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月刊児童文学翻訳

─2005年3月号(No. 67)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版+書店街>
http://www.yamaneko.org/
編集部:mgzn@yamaneko.org
2005年3月15日発行 配信数 2380

もくじ

 ◎特集:ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞
            受賞作及びオナー(次点)作レビュー
   "The Voice that Challenged a Nation:
     Marian Anderson and the Struggle for Equal Rights"
                          ラッセル・フリードマン作
   "Lizzie Bright and the Buckminster Boy" ギャリー・D・シュミット作
   "Kitten's First Full Moon" ケヴィン・ヘンクス文・絵
   "The Red Book" バーバラ・レーマン作
   "Coming on Home Soon" ジャクリーン・ウッドソン文/E・B・ルイス絵
   "Knuffle Bunny: A Cautionary Tale" モー・ウィレムズ作
   "How I Live Now" メグ・ロゾフ作
 ◎賞速報
 ◎イベント速報
 ◎お菓子の旅:第31回 オランダからアメリカに渡り、穴があいた 〜ドーナツ〜
 ◎読者の広場:読者の方からのメールをご紹介します。

●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。

 

●特集●ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞
            受賞作及びオナー(次点)作レビュー

 本年度のニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞の受賞作とオナー(次点)作のレビューをお届けする。レビューは米国版の本を参照して書かれている("How I Live Now" のみ英国版)。

※以下の作品のレビューは掲載済。
 ニューベリー賞受賞作 "Kira-Kira"(本誌2004年5月号書評編「注目の本」)

 ニューベリー賞オナー "Al Capone Does My Shirts"(本誌2005年2月号「注目の本」)

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

"The Voice That Challenged a Nation:
Marian Anderson and the Struggle for Equal Rights"
 

『マリアン・アンダーソン――アメリカの心を揺り動かした歌姫』(仮題)

by Russell Freedman ラッセル・フリードマン作
Clarion Books 2004, 115pp. ISBN 0618159762

★2005年ニューベリー賞オナー(次点)作
★2005年ロバート・F・サイバート知識の本賞受賞作

 1939年4月9日、復活祭の日。リンカーン記念館前に集まってきた7万5千の人々は、今か今かとその瞬間を待ち構えていた。やがて、石段の上にひとりの女性が現れた。彼女の名はマリアン・アンダーソン。ヨーロッパ諸国でその美声をたたえられ、絶対的な評価を受けながらも、黒人であるという理由だけで、母国アメリカの憲法記念館で歌うことを拒否された歌姫その人である。
 マリアン・アンダーソンは、12歳で父親を亡くし、貧しい母子家庭で育った。幼少のころから並外れた才能を発揮し、早くから歌手になる夢を抱くが、人種分離政策の中、教育を受ける段階でも、キャリアを積む過程でも、ことごとく差別の壁にぶち当たる。だが、そのたびに、ひたむきな努力と周囲の援助によって困難を乗り越え、人種の壁を打ち破る偉業を次々と達成してきた。中でも、1939年の復活祭の日、リンカーン記念館石段で開催された歴史的な青空コンサートによって、彼女は黒人差別撤廃と人権平等を求める闘いのシンボルとなったのである。
 何といっても構成が素晴らしい。青空コンサートを描写した冒頭の3ページで、読者はたちまちこの伝記の中にひきこまれてしまう。その後伝記は時をさかのぼり、彼女の幼少時代から順を追って、96年の長い人生をたどっていく。マリアン自身の自伝をはじめ、当時の関係者による回顧録や数々の写真をもとにして、フリードマンが描き出して見せたのは、心から音楽を愛し、天から与えられた自らの才能に感謝しながら、ひとりの人間として、芸術家として、ひたすら前をむいて歩き続けた勇気ある女性の姿である。本書で紹介されている彼女の言葉は強く印象に残る。マリアンはこう語ったという。差別について直接訴えようとは思わない。自分にできるのは「ただ歌うことだけ」。その上で、歌うことが何らかの結果を生み出したとするならば、それこそが自分の果たした社会貢献なのだ、と。その言葉通り、彼女はただただ歌うことによって人々の魂を揺さぶり、同時に、後に続く黒人芸術家たちの行く道を照らす光となった。その凛とした生きざまに、そして、彼女があのコンサートの日、歌に込めたであろう切なる願いに、深く胸打たれずにはいられない。

