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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2014年7月号 =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.158 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌 http://www.yamaneko.org 編集部:mgzn@yamaneko.org 2014年7月15日発行 配信数 2570 無料 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2014年7月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎賞情報:2014年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表! カーネギー賞受賞作レビュー:"The Bunker Diary" ケヴィン・ブルックス作 ◎特別企画:レビューを書こう (「カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作品を読もう会」連動企画 第5回レビュー勉強会より)その1 "The Wall" ウイリアム・サトクリフ作 "Where My Wellies Take Me" クレア&マイケル・モーパーゴ文/オリヴィア・ロメネク・ギル絵 ◎注目の本(邦訳読み物):『マッティのうそとほんとの物語』 ザラー・ナオウラ作/森川弘子訳 ◎賞速報 ◎イベント速報:★やまねこ翻訳クラブ協力企画のお知らせあり★ ◎読者の広場 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞情報●速報! 2014年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of Library and Information Professionals)主催の、イギリスでもっとも権威ある児童文学賞、カ ーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞が、6月23日に発表された。受賞作品は 以下の通り。 【カーネギー賞】(作家対象) The CILIP Carnegie Medal 2014 ★Winner "The Bunker Diary" by Kevin Brooks (Puffin Books) 【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象) The CILIP Kate Greenaway Medal 2014 ★Winner "This Is Not My Hat" by Jon Klassen (Walker Books) 毎年のようにカーネギー賞にノミネートされてきた Kevin Brooks が、ついに栄え あるメダルを手にした。受賞作となった "The Bunker Diary" では、理由もわからず 地下核シェルターに監禁された16歳の少年 Linus が、ほかの5人の被害者とともに 過ごす恐怖の日々をつづる。ハッピーエンドにはこだわらないという作者の真骨頂と もいえる作品で、緊張感と残酷なほどの絶望感が、読者の心に揺さぶりをかける。詳 しくは本誌今月号のレビューでご紹介する。 ケイト・グリーナウェイ賞は、今回2作品がショートリスト入りしていたカナダ出 身の Jon Klassen の頭上に輝いた。受賞作の "This Is Not My Hat"(『ちがうねん』 長谷川義史訳/クレヨンハウス)は、当クラブが主催する、2013年やまねこ賞絵本部 門の大賞にも選ばれた作品だ。小さな魚が、大きな魚の帽子を盗んで逃げる。勝手な 理屈で自分を正当化する主人公の魚は、悪事を働いているのに、そのとぼけた語り口 がどこか憎めない。さあ、逃げた先にある結末は? この作品の面白さは、本誌2013 年12月号のレビューでご紹介済み。ぜひ、バックナンバーをお読みいただきたい。 【参考】 ▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト http://www.carnegiegreenaway.org.uk/ ▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」) http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku ▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト (やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/ http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/ ▽ショートリスト(最終候補作品)一覧(本誌2014年4月号) http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2014/04.htm#sokuho2 ▽『ちがうねん』("This Is Not My Hat")レビュー (本誌2013年12月号「注目の本」) http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2013/12.htm#hehon ※編集部より 当クラブでは、読書室掲示板にて「カーネギー賞&ケイト・グリーナウェイ賞候補 作品を読もう会」を開催中です。 