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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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注目の本(邦訳絵本) |
―― 日記を書くのに決まりごとなんていらない ――
『ディア・ダイアリー』 "Dear Diary" by Sara Fanelli |
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日記をつけているのは――ルーシー、椅子、クモ……!
日記を書いている紙は――ノート、方眼紙、出納帳……!
ある1日のできごとを日記に書いているのは、元気な女の子ルーシー。今日は先生がいない間にさわいでいたら、椅子をひっくりかえしてしまった。次の日記を書いているのは、そのひっくりかえされた教室の椅子。床にころがって眺めるけしきはいつもと違う。天井には羽根のはえたクモがいた。そして次の日記はそのクモの日記。こうしてそれぞれ「ディア・ダイアリー」ではじまる日記が、リレー形式で続いていく。絵本の表紙に日記の書き手が全員登場しているので、まずはそのユニークな顔ぶれを見てほしい。
絵本を開くと、中にはサラ・ファネリお得意のカラフルなコラージュが満載。椅子やクモの“目”に使われている人間の目の写真や、椅子の“服”やクモの“羽根”に使われる色とりどりの紙など、コラージュの素材を見るのも楽しい。そして、個性あふれる手書き文字が、それぞれ違う用紙に書かれている。書き方もいろいろで、こちらに書いたりあちらに書いたりしているもの、上から順序よく書いているもの、カタカナだけで書いているもの、決まりごとなんかない。
日記を読んだり、ひとつひとつのコラージュや絵を見たりしていくうちに、椅子やクモ、人間以外のものだって、みんな同じ1日を生きているんだという気持ちになってくる。あんなこともこんなことも、その日にあったことをみんな、日記はだまって聞いてくれる。大人は日記を書くというとかまえてしまうけれど、子どものころの日記って、この絵本のようだったかもしれないと思う。紙があれば好きなことを書いて、気に入ったものを貼ったりした。人に見られることも、自分が読み返すことも考えない。その日のできごと、その時の気持ちを表現できたらいい。そんなことを考えていると、ちょっと日記をつけてみようという気分になった。自分の日記だもの、ルーシーたちのように思いっきり書いて、今日の気持ちを残してみたい。
(竹内みどり)
【作者】サラ・ファネリ(Sara Fanelli) イタリアのフィレンツェ生まれ。カンバーウェル・カレッジ・オブ・アートで学位を、英国の王立芸術大学で修士号を取得。邦訳作品に『ボタン』(ほむらひろし訳/フレーベル館)、『さあ、ゆめのじかんです』(掛川恭子訳/岩波書店)など。ロンドン在住。 【訳者】穂村弘(ほむらひろし) 北海道生まれ。上智大学文学部英文科を卒業。歌人。著作に短歌入門書『短歌という爆弾』(小学館)、歌集『シンジケート』(沖積舎)他。訳書に『エメライン、サーカスへゆく』(マージョリー・プライスマン文・絵/フレーベル館)、『きぶんやちゃん』(トッド・パール文・絵/フレーベル館)などがある。 |
『ディア・ダイアリー』 『テリーと海賊』 "The Three Pigs" "Everything on a Waffle" MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
―― 超ポジティブな女の子の「メガ家出」ストーリー ――
『テリーと海賊』 "Terry and the Pirates" by Julian F. Thompson |
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聞くところによると、日本のティーンたちのあいだでは「プチ家出」なるものが流行しているらしい。この物語のヒロイン、16歳のテリーも家出少女。でもテリーの家出は「プチ」なんかじゃない。だって、世界的な冒険家(おまけにお金持ち)の小型帆船にしのびこんで、カリブ海の島をめざそうというのだから。ただ、実際に船を動かしていたのは、偉大なる冒険家ではなく、彼の息子のミック。とろくて、自分よりちょっと年下の「ガキんちょ」ときている。リッチでロマンチックな逃避行を夢見ていたテリーはがっかりだ。そのうえ船が嵐に襲われて難破し、ミックは行方不明、自分は奇妙な海賊ファミリーの人質になってしまった! さあ、テリーの家出の顛末は?