(山田智子)

【作】Russell Freedman(ラッセル・フリードマン)

1929年生まれ。これまでに40作以上のノンフィクション作品を手がける。"Lincoln: A Photobiography"(『リンカン――アメリカを変えた大統領』金原瑞人訳/偕成社)でニューベリー賞、"Eleanor Roosevelt: A Life of Discovery" でボストングローブ・ホーンブック賞、ゴールデンカイト賞など、数々の賞を受けている。ニューヨーク在住。

【参考】
▼ラッセル・フリードマンのページ(Education Place 内)
http://www.eduplace.com/kids/hmr/mtai/freedman.html

▼ラッセル・フリードマンのページ(Children's Literature 内)
http://www.childrenslit.com/f_freedman.html

▼ラッセル・フリードマンのページ(Houghton Mifflin 内)
http://www.houghtonmifflinbooks.com/catalog/authordetail.cfm?authorID=2865

▼マリアン・アンダーソンについて(ペンシルべニア大学図書館)
http://www.library.upenn.edu/exhibits/rbm/anderson/index.html

▽ロバート・F・サイバート知識の本賞
               (本誌2004年3月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2004/03a.htm#bungaku

▽ラッセル・フリードマン邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/f/rfreed_j.htm
 

"The Voice That Challenged a Nation:
Marian Anderson and the Struggle for Equal Rights" の
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"Lizzie Bright and the Buckminster Boy" 

『リジーが教えてくれたこと』(仮題)

by Gary D. Schmidt ギャリー・D・シュミット作
Clarion Books/Houghton Mifflin, 2004, 224pp. ISBN 0618439293

★2005年ニューベリー賞オナー(次点)作
★2005年プリンツ賞オナー(次点)作

  ボストン育ちの少年ターナーは、牧師である父に伴ってメイン州の田舎町へやってきた。だが町に着いたとたん、とても嫌な予感がした。町民の笑顔の裏に、何か陰湿なものがある。子どもたちもどこか意地が悪い。いっしょに遊ぼうとしてもいつも笑いものにされ、ターナーはどんどん自信を失い、疑心暗鬼になる。模範的な「牧師の息子」としての立ち居振る舞いを要求され、常に注目されることに息が詰まりそうになったターナーは、森をうろついているとき、黒人少女、リジーと出会う。明るく茶目っ気たっぷりの少女と意気投合し、ターナーはリジーから野球の特訓を受けたり、メイン州の美しい自然を案内してもらったりした。そして斜めに構えがちなターナーに対して、リジーはいつもこうアドバイスしてくれた。
「ものを、もっとまっすぐに見つめなくちゃだめ」と。
 しかし、リジーたち黒人が住むマラガ島には危険が迫っていた。フィップスバーグの管轄下にあるこの島の整備にかこつけて、目ざわりな黒人たちを町から追い出してしまおうという計画が容赦なく進んでいたのだ……。
 米国南部における人種差別はよく知られているが、実は北東のニューイングランド地方も非常に保守的で差別意識が強い地域だ。そしてこの物語は1912年にメイン州フィップスバーグで実際に起きた、無惨で悲しい史実に基づいている。
 14歳のターナーは、町に潜在する差別意識を自らの損得に利用しようとする町民や父のあり方と直面する。そしてリジーとの友情を通じてひとり、またひとりと凝り固まった人の偏見を崩していく。口うるさく、苦手だったおばあさんが大切な友だちへと変わり、この町にきて以来父に不信感を抱いていたが、父が意外な楽しみを教えてくれ、ふたりはわかり合えるようになる。しかしひとりの少年の力では限界があった。
 重いテーマを扱いながらも、この小説は決して暗くない。それは、ユーモラスで詩的な語り口によって、人間の弱さや悲しさの物語がなんともさわやかで高揚させられる作品へと昇華されているからだ。読者は、ターナーが最後に見いだした哲学的ともいえる「答え」に頷きながら胸を熱くするだろう。

(池上小湖)

【作】Gary D. Schmidt(ギャリー・D・シュミット)

