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●速報1●2015年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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2月2日朝8時(現地時間)よりシカゴにて、アメリカで最も権威ある児童文学賞、
ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協
会(ALA:American Library Association)が、前年にアメリカで出版された子どもの
本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/home/
▼YALSA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/
▼各賞の受賞作品・オナー(次点)一覧ページ(ALA内)
http://www.ala.org/news/press-releases/2015/02/american-library-association-
announces-2015-youth-media-award-winners
▼ALA Youth Media Awards ウェブキャスト
(発表の様子がオンタイムで流された。現在も視聴できる)
http://live.webcastinc.com/ala/2015/live/
各賞の受賞作品、およびオナー作品は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"The Crossover" by Kwame Alexander (Houghton Mifflin Harcourt)
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☆Honor Books(2作)
"El Deafo" by Cece Bell (Amulet Books)
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"Brown Girl Dreaming" by Jacqueline Woodson (Nancy Paulsen Books)
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2015年ニューベリー賞の栄誉は、Kwame Alexander の "The Crossover" に贈られ
た。バスケットボールプレーヤーとして優れた才能を持つ双子の兄弟 Josh と
Jordan。12歳の Josh の独白で語られる本作は、バスケットボールの試合を軸に描か
れた家族の物語だ。バスケットコートの中と外で成長していく双子の姿を通し、ルー
ルを破ることで支払わなければならなかった大きな代償とその後の家族の再生を、ス
ポーツのもつ高揚感そのままにスリリングに描いている。タイトルのクロスオーバー
とはバスケット用語で、ディフェンスを抜き去るために、左右に揺さぶりをかける動
きであるが、ジャズやポップス、ロックなどのジャンルを超えて融合する音楽の意味
も持つ。型にとらわれないさまざまな様式の詩で物語を描きたかったという作者の思
いの通り、詩的で韻をふむ文体はラップのようなビートをつむぎ、普段は本を手に取
らないような若者たちからも多くの支持を集めた。Alexander は、脚本家としても活
躍。また、作家とアーティストの代表団として世界各地の学校を訪問し、ワークショ
ップを開くなど、その活動は多岐にわたる。
オナーには2作品が選ばれた。Cece Bell の "El Deafo" は、ニューベリー賞とし
てはめずらしいグラフィックノベルでのオナー入選となった。El Deafo とは作者の
幼いころのあだ名であり、病気により聴力を失ったことを描いた自伝的作品だ。コミ
カルな画風の本作は、ウサギの耳のついた女の子が主人公となり、思春期の友情の難
しさや楽しさを親しみやすくリアルに伝えている。学校では大きな箱型の補聴器を首
から下げなくてはならない主人公。ただでさえ困難な友達作りは、一喜一憂、なかな
か一筋縄ではいかない。その素直で率直な心の動きには、聴こえる聴こえないにかか
わらず誰もが共感を寄せることだろう。前向きな生き方にエールを送るうち、気付け
ば勇気と大きなパワーをもらっている、そんな1作だ。
"Brown Girl Dreaming" は、2014年全米図書賞児童書部門で受賞を果たした
Jacqueline Woodson の作品。作者の自伝的小説である本作は、まだ人種差別が色濃
く残る1960年代〜70年代に、アフリカ系米国人として大人になるということがどうい
うことかを、鮮やかな詩でつづったものだ。字を読むこともままならなかった少女は、
自分の居場所を探すうち、物語を書くことに出会う。作中の詩はどれも親しみやすく
情感にあふれ、才能ある作家と評される Woodson のはじまりを予感させる。物語を
愛する心は、いつの時も作者とともにあり、その人生を輝かせてきたことを教えてく
れる。
今年選ばれた3作は、どれも、どう生きるかを問いかけるような力強いメッセージ
のつまったものが並んだ。今後、どの作品がどのような形で日本で紹介されていくの
