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速報1 |
―― 2004年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!! ――
現地時間の1月12日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA―American Library Association)が、昨年米国で出版された子どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門(YALSA)になる。
各賞の受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
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受賞作 "The Tale of Despereaux" は、人間のお姫さまに恋をしたネズミが主人公の物語。悪賢いドブネズミや、悲惨な境遇におかれた少女などのエピソードが巧みに絡み合うストーリー、深みのあるキャラクター造形が魅力。それらを、読者に語りかける形式でひとつに織り上げた文章が評価された。近年、YA作品の受賞が相次ぐ本賞で、今回久々に小学生向けの作品が受賞したことも話題になっているようだ。Kate DiCamillo は、デビュー作 "Because of Winn-Dixie"(『きいてほしいの、あたしのこと――ウィン・ディキシーのいた夏』/片岡しのぶ訳/ポプラ社)で、2001年のオナー(次点)に選ばれている。
"Olive's Ocean" は、交通事故で他界した内向的なクラスメートの日記を読んだことがきっかけで新しい気持ちに目覚めた、12歳の少女の物語。家族のこと、男の子のこと、将来の夢……成長にともなう戸惑いや痛みが、繊細なタッチで描かれている。Kevin Henkes は "Owen"(『いつもいっしょ』/金原瑞人訳/あすなろ書房)で1994年コールデコット賞オナー(次点)に選ばれるなど、読み物だけでなく絵本の作家としても活躍している。
"An American Plague" は、1793年夏に米国フィラデルフィアを襲った黄熱病に焦点を当てたノンフィクション。人々のようす、医学の実態など、さまざまな切り口で検証し、力強くまとめ上げた。Jim Murphy は、アメリカの歴史を題材にした著作を数多く発表している。本書でもその手腕が十二分に発揮され、2003年全米図書賞児童書部門(Young People's Literature)の最終候補作品に選ばれたほか、最も資料的価値のある文献に与えられる ALA 主催のサイバート賞(Robert F. Sibert Informational Book Medal)も受賞した。
(須田直美)
《参考》 |
ニューベリー賞 コールデコット賞 プリンツ賞 ウィットブレッド賞 スコット・オデール賞 MENU |
【コールデコット賞】(画家対象)
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コールデコット賞に輝いた Mordicai Gerstein は、テレビアニメーションの製作に長年携わるいっぽう、1971年から子ども向け読み物シリーズの挿絵の仕事を始め、80年代に入ってオリジナル絵本を手がけるようになった。聖書物語や伝記、ファンタジーなど、題材も対象年齢も幅広い作品を多数生み出しているが、邦訳はまだない。受賞作は、1974年、世界貿易センターのツインビルの間を綱渡りしたというフランス人の実話を扱ったもの。想像しただけで目がまわるような行為を、大胆なアングルと遠近法でみごとに描ききっている。作者は、あの事件には直接ふれることなく、今はなきツインビルの楽しい思い出を描いてみせた。
オナー(次点)となった3作品のうち、"Ella Sarah Gets Dressed" は、作者お得意の版画の技法が駆使されたカラフルな絵本。小さな女の子 Ella Sarah は、家族にどんなに忠告されようと、あくまで自分のファッションセンスを主張する。身につけるのは、ピンクの水玉パンツにオレンジの花柄ブラウス、黄色い靴に赤い帽子だ……。
同じくオナーとなった "What Do You Do with a Tail Like This?" は、Steve Jenkins が妻の Robin Page と組んだ、易しい科学絵本。トカゲのしっぽやゾウの鼻など、動物の器官の面白い機能を取り上げて、美しいペーパー・コラージュで紹介している。Steve Jenkins はこれまで多くの優れた子ども向けノンフィクション絵本を発表し、"The Top of the World: Climbing Mount Everest"(『地球のてっぺんに立つ! エベレスト』/佐藤見果夢訳/評論社)では、1999年のボストングローブ・ホーンブック賞(ノンフィクション部門)を受賞した。
もう1つのオナー作品 "Don't Let the Pigeon Drive the Bus!" を描いたのは、テレビ番組『セサミ・ストリート』の脚本家としてエミー賞を5度受賞し、アニメーション作家、マンガ家としても活躍する Mo Willems。子ども向けの絵本は本作が初めて。各ページで読者に向かって呼びかけてくるユニークなハトが、人気を呼んでいる。続編 "The Pigeon Finds a Hot Dog" も近々出版される予定。
(菊池由美)
《参考》 |
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【プリンツ賞】(YA作品対象)
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受賞作 "The First Part Last" は、都会に住む16歳のシングル・ファーザーが、父親として娘を育てることが並大抵の苦労ではないことを一人称で語る物語。now とthen という見出しがつけられた短い章が交互に続く構成だ。少年の言葉は、十代で父親になる厳しさを読者に訴えかける。作者 Angela Johnson は、この作品でコレッタ・スコット・キング賞作家賞も受賞した。幼児向けの絵本からYA作品、詩と幅広く活躍し、数々の賞を受賞しているが、日本で紹介された作品はまだない。
