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※11月は休刊いたします。次回は12月号です。どうぞお楽しみに!

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2018年10月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.188
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2018年10月15日発行 配信数 2490 無料
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●2018年10月号もくじ●
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◎プロに訊く:第39回 岩城義人さん(翻訳家)
◎賞情報:速報! 2018年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表!
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第70回 泥のケーキ? 〜チョコレート・マッド・ケーキ〜
◎読者の広場

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●プロに訊く●第39回 岩城義人さん(翻訳家)
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 今回ご登場いただくのは、『うみべのまちで』で第65回(2018年)産経児童出版文
化賞翻訳作品賞を受賞された岩城義人さん。翻訳家として順調な一歩を踏み出され、
今後もますますご活躍が期待される岩城さんに、デビューの経緯や、版権エージェン
トでのお仕事を通して日々感じていらっしゃることなどを伺いました。お忙しいなか、
興味深いお話をたくさん聞かせてくださった岩城さんに、心から感謝申し上げます。

【岩城義人(いわじょう よしひと)さん】
+────────────────────────────────────+
|富山県出身。高校卒業後に渡英して音楽を学ぶ。帰国後は翻訳学校に通い、2016|
|年、木坂涼との共訳『ライオン1頭』(ケイティ・コットン文/スティーブン・|
|ウォルトン絵/BL出版)で翻訳家デビュー。『うみべのまちで』(ジョアン・|
|シュウォーツ文/シドニー・スミス絵/BL出版)(※1)で第65回(2018年)|
|産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞。訳書に『軋む心』(ドナル・ライアン作|
|/白水社)、『スムート かたやぶりなかげのおはなし』(ミシェル・クエヴァ|
|ス文/シドニー・スミス絵/BL出版)などがある。東京都在住。      |
+────────────────────────────────────+

※1 『うみべのまちで』は、本誌2018年6月号にレビューを掲載。
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2018/06.htm#hehon

【岩城義人さん訳書リスト】
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/yiwajo.htm

【岩城義人さんインタビュー ロングバージョン】
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/yiwajo.htm

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Q★読書好きが高じて翻訳家を目指されたとのことですが、子どものころから読書が
お好きだったのですか?

A☆子どものころは、本を読むより外で遊ぶことのほうが好きでした。読書をするよ
うになったのは、高校生くらいからです。宮沢賢治や稲垣足穂のような、不思議な物
語に惹かれました。なかでも賢治の『銀河鉄道の夜』が好きでした。

Q★高校をご卒業されてからは、音楽の勉強のために渡英されたそうですね。

A☆音楽は今でも好きです。その時々で好きなジャンルは異なりますが、留学中はよ
くジャズを聴いていました。特に40〜50年代のスウィング・ジャズやビバップですね。
とりわけジャズが好きだったというわけではないのですが、留学先のオープンキャン
パスで見たジャズの演奏があまりにかっこよかったので。留学期間は2年ほどでした。

Q★それがなぜ、翻訳をしてみようと思われたのでしょうか?

A☆翻訳を意識したきっかけは、本のタイトルは忘れましたが、読みづらいと感じた
ことだったと思います。しかし、別の訳者の翻訳で読むとそうでもなかった。どちら
が正しいかは別として、訳者によって作品の印象は変わるのだと思いました。当然と
言えば当然ですが、なぜそうなるのかが不思議で、自分も翻訳してみようと思い、翻
訳学校に通い始めました。

Q★初めての訳書となった絵本『ライオン1頭』の出版経緯を教えてください。

A☆ぼくは版権エージェントでアルバイトをしながら翻訳しています。この作品は出
版も訳者も決まっていましたが、時間の関係で序文と解説部の下訳者を探していまし
た。別件でBL出版の編集者さんと電話していた際、ふと下訳の話が出たので、あま
り考えずに引き受けた次第です。下訳を提出したところ、そのまま採用され、訳者の
木坂涼さんのご厚意で共訳にしていただきました。

Q★白水社の「エクス・リブリス」シリーズ『軋む心』の出版は、どのような経緯だ
ったのでしょうか?

