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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ビスト児童図書賞(アイルランド) レビュー集
The CBI Bisto Awards
 

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最終更新日 2009/05/01 レビュー1点追加 

ビスト児童図書賞リスト(やまねこ資料室)   ビスト最優秀児童図書賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

2007-08 "The London Eye Mystery" / 2006-07 "The Incredible Book Eating Boy"『よにもふしぎな本をたべるおとこのこのはなし』


"The Gigantic Turnip"『おおきなかぶ』"The Alchemyst"『錬金術師ニコラ・フラメル』 * "The Moon King"『ムーン・キング』 * "The Boy in the Striped Pyjamas"『縞模様のパジャマの少年』 * "The Wish List"『ウィッシュリスト』 ←追加


1998-1999年ビスト最優秀児童図書賞ショートリスト

"The Gigantic Turnip" (1998)  by Niamh Sharkey ニーアム・シャーキー 
『おおきなかぶ』 中井貴惠訳 ブロンズ新社 1999

その他の受賞歴 1999年マザーグース賞〈イギリス〉受賞


 昔、貧しいながらも仲むつまじく暮らしているおじいさんとおばあさんがいた。春は種まきの季節。いつものように菜園に野菜の種をまくと、天候に恵まれたその年は、どの野菜もおいしそうに実った。ふたりは少しずつたいせつに収穫していった。ある日、最後に残った特大のかぶを採りにいくと、おじいさんひとりの力ではびくともしない。どうやら並はずれて大きなかぶのようだ。おばあさんにも手伝ってもらって、いっしょに力いっぱい引っぱてみた。それでも、かぶはびくともしない。さあて、困った、どうしよう。

 内田莉莎子訳・佐藤忠良画による、古典的な名作絵本の素朴な味わいも捨てがたいが、新しい味つけがほどこされた本作は独特の魅力をたたえている。
 大胆な構図、奇抜なデフォルメ、渋みのある色調が絶妙なバランスを保つ、シャーキーのイラストレーション。中井貴惠氏のよく練りあげあられた現代的な訳が、作品の楽しさを倍加させた。かぶを引っぱるかけ声の壮快なリズムに加え、さまざまな擬態語・擬音語を駆使してイメージにふくらみを持たせている。知らず知らず数の数えかたを覚えられるというおまけ付き。

(雲野 雨希) 2008年9月公開

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2007-2008年ビスト最優秀児童図書賞ショートリスト

"The Alchemyst: The Secrets of the Immortal Nicholas Flamel" (2007)  by Michael Scott マイケル・スコット
『錬金術師ニコラ・フラメル』 橋本恵訳 理論社 2007.11
その他の受賞歴 

 15歳の双子の姉弟ソフィーとジョシュは、サンフランシスコの古本屋で、店主のニックと灰色の男ディーが戦う場に偶然居合わせてしまった。信じられないことに、2人は魔術を使っており、「アブラハムの書」という本とニックの妻ペレネルが、ディーに連れ去られてしまう。しかし、ジョシュの手の中に、最も重要だというページが2枚、残っていた……。実は、このニックとディーは、伝説の錬金術師ニコラ・フラメルと、ジョン・ディー博士で、悪に仕えるディーから逃れ逃れて、フランスから転々とアメリカ西海岸までやってきたのだという。ソフィーとジョシュは、何世紀にもわたるニコラ・フラメル対ダークエルダー族との戦いにまきこまれてしまったのだ。フラメルは「ディーは2枚のページを取り戻しにくるだろう」と言って、半信半疑の2人を連れ、ある場所へと向かう。

 フラメルもディー博士も14世紀に実在した歴史上の人物だ。人間ではあるが永遠の命を手に入れ、現代まで生きながらえてきた、という設定だ。実際にそのような説もあるので、物語の中でもリアリティーと存在感が増している。一方エルダー族とは、人が現れる前からこの世を支配していた者たち、とのこと。大洪水で廃れてしまったが、今でも少数ながら生きながらえており、神話や、スフィンクス、壁画などでわずかにその存在が伝えられている。そして、このエルダー族の中の悪い輩たちダークエルダー族が、世界の征服を目論んでいるというわけだ。また、ロンドン大火やアイルランドの飢饉といった歴史上の出来事も、彼らの戦いの中で説明されるなど、歴史とファンタジーのまざりあったおもしろさが十分楽しめるようになっている。
 そして、唯一普通の人間として登場するジョシュとソフィーのほうは、まったくの現代っ子なのだが、どうやら2人には、彼ら自身も知らない秘密があるらしい。このことが、善と悪の対決というわかりやすい構図にふくらみを持たせていく。
 物語をすっきりとわかりやすくさせている要因には、登場人物の数を限定して個々を際立たせていることもあるだろう。フラメルの側で共に戦うエルダー族2世の女戦死スカアハ(こちらは2千年生きているが見た目はジョシュたちと同じ年くらい)、エルダー族の3つの顔をもつ女神ヘカテ、そして敵のダークエルダー族には、カラスの女神モリガン、エジプトの神で猫の頭をもつバステト。作者は神話・民俗学に造詣が深いとのことで、どれも神話を元に丁寧に厚みをもって描きだされている。
 全6巻となることが予定されており、ニューラインシネマで映画化の予定がある。