このテリーという女の子、とにかく前向きで、なにがあってもめげない。その明るさのもとを尋ねられると、彼女はこう答える。「今まで定期的に運動をして、いい空気を吸って、栄養満点の食事を取ってきたから。それに、虫歯は1本しかないし、ルックスもよくほめられるしね」。なんと真っ当で、健康的。自分自身をよく知っているからこその、ただのノーテンキとは違うナチュラルなしたたかさがあるのだ。自分の魅力をちゃっかり「武器」にしながらも、過大評価もしないし安売りもしない。
そんなテリーに、個性の塊みたいな海賊ファミリーがからんで、ストーリーは抱腹絶倒の展開になる。最高の見せ場は、なんといってもスケベ海賊船長が、テリーを○○○で×××しちゃうところ(読んでのお楽しみ)。また、船長にはかなわないまでも、実は二重人格だったミックの分身(?)、ダンディな15世紀のフランス人侯爵もかなりいい味出している。ご想像のとおり、ちょっぴりエッチでドタバタで、でも切なくて爽やかで、読み終えたときには元気いっぱいになっていること間違いなしだ。日本の女の子たちも、「プチ」なんていっていないで、このくらい「メガ」な家出をめざして欲しい! と、いささか物騒なことのひとつもいいたくなるほど、テリーはこの大冒険を通じてまぶしく成長する。
女子高生が喜びそうな、おしゃれでポップな表紙だし、今年の課題図書には……ならないんだろうなあ。
(森久里子)
【作者】ジュリアン・F・トンプスン(Julian F. Thompson) 高校教師、フットボールコーチ、上院議員候補のスピーチライターなどの職を経験しながら、ヤングアダルト向けの作品を執筆。アメリカの10代にカルト的人気がある。本書が初の邦訳。他に "No Picnic"、"Gypsyworld"、"Brothers" など作品多数。 【訳者】金原瑞人(かねはらみずひと) 岡山県生まれ。法政大学教授、翻訳家。絵本から一般向けノンフィクションまで、ファンタジーからミステリまで、幅広い分野の翻訳で活躍。『ゼブラ』(ハイム・ポトク作/青山出版社)、『レイチェルと魔法の匂い』(クリフ・マクニシュ作/理論社)他、訳書多数。 【訳者】田中亜希子(たなかあきこ) 千葉県生まれ。東京女子大学短期大学部英語科卒業。銀行勤務ののち翻訳の仕事を始める。初めての訳書は、昨年11月刊行の『コッケモーモー!』(ジュリエット・ダラス=コンテ文/アリソン・バートレット絵/徳間書店)。やまねこ翻訳クラブ会員として、本誌のライターも務める。 |
『ディア・ダイアリー』 『テリーと海賊』 "The Three Pigs" "Everything on a Waffle" MENU |
注目の本(未訳絵本) |
―― 「3びきのブタ」が絵本を飛び出した! ――
『3びきのブタ』(仮題) "The Three Pigs" by David Wiesner ★2002年コールデコット賞受賞作 |
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「3びきのコブタ」といえば、誰でも知っている有名な昔話。それがウィーズナーによって新しくよみがえった。イラストが現代風になっただけではない。コブタもちょっぴり賢くなって再登場。随所に見られる奇想天外な着想に多くの人が目を見張るだろう。
その最たるものは、何といっても絵本の中に絵本を登場させたこと。魔法のように昔話から飛びだして、違う絵本に入りこんだり抜けだしたりとナンセンスを繰り返す。だがよく見てみればこのアイデアも、最初に訪れた世界ではおなじみのものだった。そこにはマザーグースの「ネコとバイオリン」が描かれて、語りつがれたナンセンスソングが載っている。絵本を飛びだし時空を越えて渡り歩くという展開は、この唄の「メウシが月を飛びこえて、お皿とスプーンが逃げだした」という発想と基を同じくしているのではないだろうか? そしてまた、マザーグースの絵本を後にしたブタたちは、ナンセンスソングをそのまま地でいく行動を繰り返す。
次はがらりと変わって大衆文化のコミックの世界。入りこんだページには、金のバラを悪者から守る巨大なドラゴンが描かれている。ブタたちは、悪を封じるため、ドラゴンをコミックの外に連れだした。悪を倒す英雄冒険物語は、いつの時代にも子どもたちに大人気。そして、これがこの絵本の結末を暗示する重要な伏線となっている。
ウィーズナーは、コミックの手法をとりいれた画面構成と最小限の文章で、読者の想像力をかき立てる。今回もまたあっと言わせる趣向がこらされており、ページをめくるのが楽しみだ。そして圧巻は、縦割りパネルから主人公とドラゴンが抜けだす場面。コンピューターグラフィックスよろしく、絵本は3Dの世界にはや変わりして、息をのまずにはいられない。
古典からマンガまで、絵本の歴史を概観し、魔法のごとく主人公を移動させ、それぞれのいいとこ取りをして新しい絵本を作る。何という奇抜なアイデア! コールデコットはマザーグースを絵本にしたが、ウィーズナーはそのマザーグースをパロディ化して、今年のコールデコット賞に輝いた。さすがのコールデコットも、これには苦笑せざるをえないだろう。
(高原昴)
