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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> フィンランドの賞レビュー集(その1)



フィンランドの賞レビュー集(その1)一覧

フィンランディア・ジュニア賞  アンニ・スワン賞
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このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。



 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

フィンランディア・ジュニア賞(フィンランド) レビュー集
Finlandia Junior -palkinto
 

★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★

最終更新日 2009/06/18 レビューを1点追加  

「白樺と星・・・フィンランドの児童文学」サイト内のフィンランディア・ジュニア賞受賞作品リスト

★フィンランディア・ジュニア賞の概要
 1997年創設。過去1年間にフィンランドで出版された児童書(ヤングアダルトを含む)で、特に優れた作品に贈られる。フィンランド最高の権威を持つ文学賞とされる「フィンランディア賞」の児童書版といえる賞である。主催はフィンランド図書財団(Suomen Kirjasaatio 〔Suomen Kirjasäätiö〕)。毎回3〜6作の候補が挙げられ、その中から1作が選ばれて受賞する。受賞作の発表は毎年11月末〜12月(2007年は11月29日)。(月刊児童文学翻訳2007年12月号の記事より抜粋)


"Taikuri Into Kiemura"(リンク) * "Gondwanan lapset" 『ゴンドワナの子どもたち』 * "Tatun ja Patun oudot kojeet" 『タトゥとパトゥのへんてこマシン』(リンク) * "Keinulauta" 『シーソー』 * "Emilian paivakirja - Supermarsu lentaa Intiaan" *  "Prinsessan siivet"←追加


2007年フィンランディア・ジュニア賞候補作

"Taikuri Into Kiemura"(2007) (未訳絵本)
 by Jukka Itkonen,
 illustrations by Christel Ronns 〔Christel Rönns〕

 やまねこ公式レビュー
  月刊児童文学翻訳2007年12月号

その他の受賞歴
2007年アーヴィド・リーデッケン賞候補作品


2009年ルドルフ・コイヴ賞候補作品
ルドルフ・コイヴ賞レビュー集


ラリーから、月刊児童文学翻訳2007年12月号のレビューへと発展しました

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1997年フィンランディア・ジュニア賞受賞作

"Gondwanan lapset" by Alexis Kouros アレクシス・クーロス

『ゴンドワナの子どもたち』 大倉純一郎訳 岩崎書店 2000

その他の受賞歴


「僕はだれなんだろう? 僕は何なのか?」こんな問いを、ひな鳥は胸に抱き続けている。母鳥もきょうだいも巣から飛び去ってしまったのに、ひな鳥の翼は母に似ず異様に小さく、走るのは得意でも飛ぶことができないのだ。自分は本当に鳥なのか――考えながら、ひとりぼっちのひな鳥は小さな島の中をさまよい歩く。そして、アリやカエルなどさまざまな生き物との出会いを通して、問いへの答えを探し求める。

「自分は何者か」という、考える生き物にとって永遠の問いを、正面から扱った哲学的な物語。ひな鳥と、彼が出会う生き物たちとの会話が、あるときは詩のような、あるときは禅問答のような姿をとって、読み手の思考を刺激する。作品の後半になると、人間の青年「わたし」が語り手として登場し、ひな鳥と「わたし」との関係が物語に新しい局面をもたらす。
 作者はイランの出身だ。イランとイラクの戦争を避けてハンガリーに移り住み、医学を学んだ後、1990年からフィンランドに在住。本書は作家としてのデビュー作で、フィンランド語で書いている。訳者あとがきにもあるとおり、このような作者のバックグラウンドが本書の内容に影響を与えていることは明らかである。自分はだれなのか、どこに所属するのか、という問いが、作者の内面の奥深いところから湧き出ているのが感じられる。
 全編に漂う詩的な香りは、「詩の国」イランで生まれた作者ならではだろう。そのイランに伝わる、不思議な鳥の伝説も挿入されている。また余談だが、漱石の『夢十夜』の「第六夜」(運慶の話)を思い出させるくだりがあって、偶然だとは思うけれど、興味深かった。