か、出版動向が楽しみになるラインアップだ。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/newberymedal/newberymedal
▼Kwame Alexander 公式ウェブサイト
http://www.bookinaday.org/
▼Cece Bell 公式ウェブサイト
https://cecebell.wordpress.com/
▼Jacqueline Woodson 公式ウェブサイト
http://www.jacquelinewoodson.com/
▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
▽ジャクリーン・ウッドソン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/w/jwdsn.htm
(岡田衣央)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"The Adventures of Beekle: The Unimaginary Friend" by Dan Santat
(Little, Brown and Company)
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☆Honor Books(6作)
"Nana in the City" by Lauren Castillo (Clarion Books)
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"Sam & Dave Dig a Hole" illustrated by Jon Klassen, written by Mac Barnett
(Candlewick Press)
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"The Noisy Paint Box: The Colors and Sounds of Kandinsky's Abstract Art"
illustrated by Mary GrandPre(「e」の上にアクセント記号(´)がつく)
written by Barb Rosenstock (Alfred A. Knopf)
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"The Right Word: Roget and His Thesaurus"
illustrated by Melissa Sweet, written by Jen Bryant
(Eerdmans Books for Young Readers)
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"Viva Frida" by Yuyi Morales (Roaring Brook Press)
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"This One Summer" illustrated by Jillian Tamaki, written by Mariko Tamaki
(First Second)
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コールデコット賞は "The Adventures of Beekle: The Unimaginary Friend" が獲
得した。子どもたちはよく空想の友達を作り出して遊ぶ。この物語はその空想上の友
達がくらす島から始まる。そこで生まれた Beekle は現実の子どもたちに想像される
のを待っていた。想像されるとその子のところに行って友達になれるのだ。ずっと待
って待ちくたびれ、ついには自分で相手をさがそうと旅立った──。全てのページが、
よく吟味されて描き出された作品で、この少しややこしい世界観を子どもにすんなり
理解させ、話の中に引き込んでゆく。読み手は Beekle と一緒にがっかりしたり期待
したりして、最後は友達と楽しく過ごす満ちたりた心持ちになる。何度も読み返す子
どもが多い本だそうだが、納得である。作者の Dan Santat は日本ではあまり知られ
ていないが、米国では "The Guild of Geniuses" など多くの絵本を出版し、ディズ
ニーのテレビアニメ "The Replacements"(「ザ・リプレイス 大人とりかえ作戦」)
の制作も手がけた、活躍めざましいクリエイターだ。
オナーは6作品が選ばれた。うち2作品が物語絵本、3作品が伝記絵本、1作品が
グラフィックノベルである。
"Nana in the City" は、都会に住むおばあちゃんを訪ねる男の子のおはなしだ。
大都会の喧騒をこわがる男の子に、おばあちゃんは「明日はきっといい日になる」と
約束する。次の日、おばあちゃんの優しさと機転が男の子の心を後押しする。男の子
は都会とどう向き合うのだろう。作者の Lauren Castillo の輪郭のはっきりした素
朴な絵が、この小さな挑戦の物語に、安心感を添えている。この本を読んだ子どもた
ちが何かに挑戦するときにも、力を貸してくれそうだ。
もうひとつの物語絵本 "Sam & Dave Dig a Hole"(『サムとデイブ、あなをほる』