カルビン大学で英文学を教えながら、ロフティング、ロバート・ローソンやマックロスキーといった著名な児童文学者の伝記など一般向けのノンフィクションをはじめ、ヤングアダルト向けの物語や小説を著している。邦訳はまだない。現在ミシガン州のアルトにある築150年の古い農家に妻と6人の子どもと共に暮らす。

【参考】
▼作品の背景と成り立ちについて作者が語っている記事
http://www.calvin.edu/news/releases/2003_04/lizzie.htm

▼"Story" についての1時間講演(要 Real Audio、4分45秒頃より話が開始)
http://www.calvin.edu/january/1999/schmidt.htm
 

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"Kitten's First Full Moon" 

こねことまんまるおつきさま』(仮題)

by Kevin Henkes ケヴィン・ヘンクス文・絵
Greenwillow Books 2004, 40pp. ISBN 0060588284

★2005年コールデコット賞受賞作

  ある晩こねこが空を見あげると、そこにはまんまるお月さま。こねこは思う。あんなところに、おわんに入ったミルクがある! 舌をうーんとのばしたら届くかな。あれあれ、のばした舌の先に虫がとまっちゃった。じゃあ、今度は空に向かってジャンプしてみよう。あいたたた、しりもちついちゃった。こうなったら全速力で突進だ! 変だなあ、走っても走っても、ちっとも近くまで行けないなんて。木に登ったらうまくいくかな? よいしょ、こらしょ、もっと上へ、もっと高く。てっぺんまで登ったのに、ミルクには、やっぱり届かない。それに、なんだか怖くなってきちゃったよ。おや? 下の方にも、おわんに入ったミルクがあるぞ! しかも、あっちの方がずっと大きい。さて、こねこが次にとった行動は……。
 白と黒だけのシックな絵本。白い月、白いこねこ、おわんに入った白いミルク、そして、それらを包みこむ夜の闇が、鮮やかなコントラストを生み出している。作者ケヴィン・ヘンクスは、個性あふれるネズミたちを主人公にした絵本のシリーズで人気を博したが、それらのネズミたちが、細い線と鮮やかな色で描かれているのとはまさに対照的。クリーム色のやわらかい紙に、どっしりとした線でふちどられた絵にはぬくもりがあり、シンプルなぶん、よけいに見るものの想像力をかき立てる。そして、こねこの表情の豊かなこと。びっくりした顔、しょんぼりした顔、満足した顔など、こねこの気持ちがリアルに伝わってくる。まだ言葉のわからない赤ちゃんでも、絵を見ているだけで、じゅうぶんに理解し、楽しめると思う。
 ねこでも人間でも、赤ちゃんの眼に映る世界は、あらゆるものが神秘に満ちている。追いかけても追いかけても、決してつかまえることができないお月さまもそうだ。どんなに望んでも、手の届かないものがあることを知ったこねこの驚きと困惑。幼い読者たちは、そんなこねこと一緒になって期待したり、がっかりしたりすることだろう。そして心あたたまる結末に、きっとニッコリするはずだ。初めての「読み聞かせ絵本」としてもおすすめである。
 ネズミたちに続く新しい主人公として、こねこの今後の活躍を期待したい。

(安藤ゆか)

【文・絵】Kevin Henkes(ケヴィン・ヘンクス)

1960年生まれ。1981年に "All Alone" で絵本作家としてデビュー。"Owen"(『いつもいっしょ』ケビン・ヘンクスと表記/金原瑞人訳/あすなろ書房)でコールデコット賞オナーに選ばれた。また、"Olive's Ocean" が昨年ニューベリー賞オナー作品となるなど、小説家としても評価が高い。ウィスコンシン州在住。

【参考】
▼ケヴィン・ヘンクスの公式ウェブサイト
http://www.kevinhenkes.com/

▼ケヴィン・ヘンクスが作品を紹介しているページ(Harper Children 内)
http://www.harperchildrens.com/catalog/book_essay_xml.asp?isbn=0060588292

▽ケヴィン(ケビン)・ヘンクス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/h/khenkes.htm

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"The Red Book" 