A☆この小説は同僚に紹介されて読んだのですが、おもしろかったのでシノプシスを
作成して白水社さんに持ち込んだところ、運よく出版が決まりました。ビギナーズラ
ックですね。まだ『ライオン1頭』が出る前で訳書もなかったのに、翻訳を任せてい
ただき、担当の編集者さんには感謝しています。

Q★『軋む心』は文芸書ですが、絵本の翻訳とは違ったご苦労はありましたか?

A☆21人の登場人物がそれぞれ一人称で語っているので、訳し分けがとても大変でし
た。しんどかったので、当時を振り返りたくないですね。文芸書では、あまりに独創
的な内容や、凝った文章の作品も少なくないので、訳す身としては苦労します。また、
相対的に調べ物に費やす時間も増えます。この作品の舞台は現代のアイルランド、し
かも土着文化が根強い西側の田舎です。一見バラバラに語っている21人の話が随所で
つながり全体が見えてくる構成と、全体として浮き上がってくるのが物語性だけでは
なく、その土地の姿であることがおもしろいと思います。

Q★『うみべのまちで』との出合いは、どんなものだったのでしょうか?

A☆この絵本は、たまたま仕事で目にした原書のうちのひとつでした。カナダ東部の
島が舞台なのですが、50年代の、しかも炭鉱の話となると現代ではなじみが薄く、最
初は子どもには少し難しいと思いました。でも、テキストもイラストも不思議と強く
印象に残ったので、簡単な要約をつけてBL出版さんに紹介しました。やはり「暗い」
という意見が多かったようですが、担当の編集者さんがとても気に入り、かなり頑張
って企画を通してくださいました。日本語版制作にあたり、暗い印象を与えないよう、
担当編集者さんと試行錯誤しました。テキストしかり、見返しの色も。原書の見返し
は、炭鉱の黒なんです。日本語版では、海の青に変えています。

Q★岩城さんが訳を担当されることになったのは?

A☆エージェントの上司が推してくれたようです。編集の方とも『ライオン1頭』で
一緒に仕事をしていて、お互いをよく知っていたのですんなりと決まったのだと思い
ます。

Q★数ある原書のなかで、『うみべのまちで』にピンときた理由はなんでしょう?

A☆イラストが美しい点は大きいと思います。ページをめくると動きがあるし、パノ
ラマの構図も、横長の判型に合っています。ときどき、ふと思い出したように挟まれ
る炭鉱の場面は、全体にリズムを加味していると思います。また、少年の1日を通し
て、時間の流れが描かれている点がすばらしいと思いました。日が昇って沈むという
単純な流れですが、それがあるからこそ、この島の歴史を、過去の一点としてではな
く、現在にいたる時間の延長線上でとらえられるのだと思います。ちなみに、この絵
本はカバーと表紙にも趣向が凝らされています。カバーの絵は日中なのですが、はず
してみると、表紙が夕暮れの絵になっています。たった1枚の紙の隔たりに描かれた
時間の流れに、感動してしまいます。

Q★その作品が産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞されて、お気持ちはいかがです
か?

A☆とてもうれしいのですが、それによって本が売れるという期待よりは、10年後も
残ってくれる作品であってほしいと思っています。ですので、受賞は記念のような感
じですね。

Q★8月には新刊絵本『なんびきのねこたちおどる?』(キャロライン・スタットソ
ン文/ジョン・クラッセン絵/犀の工房)が出ましたね。

A☆はい。犀の工房さんというできたばかりの出版社から出ています。ある日、代表
の方が会社を立ち上げるにあたり、エージェントに相談にいらっしゃいました。その
ときに、エージェントが、まだ版権が空いていたジョン・クラッセンのデビュー作を
紹介したそうです。一緒に、ぼくを訳者として紹介してくれました。ジョン・クラッ
センらしい、クスッと笑ってしまうような楽しい絵本です。

Q★岩城さんが考える、児童書を訳すにあたって必要なこととはなんでしょうか?

