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●速報1●2014年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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現地時間の1月27日朝8時より、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリ
ー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA:
American Library Association)が、前年にアメリカで出版された子どもの本の中で、
最も優れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/home/
▼YALSA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/
▼各賞の受賞作品・オナー(次点)一覧ページ(ALA内)
http://www.ala.org/alsc/2014-alsc-media-awards
▼ALA Youth Media Awards ウェブキャスト
(発表の様子がオンタイムで流された。現在も視聴できる)
http://live.webcastinc.com/ala/2014/live/
各賞の受賞作品、およびオナー作品は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"Flora & Ulysses: The Illuminated Adventures" by Kate DiCamillo
(Candlewick Press)
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☆Honor Books(4作)
"Doll Bones" by Holly Black (Margaret K. McElderry Books)
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"The Year of Billy Miller" by Kevin Henkes (Greenwillow Books)
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"One Came Home" by Amy Timberlake (Alfred A. Knopf)
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"Paperboy" by Vince Vawter (Delacorte Press)
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2014年のニューベリー賞に輝いたのは、"Flora & Ulysses: The Illuminated
Adventures"。Kate DiCamillo の受賞は、2004年の "The Tale of Despereaux:
Being the Story of a Mouse, a Princess, Some Soup, and a Spool of Thread"
(『ねずみの騎士デスペローの物語』子安亜弥訳/ポプラ社)に次いで2度目となる。
コミック好きで皮肉屋の少女 Flora。そして、掃除機に吸いこまれるという悲劇を経
て、普通のリスからスーパーヒーローならぬスーパーリスに生まれかわった Ulysses。
空も飛べるし、詩まで書けるという、超リス(?)ぶりだ。そんなふたりが力を合わ
せて宿敵 Flora のママに立ち向かう。魅力たっぷりな登場人物たちと、思いも寄ら
ぬ出来事の連続に、抱腹絶倒間違いなし。新進気鋭のイラストレーター K. G.
Campbell による、コマ割りされた挿絵で物語が進む部分があるなど、小説とコミッ
クが融合したような新しい表現スタイルが特徴的な作品だ。
オナーには、4作品が選ばれた。"Doll Bones" は「スパイダーウィック家の謎」
シリーズ(飯野眞由美訳/文溪堂)の著者 Holly Black によるホラー。2014年カー
ネギー賞にもノミネートされている。人形遊びを長年続けてきた Zach、Poppy、
Alice。実は人形が死んだ少女の骨から作られているらしいとわかり、呪いを避ける
ため、人形を少女本人の墓に埋葬することになるが……。不気味な幽霊譚の中に、大
人への階段をそれぞれのペースで上り始めた幼なじみ3人の姿と、成長に伴う痛みが
巧みに織りこまれている。
コールデコット賞の受賞歴もある Kevin Henkes は、2004年の "Olive's Ocean"
(『オリーブの海』代田亜香子訳/白水社)に次いで、"The Year of Billy Miller"
で2度目のオナーに選ばれた。小学2年生の Billy は、学校でうまくやれるかと新
学期を不安いっぱいで迎えた。ついてないことに、夏休みの終わりに頭にたんこぶを
こしらえてしまった。おまけに隣の席の子は口うるさいし、詩の授業は最悪だし、妹
のかんしゃくは手に負えないし……。そんな灰色の日々が次第にすてきな1年に変わ
っていく様子を、やさしい言葉で丁寧につづった低学年向けの読み物。
Amy Timberlake による "One Came Home" は、2014年MWA賞児童図書部門の候補
にも挙がっている歴史ミステリー。舞台は1871年のウィスコンシン州。失踪した姉と
おぼしき死体が発見される。姉が死んだとは思えない Georgie は、わずかな手がか
りを頼りに、姉の行方を追って西部辺境の地へ分け入る。空前規模のリョコウバトの
巣ごもりと、秋の大火という2つの史実を背景に、危険に満ちた旅路と心の成長を描
く。機知に富んだ率直な一人称の語り口が、読者をとらえて離さない。
Vince Vawter は、デビュー作 "Paperboy" でオナーに選ばれる快挙を成し遂げた。
1959年の夏、主人公 Little Man は親友の代わりに新聞配達を引き受け、トラブルに
巻きこまれてしまう。本書は、吃音を抱えた主人公がタイプライターでつづったもの
という体裁をとっている。Little Man の吃音とそれに付随するさまざまな困難は、
作者自身の体験を元にしており、それだけにいっそう心に強く訴えかけてくる。
今年選ばれた5作品は、ジャンルもさまざまで個性的なものばかり。どの作品が日
