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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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賞情報1 |
―― 2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 ――
3月末、ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞の受賞者が発表された。この賞は、児童文学に貢献してきた作家/画家の全業績を称え、国際児童図書評議会(IBBY)が2年に1度、西暦偶数年に発表するものである。授賞式は9月にバーゼルで行われる。
各国(今回は31か国)から推薦された、28人の作家と27人の画家のうちから選ばれた受賞者、および最終候補者(finalists)は以下の通り。
Hans Christian Andersen Award 2002 ★Author award: Aidan Chambers (United Kingdom)
★Illustrator award: Quentin Blake (United Kingdom)
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今回は両部門とも、イギリス勢が受賞した。作家賞を受賞したエイダン・チェンバーズは "Postcards from No Man's Land" で、2000年のカーネギー賞を受賞している。邦訳に『おれの墓で踊れ』(浅羽莢子訳/徳間書店)がある。
画家賞を受賞したクェンティン・ブレイクは "Mr. Magnolia"(『マグノリアおじさん』/谷川俊太郎詩/佑学社) で80年のグリーナウェイ賞を受賞、99年には初代の Children's Laureate に任命されるなど、英国を代表する画家。
作家賞の最終候補に残ったバルト・ムイヤールトは、現代オランダ語文学の代表的な作家のひとり。邦訳に『調子っぱずれのデュエット』(西村由美訳/くもん出版)などがある。画家賞の最終候補には、『絵本西遊記』(呉承恩作/中由美子訳/童心社)など数々の名作を発表し続けている、日本の太田大八も残った。ドイツのロートラウト・ズザンネ・ベルナーは前回も最終候補に残っている。邦訳に『王女さまは4時におみえになる』(ヴォルフディートリヒ・シュヌレ文/ひらのきょうこ訳/偕成社)がある。グレゴアール・ソロタレフは、『もうぜったいうさちゃんってよばないで』(すえまつひみこ訳/リブリオ出版)などの邦訳がある、フランスの人気絵本作家。
(菊池由美)
【参考】 ◇国際児童図書評議会(IBBY)発表記事 ◆アンデルセン賞について(本誌1999年10月号情報編「世界の児童文学賞」) ◇バルト・ムイヤールト『調子っぱずれのデュエット』レビュー |
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
賞情報2 |
―― 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 ――
4月5日、アメリカの児童文学賞、ゴールデン・カイト賞の発表が行われた。1973年より始まったこの賞は、内容や芸術性に富み、子どもの目からも魅力ある作品に贈られるものである。児童書作家・画家協会が主催し、賞の選考対象となるのは同協会の会員のみ。
2001年度の★受賞作、および☆オナー(次点)は以下の通り。
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受賞作 "True Believer" は昨年の全米図書賞を受賞した作品。"Make Lemonade"(『レモネードをつくろう』/こだまともこ訳/徳間書店)の続編である。ラヴォーンが15歳になって帰ってきた(本誌増刊号 No.1「ヴァージニア・E・ウルフ特集号」にレビュー掲載)。"The Life History of a Star" はウォーターゲート事件、ベトナム戦争などのあった1970年代のアメリカを背景に、14歳の少女が大人になっていくことへの不安感や孤独感を描いた作品である。"Black Potatoes" は1845年にジャガイモが疫病にかかったことに始まり、何万人もの被害を出したアイルランド大飢饉の話。"John & Abigail Adams" は政治に身を捧げた第2代大統領ジョン・アダムスとその妻アビゲイルの物語。作者セントジョージは、昨年のコールデコット賞受賞絵本 "So You Want to Be President?" の文を担当していた。
絵本(文)部門受賞の "The Shoe Tree of Chagrin" は他愛ない話をルイスが巧みに脚色し、オハイオの森を舞台に楽しいほら話に仕上げたものだ。おばあちゃんの死によって様変わりしつつある大好きな農場。このままなくなっていくのは嫌だと動きだす子供たちを描いたのは "Bluebird Summer"。"The Lamp, the Ice, and the Boat Called Fish" で、クロムスはスクラッチボードを使った繊細な線でイヌピアク(エスキモー)の力強く悠々とした生活を表現し絵本(絵)部門で受賞した。邦訳『氷の海とアザラシのランプ――カールーク号北極探検記』(ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン文/ベス・クロムス絵/千葉茂樹訳/BL出版)が出版されたばかり。"Castles, Caves, and Honeycombs" はいろいろな形の住まい(ほら穴、くもの巣など)をたくさんの色を贅沢につかって表現した作品。ストリンジャーはこの他に、シンシア・ライラントの "Scarecrow" の絵も描いている。