http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?cmd=one;no=4141;id=dokusho (加賀田睦美) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2014年カーネギー賞受賞作品 "The Bunker Diary" 『監禁日記』(仮題) by Kevin Brooks ケヴィン・ブルックス作 Penguin Books, 2013, ISBN 978-0141910598 (Kindle) Penguin Books, 2013, 272pp. ISBN 978-0141326122 (PB) (このレビューは Kindle 版を参照して書かれています) Amazonで詳細を見る 突然見知らぬ男によって、地下核シェルター(bunker)に監禁された16歳のライナ ス。その主人公による日記形式で物語は進む。監禁直後、有名な漫画家を父に持つラ イナスは、「身代金さえ支払われれば」と楽観する。だが、何の進展もないまま、9 歳の少女、ヘロイン中毒の男、美人キャリアウーマン、さえない会社員、片方が義眼 の老物理学者が次々と放り込まれてくる。シェルターには、それぞれの個室、キッチ ンやトイレが備わり、食糧は犯人のみ操作可能なエレベーターで届く。いっこうに姿 を見せない犯人。だが、6人の行動はカメラを通して監視されており、怪しい行動を 取ろうものなら、通気孔から催眠ガスを噴射され、食糧の供給を止められるのだった。 最初こそ、ライナスと少女の軽妙なやりとりに頬を緩めたり、大人同士のシニカル な冗談ににやりとさせられる場面もある。だが、監禁生活も1か月近く経ったころ、 脱出を試みた罰として、獰猛なドーベルマンが送り込まれるあたりから、物語は加速 度的に残酷さを増してゆく。 作者は、本作に二重の緊迫感を持たせ、読者にページをめくる手を止めさせない。 第一にライナスらが企てる脱出計画の行方、第二に密室における精神状態・人間関係 の悪化がそれだ。後者の例を挙げると、物語半ばに「誰かを殺せば自由にしてやる」 というメッセージが犯人から届き、6人を極限まで追い詰める。 とはいえ、作品の魅力は、手に汗握る展開だけではない。ライナスは監禁されるこ とで、否応なしに自分と向き合う時間を持つこととなる。日記では、監禁の記録に交 じって、母親の死、学校でのいじめ、家出、路上生活などの過去が明かされる。とり わけ父への不満は繰り返し語られ、それゆえ終盤に記される父宛てのメッセージには 心揺さぶられる。また、ライナスがふと漏らす深みのある言葉にも注目したい。ある とき、シェルター内の時計が犯人によって調整されていることに気づいたライナスは、 その意図が理解できず動揺する。だがすぐに、「操られているのは時計だ。時間では ない」と思い直すのだ。時間というものの本質を考えさせられるワンシーンである。 犯人の正体は? その目的は? 謎に次ぐ謎の果てには、賛否両論必至の結末が待 っている。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】Kevin Brooks(ケヴィン・ブルックス):英国デヴォン州エクセター生まれ。 ノース・ヨークシャー在住。作家になる前に、火葬場や動物園、郵便局などさまざま な職場を経験している。邦訳に『マーティン・ピッグ』『ルーカス』(いずれも林香 織訳/角川書店)がある。多くの作品が、英米の権威ある児童文学賞にノミネートさ れている。 【参考】 ▼ケヴィン・ブルックス紹介ページ(Scholastic ウェブサイト内) http://www.scholastic.com/teachers/contributor/kevin-brooks ▽ケヴィン・ブルックス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/b/kbrooks.htm (相良倫子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特別企画●レビューを書こう (「カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作品を読もう会」連動企画 第5回レビュー勉強会より)その1 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2014年6月、約1か月の日程でやまねこ翻訳クラブの第5回レビュー勉強会が開催 された。前回に引き続き、今回も読書室掲示板で開催中の「カーネギー賞、ケイト・ グリーナウェイ賞候補作品を読もう会」との連動企画として、参加者は2014年の両賞 の候補作品から課題を選んだ。 本を読み、自分が感じたことを言葉にするというのは、実はなかなか難しい。レビ ューを書くには、作品を読みこむ読解力、そして作品の魅力や感じたことを伝える表 現力が必要なのだ。レビュー執筆は、作品を紹介するという目的と同時に、このふた つの力を養うことができ、翻訳家を目指す者にとって格好の文章修業になる。 勉強会では、本誌へのレビュー掲載を目標に、参加者同士でコメントをつけあい、 改稿を重ねた。切磋琢磨して完成させたレビューを、今月号、9月号、10月号と3回 に分けてお届けする。勉強会の成果をぜひともご覧いただきたい。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ "The Wall" 『壁の向こう』(仮題) by William Sutcliffe ウイリアム・サトクリフ作 Bloomsbury, 2013, ISBN 978-1408833940 (Kindle) Bloomsbury, 2014, 304pp. ISBN 978-1408838433 (PB) ★2013年ガーディアン賞ロングリスト作品 ★2014年カーネギー賞ショートリスト作品 (このレビューは Kindle 版を参照して書かれています) Amazonで詳細を見る 高い壁に守られ、広い通りに新築の家々が立ち並ぶ町、アマリアズ。