A☆ぼくが教えてほしいです。児童書に限らず一般的なことですが、正しく原文を理
解して、わかりやすい日本語に訳すことくらいでしょうか。訳者によって考え方はさ
まざまですし、ぼくはそれでいいと思うので。意訳、直訳の線引きもあいまいですし。
ただ、その都度正解のような訳があるとは思います。しかしそれも、時代や人の見方
によって変わると思います。また、アーサー・ビナードさんのように原書の言葉を母
国語とされている方が訳しても、印象は変わるでしょう。ビナードさんはけっこう大
胆に訳されますね。とても勉強になります。

Q★本を読むときに、なにか意識していることはありますか?

A☆……特に意識していないかも。ただ、年齢とともに、読んでいておもしろくない
ものは、途中で放り出すことができるようになりました。昔は、読み始めると全部読
まなきゃいけないような気がして。年を取ると実感しますが、死ぬまでに読める冊数
は限られていますし、そうなると楽しめないものに時間を費やすのがもったいなくな
ります。

Q★海外の出版社が売り込む作品と、日本の出版社が求めているものに差を感じるこ
とはありますか?

A☆文化的背景が異なるので、どうしても温度差は生じると思います。ですので、翻
訳出版されるものの多くは、普遍的なテーマのものが多い気がします。しかし、時代
時代の大きな流れは、やはり輸入されていると思います。例えば近年なら、児童書で
も科学者やプログラマーなどに注目したSTEM系(※2)の作品や、女性の活躍を
描いたノンフィクション作品が増え、日本でも多く翻訳出版されています。

Q★海外の子どもは、日本の子どもたちに比べてずいぶんと長い本や難しい本を読ん
でいますよね。

A☆海外の読み物は、児童書でもやたらと長いですね。500ページ以上という作品は
ざらにあります。翻訳すると文章量が増える傾向にありますし、日本で出版するとな
ると分冊となり採算が合わないこともあるのでは。また、あまり長いと読者が飽きて
しまうということも……。でも最近は海外の児童書も、長いものは減ってきた気がし
ます。世界的な読書離れのせいでしょうか。興味の対象が増え、ひとつの世界に没頭
するのが難しくなっているのではないかと。インターネットの影響は海外でも大きい
と思います。

Q★今後はどのような作品を訳していきたいですか?

A☆今、訳しているのは児童書のファンタジーですが、楽しみながら訳しています。
駆け出しならではの考え方だと思いますが、児童書でも一般書でも、それぞれの楽し
みがあるので、あまりジャンルは限定せずに続けていきたいです。

*** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** ***

 終始穏やかな物腰で、投げかけた質問にひとつひとつ熟考しながら、真摯に答えて
くださった岩城さん。翻訳作品のすばらしさもさることながら、作品を見る視点や翻
訳に対する考え方を伺っているうちに、すっかりファンになってしまいました。現在
翻訳まっただなかというファンタジー作品も、楽しみにしています。

※2 STEM:Science, Technology, Engineering, Mathematics の頭文字をとっ
たもので、科学・技術・工学・数学を総称する言葉。理数系人材を育成する教育モデ
ル「STEM教育」は、最先端の米国から世界各国へ広がりをみせている。

                           (取材・文/安田冬子)

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●賞情報●速報! 2018年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表!
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 10月10日、2018年全米図書賞(National Book Awards)のファイナリスト(最終候
補作品)が発表された。
 アメリカ人作家による優れた文学作品の普及と読書人口の増加を目的として1950年
に創設された本賞は、1989年から全米図書財団(The National Book Foundation)が
主催している。対象部門は時とともに変遷し、今年はこれまでのフィクション、ノン
フィクション、詩、児童書の4部門に、翻訳作品部門が加わって5部門となった。前
年12月1日から当年11月末日までにアメリカで出版された(または出版される)作品
を対象に、文学的価値を重視して選考される。児童書部門は1969年に設けられ、1984
年にいったん廃止されたが、1996年に復活した。以来、ジャンルを問わずもっとも優
れた児童書に贈られている。
 今年は9月12日に各部門のロングリスト10作品が発表され、その中から各5作品が
ファイナリストに選ばれた。受賞作品の発表は、11月14日の予定。
 本号では、児童書部門(Young People's Literature)のファイナリストおよびロ
ングリストに選ばれた作品をご紹介する。