『赤い絵本』(仮題)

by Barbara Lehman バーバラ・レーマン作
Houghton Mifflin 2004, 32pp. ISBN 0618428585

★2005年コールデコット賞オナー(次点)作

 本について描かれた文字なし絵本。
 赤い表紙カバーにはタイトル文字もなく、女の子が赤い本を持って駆けている。駆けている女の子を追いかけるべく、表紙を繰って絵本の世界に入っていく。赤い帽子に黄色いマフラーをした女の子、雪の降るビルディングの街を歩いていると、つもった雪に埋もれていた赤い本を見つける。なんだかいいもの拾っちゃったと、満足げな顔の女の子。学校に着いてもその本が気になってしかたない。だから授業中だけれど、本を開いてみた。地図がある。ぐーん、ぐーんと地図をクローズアップしていくと、赤いシャツを着た男の子が見えた。男の子は島の海辺を歩いていた。そこで、あれ? 女の子が拾った本とよく似ている赤い絵本が砂の中に埋もれていた。やっぱり、男の子も拾った本を開いてみた……。
 ほぼ真四角の形をした小ぶりの "Red Book" は文字がなくても、物語はきちんと読み手に伝わってくる。読み手は、文字がないからこそ、自分たちの心に聞こえてくる声を、想像をふくらませながら楽しみ、絵から聞こえる声に耳をすます。女の子はこんな声じゃないかしら。男の子の声はどんな感じかな?
 作者は、地図のもつ楽しさに魅了され、そこから "Red Book" をつくるヒントを得た。作者自身が、イマジネーションをはたらかせた旅を何度も経験したのだろう。実際に体を動かして旅をする楽しさもあるが、1冊の本から広い世界に旅することもできる――それを知っている作者は、子どもたちにもその世界を見せてあげたくなったに違いない。こんな旅もあるんだよ、本は広い広い世界だよ、と。水彩とガッシュとインク、これらで描かれた色は派手なものではなく、落ち着いたあったかい色ばかり。雪や海、男の子や女の子はこの色あいがとてもよく似合う。何度見ても飽きのこない絵で目と心を楽しませてくれる絵本。

(林さかな)

【作】Barbara Lehman(バーバラ・レーマン)

シカゴ生まれ。現在はニューヨーク在住。子どもの本の挿絵を多く手がけ、"Moonfall"(1993年刊行)は、Parents Choice Award for Illustration を受賞している。この絵本では巻末見返しに作者自身を描いたイラストも掲載され、その絵も作者を描く作者という二重構造になっている。

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"Coming on Home Soon" 

『かあさんが帰るまで』(仮題)

text by Jacqueline Woodson, illustrations by E. B. Lewis
ジャクリーン・ウッドソン文/E・B・ルイス絵 
G. P. Putnam's Sons 2004, 32pp. ISBN 0399237488

★2005年コールデコット賞オナー(次点)作

 目の前でかあさんが出かける準備をしている。外は雨。母は収入を得るため、幼い娘と祖母を残し、遠いシカゴへ働きに行かねばならない。そばにいて抱きしめてくれるかあさんが、もうすぐ行ってしまう。言葉に出せず、母の動作をじっと見つめる姿から緊張が伝わる。そして、雪。母への純粋な思いを重ねたように白く美しい雪は、同時に、少女から母の優しい声やぬくもりを奪おうとするかのように冷たくも感じられる。
 第2次世界大戦中、アフリカ系アメリカ人の家庭では、男性が出征している間、生活を守るため出稼ぎで働く女性が多くいたようだ。しかし、ウッドソンはマイノリティという意識を2次的な要因とし、1人の人間としてこどもが抱える感情の原点を描き出すことに重点を置いている。クローズアップされるのは、少女の不安であり、気丈な祖母が秘める動揺へのいたわりであり、自分を保護し、常にそばにあって優しく包んでくれる母親に対する愛情をはっきりと認識する過程である。伝えたい想いは、優しさや暖かさの価値を理解することにほかならない。
 自然な絵を描くルイスは光や色を芝居の舞台効果のように使う。雪の白さを、どうしても暗めの色調となるアフリカ系アメリカ人の肌の色や、祖母の気質がうかがえる質素だが整然とした茶系の部屋と対比させるようにまぶしく輝かせ、家具や小物に意味をもたせる。少女の薄紫や青のリボン、暖炉の火、花瓶の小さな花が、けなげさと心の豊かさを映しだし、ランプシェイドの爽やかなレモンイエローは希望の象徴に見える。
 表紙は無表情に外を見つめる少女の横顔。裏表紙はうれしそうに母親への手紙を書く少女。それだけでも幼いこどもの中にある2つの心が迫る。そして、表紙の少女ははるかに大人びて見える。作者と画家は自らの考えを投影しすぎることなく、与えられた環境の中で生きる主人公自身に語らせる努力をする。詰め込むのではなく、そぎ落とされた作品であると思う。母が帰るまで、少女は自分の足でしっかりと立っている。大丈夫、かあさんはすぐに帰ってくるから、と。