(西薗房枝)
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
賞情報3 |
―― 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 ――
4月10日、イタリアのボローニャ・ブックフェアにおいて、2002年ボローニャ・ラガッツィ賞(BolognaRagazzi Award)の授賞式が行われた。
2002年の各部門の★Winner(受賞作)☆Special mentions(特別賞)は以下の通り。
(今年度は16歳までを対象とした作品ということで、特に年齢別の部門設定はされていない。)
○フィクション
○ノンフィクション
○ニュー・ホライズン(New Horizon)賞
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(西薗房枝)
【参考】 ◇ボローニャ・ブックフェア公式ページ
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
―― 悲しみを癒してくれる、優しい思い出のお話 ――
『ぼく、もう なかないよ』 "A Story for Hippo" |
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お話の上手なかばのおばあさんが川のほとりに住んでいました。仲良しの若いさるはその物語を聞くのが大好き。一緒にゆかいなお話を作ったり、冗談を言っておどけたり、いつも楽しそう。ジャングルの仲間たちはその姿を優しく見守っていました。
ところが、この世との別れの時を悟ったかばは、ある日さるにさよならを告げました。「ずうっとしあわせにくらしました」なんてお話は、うそじゃないか……。理解できないさるは泣いたり怒ったり。かばはさるをなだめながら、さるのような素敵な友達がいてしあわせだったと言い、「その時」を静かに迎えるために、ジャングルの奥へ消えてゆきました。それ以来、寂しくてたまらないさるは、来る日も来る日も泣いてばかり。ジャングルの仲間たちも、かばがいなくなった寂しさに、笑いが消えたさるの姿に、悲しみにくれます……。
以前、私の母と娘が、物語のかばとさるのような会話をしていました。5歳の娘は「おばあちゃんの意地悪!」と言って泣きました。けれどもつらい別れはいつかどうしても訪れます。心の中にぽっかり穴があいてしまったような寂しい思いをするかもしれません。そんな時が来たら、娘に言ってあげたい。――どんなにつらい別れも、時が経てば心は和らぐよ。そこには「思い出」という名の宝物がキラキラ輝いているから。それをいつも心に、強く優しくなって欲しい――と。幼い娘は、まださるの涙顔しか目に入らず、「さるくん、かわいそう。お別れ、いやだな。」としか言わないけれど。
『コッケモーモー!』などの作品で、動物たちを生き生きと描いたバートレットは本書でも美しい色合いの表情豊かな動物たちを登場させます。楽しそうな笑顔、寂しげな表情――。特にかばが去った後、悲しみにくれぽろぽろと涙を流すさるの表情は胸がきゅんとなり、思わずさるを抱きしめたくなります。あなたのその悲しみもいつか優しい思い出に変わるよ、そう言ってあげながら。
(井原美穂)
【文】サイモン・パトック(Simon Puttock) ニュージーランド生まれ。両親とともに世界中を旅しながら育ち、英国の大学で英文学を学ぶ。映画の映写技師やシンガーソングライターなど、数々の職を経て子どもの本の仕事を始める。邦訳作品に『そらへのぼったおばあさん』(矢川澄子訳/徳間書店)、『コーラルの海』(かけがわやすこ訳/小峰書店)がある。 【絵】アリソン・バートレット(Alison Bartlett) 英国アングリア美術学校で学び、キングストン大学でイラストレーションの学位を取得。1993年に初めてイラストを書いた絵本がマクミラン絵本賞を受賞し、1995年に "Oliver's Vegetables" として出版された。邦訳作品に、『コッケモーモー!』(ジュリエット・ダラス=コンテ文/たなかあきこ訳/徳間書店)、『もしもぼくがライオンだったら』(マイケル・ローレンス文/青山南訳/小学館)などがある。 【訳】ないとうふみこ 上智大学外国語学部卒業。ハーレクインの翻訳者としてデビュー後、リーディングや絵本の下訳などに従事。子どもの本の訳書に、『宇宙人が来た!』(ゲイル・ゴーティエ作/徳間書店)がある。やまねこ翻訳クラブ会員として本誌の編集などにも関わっている。 |
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
―― インドの現在を生きていく少女 ――
『家なき鳥』 "Homeless Bird" by Gloria Whelan |