そこに暮らす 13歳のジョシュアは、壁の向こうには残虐な敵がいると教えられてきた。ある日、サ ッカーボールを探すうちに、壁の向こうに続くトンネルを見つけた。向こう側をちら っと見るだけのつもりでトンネルをくぐり抜けると、そこに広がっていたのは、みす ぼらしく雑然とした町並みだった。こちら側とは全く違う雰囲気に興味をそそられ、 ジョシュアはついつい町を歩き始めてしまう。こぎれいな身なりが人目を引き、向こ う側の少年たちに襲われそうになるが、危ういところを少女に救われ、ジョシュアは かろうじて壁のこちら側に戻ることができた。それからというもの、あの少女のやせ こけた姿が片時も頭から離れない。「壁の反対側の住人だと知りながら、あの子はぼ くを助けてくれた……」命の恩人にどうしてもお礼をしたいと考えたジョシュアは、 ひそかに食べ物を集め、再びトンネルをくぐり抜けることを決意する。 本書の舞台は架空の町だが、パレスチナとイスラエルがモデルになっている。ユダ ヤ系である作者は、執筆にあたってヨルダン川西岸を訪れた。そこで目にした分離壁 や、武装した検問所、貧富の差など、厳しい現実をそのまま作中に織り込んだという。 入植者側にあたる主人公は、強烈な憎しみを肌で感じるという経験をしながらも、少 女とその家族との出会いをきっかけとして、壁によって覆い隠されていた実情を知り 心を痛める。自分たちを守るためのものだと聞かされてきた壁が、一方では、誰かか ら先祖代々の土地を奪い、苦しめていた。この矛盾にとまどいながらも、少年は正し いと信じる道を歩もうとする。与えられた情報を鵜呑みにせず、自分自身の目で見て 考え、そして判断していく――こういったことの大切さが、少年の一人称の語りと、 信念を貫こうとする勇気ある姿から、ひしひしと伝わってくる。 「壁」はあらゆるところで生じている問題の象徴なのだと作者は語る。本書で描かれ ている壁は物理的なものだが、精神的な壁の存在も暗示しているように思う。先入観 や偏見、あるいは無関心といった見えない壁を、心の中に築いてはいないか? そう 問いかけられている気がしてならない。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】William Sutcliffe(ウイリアム・サトクリフ):1971年ロンドン生まれ。大 学卒業後、テレビや旅行業界などさまざまな職場を経て作家の道へ。自身のインド旅 行の経験を生かして執筆した "Are You Experienced?"(『インドかよ!』村井智之 訳/ヴィレッジブックス)が、英国でベストセラーになる。YA作品は本書が初めて。 最新作は、初の児童向け作品 "Circus of Thieves and the Raffle of Doom"。 【参考】 ▼ウイリアム・サトクリフ紹介ページ(Bloomsbury ウェブサイト内) http://www.bloomsbury.com/author/william-sutcliffe ▼ウイリアム・サトクリフのインタビュー(The Guardian ウェブサイト内) http://www.theguardian.com/books/2013/apr/02/william-sutcliffe- interview-the-wall (森井理沙) + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + "Where My Wellies Take Me" 『長靴といっしょに』(仮題) text by Clare & Michael Morpurgo, illustrations by Olivia Lomenech Gill クレア&マイケル・モーパーゴ文/オリヴィア・ロメネク・ギル絵 Templar Publishing, 2012, 97pp. ISBN 978-1848775442 (HB) ★2014年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品 Amazonで詳細を見る 少女ピッパが好きなのは、ペギーおばさんの家に泊まって、田舎の道をお散歩する こと。行き先は決めず、長靴のおもむくままに。5月初めの今日もまた、ピッパは村 の散策に出た。畑で働くおじさんと出会ったり、動物や虫、花を目にしたりするたび 立ち止まる。時には長靴を脱いで、小川の冷たさを肌で感じる。そんな楽しい1日を 絵日記風につづったピッパのスクラップブックが、そのまま1冊の絵本となった。コ ラージュのようにページを彩るイラストや押し花、そして情景ごとに添えられた名詩 の数々。シェイクスピア、ウィリアム・ブレイク、テッド・ヒューズ――時を超えた 詩人たちの声が、ピッパを取り巻く田舎の自然と呼応する。 ピッパの目に映る風景を眺めるうちに、いつしかイギリスの自然を追体験している 自分に気が付いた。仕掛け絵本のように折りたたまれたページがあちこちにあり、明 るい道を描いたページを広げれば、薄暗い木立にシカやキツネが現れる。まるで、自 然の神秘をひもとくかのような感覚に幾度となくハッとした。ピッパの日記は、本書 の絵とデザインを担当したギルが、自らの手書き文字でレイアウトしたものだ。あえ て書き損じを残した筆記体の文章は、決して読みやすいとはいえない。だが、一語一 語に目を凝らせば、じっくりとピッパの思考を追っていける。ピッパの声を頭に浮か べ、長靴で歩く足取りで読み進めることで、時間にとらわれない穏やかな心持ちを味 わえるのである。 ベテラン作家モーパーゴが妻と初めて共作した本書は、クレア夫人の70歳の記念と してつくられた。みずみずしい感性で自然を満喫する主人公ピッパは、クレア夫人の 少女時代がモデルとなっている。詩や自然に親しむ喜びを現代の子どもたちにも知っ てほしいという、夫妻の願いが込められた一作だ。次代を担う子どもたちへの2人の 深い思いと、それを正面から受け止めた画家ギルの妥協のない仕事が、世代を超えた コラボレーションを生み出した。いつまでも色あせることのない名詩のように、この 作品もまた、多くの家庭で愛され、読み継がれるにちがいない。