(古市真由美) 2008年7月公開

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「タトゥとパトゥ」シリーズのうち、2007年に出版された5作目 "Tatun ja Patun Suomi"(仮題『タトゥとパトゥのフィンランド』)が2007年フィンランディア・ジュニア賞を受賞。 下のレビューは本シリーズの初邦訳作品で、原作では3作目にあたる。なお、シリーズ1作目の "Tatu ja Patu Helsingissa 〔Tatu ja Patu Helsingissä〕"(仮題『タトゥとパトゥ、ヘルシンキへいく』) も、2003年フィンランディア・ジュニア賞の候補となった。

"Tatun ja Patun oudot kojeet"(2005)
 by Aino Havukainen アイノ・ハブカイネン and Sami Toivonen サミ・トイボネン

『タトゥとパトゥのへんてこマシン 14のおもしろ発明品を一挙大公開!』
 いながきみはる訳 偕成社 2007

 やまねこ公式レビュー
  月刊児童文学翻訳2008年2月号

その他の受賞歴
2007年ルドルフ・コイヴ賞 子ども審査員が選ぶ優秀作候補
ルドルフ・コイヴ賞レビュー集


ラリーから、月刊児童文学翻訳2008年2月号のレビューへと発展しました

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2006年フィンランディア・ジュニア賞受賞作

"Keinulauta"(2006) by Timo Parvela ティモ・パルヴェラ 
 illustrations by Virpi Talvitie ヴィルピ・タルヴィティエ

『シーソー』 古市真由美訳 ランダムハウス講談社 2007

 やまねこ公式レビュー
  月刊児童文学翻訳2008年6月号

その他の受賞歴


 クマの子のピーは、シーソーにすわり続けていました。向こう側の席には誰もいません。誰か来ないかなあと思っているのですが、誰も来てくれません。ピーは青いノートに言葉を書き込みました――「向こうの席にだれもいないとシーソーはできないね」。
 次の日、シーソーにすわって待っているピーの心の中には、いろんな思いが浮かんでいました――「待っているのはこわい」。その時、目の前にそびえていたモミの木が倒れてきました! 木のてっぺんがシーソーの向こう側の席にぶつかって、ピーは空高く飛ばされてしまいます。ぐんぐん飛んで、三日月のところ に着きました。ピーは三日月と話をして、一緒にシーソーをしてくれないかと頼みます。

 ピーはこのあとも旅を続けて、いろんな出会いをします。巨人のようなヤセ・ギスは、2人組でケンカばかりしています。ひとりぼっちのカモネは、ずっとカモメが飛ぶのを眺めています。楽しい出会いもあれば、嫌な出会いもありました。その中で、ピーはこれまで思いもしなかったことを知 り、考えるようになり、それをノートにづづっていくのです。シーソーがテーマとなった言葉の数々は、シーソーに限らない普遍的なものへの思いを秘めています。
 さて、ピーはシーソーの相手を見つけることができるのでしょうか。最後の意外な展開に、読者は驚き、それぞれ自由に考えをめぐらせることでしょう。 それは、「自分の周りに壁を築いてしまうより、一歩踏み出してみよう。嫌なこともあれば、楽しいことだってあるんだ よね」という素直な感想から、もっと哲学的で深い考えまで、さまざまでしょう。人間関係を広げていく最中の子どもにとっても、人間関係で悩むことのある大人にとっても、そっと背中を押してくれる本で あることに間違いありません。
 登場人物はどれも独特の風貌をしていて、やっぱりムーミンの国かしら、と思わされる不思議な世界が広がっています。ふんだんに添えられている絵で、その世界をじゅうぶにぶんに楽しむことができるのも嬉しい限りです。