▼2018年全米図書賞発表ページ(National Book Foundation ウェブサイト内)
http://www.nationalbook.org/awards-prizes/national-book-awards-2018/

▼上記ウェブサイト内、児童書部門発表ページ
http://www.nationalbook.org/awards-prizes/national-book-awards-2018/?cat=ypl

▽全米図書賞児童書部門について(本誌2003年12月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/12a.htm#bungaku

▽全米図書賞(児童書部門)受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/nba/index.htm

※全米図書賞のページ(National Book Foundation ウェブサイト内)が全面的にリ
ニューアルされたため、本誌バックナンバー、資料室リストに一部リンク切れがござ
います。ご了承ください。

★Finalists(5作)

"The Poet X"              by Elizabeth Acevedo (HarperTeen)
"The Assassination of Brangwain Spurge" by M. T. Anderson and Eugene Yelchin,
                       illustrations by Eugene Yelchin
                             (Candlewick Press)
"The Truth as Told by Mason Buttle"   by Leslie Connor
                           (Katherine Tegen Books)
"The Journey of Little Charlie"     by Christopher Paul Curtis
                             (Scholastic Press)
"Hey, Kiddo"              by Jarrett J. Krosoczka (Graphix)

 "The Poet X" は、今年のボストングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部
門受賞作品。作者 Elizabeth Acevedo は、制限時間内に自作の詩を朗読してその内
容とパフォーマンスの優劣を競う「ポエトリー・スラム」の第一人者で、小説家とし
ては本作品がデビュー作となる。ハーレムで生まれ育った主人公 Xiomara は、自分
が信じている宗教を押しつけてくる母親の抑圧を受けながら、自分の思いのたけを詩
に表して書き留めていた。学校のポエトリー・スラム部に勧誘された Xiomara は、
母の目を盗んで参加するようになる。己の心の叫びを観衆の前で表現することに魅了
された Xiomara の姿は、ドミニカ共和国の移民の娘である作者 Acevedo と重なる。

 "The Assassination of Brangwain Spurge" が描くのは、エルフとゴブリンの世界
を舞台に繰り広げられる、無秩序で風変わりな冒険だ。エルフの歴史学者 Brangwain
は、貢物を手に友好の使者兼スパイとしてゴブリン王国に向かっていた。ゴブリン側
の接待役で同じく学者の Werfel と意気投合した Brangwain だったが、やがてふた
りは、自分たちの命だけでなく、それぞれの国をも危険にさらす争いに巻き込まれて
いく。2006年に "The Astonishing Life of Octavian Nothing, Traitor to the
Nation, Vol. 1: The Pox Party" で本賞を受賞した M. T. Anderson(M・T・アン
ダーソン)と、スターリン独裁時代のソ連を描いた作品 "Breaking Stalin's Nose"
(『スターリンの鼻が落っこちた』若林千鶴訳/岩波書店)などが邦訳されている
Eugene Yelchin(ユージン・イェルチン)の共作。

 "The Truth as Told by Mason Buttle" の主人公 Mason は、7年生で一番大柄な
汗っかきの男の子。読み書きがほぼできない学習障害で悩んでいる。親友 Benny が
Mason の家の果樹園で遺体となって発見され、その悲しみから Mason の学習障害は
一段とひどくなった。さらに、新しくできた友人 Calvin も行方不明となり、Mason
はふたりの友の死と失踪について真実を探り始める。果たして警察は、Mason の話を
信用してくれるだろうか。作者 Leslie Connor(レスリー・コナー)は、絵本 "Miss
Bridie Chose a Shovel"(『ブライディさんのシャベル』メアリー・アゼアリアン絵
/千葉茂樹訳/BL出版)が邦訳されており、"Waiting for Normal" で2009年シュ
ナイダー・ファミリーブック賞 Middle School 部門を受賞している。

 ニューベリー賞やコレッタ・スコット・キング賞の常連である Christopher Paul
Curtis(クリストファー・ポール・カーティス)が、"The Journey of Little
Charlie" でファイナリスト入り。舞台は19世紀半ばの米国南部。主人公 Charlie は
12歳にして、人生の重大な局面に立っていた。小作人の父が死んで借金だけが残され、
しかも借金の相手は町で一番恐れられている男だった。Charlie は借金返済のために、
その男が“盗人”を追う旅に同行することになる。取引としては悪くない気がしてい
た Charlie だったが、男が追っている相手が逃亡奴隷だと知り、このまま男の言う
通りに行動するか逃げ出すか、選択を迫られることになる。果たして Charlie が出
した答えは?