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【文】Clare Morpurgo(クレア・モーパーゴ):英国デボン州の村イデスリーで豊か な自然に囲まれて育つ。1976年、夫マイケルとともに、Farms for City Children を 設立。故郷のイデスリーをはじめとする農村に都会の子どもたちを招く活動をおこな っている。本書の共作者として、田舎の自然を歌った名詩40編を選ぶ。 【文】Michael Morpurgo(マイケル・モーパーゴ):英国を代表する児童文学作家の ひとり。1974年のデビュー以降、発表した作品は約130冊にのぼる。動物の見事な描 き方に定評があり、反戦をテーマにした作品も多い。邦訳は『戦火の馬』(佐藤見果 夢訳/評論社)、『ゾウと旅した戦争の冬』(杉田七重訳/徳間書店)ほか多数。 【絵】Olivia Lomenech Gill(オリヴィア・ロメネク・ギル):英国ノーサンバーラ ンド在住のアーティスト。1974年生まれ。銅版画を中心とした芸術作品を意欲的に発 表し、国内外で高い評価を受ける実力派である。旅先で出会ったモーパーゴ夫妻の依 頼を受け、本書で初めて本のイラストを手掛けた。 【参考】 ▼マイケル・モーパーゴ公式ウェブサイト http://michaelmorpurgo.com/ ▼オリヴィア・ロメネク・ギル公式ウェブサイト http://www.oliviagill.com/ ▼Farms for City Children 公式ウェブサイト http://farmsforcitychildren.org/ ▽マイケル・モーパーゴ邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/m/mmorpu_j.htm (小島明子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【参考】 ▽本誌2011年7、9、10月号 「特別企画 レビューを書こう(第4回レビュー勉強会より)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/07.htm#kikaku http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/09.htm#kikaku http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2011/10.htm#kikaku ▽本誌2008年11、12月号 「特別企画 レビューを書こう(第3回レビュー勉強会より)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2008/11.htm#kikaku http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2008/12.htm#kikaku ▽本誌2006年12月号「特別企画 レビューを書こう(第2回レビュー勉強会より)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2006/12.htm#kikaku ▽本誌2005年10月号「特別企画 レビューを書く(実践編)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/10.htm#kikaku ▽本誌2003年11月号情報編「特別企画 レビューを書く(翻訳学習者編)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/11a.htm#kikaku |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳読み物)●このうそ一体どうなるの? 手に汗握る物語 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『マッティのうそとほんとの物語』 ザラー・ナオウラ作/森川弘子訳 岩波書店 定価1,600円(本体) 2013.10 168ページ ISBN 978-4001156621 "Matti und Sami und die drei grossten Fehler des Universums" by Salah Naoura Beltz & Gelberg, 2011 ★2012年ドイツ児童文学賞児童書部門ノミネート作品 ★第61回産経児童出版文化賞翻訳作品賞受賞作品 Amazonで詳細を見る Amazonで原書を見る hontoで詳細を見る マッティは11歳の男の子。フィンランド人のパパ、ドイツ人のママ、幼稚園児の弟 サミと一緒にドイツで暮らしている。思い込むとかたくなになる面があり、それゆえ に大人がついてしまう「うそ」が許せない。「宇宙に起きたまちがい」と呼んで、正 そうとする。マッティが5歳のときにママは言った。「うちは野生動物保護のために 定期的に寄付をしている」と。6年間ずっと信じていたのに、うそだと明かされては たまらない。翌日、パパとママのへそくりを持ち出して、本当に野生動物のために寄 付をしてしまう。大人たちのうそに出合うたび、マッティはそれを正そうと奮闘する。 だがその過程で自分もとんでもないうそをついてしまった。真に受けたパパとママは 次々と大きな決断を実行に移す。マッティは困り果てるが、ついに言い出せないまま、 一家は所帯を畳んでフィンランドに行き、揚げ句、路頭に迷う羽目に……。 物語はマッティの一人称で語られる。はじめは、子どもらしい考えがほほえましく 感じられるのだが、読み進めるうちにマッティと同じ気持ちになってくる。そして、 うそが手に負えなくなってくると、共に焦り、手の平が汗でじっとりしてきて「お願 い、誰か気づいて〜!」と叫びたくなる。 登場人物の描写もマッティの視点で一貫していて、細やかだ。