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主人公のコリーは、刺繍が得意な少女。貧しいながらも一家で助け合って暮らしていたのだが、13歳を過ぎたとき、口減らしのため、見知らぬ相手に嫁ぐことになった。 夫のハリ・メイターは難病でわがままな16歳の少年で、結婚生活は前途多難である。サス(姑の呼称)の目当ても、ハリの治療に使うための結婚持参金だけで、新妻のコリーには厳しい。その上ハリは、コリーに心を開いたのもつかのま、沐浴に訪れたガンジス川で客死し、コリーは1年足らずで未亡人になってしまった。
サッサー(舅の呼称)や義妹シャンドラとは仲が良かったが、シャンドラが結婚し、サッサーが死んだ後、メイター家はどんどん傾いていく。ある日、コリーはサスに連れられて行ったヴリンダーヴァンという都会に置き去りにされる。家族に厄介払いされた未亡人が住む、この「未亡人の街」で、コリーは路頭に迷うことになり……。
インドの風俗や文化や習慣に異国を感じつつ、現代の少女の自己実現の物語が楽しめる1作である。物語は困難の連続だが、楽天的で良い意味で気の強いコリーが、自力で道をひらいていく姿は実に魅力的で、応援せずにはいられない。
コリーのさばさばした明るさの軸になるのは、刺繍に託される思いと、文字を覚えて得た自信である。キルトやサリーを鮮やかに彩る刺繍では、個性的な図柄や色合いの中に、コリー自身の思い出や感情、あるいは人生そのものが細やかに縫い取られていく。また、向学心旺盛なコリーがサッサーに文字を習い、帰る家を持たない「家なき鳥」の詩(タゴール)を愛唱する場面には、詩こそ励ましの言葉なれという詩人ウィーランの願いが感じられ、「言葉」を知ることの力が改めて思い起こされる。
自助努力の少女コリーは、インドに生きる前向きな「アメリカン・ガール」である。苦境でも希望を失わない快活さ。学ぶ楽しさ。能力を生かした自立。対等な関係でいられる青年との愛。真の家に落ち着く家なき鳥の喜び。私たちがこの物語を素直に受けとめ、ほっとした読後感を得られるのは、インドという国の現在をのぞく楽しみ以上に、アメリカ的な自立をとげた少女への共感があるからかもしれない。
(鈴木宏枝)
【作者】グロリア・ウィーラン(Gloria Whelan) 1923年、米国ミシガン州のデトロイトに生まれる。詩人で、子どものための物語も数多く書いている。五大湖を舞台にした三部作で Great Lakes Book Award を受賞したほか、13歳の少女と家族が、圧制を逃れて国外脱出する "Goodbye Vietnam" など著作多数。最新作に、ロシア革命時の宮殿の内外のドラマを描いた歴史小説 "Angel on the Square" がある。『家なき鳥』は2000年、全米図書賞を受賞。 【訳者】代田亜香子(だいた あかこ) 立教大学英文科卒業。主な訳書に、『スチュアート・リトル』(青山出版社)『屋根にのぼって』(白水社)。共訳に、映画「プリティ・プリンセス」の原作『プリンセス・ダイアリー』(河出書房新社)のほか、『スクランブル・マインド〈時空の扉〉』『スクランブル・マインド〈はじまりの記憶〉』(共にあかね書房)など。 |
【参考】 ◇やまねこ翻訳クラブ データベース:グロリア・ウィーラン作品リスト
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 人生を59編の詩で―― ――
『カーヴァー』(仮題) "Carver: A Life in Poems" by Marilyn Nelson
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1人の人生を詩でなぞる。生きてきた過程を、「詩」というフレームにはりつけ、その人物を浮き上がらせる。マリリン・ネルソンはそうしてジョージ・ワシントン・カーヴァーのことを書いた。農学者として成功し、音楽、絵画などにも幅広い豊かな才能を持った彼の物語を。
どんな人にも人生の物語はある。年を重ねるにつれ、1冊の本が書けるほどの出来事を抱えている。それを語るのに詩という形式は適しているのかもしれない。詩は言葉を選び、余分なものをそぎおとし、世界を凝縮してみせてくれる。ネルソンのシンプルで美しい響きをもつ言葉は、カーヴァーの人生をくっきりとひきたたせている。
どの詩も決して長くない。詩のあとに、小さなモノクロの写真とエピソードが短く添えられているページもある。黒人の奴隷として生まれ、それ故の辛酸もあったろうが、ドラマチックな出来事は書かれていない。カーヴァーは、奴隷の雇い主である白人夫婦に子どもがなかったことから、彼らのもとで育つことになり、学問を享受できる恵まれた環境を得た。詩は静かに、彼の生まれた時のことを語り、成長していく様を淡々と記していく。賞賛に満ちた研究成果を連ねるのではなく、研究室での地味な実験の様子――種子の分析、土壌調査など――を書き、そこから彼の実績が少しずつ積み上がるのを読みとることができる。私は植物学についての知識はさっぱりだが、彼の学んでいく姿を通して、充分楽しむことができた。
趣味の一つであるボビンレース(彼は友人によくプレゼントしていたらしい)についての短い詩もいい。彼の人間性をなんとも魅力的にみせてくれる。また、写真でボビンレースの作品も紹介され、その素敵さを目にすることができるのはうれしい。