(マック・バーネット文/なかがわちひろ訳/あすなろ書房)は、一昨年に本賞を受
賞した Jon Klassen による楽しい絵本だ。おじいちゃんの家の庭に穴を掘る Sam と
Dave。2人はただただ穴を掘っているのだが、彼らに見えない土の中の様子を、イラ
ストが読者に教えてくれる。すぐそばに宝石があるのに気づかない2人と気づいてい
る犬の対比など、子どもが喜びそうな物が、ふんだんにちりばめられている。文は
"Extra Yarn"(『アナベルとふしぎなけいと』なかがわちひろ訳/あすなろ書房)で
も Klassen とタッグを組んだ Mac Barnett が手がけている。
続いて伝記絵本3作品を紹介する。
"The Noisy Paint Box: The Colors and Sounds of Kandinsky" は、抽象絵画の創
始者とも言われる ワシリー・カンジンスキーが画家になってスタイルを確立するま
でを描いている。少年期に画材をもらってから、彼は音を聞くと色が見えると感じる
ようになる。そこで、聞こえた色から絵を描いてみるが、周囲には理解されず、絵か
ら遠ざかった。後に法律家になったが、オペラを聞いて色があふれ出す感覚をどうし
ても描きたくなり、再び絵筆をとる。Mary GrandPre は絵とコラージュを用いて、絵
と音の両方を見えるように表現している。カンジンスキーの生涯を伝えるだけでなく、
抽象画を味わうヒントをくれる作品だ。
"The Right Word: Roget and His Thesaurus" はシソーラスをはじめて作ったピー
ター・マーク・ロジェの伝記絵本だ。リスト作りが大好きだったロジェは、自分の知
っていることや経験したことをリストにし、8歳でそれを本にした。やがて言葉を分
類してリストを作ることに熱中し、それがそのままライフワークとなる。医師になっ
てからも分類はずっと続き、やがて日の目を見ることとなる。イラストの Melissa
Sweet は本作品で立体的なコラージュを活用してロジェの知識のイメージを見せてい
る。広がりだけでなく、深い奥行をもって感じられ、圧倒される。
"Viva Frida" はメキシコの画家、フリーダ・カーロをモチーフにした絵本で、彼
女の人生と作品を讃えるオマージュとなっている。散文詩のような言葉は、フリーダ
の視点で書かれており、彼女がその生涯で大切にしていた事柄を伝える。太いゴシッ
ク体の英語のテキストの背後に、うっすらとスペイン語が添えてある。Yuyi Morales
は人形を撮影した写真と絵を効果的に用いて、とても上品なページを作り上げた。こ
の本は、子どもが大切に扱う特別な1冊になることだろう。
そして、"This One Summer" はYAのグラフィックノベルであり、本賞の対象とし
ては異例とも思える。その中でオナーを獲得した Jillian Tamaki の絵は雄弁だ。と
りわけ見開きで大きく表現されたページの迫力、訴えかけてくる力に驚かされる。な
お、本作はプリンツ賞のオナーにも選ばれている。物語の内容についてはこの後の記
事をお読みいただきたい。
今年、選ばれた作品は内容もさまざまで、表現方法も絵やコラージュ、写真とバラ
エティに富んでいる。それぞれの本の特長が、絵本本来の素晴らしさはもちろん、新
しい可能性を示しているようで頼もしく感じられた。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/caldecottmedal/caldecottmedal
▼Dan Santat 公式タンブラー
http://dansantat.tumblr.com/
▼Lauren Castillo 公式ウェブサイト
http://www.laurencastillo.com/
▼Jon Klassen 公式タンブラー
http://jonklassen.tumblr.com/
▼Mary GrandPre 公式ウェブサイト
http://www.marygrandpre.com/
▼Melissa Sweet 公式ウェブサイト
http://melissasweet.net/
▼Yuyi Morales 公式ウェブサイト
http://www.yuyimorales.com/
▼Jillian Tamaki 公式ウェブサイト
http://jilliantamaki.com/illustration/
▽コールデコット賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽ジョン・クラッセン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/k/jklassen.htm
(くどうあきこ)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"I'll Give You the Sun" by Jandy Nelson (Dial Books)
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☆Honor Books(4作)
"And We Stay" by Jenny Hubbard (Delacorte Press)
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"The Carnival at Bray" by Jessie Ann Foley (Elephant Rock Books)