 "Hey, Kiddo" は、作者 Jarrett J. Krosoczka(ジャレット・J・クロザウスカ)
が自分の子ども時代を回顧したグラフィックノベル。主人公の Krosoczka は父親を
知らず、母親が薬物依存症で服役していたため、祖父母の養子として育てられた。絵
を描くことが好きだった少年が、父親探し、母親との難しい関係、愛情のある祖父母
との生活の中で、アーティストを志しながら成長する。これまで多数の作品を出版し
てきたクロザウスカの邦訳絵本には、"Punk Farm"(『ブーンとブラムとピーブゥと
モコモコメーとコッコのパンクファーム』まえだえいしぁ訳/そうえん社)がある。

★Longlist(5作)

"We'll Fly Away"            by Bryan Bliss (Greenwillow Books)
"A Very Large Expanse of Sea"      by Tahereh Mafi (HarperTeen)
"Blood Water Paint"           by Joy McCullough
                          (Dutton Children's Books)
"Boots on the Ground: America's War in Vietnam"
                    by Elizabeth Partridge
                          (Viking Children's Books)
"What the Night Sings"         by Vesper Stamper
                       (Knopf Books for Young Readers)

 2015年にYA作品でデビューした Bryan Bliss は、3作目でロングリストに選ば
れた。"We'll Fly Away" の主人公は、アルコール依存症の父に虐待される Toby と
その親友でレスリングが得意な Luke。ふたりはいつか一緒にこの町を出て、二度と
戻らないつもりだった。だが、高校最後の年、ふたりの運命はずれ始める。Toby は
父親が生きる裏社会に引きずりこまれて年上の女におぼれ、Luke は母とその交際相
手に振り回される。物語は、死刑囚が親友へあてた謝罪の手紙と、三人称多視点の語
りで進むのだが、その死刑囚というのが実は……。

 2002年のアメリカが舞台の "A Very Large Expanse of Sea"。前年の9月11日に起
きた同時多発テロ事件が社会に影を落とす中、16歳のイスラム教徒の少女 Shirin は、
人種や信仰のために人々から多くの嫌がらせを受けていた。そのことにうんざりし、
心を閉ざして暮らしていたが、自分を理解しようとする白人の少年 Ocean と出会い、
心に変化が訪れる。イラン系アメリカ人の作者 Tahereh Mafi(タヘラ・マフィ)が、
自身の体験をもとに書いた物語だ。マフィの作品は、全米で人気を集めたファンタジ
ー小説のシリーズ "Shatter Me"(「シャッターミー」金原瑞人・大谷真弓共訳/潮
出版社)が邦訳されている。

 デビュー作で本賞のロングリストに選ばれた Joy McCullough の "Blood Water
Paint" では、17世紀のイタリアに実在した女性画家アルテミジア・ジェンティレス
キが主人公だ。12歳で母親を亡くし、画家である父親の仕事を手伝うことになった
Artemisia は、絵画の才能を発揮しながら成長する。しかし、男性からの暴力を受け、
沈黙の中で生きるか、代償を払ってでも真実に生きるかの、過酷な選択を迫られる。
すべてにおいて男性優位だった時代を力強く生き、数々の名画を残した彼女の思いが、
自由詩の形式で語られる。

 ベトナム戦争を題材にした、ノンフィクションの "Boots on the Ground:
America's War in Vietnam"。100枚以上の写真とともに、戦渦にいた兵士、看護師、
難民へのインタビューと、戦争の影響で米国内で起きた事件を描き、読者にその混と
んとした時代を多面的に伝えている。作者の Elizabeth Partridge は今年、1998年
出版のノンフィクション "Restless Spirit: The Life and Work of Dorothea Lange"
で、過去の作品が評価されるフェニックス賞を受賞した。