肖像写真も、たくさん掲載されていて、15歳の時のものが表紙を飾っている。この写真と共に書かれている詩も短くきれいな音で編まれていて、私の一番好きな詩だ。その詩はある言葉で韻を踏むことによって、美しい汽笛の音を表現している。ぜひ声に出して読んでほしい。
(林さかな)
※2002年12月、本文中の「植物学者」を「農学者」に訂正
【作者】Marilyn Nelson(マリリン・ネルソン) オハイオ州生まれ。父親は空軍の将校でもあり、詩も書いていた。ネルソンがはじめて詩を書いたのは彼女が11歳の時。母方が代々教職に就いていて、彼女も現在はコネチカット大学で詩を教えている。前作の "The Fields of Praise" は全米図書賞ファイナリストとなり、 Lenore Marshall Poetry Prize を受賞している。 |
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 少女が語る「自分」、「家族」、そして「希望」 ――
『ミグク――天国にいちばん近い国』(仮題) "A Step from Heaven" by An Na ★2002年プリンツ賞受賞作 |
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表紙が印象的だ。半分だけ顔を隠し、こちらを見つめているアジア系の少女の写真。その瞳に惹きつけられるように本を手に取り、ページをめくったわたしは、詩のように美しい文章で綴られる「少女の声」に、たちまち魅了されてしまった。
本書は、韓国系移民の少女パク・ヨンジュの幼児期から高校卒業までを描いた物語である。韓国の小さな漁村で、つづまやかに暮らすパク一家。父と母は、新しい豊かな生活を夢見て、ミグク(アメリカ)への移住を決める。現地で結婚した伯母がしてくれるという、当座の援助を頼っての決断だ。「飛行機に乗って空を飛んでいく」と聞かされた4歳のヨンジュは、「ミグク」が空の上にあるところ、すなわち天国だと思い込む。天国にいけば死んだハラボジ(おじいちゃん)に会えると、祖父との再会を楽しみにアメリカへ渡るが、そこは想像していたような天国ではない。落胆するヨンジュに、アメリカ人の伯父が言う。「天国じゃないけど、天国みたいにいいところだよ。天国にいちばん近い国だ」
一方、父と母にとってもアメリカは「天国」ではなかった。父は複数の仕事をかけもちし、母も食堂で毎日遅くまで働くが、生活は苦しくなるばかり。夫婦間での口論が増え、父は次第に追いつめられていく。ヨンジュや、アメリカ生まれの弟ジュンホにも、事あるごとに手を上げるようになる。
貧しい生活、アイデンティティーの不安、親子間や夫婦間の心のすれ違い。どの家族にも共通して起こりうるこうした問題が、移民家族を取り上げることでよりくっきりと示されている。ヨンジュの目を通して描かれる家族ひとりひとりの苦しむ姿は、哀しくせつなく、読む者の胸を打つ。
だが、本書のトーンは決して重苦しくない。日常のさりげない出来事を淡々と語るヨンジュの「声」には透明感があり、幻想的でさえもある。幼いころのヨンジュはこちらが思わずほほえんでしまうほど可愛らしい。大きくなるにつれ、彼女の行動や考えにはある種の力強さが加わる。傷つき悩みながらものびやかに成長していくヨンジュの姿にすがすがしさを感じることができるのも、この作品の魅力のひとつだろう。心の成長過程にある若者たちと、家族を持つ大人たちにぜひ読んでもらいたい。
(生方頼子)
【作者】An Na(アン・ナ) 1972年、韓国に生まれる。4歳のとき家族とともにアメリカ、カリフォルニア州に移住。アマースト大学卒業後、ノーウィッチ大学にて文芸修士号を取得。中学校の教師を務めたのち、現在はカリフォルニア州オークランドとバーモント州ウォーレンに住み、執筆活動に専念している。本書がはじめての小説。 |
2002年ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞発表 2001年度ゴールデン・カイト賞発表 2002年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『ぼく、もう なかないよ』 『家なき鳥』 "Carver: A Life in Poems" "A Step from Heaven" MENU |
●お知らせ●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
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(第8号は5月5日発行。申し込み手続きは前日までにおすませください。)
●編集後記●
インドが舞台のお話や、韓国系移民の少女が主人公のお話……。アジアへの関心は一時的なブームなどではなく、定着してきたということでしょうか。(き)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 河原まこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー どんぐり NON BUN ぱんち ベス みーこ みるか 麦わら MOMO YUU yoshiyu りり Rinko ワラビ わんちゅく |
協 力: |
@nifty 文芸翻訳フォーラム 小野仙内 ながさわくにお ゆま Waffle |
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