年デビュー作 "Floodland" でブランフォード・ボウズ賞を受賞した、期待の作家である。チャンドラーの "Dark Secrets:Don't Tell" は "Dark Secrets" シリーズ、2作目。すでに3作目も出版されている。このチャンドラー、実は Mary Claire Helldorfer という名で子ども向けの作品を多数発表している。
【最優秀児童図書賞】(Best Juvenile)
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児童図書部門を受賞した "Dangling" の主人公は11歳の少年。友人が川に入り姿を消してしまったことから話が始まる。ノミネート作家のうち、アルフィンは昨年 "Counterfeit Son" でヤングアダルト部門を受賞した作家。"Ghost Sitter" は、古い家でいなくなった家族を待ちつづける少女の幽霊が主人公。ゴーストストーリーとはいえ哀感漂う叙情的な作品だ。"Following Fake Man" は、父の死の謎を追う少年の姿をミステリータッチで描いている。"Bug Muldoon" はクールな虫の私立探偵 Bug Muldoon が庭の勢力争いに巻き込まれる、ハードボイルドでハートウォーミングな物語。
(西薗房枝)
【参考】 |
◇Mystery Writers of America:MWA賞(エドガー賞)発表記事
◆Joyce McDonald HP ◇Elaine Marie Alphin HP ◆MWA賞(エドガー賞)について(本誌2001年5月号情報編「世界の児童文学賞」) ◇MWA賞(エドガー賞)受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ作成) |
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
賞情報2 |
―― 2002年アガサ賞発表 ――
5月4日、アガサ賞が発表された。この賞はマリス・ドメスティックが主催。アガサ・クリスティの作品のように過激な描写などの少ないミステリー作品を選考対象とする。Best Novel、Best First Mystery Novel、Nonfiction、Short Story、Children's/YA の5部門が設けられているが、ここでは児童文学に関する1部門のみ掲載する。
2002年の★Winner(受賞作)、☆Nominees(候補作)は以下の通り。
【児童書及びヤングアダルト部門】(Children's/YA)
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受賞作の "The Mystery of the Haunted Caves (Troop 13 Mystery)" はサマーキャンプで同じグループになった少女たちが、今も眠るだろう宝を探しに、廃墟となった金鉱跡地に向かうという話。ワーナーの大人向け作品では、1997年にマカヴィティ賞最優秀処女長編賞を受賞した『死体は訴える』(吉澤康子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)が邦訳されている。"The Viking Claw" は少年が作家の伯父と、少年の両親が消えてしまったゴーストタウンへ旅に出る話である。この作品同様、フェダーの作品にも冒険がからむ。こちらは、ネイティブ・アメリカンのセネカ族の居住地での事件を少女が解決する話。キンマンの作品は優秀な e-book に贈られる Eppie Awards を獲得している。トーマスの "Ring Out Wild Bells" は Matty Trescott Stories の3作目。
(西薗房枝)
【参考】 |
◇MALICE DOMESTIC 公式サイト
◆Penny Warner HP ◇Michael Dahl HP ◆Carrol Thomas HP |
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
賞情報3 |
―― カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 ――
4月26日、カーネギー賞、グリーナウェイ賞の候補作が発表された。英国図書館協会主催のこの賞は、イギリスで最も権威ある児童文学賞である。発表及び授賞式は7月12日。候補作は以下の通り。
【カーネギー賞候補作】