(植村わらび) 2008年9月公開

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1998-1999年ビスト児童図書賞 殊勲賞

The Moon King (1998) by Siobhan Parkinson シヴォーン・パーキンソン
『ムーン・キング』 乾侑美子訳 岩崎書店 2001
その他の受賞歴 

  ソーシャルワーカーにつれられ、リッキーは高い門の前に立った。見上げると、傾斜の急な庭に階段が上へ上へと続き、その先に屋根のてっぺんが見えないほど背の高い大きな家があった。今日からリッキーはここにあずけられるのだ。
「ぼくはクモの子。はいりこめるわれめがほしい。大きな高い家なんかきらいだ……」母親の再婚相手に虐待を受けていたリッキーは、何事にもおびえ、自分をわれめにもぐりこむクモの子と思い、だれとも口をきかない。ところが新しい家は、養い子も含め9人もの子どもがいる、人も物もいっぱいにあふれたにぎやかな家庭だった。

 義父に虐待を受けていたリッキーは、新しい養い親の家にあずけられても、われめの奥深くに隠れるように、自分の殻に閉じこもっていようとした。とはいえ、この新しい家では引きこもっていることは難しい。なにしろ元気で活発な子どもが9人もいるのだから。リッキーはカメが甲羅から首を出すように、いいえ、クモがわれめからはい出すようにおずおずと新しい家族の中にとけこんでいく。
 最初に友だちになったロシーンとは、わずかながらも口をきくようにさえなった。だがリッキーが負った心の傷はあまりにも深かったのだろう。義父に否定され続けて自分に自信が持てず、自分のことを「ぼく」と言うことができないでいた。そんなリッキーが変っていくのには、一脚の椅子が大きな役割を果たすことになる。新しい家でただ1人、リッキーをいじめるヘレンに部屋からしめ出されたとき、物置部屋でみつけた椅子だ。この椅子に座っているところを見たロシーンに「あんたはムーン・キングよ」と言われてから、この椅子がリッキーの心のより所となり、リッキーは少しずつ自信をつけていくようになる。
 ほとんど口をきかないリッキーだが、心の中には言いたいことがたくさんつまっていた。ストーリーの合間に挿入されるそんなリッキーの心の言葉は、繊細で痛々しい。義父には役立たずとしょっちゅうののしられていたけれど、リッキーは素直でなんにでも一生懸命、本当にかわいく、守ってやりたくなってしまう。リッキーだけでない。この作品に出てくる子どもたちはみな、いかにも子どもらしくかわいらしい。リッキーの脚にまといつく赤ん坊の無邪気なしぐさや、ケリーかあさんの目を盗んでクッキーを口いっぱいにつめ込んだり、荒っぽくリッキーを仲間に加える子どものやんちゃな姿など、他の子どもたちの活き活きとした姿もこの作品を魅力的に彩っている。いじめっ子のヘレンにさえ、作者の目は平等にそそがれる。ヘレンはこの家のただ一人の実子。ひとりっ子なのだから、普通だと両親を独り占めできるはずなのに、他の子と分け合わなければならない。ちょっとはひねくれたくなるのもしかたがなかろう。リッキーが事情のある子だと頭では分かっていても、両親がリッキーのことを特に気づかい、他の子たちもリッキーをかわいがるのを目にすると、ついいじめてしまうのだ。自分のせいでリッキーがいなくなってしまい、心配したり反省したりするヘレンの心情もていねいに描かれていて、単なるいじめっ子で終わらされていない。子どもたちに注がれる優しい目を随所に感じる作品だ。

(吉崎泰世) 2008年11月公開

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 2006-2007年ビスト最優秀児童図書賞

"The Boy in the Striped Pyjamas" (2006) by John Boyne ジョン・ボイン
『縞模様のパジャマの少年』 
千葉茂樹訳 岩波書店 2008.09

その他の受賞歴
2008年ドイツ児童文学賞青少年審査員賞ノミネート

2007年(2006年度)カーネギー賞ロングリスト


 ソートーさまがディナーに来た日から数日後、9歳のブルーノの暮らしは一変した。父親の仕事のつごうで引っ越すことになったのだ。3人の親友と別れていやいや引っ越してきた先は、ベルリンで暮らしていた大邸宅とは大違いの狭い家で、周りには家が一軒もない。遊び相手もなく退屈な毎日にうんざりしていたブルーノは、ある日探険に出かけ、どこまでもつづく巨大なフェンス越しに、縞模様のパジャマを着た少年シェムエルと出会う。それから毎日ふたりはフェンス越しに話をするようになり、奇妙な友情が芽生えていく……。