本で紹介されるのか、出版動向が楽しみだ。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/newberymedal/newberymedal
▼Kate DiCamillo 公式ウェブサイト
http://www.katedicamillo.com/
▼"Flora & Ulysses: The Illuminated Adventures" 紹介動画
(YouTube 内 Candlewick Press のチャンネル)
http://www.youtube.com/watch?v=j6cdkkJvgaA
▼Holly Black 公式ウェブサイト
http://www.blackholly.com/
▼Kevin Henkes 公式ウェブサイト
http://www.kevinhenkes.com/
▼Amy Timberlake 公式ウェブサイト
http://amytimberlake.com/
▼Vince Vawter 公式ウェブサイト
http://www.vincevawter.com/
▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
▽ケイト・ディカミロ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/d/kdcmll.htm
▽ケヴィン(ケビン)・ヘンクス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/h/khenkes.htm
(森井理沙)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"Locomotive" by Brian Floca (Atheneum Books for Young Readers)
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☆Honor Books(3作)
"Journey" by Aaron Becker (Candlewick Press)
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"Flora and the Flamingo" by Molly Idle (Chronicle Books LLC)
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"Mr. Wuffles!" by David Wiesner (Clarion Books)
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2014年のコールデコット賞は、Brian Floca の "Locomotive" に贈られた。1869年、
アメリカで最初の大陸横断鉄道が開通した。家族の待つ西部を目指して、新しい生活
への希望を胸に乗り込んだ親子とともに、読者もまた鉄道の旅へといざなわれる――。
美しく繊細ながらも力強く描かれた絵からは、蒸気機関車の熱気や匂いや音、そして
人々の興奮が伝わってくる。緻密な調査に基づいて描写された汽車の細部や乗務員の
仕事、さらに西へ向かうにつれて移り変わる景色もまた、旅の臨場感を高めてくれる。
作者は、本作で4度目のロバート・F・サイバート知識の本賞オナーにも選ばれた。
ノンフィクションを得意とするその才能を遺憾なく発揮した作品となっている。
オナーには3作品が選ばれた。"Journey"(『ジャーニー 女の子とまほうのマー
カー』講談社)は、Aaron Becker のデビュー作となる文字のない絵本だ。女の子が
持つのは、描いた絵が本物に変わる不思議な赤いマーカー。部屋の壁に描いたドアを
開けると、そこにはスリルに満ちた冒険の旅が待っていた。やわらかく幻想的な色使
いの背景に、女の子が描いた物の赤色が映える。丁寧に描き込まれた絵が読者の想像
をかきたて、冒険の世界はどこまでも広がっていく。
Molly Idle による "Flora and the Flamingo" もまた、文字のないしかけ絵本だ。
表紙を開くと優雅に踊るフラミンゴが1羽。そこに小さな女の子 Flora もやってき
て、一緒にダンスを始める。その愛らしい様子は、ピンク色を基調とした絵でほのぼ
のと描かれている。めくったり閉じたりすることでポーズの変わるしかけもあり、絵
に生き生きとした動きを加える。リズミカルに動かすと、読者も一緒にダンスをして
いる気分を味わえるだろう。女の子とフラミンゴの心温まるやりとりもほほえましい。
"Mr. Wuffles!" は、コールデコット賞を3度受賞している David Wiesner の作品。
猫の Mr. Wuffles はおもちゃのねずみや毛糸玉には見向きもせず、ふと見つけた小
さな宇宙船に興味津々だ。でも、乗っている宇宙人たちからしたら、荒っぽく扱われ
てたまったもんじゃない。虫たちを味方につけて反撃に出るが、結果やいかに。日常
的な光景を別の視点から見た時の新鮮な驚きや、作者の創作による記号化された文字
の面白さなど、ベテラン絵本作家ならではのアイディアが光る、ユーモラスな1冊だ。
今年のコールデコット賞に挙げられた作品は、オナーの3作が文字のほとんどない
絵本である点が印象に残った。装飾的な文字が絵の一部として使われている受賞作も
含めて、絵で物語ることの可能性を改めて感じさせるラインアップとなった。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/awardsgrants/bookmedia/caldecottmedal/caldecottmedal
▼Brian Floca 公式ウェブサイト
http://www.brianfloca.com/
▼"Locomotive" 作品紹介ページ(Simon & Schuster 内)
http://books.simonandschuster.com/Locomotive/Brian-Floca/9781416994152
▼Aaron Becker 公式ウェブサイト
http://www.storybreathing.com/
▼Molly Idle 公式ウェブサイト
http://idleillustration.com/
▼"Flora and the Flamingo" 紹介動画
(YouTube 内 Chronicle Books のチャンネル)
http://www.youtube.com/watch?v=9d3llsrs7tc
▼David Wiesner 公式ウェブサイト
http://www.davidwiesner.com/
▼"Mr. Wuffles!" 紹介動画