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『めぐりめぐる月』(もきかずこ訳/講談社)などでお馴染みのクリーチは、詩を好む少年が自分の素直な気持ちを表現する術を獲得するまでを描いた作品で、昨年に引き続いてのノミネートだ。カーネギー賞を2度も受賞しているディキンソン。ノミネート作品の本格ファンタジー "The Ropemaker" は既にアメリカのプリンツ賞を受賞している。日本では『アレックスとゆうれいたち』(野沢佳織訳/徳間書店)が紹介されているイボットソンの作品は、1900年代にイギリスからアマゾンに移り住んだ少女が主役である。この作品は昨年スマーティーズ賞を受賞している(本誌昨年11月号書評編のレビュー参照)。レアードの "Jake's Tower" は義父から虐待を受けている少年が、そこから逃れるために空想の中に築いた理想の世界の話。レアードの邦訳には『ひみつの友だち』(香山千加子訳/徳間書店)、『ロージーの庭』(市川里美絵/坂崎麻子訳/リブロポート)などがある。『不思議を売る男』(金原瑞人訳/偕成社)で知られるマコーリアンは2作品が候補に挙がっている。"The Kite Rider" は儒教を重んじる時代の中国が舞台である。家長に従っていた12歳の少年が自分の意志を持ち、道を切り開いていくという話。一方 "Stop the Train" は少女が主人公で、1890年アメリカ、オクラホマ州が舞台。鉄道開通をあてにして開拓地に移り住んだ人々が出会う苦難を、少女の目から描く。プラチェットの作品は有名な「ディスクワールド」シリーズ(邦訳は角川書店など)の児童版。「ハーメルンの笛吹き」の話が下敷きになっているという。ウルフの作品は本誌4月号でもお知らせした通りゴールデン・カイト賞を受賞している。
【ケイト・グリーナウェイ賞候補作】
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至る所で賞を獲得している候補者が並んでいる。『ぎゅっ』(徳間書店)で日本に紹介されたオールバラの "Fix-it Duck" は "Duck in the Truck" の続編である。今回はのん気なアヒルが大工道具片手に問題を解決していくという愉快な作品。"The Witch's Children" は二頭身の可愛い魔女の子供たちが主人公である。公園で変身魔法をかけてみたがもとに戻せず、さあ大変!という話だ。"Katje the Windmill Cat" のベイリーはかつて、『ネズミあなのネコの物語』(アントーニャ・バーバ文/今江祥智・遠藤育枝訳/BL出版)で各賞を多数受賞、本賞の候補にも挙がった。繊細な色使いで描くネコの絵には定評がある。リアリティにとんだ画風はビンチ。少女の表情を細かに描いている。クーパーはグリーナウェイ賞を過去2回受賞している。2回目の受賞作 "Pumpkin Soup" は『かぼちゃスープ』(せなあいこ訳/アスラン書房)として出版されている。今回の "Tatty Ratty" は女の子が失くしたぬいぐるみのウサギ Tatty Ratty の物語。表紙の、夜空に赤い傘をさして浮かぶ白ウサギの姿に心惹かれる。フュージの "Sometimes I Like to Curl up in a Ball" はウォンバットが主人公である。体をクルッと丸める姿が愛らしい。『ちいさなチョーじん スーパーぼうや』(まつかわまゆみ訳/評論社)でオーストラリア児童図書賞を受賞した経験のあるグラハムの作品は、家族にするにふさわしい犬を探す話。リデルは『ぞうって、こまっちゃう』(たなかかおるこ訳/徳間書店)のほか「崖の国物語」シリーズ(ポール・スチュワート文/唐沢則幸訳/ポプラ社)の挿絵なども手がけている。"Pirate Diary" は海賊の生活を表情豊かに描いた作品。
(西薗房枝)
【参考】 |
◇過去の受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ作成) |
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
―― 自分だけの山脈をもつこと ――
『おばあちゃんのキルト』 "The Mountains of Quilt" |
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“1人の魔法使いが、クリーブランド山脈に住んでいました”と、お話ははじまる。クリーブランドに山脈があったっけ――? いいえ、それはこの魔法使いがこしらえた、誰にも見えない山脈。住んでいるのは彼1人だけ。友人の魔法使いたちもそれぞれ、自分だけの山脈をもっている。彼らは時々集まって、野球のボールを空に浮かべて月のかわりにしたり、うたうスニーカーをつくったりと、魔法の力を見せっこするのだ。ある日、クリーブランド山脈の魔法使いが取り出した布切れには、とても魅力的な魔法がかかっていた。ところが、1羽のカササギのせいで、魔法使いのことなんか何も知らないおばあちゃんのところに、その布が持ち込まれてしまう。そしておばあちゃんのキルトに縫い付けられたとたんに、すてきな魔法がはじまった!