 ブルーノは裕福な家に育った気立てのいい少年だ。まだ9歳で世の中の情勢を何一つ知らず、立派な軍服を着ている父親を尊敬し、友だちと遊ぶことが楽しくてしょうがない。そんな少年の目を通して進む物語には、あからさまに残虐なシーンはないが、見ようによってはこれほど残酷な物語はない。
 「ソートーさま」が「総統さま」であることが分かると、大方の読者は縞模様のパジャマが何を意味するか、フェンスの向こうに何があるか察することだろう。そう、ブルーノの父親はナチス親衛隊員で、ユダヤ人収容所の所長になるべくベルリンから引っ越してきたのだ。しかし、ブルーノは父親がどんな仕事をしているのか全く知らない。知り合ったシェムエルとは偶然誕生日が一緒、その上シェムエルも無理やりこの地へ連れてこられたと知るとぼくと同じだねと言い、フェンスの中には子どもたちがたくさんいることをうらやみさえした。たった鉄条網のフェンス一枚隔てているだけなのに、ブルーノとシェムエルに見える世界はなんと大きな差があることか。ブルーノは無邪気に狭い家のことや友達がいないことをこぼしているが、シェムエルはどんな気持ちで聞いていたのだろう。けっして悪気があるわけではないが、シェムエルにとっては酷なブルーノの言葉に、ちくちく刺されるような痛みを胸に感じ、ページをめくる手が重くなった。
 とうとう、ブルーノたちは父親を残してベルリンに帰ることが決まった。別れを惜しむブルーノを、シェムエルは収容所に誘う。消えてしまった父親を一緒に探しえもらいたかったし、ブルーノとの別れが悲しかったから……。ブルーノは縞模様のパジャマを身に付け、念願の探険ができると、わくわくしながら鉄条網をくぐり抜けた。でも収容所の中はブルーノが想像していたような楽しいところではなかった。そして、家に帰ろうとしたブルーノとシェムエルの身に恐ろしい運命が降りかかる。だが心を痛める間もなく、あまりにもあっけなく物語が進んでしまい、体の芯にざらりと冷たい感覚がいつまでも残っているような気がする。
 ボインはけっして親切な作家ではない。ホロコーストのことも、ブルーノたちの身に何が起こったのかも具体的には語られてはいない。一切の説明は排除され、あくまでもブルーノの目を通して進むこの物語は、読み手の知識や経験の深さによって、見えるものや感じるものが違ってくることだろう。最後に、これは遠い昔に起こったことで現在では起こっていない、と物語は締めくくられている。だが、はたしてそうだろうか。実際の世界で、わたしたちもブルーノと同じく見えていないだけで、身近で思いもかけない恐ろしいことが起きているのかもしれない。そんな思いに駆られ、背筋が寒くなった。

(吉崎泰世) 2008年12月公開

 2000-2001年ビスト児童図書賞 殊勲賞

"The Wish List" (2000) by Eoin Colfer オーエン・コルファー 追加
『ウイッシュリスト 願い、かなえます』 種田紫
訳 理論社 2004.04

その他の受賞歴
2005年(第52回)産経児童出版文化賞【賞】


 14歳のメグは、口の悪い不良娘。地元のゴロツキと一緒に独居老人の家に強盗に入ったものの、失敗して命をおとしてしまう。このまま地獄行きかと思われたが、生前の善行と悪行の点数が同じだったため、チャンスを与えられる。わずかな間だけ、幽霊として現世でやり直しができるのだ。ところがなんと戻されたのはあの老人の元だった。老人の四つの願い=ウイッシュリストをかなえれば、天国へ行くことができる。しかし願いは変わったものばかりで、老人の考え方は後ろ向き、おまけに地獄からの邪魔まで入って、さあ大変。メグは無事に天国へ行くことができるのか? 個性豊かな登場人物が織りなすスピーディーなエンターテインメント作品。

 大天使や魔王サタンの軽すぎるノリ、ケータイやパソコンを操る地獄の住人たち、TVのチャンネルを変えるかのようにコロコロと変わる話の展開に、最初は違和感を覚えた。けれども老人の過去をなぞり、心の傷と後悔を知るにつれ、願いをかなえてあげたいと思う気持ちが強くなる。それは、天国に行くために老人の願いをかなえようとするメグが、次第に老人との友情を育み、真心から動き出す気持ちとぴたりと重なるのだ。そうやっていつのまにか読者を引き込むコルファーの手腕は実に見事だ。ふたりの傷ついた心が少しずづ元気になり、お互いを、ひいては自分の敵までを思いやる優しさが物語を包みこむ。一見ハチャメチャなコメディー作品だが、読後には人生を前向きに生きていこうという希望がわいてくること間違いない。

(脇田 茉莉) 2009年5月公開

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