(YouTube 内 Houghton Mifflin Harcourt のチャンネル)
http://www.youtube.com/watch?v=-5Z5JIl7u68&feature=share
▽コールデコット賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽デイヴィッド・ウィーズナー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/w/dwiesner.htm
(増山麻美)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"Midwinterblood" by Marcus Sedgwick (Roaring Brook Press)
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☆Honor Books(4作)
"Eleanor & Park" by Rainbow Rowell (St. Martin's Griffin)
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"The Kingdom of Little Wounds" by Susann Cokal (Candlewick Press)
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"Maggot Moon" by Sally Gardner (Candlewick Press)
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"Navigating Early" by Clare Vanderpool (Delacorte Books for Young Readers)
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プリンツ賞は、作品の分野や作者の居住地に制限がなく、前年にアメリカで出版さ
れたYA作品なら、過去に他国で出版された作品も対象となる。
受賞の栄誉に輝いたのは、未来から古代へと時間をさかのぼっていく7つの短編で
構成された "Midwinterblood"。短編ごとに時代は移り変わるものの、常に小さなブ
レスト島が舞台となり、同じ人間と思しき男女が登場する。はるか昔に引き裂かれた
ふたつの魂は、時を越え、互いの関係を変えて幾度となく求め合う――ときに恋人、
ときに兄妹、そしてときに親子として。そんな壮大な愛の物語でありながら、“ヤン
グアダルト界のスティーヴン・キング”と評される Marcus Sedgwick らしく、血な
まぐさく超自然的な要素も織り込まれている。詳しくは、本誌2013年6月号のレビュ
ーを参照していただきたい。
オナーには、4作品が選ばれた。Rainbow Rowell の "Eleanor & Park" は、2013
年ボストングローブ・ホーンブック賞フィクション部門も受賞した話題作だ。いじめ
られっ子の少女 Eleanor と、ハーフコリアンの少年 Park は、ふとしたきっかけで
友情を育むようになる。いじめられっ子とマイノリティという、学校では“負け組”
のふたりの関係は、ゆっくりと恋へと変わっていき……。いじめや虐待など重い題材
を絡めながらも、初恋の甘酸っぱい経験を思い出させてくれる作品。Rowell は、初
めて書いたこのYA作品でブレイクした。
Susann Cokal が描くダークなフェアリーテール "The Kingdom of Little Wounds"
は、16世紀の北欧を舞台とした作品だ。王女の結婚前夜、宴の準備に追われる宮廷に、
不気味な黒い影が忍び寄る。王の一族は謎の病に襲われ、王位をめぐって陰謀が繰り
広げられる。作者 Cokal はこれまで大人向けのファンタジーを書いており、これが
初めてのYA作品だが、YAとしては残酷性が強すぎるという意見もある中でのオナ
ー選出となった。
2012年度コスタ賞に2013年カーネギー賞と、大きな文学賞を軒並み受賞した Sally
Gardner の "Maggot Moon" は、作者と同じくディスレクシア(識字障害)で、人と
異なる視点を持つ少年 Standish が主人公だ。舞台は巨大な権力 Motherland に支配
された、架空の1950年代のイングランド。Standish は、連れ去られた親友 Hector
を救い出そうと、祖父や仲間と一緒に立ち上がる。勇気と友情、そして自由を守るた
め権力に立ち向かうことの大切さを描いている。
第2次世界大戦終了時に母を亡くした少年 Jack の心の成長を描いた作品が、
"Navigating Early" だ。ある日突然、カンザスの自宅から遠く離れた寄宿学校に送
りこまれた Jack は、そこで Early という変わり者の少年と出会う。変わり者と転
校生という、学校では孤独な存在だったふたりは友情を育み、やがてアパラチア山脈
にすむという巨大な黒い熊を求めて冒険の旅に出る。作者 Clare Vanderpool は、
邦訳はまだないものの、2011年ニューベリー賞を受賞した実力派だ。
今年はベテランの作品に混じって、著者が初めてヤングアダルト向けに書いたとい
う作品が2つも選出された。ヤングアダルト界に新たな旋風が巻き起こることを期待
したい。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼Marcus Sedgwick 公式ウェブサイト
http://www.marcussedgwick.com/
▼Rainbow Rowell 公式ウェブサイト
http://rainbowrowell.com/
▼Susann Cokal 公式ウェブサイト
http://www.susanncokal.net/
▼Sally Gardner 公式ウェブサイト
http://www.sallygardner.net/
▼"Maggot Moon" 作品公式ウェブサイト
http://www.maggotmoon.com/
▼Clare Vanderpool 公式ウェブサイト
http://www.clarevanderpool.com/
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
▽"Midwinterblood" レビュー(本誌2013年6月号「特集」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2013/06.htm#myomi2
(村上利佳) |