お話に出てくる魔法のかずかずは、他愛もないけどとても美しいイメージ。文章には、豊かな比喩と独特の浮遊感があふれている。理詰めで考えようとせず、流れに身を任せてぞんぶんに楽しむとしよう。魔法使いがチョコレート・プリンをつくって失敗したり、おばあちゃんが牛や羊の世話のことを考えたりする、ちょっとした現実感も好き。現実が魔法にかわる瞬間の感動がいっそう深くなる。自分の現実の生活をわくわくと見直せば、そこにも魔法はあるのかもしれない。
そう、詩心があれば魔法はいつでもやってくる。日常と魔法が溶け合い、きらきらと輝きだすのは、奔放な想像力とそれをあらわす詩のおかげ。魔法の道具が見えないおばあちゃんだって、キルト山脈の魔法使いにはなれる。キルトに日常の色を織り込み、すばらしい光景を描き出すことができるのだから。
水彩と色鉛筆を用いた絵は、柔らかな色使いと優しいタッチで描かれ、文章に穏やかに寄り添っている。カラフルなマント姿の魔法使いたちも、丸いめがねのおばあちゃんも、ほんわかとしてかわいらしい。今回の邦訳では、シリーズのほかの本と大きさを揃えるため版型が縮小され、原書より絵が小さくなっているのが少々残念。
ところで、魔法使いたちの住む山脈の名は、アムトラックの湖畔線の駅名から取られている。作者は列車の中で、このユニークな魔法使いの設定を思いついたのかも?
(菊池由美)
【文】ナンシー・ウィラード(Nancy Willard) 1936年、ミシガン州生まれ。詩、小説、エッセイなどを手がける。1982年、"A Visit to William Blake's Inn" で、 ニューベリー賞、ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。邦訳作品に『スティーヴンソンのおかしなふねのたび』(平野敬一訳/ほるぷ出版)などがある。現在、ヴァサー大学で英文学を教える。ニューヨーク州在住。 【絵】トミー・デ・パオラ(Tomie de Paora) 1934年、コネチカット州生まれ。自作絵本や挿絵を担当した本の数は200作以上。『まほうつかいのノナばあさん』(ゆあさふみえ訳/ほるぷ出版)はコールデコット賞オナー、自らの幼年期を題材とした『フェアマウント通り26番地の家』(片岡しのぶ訳/あすなろ書房)は、ニューベリー賞オナーとなった。 【訳】長田弘(おさだひろし) 1939年、福島市生まれ。詩人。詩集、エッセイ集などのほかに、河合隼雄と子どもの本について語り合った対談集『子どもの本の森へ』(岩波書店)も出版。みすず書房の「詩人が贈る絵本」シリーズでは、選書、翻訳と編集を自ら手がけている。本書は「詩人が贈る絵本2」シリーズ全7冊の1冊。 |
【参考】 |
◆本誌1999年10月号書評編「作家紹介シリーズ第1回:ナンシー・ウィラード」 ◇やまねこ翻訳クラブ データベース:トミー・デ・パオラ邦訳作品リスト |
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
―― 父親が失業した家族と傷ついたカナダガン ――
『旅立ちの翼』 "Autumn Journey" |
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父さんが失業し、ウィルの家族は、それまで暮らしていた都市ボルティモアを離れ、ペンシルベニア州のおじいちゃんの農場に身を寄せることになった。父さんは、仕事がみつからず毎晩遅くまで帰ってこない。母さんは怒りっぽく、父さんにすぐ突っかかる。ウィルのことをわかってくれるのは、おじいちゃんだけだった。
季節はカナダガンが北から南へと渡っていく秋だった。おじいちゃんはウィルにガン狩りを教えてくれるが、ウィルが初めて銃を撃ったとき心臓発作を起こし病院に運ばれる。ぼくのせいだ。ガンなんか嫌いだ! その場にひとり残されたウィルの前に、1羽のガンが現れた。ウィルは怒りにまかせて発砲し、ガンに怪我をさせるが、そのまま殺すこともできずに家へつれ帰り、手当てをする。
ウィルが撃ったガン〈灰色の翼〉は初夏に生まれたばかり。初めての渡りの途中で、群れからはぐれ、仲間を探しているところだった。 〈灰色の翼〉が、群れを導く父さん鳥を目指して飛んだように、ウィルもまた、たくましく器用な父さんに憧れていた。ボルティモアにいたころ、父さんは廃物から子ども用自動車を組み立ててくれた。家では母さんとふざけたり笑いあったりもしていた。けれども職を失ってからは、自分自身を見失い、家族を省みる余裕をなくしす。思いだしたようにウィルと遊ぶ約束をしてもすぐに忘れてしまう。それどころか、家族を離れてひとりきりになりたがる。父さんの不安と失意。母さんの動揺と苛立ち。11歳のウィルは両親の苦しみをかなり理解できるだけに心配も膨らむ。押しつぶされそうな気持ちに耐え、父さんを慕う姿がいじらしく痛々しい。群れからはぐれ傷を負った〈灰色の翼〉は、ウィルであり、ウィルの父さんであり、ウィルの家族でもあるのだ。