 "What the Night Sings" は、イラストレーターの Vesper Stamper が初めて文章
も手がけた作品だ。第2次世界大戦が終わり、音楽の才能がある15歳の少女 Gerta
は、強制収容所から生還した。家族のいない今は、自分にまつわるすべてをなくした
と思っていた。しかし、同じく迫害を生き延びた少年 Lev と出会い、音楽とともに
ユダヤ人として生きていくことを決意し、新たな未来へと歩み出す。セピア色の挿絵
は少女の心情も表し、絶望から再生へと向かう姿を読者に強く印象づける。

《参考》
▼Elizabeth Acevedo 公式ウェブサイト
http://www.acevedowrites.com/

▼M. T. Anderson 公式ウェブサイト
https://www.mt-anderson.com/

▼Eugene Yelchin 公式ウェブサイト
http://www.eugeneyelchinbooks.com/

▼Leslie Connor 公式ウェブサイト
http://www.leslieconnor.com/

▼Christopher Paul Curtis 公式ウェブサイト
https://www.nobodybutcurtis.com/

▼Jarrett J. Krosoczka 公式ウェブサイト
http://www.studiojjk.com/

▼Bryan Bliss 公式ウェブサイト
http://bryanbliss.com/

▼Tahereh Mafi 公式ウェブサイト
http://www.taherehbooks.com/

▼Joy McCullough 公式ウェブサイト
https://joymccullough.com/

▼Elizabeth Partridge 公式ウェブサイト
https://www.elizabethpartridge.com/

▼Vesper Stamper 公式ウェブサイト
http://www.vesperillustration.com/

▽クリストファー・ポール・カーティス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/c/cpcurtis.htm

                           (村上利佳/井原美穂)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2019年度アストリッド・リンドグレーン記念文学賞候補発表
                   (受賞者の発表は2019年4月2日の予定)

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 佐野美術館「おさるのジョージ展『ひとまねこざる』からアニメーションまで」
 大丸ミュージアム・梅田「誕生30周年記念 ウォーリーをさがせ!展」 など

★講演会情報
 絵本・児童文学研究センター「第23回文化セミナー『未来への記憶』」
 JBBY新・編集者講座 第4期「いまをつき抜ける編集力を!」 など

★イベント情報
 三鷹市「第6回 三鷹まるごと絵本市」
 六甲オルゴールミュージアム
    「特別展 影絵とオルゴールが紡ぐアンデルセンの物語」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「児童書関連イベント情報掲示板」をご覧くださ
い。なお、空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                          (山本真奈美/冬木恵子)

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●お菓子の旅●第70回 泥のケーキ? 〜チョコレート・マッド・ケーキ〜
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“Time for a bit of a celebration, then,” Mum said, rummaging in the fridge
for cafe leftovers and finding a portion of chocolate mud cake.
           "Where in the World" by Simon French
                             Little Hare (2002)
           『そして、ぼくの旅はつづく』
            サイモン・フレンチ作/野の水生訳/福音館書店/2012年
※「cafe」の「e」の上に(´)がつく
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 お母さんがオーストラリア人のジェレミーと再婚したため、アリは生まれ育ったド
イツを離れ、オーストラリアに移住しました。家族で営んでいるカフェにはステージ
があり、カフェのスタッフがバンドのメンバーに変身して音楽を演奏し、お客さんを
楽しませています。アリはカフェの手伝いはしますが、演奏には加わりません。でも、
オーケストラのヴァイオリン奏者だったおじいちゃんから、幼いころに手ほどきを受
けて以来ずっと、音楽はアリの生活の一部です。お母さんがジェレミーと出会ったの
も、音楽がきっかけでした。
 引用部分は、お母さんが前日のカフェの残り物のなかから〈チョコレートのこって
りケーキ〉を出してくる場面です。カフェのスタッフで、バンドではピアノを弾いて
いる大学生のアリソンが、専攻科目のレポートを仕上げ、今学期やるべきことはすべ
て終わった!と、いつもより早くカフェにやってきたので、みんなでちょっとお祝い
することになりました。このケーキ、英語ではチョコレート・マッド・ケーキといい、
名前のとおり、茶色いつやつやしたチョコレートが泥(マッド)のように見えます。
オーストラリアではセルフ・レイジング・フラワーという粉を使いますが、日本では
手に入りにくいため、薄力粉と強力粉とベーキングパウダーと食塩で代用しました。