(大原慈省)

【文】Jacqueline Woodson(ジャクリーン・ウッドソン)

1964年オハイオ州生まれ、ニューヨーク州在住。2001年 "Miracle's Boys"(『ミラクルズボーイズ』さくまゆみこ訳/理論社)でコレッタ・スコット・キング賞を受賞。同年、ルイスとのコンビで人種差別の両側にいる少女の交流を描いた絵本 "The Other Side" も、高い評価を受けている。

【絵】E. B. Lewis(E・B・ルイス)

1956年フィラデルフィア州生まれ、ニュージャージー州在住。幼いころに芸術家である2人のおじから影響を受け、自身も同じ道を歩む決心をする。現在、大学でイラストを教える傍ら、数々の作品を発表している。2003年 "Talkin' About Bessie: The Story of Aviator Elizabeth Coleman" でコレッタ・スコット・キング賞画家部門受賞。

【参考】
▼ジャクリーン・ウッドソン公式ウェブサイト
http://www.jacquelinewoodson.com/

▼E・B・ルイス公式ウェブサイト
http://www.eblewis.com/

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"Knuffle Bunny: A Cautionary Tale" 

『抱っこうさちゃん』(仮題)

by Mo Willems モー・ウィレムズ作
Hyperion 2004, 40pp. ISBN 0786818700

★2005年コールデコット賞オナー(次点)作

  男女のカップルが皆に祝福されて結婚する。かわいらしい女の子をさずかり、親子3人で暮らしている。平凡で平和な光景――お父さんと娘がコインランドリーに出かけ、お母さんが「いってらっしゃい」と手をふって見送る。娘の名前はトリキシー。まだ言葉を話さない。だから2人はおしゃべりしながらではなく、時々、互いを見やりながら、散歩気分を味わいつつ目的地に到着。コインランドリーでトリキシーはちゃんとお手伝いもする。しかし、2人の楽しい時間はある事を境に一変してしまう。いったい何が起きたのか。キーワードは Knuffle Bunny!
 シンプルな線描が活きている絵本。絵の輪郭をラフな線描で強調させ、人物の表情にメリハリがある。子どもたちの表情は、大人から見ると少々オーバーに思えるものだが、その特徴がよくでている。この絵本では、セピア色の写真を背景や小物に置いて、写真のもつリアリズムとコミカルなタッチの絵をうまくとけ込ませていて、おもしろい雰囲気だ。たとえば、コインランドリーは建物もマシーンも絵ではなく写真でおさまっている。ランドリーマシーンに洗濯物を入れるお父さんの手を見ると、写真と絵が合成しているような違和感をまったくもたない。思わず、私の手も同じように入るのではと、実際に絵に向かって手を入れたくなる。それほど、絵本との距離を近く感じさせるリアリティがあるのだ。
 わが家の子どもたちも、今でこそ、ある程度自分のしてほしいことを表現できるようになったが、それでも言いたいことが伝わらない時は、かんしゃくを起こすことがある。伝わらない悔しさを、子どもたちはいつまで覚えているだろう。小さいころの私にもあったかもしれないが、とうに忘れてしまった。私の適当な即興訳で絵本に惹きつけられるように見入っている子どもたちは、トリキシーのまねをして笑い転げているばかり。人ごとだと思っているけれど、トリキシーはちょっと前のあなたたちでもあったのに。子どもの成長の一瞬をのがさず絵本にしたウィレムズ氏の力量に感服。

(林さかな)

【作】Mo Willems(モー・ウィレムズ)

テレビ番組「セサミストリート」の脚本家、およびアニメーターとして5度のエミー賞を受賞。アニメーション専門チャンネル、カートゥーン・ネットワークの人気漫画家でもある。"Don't Let the Pigeon Drive the Bus!" は、子ども向けに描いた初めての作品で2004年コールデコット賞オナー作品となった。続編の "The Pigeon Finds a Hot Dog" も愉快な絵本。