つらい出来事ばかりが重なるなか、長い目で家族を見守るおじいちゃんの存在が、穏やかで温かい光を投げかけている。ウィルをやさしく諭す言葉は、幾度も困難を乗り越えてきたであろう人生を思わせ、心に重く響く。家族の立ち直りを暗示する力強いラストが感動的だ。
(三緒由紀)
【作】プリシラ・カミングズ(Priscilla Cummings) マサチューセッツ州の酪農農家に生まれ、動物に囲まれて育つ。ニューハンプシャーの大学で英文学を学び、卒業後、新聞記者になる。雑誌記者、編集の仕事もし、1981年にメリーランド州に引っ越してから、子ども向けの本を書きはじめる。the Chadwick the Crab シリーズなど、動物を主人公にした作品がよく知られている。 【訳】斎藤倫子(さいとう みちこ) 1954年生まれ。国際基督教大学卒。『メイおばちゃんの庭』(シンシア・ライラント作/あかね書房)、『スクーターでジャンプ!』(ベラ・B・ウィリアムズ作・絵/あかね書房)、『シカゴよりこわい町』(リチャード・ペック作/東京創元社)などの訳書がある。『シカゴよりこわい町』は第4回やまねこ賞(読み物部門)を受賞した。東京在住。 |
【参考】 | ◆やまねこ翻訳クラブ データベース:プリシラ・カミングズ作品リスト |
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 高麗青磁を愛した少年 ――
『たった一つのかけら』(仮題) "A Single Shard" ★2002年ニューベリー賞受賞作 |
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身内のない少年、キクラゲは、12歳の今まで、橋の下で暮らす「鶴男」と呼ばれる老人に寄り添って生きてきた。鶴男には職がなく、人々が捨てたものなどを拾って暮らしていたが、決して泥棒や乞食には成り下がらず、おなかを空かせながらも、人間としての尊厳は守っていた。
キクラゲの楽しみは、近くに住む名陶工、ミンの仕事を密かに覗くことだった。完璧主義の老人ミンは、他の陶工に比べると作品数が少なく、決して豊かではない。だが、彼がつくる青磁の美しさ、完成度の高さは、何の知識もないキクラゲさえをも魅了するほどだった。思いもかけず、キクラゲはミンの手伝いをさせてもらうことになる。力仕事ばかりで、ろくろに触れるなどは許されないが、出された昼食の一部を鶴男に持ち帰ることで、二人が空腹に苦しむことはなくなった。そんなある日、皇帝の使いが、近々陶工たちの村へ仕事を見にくるという噂が伝わった。皇帝からの注文が入れば、その職人の一生は保証される。ミンに勝る職人は絶対にいないと信じているものの、キクラゲを不安にさせる要素が一つあった……。
この小説は、12世紀韓国の陶芸村を舞台としたある孤児の成長記だ。同じく孤児の成長を描いたニューベリー受賞作『アリスの見習い物語』(K・クシュマン作/柳井薫訳/あすなろ書房)を思い出すが、一つ大きな違いがある。アリスは自力で育っていくのに対し、キクラゲには支えとなり、育つための養分を与えてくれる樹の幹、鶴男がいる。この違いは、子どもの独立こそ成長とみなす西洋と、親/師との甘えの関係を土台に、子どもを社会の一員として受け入れていく東洋との本質的な差だろう。多国籍社会の縮図ともいえる米国で、作者は祖国の文化遺産のみならず、その精神を表現し、評価を得た。
高麗青磁は決して派手ではないが、独特の肌合い、深い青緑色、ユニークな象嵌や造形の美しさは大地の暖かみを帯び、土地を愛する民族のこころをあらわす。高麗青磁のように、地味だが暖かみのある美しさを秘めるこの作品が、思想的には対極的なアメリカで認められたことは、同じアジア人としてとてもうれしい。
(池上小湖)
【作】Linda Sue Park(リンダ・スー・パク) 1960年イリノイ州に生まれる。幼少期より詩などを書き、一部は雑誌に掲載された。スタンフォード大学英語科を卒業後、様々な執筆業や ESL の教職を経て、99年に最初の児童書、"Seesaw Girl" を出版。本作品は3冊目。両親が韓国からの移民であるため、韓国を題材にした作品を主に書いている。2児の母。 |
【参考】 |