次点は4作。いずれの作者も日本では未紹介。"A Northern Light" は、ドライサーの『アメリカの悲劇』の題材にもなった実在の事件に、架空の主人公を登場させた物語。1906年、人生の分岐点にたつ16歳の少女は、事件の被害者から手紙を託されていた。将来の夢、貧困、人種差別など、さまざまな要素を織り込み、1世紀前の少女の生き方を綴る。"Keesha's House" には、十代の妊娠に悩むカップル、飲酒運転で少年拘置所にいく少女、ゲイであるために家から追い出された少年など、拠り所を求めた十代の子どもたちが登場する。詩の形式をとった作品だ。"The Earth, My Butt, and Other Big Round Things" は、とかく干渉してくる両親に嫌気がさしている、ちょっと太めの15歳の女子高校生が主人公。彼女の自立や性への関心に、同世代の少女たちは共感するだろう。"Fat Kid Rules the World" は、K. L. Going のデビュー作だ。地下鉄の駅で自殺を考えるさえない大柄な少年を、同じ高校生のパンクのギタリストが救ったことから、ふたりの間に奇妙な友だち関係が生まれる。外見よりも中身が大事という真面目なテーマに、予想外の出来事が随所に盛り込まれ、笑いと悲哀が入り乱れるハートウォーミングな物語になっている。
(河原まこ)
《参考》 ◆Angela Johnson のサイト ◇マイケル・L・プリンツ賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
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速報2 |
―― 2003年度 ウィットブレッド賞発表!! ――
現地時間の1月7日、2003年度ウィットブレッド児童文学賞の発表が行われた。この賞は、英国の企業ウィットブレッド社の主催により、英国とアイルランドに居住する作家によって書かれた子ども向けの作品の中で、最も優れた一作に贈られるもの。
本年度の受賞作は以下の通り。
2003 Whitbread Children's Book of the Year
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受賞作 "The Fire-Eaters" は、2003年スマーティーズ賞9〜11歳部門で金賞を受賞し、ガーディアン賞にもノミネートされた作品。キューバ危機当時に、主人公 Bobby が学校や家庭での様々な変化を糧に成長していく姿を描いている(本誌2003年10月号書評編にレビュー掲載)。作者 David Almond は、"Skellig" でカーネギー賞およびウィットブレッド賞を受賞しており、同作品は『肩胛骨は翼のなごり』(山田順子訳/東京創元社)として邦訳出版されている。
候補作の "The Oracle" は、神託がすべてを支配していた古代文明を舞台に、1人の少女が、権力の虜となった聖職者たちに立ち向かう物語。作者 Catherine Fisher は数々の文学賞を受賞したファンタジー作家であり、詩人としても活躍しているが、邦訳作品はまだない。作家としてのデビュー作品である "The Conjuror's Game" は1990年スマーティーズ賞にノミネートされた。なお、2月に "The Oracle" の続編 "The Archon" が出版される予定。
"Private Peaceful" は、第一次世界大戦の戦場を舞台に、戦争の恐ろしさと生命の大切さを描いた作品。兄とともに入隊し、フランスの前線へ送りこまれた主人公 Tommo。子ども時代の回想が語られるうちに、戦地の状況が少しずつ明らかになっていく……。これまでにも多くの賞を受賞している作者 Michael Morpurgo は、2003年5月、Quentin Blake、Anne Fine に続く3人目の Children's Laureate に任命され、子どもの本のために精力的に活動中。邦訳には1995年ウィットブレッド賞を受賞した『ザンジバルの贈り物』(フランソワ・プラス絵/寺岡襄訳/BL出版)などがある。
"Naked Without a Hat" は、19歳の主人公 Will と放浪生活の少女 Zara の恋を描く。二人の恋愛に反対する Willの母親は、実は Will に関する重大な秘密を抱えていた……。作者 Jeanne Willis は、"Tadpole's Promise" で2003年スマーティーズ賞5歳以下部門銀賞を受賞。邦訳に『スーザンはね……』(トニー・ロス絵/もりかわみわ訳/評論社)、『ふたりはともだち』(スーザン・バーレイ絵/島田香訳/ほるぷ出版)がある。
なお、同時に発表された、一般向けの小説を対象とするウィットブレッド文学賞小説部門(Whitbread Novel Award)では、Mark Haddon の "The Curious Incident of the Dog in the Night-time"(『夜中に犬に起こった奇妙な事件』/小尾芙佐訳/早川書房)が選ばれた。この作品は当初児童書として出版され、昨年ガーディアン賞を受賞している。
児童文学賞を含めた全部門の受賞作から選ばれる、ウィットブレッド文学賞(Whitbread Book of the Year)の発表は、今月27日の予定。
(村上利佳)
《参考》 ◇ウィットブレッド児童文学賞(本誌1999年5月号情報編「世界の児童文学賞」) ◇ウィットブレッド児童文学賞受賞作・候補作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
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速報3 |
―― 2004年 スコット・オデール賞発表!! ――
1月11日、スコット・オデール賞が発表になった。この賞は、1982年に作家スコット・オデールが、若い読者に自国や世界の歴史背景に興味をもってもらう目的で設立したもの。南北アメリカ大陸を舞台にした、子ども向けの優れた歴史小説に贈られ、毎年、選考委員会が1作品を選ぶ。受賞対象となるのは、前年にアメリカで出版された、アメリカ人作家による作品。
2004 Scott O'Dell Award for Historical Fiction
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受賞作 "The River Between Us" は、『シカゴより好きな町』(斎藤倫子訳/東京創元社)などの作品で日本でも人気の高い、Richard Peck が描いた物語。主に南北戦争時代が背景となっている。
冒頭、時代は1916年、15歳のハワードが、父親と弟らとともに祖母ティリーが住んでいる父親の故郷へ向かって旅をしている。次の展開では時代が変わり1861年。語り手は15歳のティリー。ハワードの祖母ティリーがまだ少女だった時のことだ。南北戦争が勃発し、ティリーの家族は弟のノアが戦争に徴兵されないことを祈る日々を送っていた。ある日、デルフィーンという不思議な少女が、ティリーの住む町にやってきた……。
印象的な登場人物たちの関係があきらかになり、戦争について、人間について、より深く考えさせる作品になっている。
なお、この作品は2003年全米図書賞児童書部門(Young People's Literature)の最終候補作品にも選ばれた。
(林さかな)
《参考》 |
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