【作者】David Wiesner(デイヴィッド・ウィーズナー) 1956年ニュージャージー州に生まれる。デザイン学校でイラストレーションを学んだ後、妻との共作で絵本にイラストを描いたりしていた。1992年には "Tuesday"(『かようびのよる』/当麻ゆか訳/徳間書店)がコールデコット賞を受賞。また文字なし絵本 "Sector7"(『セクター7』/BL出版)が1999年にコールデコット賞オナー(次点)に選ばれた。 |
『ディア・ダイアリー』 『テリーと海賊』 "The Three Pigs" "Everything on a Waffle" MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― ひねりのきいたユーモアで綴る、港町の人間模様 ――
『なにもかもワッフルにのっけて』(仮題) "Everything on a Waffle" by Polly Horvath
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「理由なんてないけど、心の奥のほうでそうだってわかるっていうこと、ない?」大人たちにそうたずねるのは、11歳の主人公プリムローズ。彼女にはわかっていた――両親はまだ生きている、と。彼女の両親は、嵐の日に舟で海に出たまま戻ってこない。学校のカウンセラーは、今後のためにも、両親が死んだという事実を認めたほうがいいと迫るが、プリムローズは聞く耳をもたなかった。両親はどこかの島に流れ着いて娘のことを心配しており、なんとかして戻ってくるはず……プリムローズはそう信じていたのだ。やがてプリムローズは、たった一人の身内であるジャックおじさんと暮らし始める。そして、小さな町の中では数々の騒動がもちあがるのだった。
プリムローズは、自分の考えをきちんと持った女の子(でも、どこか抜けたところがあって、とんでもない事件をひきおこしたりもする)。彼女の目を通して、町の人々の姿が語られていく。防虫剤のにおいをプンプンさせる近所のおばあさん、何かにつけて自分の一族の自慢話をするカウンセラー等々。プリムローズに悪気はないのだけれど、その冷静でシニカルな視点にはにやりと笑わされる。ユーモアのきいた、少々おおげさともいえる描写は、前作の "The Trolls" 同様、ホーヴァートの得意とするところ。そのおかしさを透かして、本当に大切なものや、隠れた悲しみや孤独が見えてくる。そのあたりが、本作品がボストングローブ・ホーンブック賞次点、ニューベリー賞次点に選ばれた所以だろう。筋の運びに多少強引さは感じるものの、これだけの役者たちを登場させて最後に丸くおさめる手腕には、素直に感嘆させられる。
題名の "Everything on a Waffle" は、町にあるレストランが、どんな料理もワッフルの上にのせて出すことに由来している。ちゃんと目を開けていれば、小さな町でも人生のいろんなことがわかる、そんなことがこの題名に込められているのかもしれない。そのレストランのオーナー、ミス・バウザーは、プリムローズの話を聞いてくれ、アドバイスをくれる人。また、ジャックおじさんも、両親の生死には触れず、プリムローズをそのまま受け入れてくれる。自分にとって本当に大切な人は、ワッフルのように身近にいて見守ってくれる人だと、プリムローズは気づくのだ。
各章の終わりに添えられたユニークなレシピの数々もお楽しみに。
(植村わらび)
【作者】Polly Horvath(ポリー・ホーヴァート) 1957年ミシガン州生まれ。9歳から創作をはじめ、18歳までのあいだ原稿を書いては編集者に送り続けた。その頃原稿を受け取った編集者の一人が現在のエージェントである。18歳でいったん執筆を中断し、トロントやニューヨークの学校でダンスを学ぶ。1989年に1作目である "An Occasional Cow" を出し、本作品で6作目。カナダのバンクーバー島在住。 |
『ディア・ダイアリー』 『テリーと海賊』 "The Three Pigs" "Everything on a Waffle" MENU |
●お知らせ●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店街」よりお入りください。
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【FOSSILの直営店がオープン!】 |
東京・渋谷は原宿にフォッシル日本初の直営ショップが12月15日オープンしました。場所は若者でにぎわうウラ原宿と呼ばれるエリア。お近くをお通りの際はぜひお立ち寄りください。おすすめ最新モデルはカレイド。文字盤の色を赤と青、黒と青というように切替えることができる不思議な時計。カレイドスコープ(万華鏡)をイメージしたシリーズです。ぜひお店に見に来てください。 |
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●編集後記●
先月発表になったばかりの、ニューベリー賞・コールデコット賞受賞(オナー)作品のレビューをさっそくお届けしました。(き)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 大塚典子(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
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