◇やまねこ翻訳クラブ データベース:リンダ・スー・パク作品リスト ◆リンダ・スー・パクHP ◇高麗青磁(大阪市立東洋陶磁美術館内安宅コレクションより) ◆東京国立博物館平成館「日韓文化交流特別展 韓国の名宝」 詳細は本誌今月号情報編「美術館情報」参照のこと。 |
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
Chicocoの親ばか絵本日誌 第17回 | よしいちよこ |
―― 「眠い毎日」 ――
4月、いよいよ幼稚園がはじまりました。しゅんは毎朝8時5分に黄色い幼稚園バスに乗って元気に登園しています。新しい生活に興奮して疲れて帰ってくるのですが、お昼寝をするとぐっすり眠ってしまい、そのせいで夜寝るのが遅くなり、翌朝の早起きにひびきます。そんな些細なことが、しゅんとわたしにとっては大問題。1か月たち、お昼寝をせずに早めにお風呂と夕食をすませ、8時ごろに就寝する生活パターンをつくろうとしています。しゅんは夕方6時ごろから睡魔とたたかいはじめますが、食事もせずに朝まで寝てしまうこともしばしば。布団にはいって絵本を1冊読んだら、すぐに眠ります。
絵本『ねんころりん』(ジョン・バーニンガム作/谷川俊太郎訳/ほるぷ出版)には眠い目をしたクマや魚が登場します。その目があまりにもしゅんにそっくりで笑ってしまいます。ネコの親子もガチョウもカエルも疲れた1日の終わりに幸せな眠りを求めています。しゅんもわたしと声をそろえて「ねんころり〜ん」といっているうちに、だんだん眠りの国へ。絵本の言葉をまねして「しゅんも、あした、まっさら新しいがいいなあ」といいながら(意味をわかっているのでしょうか)、あくびを連発。絵本を閉じればすぐに目を閉じます。
さて、もう1冊、最近のおやすみ前のお気に入り絵本は『おまめくんビリーのゆめ』(シーモン・リア作/青山南訳/岩崎書店)です。青いおまめのビリーはロケットを作って宇宙に飛び出すことを夢みています。ロケットを描いた紙で作った飛行機を飛ばしたところ、黄色いおまめの頭にあたりました。ビリーは、それがきっかけで知りあった黄、赤、緑のおまめくんや紫のまめねずみと力をあわせてロケットを作ります。おまめくんたちの顔がたまらなくかわいくて、わたしも大好きな絵本です。
大豆、金時豆、枝豆などまめ好きなしゅんは「ごめんね、おまめくん。かわいいけど食べちゃうよ」と、ビリーを指でつまんで口にぽいっ。入園2日めに転んでたんこぶをつくったしゅんは、紙飛行機があたった黄色いおまめくんのたんこぶを見て「せんせい、おへやで走ったらあかんっていった」といいます(おまめくんは転んだのではないのですが)。細かい絵をじっくりひとつひとつ見て、「あ、こんなところに紫のまめねずみくん、いた!」「緑のおまめくん、とんかちしてる!」と、楽しい発見の連続ににこにこ。ロケット発射の場面では、まってましたとばかりに「はっしゃ、ずしーん!」と自分も飛んでいきそうな勢いです。こんなにはじけていても、本を閉じれば、すぐに目を閉じ、眠ってしまう今日このごろのしゅんです。
2002年MWA賞(エドガー賞)発表 2002年アガサ賞発表 カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作発表 『おばあちゃんのキルト』 『旅立ちの翼』 "A Single Shard" Chicoco の親ばか絵本日誌 MENU |
●お知らせ●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。「月刊児童文学翻訳」増刊号第3号のお知らせです。
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「クラリス」シリーズを出版するフレーベル館へのインタビューと、訳を担当される木坂涼さんへのロングインタビュー、そして全作品のレビューを掲載しています。 |
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●編集後記●
やまねこ翻訳クラブでは、カーネギー・グリーナウェイ賞の候補作を読み比べて、本誌次号以降にレビューを掲載する予定です。どうぞお楽しみに。(き)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 河原まこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー どんぐり NON BUN ぱんち ベス みーこ みるか 麦わら MOMO YUU yoshiyu りり Rinko ワラビ わんちゅく |
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