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"Grasshopper Jungle" by Andrew Smith (Dutton Books)
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"This One Summer" written by Mariko Tamaki, illustrated by Jillian Tamaki
(First Second)
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プリンツ賞は、前年にアメリカで出版された優れたYA作品に贈られる賞で、作品
の分野や作者の居住地に制限はなく、過去に他国で出版された作品も対象となる。
2015年のプリンツ賞に輝いたのは、Jandy Nelson の2作目のYA小説 "I'll Give
You the Sun" だ。2011年のデビュー作 "The Sky Is Everywhere" は、日本では未訳
ながら、すでに17か国語に翻訳されている。何をするにも一緒だった少女 Jude と双
子の兄 Noah は、成長するにつれ、親の愛や美術学校への入学をめぐって、競い合い、
ぶつかり合うようになる。そんな中、ある決定的な事件が起こり、2人の心は完全に
離れてしまう。この事件を13歳の Noah と、その3年後の16歳になった Jude の視点
から交互に描いた二重構造の作品。対照的な性格の2人が、それぞれの視点から語る
ことで、人生、芸術、家族、そして愛といったテーマがくっきりと浮かび上がり、物
語に奥行きを与えている。主人公たちはもう一度歩み寄り、心を通わせることができ
るのだろうか。刊行直後から話題を呼び、映画化の話も進行中だ。
オナーには、今年も4作品が選ばれた。"And We Stay" は、2011年に "Paper
Covers Rock" でデビューした Jenny Hubbard の作品。詩人エミリー・ディキンソン
のゆかりの地、アマーストの寄宿学校を舞台にした物語。主人公 Emily がつづる詩
を通して、妊娠や恋人の自殺というつらい過去を乗り越え、未来へと足を踏み出すま
での心の軌跡が、抒情たっぷりに描かれている。
"The Carnival at Bray" は、Jessie Ann Foley のデビュー作。16歳の少女
Maggie は、住み慣れたシカゴを離れ、アイルランドの小さな町で暮らすことになる。
新しい土地で、初恋や憧れの人の死を経験しながら成長していく Maggie の姿を、90
年代の人気ロックバンド、ニルヴァーナのコンサートを軸に描いた、音楽の魅力にあ
ふれる作品である。2作目の小説を執筆中という Foley の今後の活躍が期待される。
カリフォルニア州在住のYA作家 Andrew Smith の "Grasshopper Jungle" は、巨
大カマキリがはびこり、人間が絶滅の危機に瀕する終末世界を描いたサイエンスフィ
クションである。アイオワ州のさびれた町を舞台に繰り広げられる奇想天外で壮大な
ストーリーの中で、ガールフレンドと親友 Robby のどちらが好きなのかわからず、
自分はゲイかもしれないという不安を抱えた主人公 Austin の等身大の姿が印象的だ。
2014年のボストングローブ・ホーンブック賞も受賞した話題作で、映画化も決まって
いる。
"This One Summer" は、カナダ在住で戯曲なども手掛ける多才な作家 Mariko
Tamaki によるグラフィックノベル。イラストはいとこの Jillian Tamaki が描いて
おり、今年のコールデコット賞のオナーにも選ばれている。物語の舞台は、主人公
Rose が毎年夏休みを過ごすカナダのビーチ。楽しいはずの夏に、両親の不和が影を
落とす。芽生え始めた恋、性への好奇心から、Rose は少しずつ大人の世界へと足を
踏み入れるが、一方で、妹のような存在だった Windy との溝が深まっていく。ノス
タルジーを誘う青味を帯びた色調の絵が、思春期の揺れる心を繊細に描き出す力作だ。
今年はグラフィックノベルやSFなど、バラエティに富んだラインアップとなった。
時代背景や舞台はさまざまだが、不安や挫折、心の傷を乗り越えていく主人公の姿を
描いた、読み応えのある作品が選ばれている。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼Jandy Nelson 公式ウェブサイト
http://jandynelson.com/
▼Jenny Hubbard 公式ウェブサイト
http://www.jennyhubbard.com/
▼Jessie Ann Foley 公式ウェブサイト
http://jessieannfoley.com/
▼Andrew Smith 公式ウェブサイト
http://www.authorandrewsmith.com/Author_Andrew_Smith/Home.html
▼Mariko Tamaki 公式ブログ
http://marikotamaki.blogspot.jp/
▼Jillian Tamaki 公式ウェブサイト
http://jilliantamaki.com/illustration/
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
(手嶋由美子) |