【参考】
▼モー・ウィレムズの公式ウェブサイト
http://www.mowillems.com/

▽"Don't Let the Pigeon Drive the Bus!" のレビュー(本誌2004年2月号書評編「特集」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2004/02b.htm#drivebus

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"How I Live Now"

『そして今』(仮題)

by Meg Rosoff メグ・ロゾフ作
Penguin Books 2004, 185pp. ISBN 0141380756

★2005年プリンツ賞受賞作
★2004年ガーディアン賞受賞作
★2004年ウィットブレッド賞児童書部門候補作

 いとこたちを訪ねてイギリスに渡ったあの夏、すべてが変わった。戦争が世界を変えてしまったから。そして、エドモンドと出会ったから。
 主人公のデイジーは15歳。パパの再婚相手とうまくいかず、拒食症になり、生まれ育ったニューヨークから、おばさん一家を頼ってイギリスに到着した。デイジーを待っていたのは、豊かな自然に囲まれた美しいカントリーハウスでの生活だった。4人のいとこたち、特に14歳のエドモンドと9歳の末娘パイパーとはすぐに親しくなった。そして、じっと話を聞いてくれたペンおばさんの瞳を見て、この人は自分の味方だと確信した。気がつけば、故郷から遠く離れたこの家で、デイジーは初めて我が家にたどりついたような安堵感をおぼえているのだった。
 数日後、おばさんが仕事でオスロに出かけた留守に、ロンドンで列車爆破テロが起き、戦争が勃発。交通・通信手段は途絶え、電気・ガス・水道も止まった。だが戦時下とはいえ、田舎はまだのどかだった。大人不在のまま、5人は学校へも行かず、子どもたちだけで農場を切り盛りし、自由を謳歌する。そしてデイジーはエドモンドと激しい恋に落ちた。しかし幸せな日々は長くは続かなかった。
 十代の淡い恋の物語と思って読み始めたら、衝撃的な内容に驚かされ、ぐいぐい引き込まれた。描かれているのは同時多発テロ後の世界情勢を連想させる近未来戦争。花々が咲き乱れ、においたつように美しいイギリスの自然を背景に起こる悲劇だ。
 肉親の愛に飢え、乾ききっていたデイジーの心は、いとこたちとの暮らしで初めて潤い、エドモンドと愛し合うようになる。やがて離れ離れになったふたりが、テレパシーのような感覚で心を通わせ、再会をめざして懸命に生きる姿に胸を打たれる。
 句読点の極端に少ない独特の一人称の文体は、デイジーと共に思考しているような不思議な感覚を読者に与える。また随所で、都会育ちのデイジーの率直な気持ちがユーモラスに語られ、そのことがこの物語にリアリティと同時代性を与えている。
 ヤングアダルト小説の形を取りながら、現代社会への痛烈なメッセージが込められた本作品は、2004年度カーネギー賞候補作(ロングリスト)にも選ばれた。

(大塚道子)

【作】Meg Rosoff(メグ・ロゾフ)

1956年ボストン生まれ。ハーバード大学卒業。在学中、ロンドンの美術学校に1年留学し、英国に魅了される。ニューヨークで約10年間出版・広告関係の仕事に従事した後、渡英し、そのまま定住した。現在は英国人の夫と娘と共にロンドン在住。本作がデビュー作。邦訳は本年4月刊行予定(小原亜美訳/理論社)。2006年に続刊 "How I Live Now 2" が出版される。

【参考】
▼メグ・ロゾフのインタビュー(BookBrowse.com 内)
http://www.bookbrowse.com/index.cfm?page=author&authorID=1059&view=interview

▼メグ・ロゾフの経歴、メッセージ(Kids@Random 内)
http://www.randomhouse.com/kids/author/results_spotlight.pperl?authorid=58449

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●賞速報●

★2005年チルドレンズ・ブック賞候補作発表(受賞作の発表は6月11日)
★2005年アガサ賞候補作発表(受賞作の発表は4月29日〜5月1日の間)
★2005年エズラ・ジャック・キーツ賞発表
★2004年カーネギー賞ロングリスト発表
★2004年ケイト・グリーナウェイ賞ロングリスト発表
(カーネギー賞および、ケイト・グリーナウェイ賞ショートリストの発表は4月29日、
受賞作の発表は7月)