*-* チョコレート・マッド・ケーキの作り方 *-*
                    画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料(直径15cmの丸型1台分)
 無塩バター          67g   ダークチョコレート       33g
 インスタントコーヒー   小さじ2   熱湯              20cc
 グラニュー糖         73g   全卵              1個
 バニラオイル      小さじ1/3   ココアパウダー         10g
 薄力粉            19g   強力粉             19g
 ベーキングパウダー   小さじ1/2   食塩              少々
〈ガナッシュ〉
 ダークチョコレート      67g   生クリーム(乳脂肪分35%)   66cc

1.卵は冷蔵庫から出しておく。丸型の内側に薄くバター(分量外)を塗り、クッキ
  ングシートを側面→底面の順に敷く。チョコレートとバターは溶けやすいように
  刻んでおく。粉類とココアパウダー、食塩を合わせて2回ふるっておく。
2.インスタントコーヒーを熱湯で溶かし、刻んだバターとチョコレートと一緒にボ
  ウルに入れて湯煎にかける。ゴムベラでかき混ぜ、すべて完全に溶けたらおろし、
  粗熱がとれるまで10分ほどおく。
3.大きめのボウルに卵を割り入れ、グラニュー糖を3回に分けて入れながら、白っ
  ぽくなるまで泡立て器で泡立てる。バニラオイルを加え、2を少しずつ加えて、
  なめらかになるまで混ぜる。粉類をふるい入れ、粉っぽさがなくなるまで、ゴム
  ベラで切るように混ぜる。
4.3を丸型に流し込み、160度に予熱したオーブンで35分焼く。
5.竹串を刺して、生地がついてこなかったら、焼き上がり。そのまま網の上に15分
  ほどおき、粗熱がとれたら型からはずす。
6.ガナッシュを作る。ダークチョコレートを細かく刻み、生クリームと一緒に湯煎
  にかけて溶かす。網の上に置いたケーキの表面全体にまわしかける。

★参考図書・ウェブサイト
Taste.com.au
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お菓子の話題は喫茶室掲示板へどうぞ。
★「やまねこ翻訳クラブ喫茶室掲示板」
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                        (赤塚きょう子/加賀田睦美)

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
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           ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・

 詳細は10日頃、出版翻訳ネットワーク内「やまねこ翻訳クラブ情報」のページに掲
載します。どうぞお楽しみに!
          http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/

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▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽

 やまねこ翻訳クラブ( yagisan@yamaneko.org )までお気軽にご相談ください。

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    ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆
 独創的なデザインで世界120ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代
表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ
ルは時計をファッションアクセサリーのひとつと考え、カジュアルでポップなライン
からフォーマルなシーンにも使えるアイテムまで、年間300種類以上のモデルを発売
し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグや革小物な
どのラインを展開しています。
TEL 03-5992-4611
http://www.fossil.com/     (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社
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★☆     出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです     ☆★
             http://www.litrans.net/
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          http://honyakuwhod.blog.shinobi.jp/
未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や
編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉
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●編集後記●今月号では、全米図書賞(児童書部門)を、ファイナリスト発表後すぐ
にロングリストとあわせてご紹介することができました。幅広い魅力ある作品が並び、
編集作業も大変充実したものとなりました。どの作品が選ばれるのか来月の発表が待
たれます。次号12月号では、21回目となる「やまねこ賞」をお届けします。来月に投
票が行われ、受賞作品が選ばれます。こちらも結果が楽しみです。編集部は11月はお
休みをいただき、次号に向けて準備を進めたいと思います。(み)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 三好美香/平野麻紗(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 赤塚きょう子 井原美穂 大作道子 尾被ほっぽ 加賀田睦美
    かまだゆうこ 蒲池由佳 熊谷淳子 小島明子 冬木恵子 古市真由美
    増山麻美 村上利佳 森井理沙 安田冬子 山本真奈美
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    ayo おとむとむ ながさわくにお ゆり
    html版担当 shoko
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