(植村わらび) 2008年7月公開

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2007年フィンランディア・ジュニア賞候補作

"Emilian paivakirja - Supermarsu lentaa Intiaan 〔Emilian päiväkirja - Supermarsu lentää Intiaan〕"
  by Paula Noronen (未訳読み物)

その他の受賞歴


『エミリアの日記・スーパーケィビィ、インドへ飛ぶ』(仮題)

 あたしはエミリア。11歳で、ママと2人で暮らしている。ママがあたしに、すごくかわいいケィビィ(モルモットって呼ぶ人もいるね)をプレゼントしてくれた。大統領にちなんでハロネンと名づけたケィビィは、あたしの指をかじったけど、あいさつのつもりかな。その晩、変な夢を見た。王冠をかぶった巨大なケィビィが、あたしに言うの。そなたはスーパーケィビィとなるために選ばれた、って。なんだろ、この夢。
 それはそうと、学校で全員参加のジョーク・コンテストが開かれることになった。親友のシモは青ざめている。いつもシモをいじめるギトギト・アンテロが、みんなの前でいやがらせをするに決まっているからだ。シモを助けるには、どうしたらいい?

 愉快で痛快! エミリアは「スーパーケィビィ」に変身する能力を授かり、弱きを助け強きをくじく正統派の主人公として大活躍する。変身中は空を飛ぶなど特殊な力があるが、正体は誰にも知られてはならないという、ヒーローものでおなじみの設定、そして最後に正義が勝つ、安心の展開である。そこに、学校でのいじめ、親の不在など家庭の問題、老人が虐げられる社会のひずみといった要素が巧みに組み合わされている。エミリアが「強きをくじく」ときは、力ずくではなく知恵を絞って相手に参ったといわせ、そのお手並みに胸がすく。ユーモアも満載で、読後感は明るく爽やかだ。
 キャラクターは、勇敢で行動力のあるエミリア、体は弱いが頭脳明晰な少年シモなど、大変わかりやすい。だが人物造形は薄っぺらではなく、血の通った肉付けがされている。たとえばいじめっ子のギトギト・アンテロは、父親が学校に多額の寄付をしているため、大きな顔をしてやりたい放題だが、実は家庭に複雑な事情がある様子。いやなヤツではあるけれど、彼のことをもっと知りたくもなる。
 学校の文化活動(ジョーク・コンテストはその一環)にEUから補助金が出ていたり、EU基準の体力テストがあったりと、欧州の状況も垣間見えておもしろかった。
 2008年の秋に続編が出版される予定。本書はシリーズ1作目なので、人物紹介や設定の説明があるぶん、スーパーケィビィが活躍しはじめるまでが長く感じられた。続編ではこのあたりが解消されることを期待したい。続きが楽しみだ。

(古市真由美) 2008年7月公開

1999年フィンランディア・ジュニア賞候補作

"Prinsessan siivet"
  Text by Kaarina Helakisa,illustrations by Heli Hieta(未訳絵本)

その他の受賞歴


『王女の翼』(仮題)

 とある国の王女様が、重い病気にかかりました。異国の魔法使いの手で病気が治ったとき、王女様の背中には、美しい深紅の翼が生えていました。王女様は喜んで、毎日好きなように空を飛び回りますが、王様と王妃様は、こんな普通ではない姫をもらってくれる王子などいないと、嘆くばかり。両親から、飛ぶのはやめなさいと言われ続けた王女様は、ある晩を境に、お城へ帰ってこなくなってしまいます。