海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。



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●イベント速報●

★講演会、展示会情報

小さな絵本美術館 八ヶ岳分館
「アンソニー・ブラウン講演会&絵本原画展」他
 

★イベント情報

ゲートシティ大崎
「JBBY国際子どもの本の日記念事業 本をひらけばたのしい世界」他
 
 
 詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。

(井原美穂/笹山裕子/清水陽子)



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●お菓子の旅●第31回 オランダからアメリカに渡り、穴があいた
〜ドーナツ〜

 A box of Krispy Kreme Doughnuts sat open on the counter and I helped myself. The traditional O'Neill birthday breakfast, after Mom stopped baking cakes.

Julie Anne Peters
                 "Luna: A Novel" Megan Tingley Books(2004)
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

  ドーナツというとまず思い浮かべるのは、真ん中に穴のあいた、丸い形ではないでしょうか。でも、このお菓子の原形に、穴はあいていませんでした。ドーナツがアメリカに伝わったのは17世紀のこと。オランダの伝統的な揚げ菓子 olie-koecken (oily cake) のレシピを、清教徒たちが伝えたといわれています。この揚げ菓子は、イーストを使った生地に木の実や干した果物を入れた、ボール状のお菓子でした。生地(dough)の中に木の実(nuts)が入っているので、アメリカではドーナツと名付けられたそうです。そして、穴をあけたエピソードに必ず登場するのが、船長のハンソン・グレゴリーです。なんでも木の実が嫌いだった船長が、真ん中の木の実を取り除くため穴をあけたとか。また、中まで火が通らないことが多く、揚げ時間を短縮するために、船長がくりぬかせたという説もあります。1872年にはドーナツカッターが発明され、この形が定着しました。
 引用したのは 2004年全米図書賞最終候補作 "Luna: A Novel" の一節。性同一性障害である兄の苦悩を、妹のリーガンの目から描いた秀作です。ここにでてくるクリスピー・クリームは、1937年にノースカロライナ州で創業されたドーナツ専門店です。創業者がニューオーリンズのフランス人シェフから購入したレシピで揚げ、オリジナルのコーティングをほどこしたドーナツで、アメリカでは人気があります。
 さて、今回は簡単にできる、ベーキングパウダーを使ったレシピをご紹介します。
 

*-* ドーナツの作り方 *-*

画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料:(ドーナツ型8個分。型がない場合大きさの違うコップふたつでも代用可)

  • 薄力粉  200g
  • ベーキングパウダー  小さじ2
  • 砂糖  30g
  • バター  30g
  • 牛乳  大さじ2
  • 卵  1個
  • 揚げ油 適宜
  • 粉砂糖  大さじ1
  • シナモンパウダー  小さじ1
  1. 薄力粉、ベーキングパウダーをあわせて、ふるっておく。
  2. バターを練ってクリーム状にし、砂糖を入れなめらかになるまで混ぜる。卵を少しずつ加え、さらに牛乳も混ぜ合わせる。
  3. 2に、1の粉をいれ、混ざったら手でひとつにまとめる。薄力粉(分量外)をふったまな板の上で、生地を1cmの厚さにのばし、ドーナツ型で抜く。
  4. 揚げ油を170度に熱し、両面がきつね色になるまで揚げて油をきる。
  5. 粉砂糖とシナモンパウダーを合わせて、茶こしでふりかける。

★参考文献・ウエブサイト
『古きよきアメリカン・スイーツ』(岡部史著/平凡社新書)
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●編集後記●

受賞作品レビューの特集はいかがだったでしょうか。受賞作はどれも力作ですね。さて、カーネギー賞とケイト・グリーナウェイ賞のロングリストが発表されました。これから7月の発表まで、やまねこ翻訳クラブは受賞作の予想で盛りあがりそうです。(た)

発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: さわざききょうこ(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 竹内みどり/赤塚きょう子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 安藤ゆか 池上小湖 井原美穂 大塚道子 大原慈省 蒲池由佳 笹山裕子 
清水陽子 早川有加 林さかな 村上利佳 山田智子
協 力: 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
shoko ながさわくにお ラナ
html版担当 ワラビ

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