 古今東西を問わず、女の子の親にとって、わが娘は世界一大切なお姫様だろう。いつまでも小さなかわいいお姫様でいてほしい親の願いと、自分の力で羽ばたきたい娘の気持ち。相容れないふたつの思いはどちらも、胸の奥から止めようもなく湧き上がってくるものだということが伝わってきて、読者はせつなくなる。
 私は、帰ってこない娘を案じる王妃が、自分と夫にも翼が生えた夢を見るシーンが胸にしみた。すべての母親が、かつては娘であり、その背中には、目には見えなくても翼があったはずだ。母の翼は、折りたたまれているだけだろうか。それとも娘に受け継がれたのだろうか。
 物語はもともと、作者カーリナ・ヘラキサが1982年に発表した短編集の中の一編だった。母親でもあったヘラキサは、自身の娘からこの作品のアイデアを得たという。ヘリ・ヒエタは、本書が挿絵画家としてのデビュー作。鮮やかな色彩があふれる画面は、力強さと幻想的な味わいを併せ持ち、ひと目見たら忘れがたい、くっきりとした印象だ。真っ青な空に、王女の翼の深い赤が、輝くばかりに映えている。
 この物語は、背中に翼が生え始める年頃の女の子と、その両親に、特に母親に、おすすめしたい。

(参考)ヘルシンキで2005年に開催された児童書原画展のポスターに、本書の挿絵が使われました
http://www.taidemuseo.fi/english/meilahti/programme/satukuvia.html

(古市真由美) 2009年6月公開

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アンニ・スワン賞(フィンランド) レビュー集
Anni Swan -mitali
 

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最終更新日 2008/07/01 新規公開

★アンニ・スワン賞について
 フィンランドで出版された、フィンランド語またはスウェーデン語による児童・ヤングアダルト作品で、芸術性が高く、テーマと表現が独創的であると認められたものに贈られる。授賞式は、3年毎の6月。賞の名称は、フィンランド童話の母とも呼ばれる作家アンニ・スワン(Anni Swan /1875 -1958)の名にちなむ。(白樺と星・・・フィンランドの児童文学のサイトより抜粋)


"Ihmisen vaatteissa" 『ペリカンの冒険』


1979年アンニ・スワン賞受賞作

"Ihmisen vaatteissa"(1976) by Leena Krohn レーナ・クルーン

『ペリカンの冒険』 篠原敏武訳 新樹社 1988

その他の受賞歴


 両親の離婚により母親と都会の団地に引っ越してきたエミル少年は、ある日レストランで人間の服を着て紳士然としたペリカンに遭遇した。やがてペリカンがヒューリュライネンと名乗り、同じアパートに住んでいることを知る。ふとしたきっかけでヒューリュライネン氏に字を教えることになったエミルは、貪欲に人間を理解しようとするペリカンとの友情を深めていく。

 服を着たペリカンがレストランにいる! しかもアパートに住み、オペラ劇場で働いてもいる……。そうとう奇妙なことなのに、外見しか見ない大人たちは全くペリカンの正体に気がつかない。だが、きちんと服を着ていようといまいと、エミル少年にはペリカンはペリカンにしか見えず、がぜんこのペリカンに興味を抱き、やがて二人の間に友情が育まれてゆく。
 といっても、この作品は単純なほのぼのとしたファンタジーではない。ペリカンの目を通して人間の現実の生活を描き、人間の持つ矛盾や嫌な面をも浮かび上がらせていく。ただただ人間に憧れていたペリカンが字を読めるようになって知ったのは、オペラのような素晴らしい芸術を生み出す一方で、恐ろしい戦争をしたりもする人間の姿だった。また自身も、あまり見栄えが良くないというだけで蔑まれたりもする。エミル少年はそんなペリカンの姿を間近に見ていて、自分の中にもそんな嫌な面があることに気づいていく。
 揺れ動く心をかかえ、互いに深い友情を抱きながらも二人はそれぞれ孤独も感じていたのだろう。ペリカンは人間を試すようなある行動を起こす。その結果ペリカンが下した決断は、人間であるわたしにはほろ苦いものだが、その潔さには清々しささえ覚えた。児童書を読んでいると、この歳になったからこそ心に響くシーンや言葉に出会うことがままあり、児童書は単に子どものためだけの本ではないと思わされることがしばしばある。この本も、わたしにとってそういった本の一冊となった。

(吉崎泰世) 2008年7月公開

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