パパは寡黙な人なの だが、立派な家具のある家に引っ越すとなったとたん、今使っている家具を次々と壊 しはじめる。こんな突飛な行動も、普段のパパの一面として違和感なく描かれている。 また、怒ったときのママの言うことはどこかちぐはぐで、子どもから見た不機嫌な母 親そのものだ。素晴らしい助言をくれるクルトおじさんは、いつも一歩引いたところ から見守ってくれていて、その優しさがマッティを支えている。 うそをついて悩む物語というのは気分よく読めないことが多いが、この本の読後感 はきわめてすがすがしい。少し乱暴にも思える最後の仕掛けさえも、このたくましい 一家ならばと、不思議とすっかり納得させられている。気持ちよくドキドキして読め る上に、家族のつながりや友達関係など、じっくり振り返って考えるべき話題がちり ばめられた、魅力いっぱいの一冊である。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【作】ザラー・ナオウラ(Salah Naoura):ドイツの作家、翻訳家。ベルリン在住。 ドイツ人を母にシリア人を父に持つ。ベルリンの大学でドイツ文学を学び、ストック ホルムの大学で北欧文学を学んだ。詩、絵本、子ども向けの物語を数多く発表。スウ ェーデン語、英語からドイツ語への翻訳作品も多く評価も高い。本作は初の邦訳作品。 【訳】森川弘子(もりかわ ひろこ):翻訳家。広島大学でドイツ文学を専攻。自動 車メーカーでドイツ語の翻訳に従事。その後ミュンヘン大学で神話学などを学ぶ。主 な訳書に『賢者ナータンと子どもたち』(ミリヤム・プレスラー作/岩波書店)、 『笑いを売った少年』(ジェイムス・クリュス作/未知谷)などがある。 【参考】 ▼ザラー・ナオウラ公式ウェブサイト(ドイツ語) http://www.salah-naoura.de/ 【特殊文字】 「grossten」:「o」の上にウムラウト(¨)がつく。「ss」はエスツェット。 (くどうあきこ) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2014年ニュージーランド・ポスト児童図書賞受賞作品発表 ★2014年ローカス賞YA部門受賞作品発表 ★2014年ガーディアン賞ロングリスト発表 (ショートリストの発表は8月、受賞作品の発表は11月13日の予定) 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報 新潟市新津美術館「チェブラーシカとロシア・アニメーションの作家たち」 清須市はるひ美術館「ブルーノ・ムナーリ アートのなかの遊び」 など ★講演会情報 弥生美術館「祖母 村岡花子を語る」 教文館ナルニア国「菱木晃子さん&平澤朋子さん 対談講演会」 など ★イベント情報 岡山・京都・福岡・札幌「2014こどもの本ブックフェア」 福岡アジア美術館「おいでよ!絵本ミュージアム2014 ふしぎなたび」 など ★東日本大震災チャリティイベント 北海道立文学館 「手から手へ展 絵本作家から子どもたちへ 3.11後のメッセージ」 など 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event ★★やまねこ翻訳クラブ協力企画のお知らせ★★ 「読書探偵作文コンクール2014」 主催 読書探偵作文コンクール事務局 協力 翻訳ミステリー大賞シンジケート、やまねこ翻訳クラブ 昨年開催した「読書探偵作文コンクール2013」は、120名を超える応募のもと、無 事終了しました。みなさまのご協力に深く感謝いたします。 今年も、6月20日から募集が開始されました。応募期間は9月30日までです。 詳しくは読書探偵作文コンクールのウェブサイトをご参照ください。 また、ツイッター、フェイスブックページでも随時情報を提供していますので、ど うぞご利用ください。 読書探偵作文コンクール公式ウェブサイト http://dokushotantei.seesaa.net/ 読書探偵作文コンクール公式ツイッター https://twitter.com/Dokusho_Tantei 読書探偵作文コンクールフェイスブックページ https://www.facebook.com/dokushotantei お子さんに、お友だちに、お知り合いに、ぜひお知らせください! (冬木恵子/笹山裕子) |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 |
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ● 本誌では、これまで書籍の価格を「税込」(消費税5パーセントで計算)で表記し ておりましたが、消費税率引き上げにともない、2014年4月からは本体価格としてお ります。バックナンバーに掲載されている書籍につきましては、価格の訂正はいたし ませんので、ご了承ください。 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・ 詳細は10日頃、出版翻訳ネットワーク内「やまねこ翻訳クラブ情報」のページに掲 載します。どうぞお楽しみに! http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽ 海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります ▽▲▽▲▽ やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆ 独創的なデザインで世界120ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代 表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ ルは時計をファッションアクセサリーのひとつと考え、カジュアルでポップなライン からフォーマルなシーンにも使えるアイテムまで、年間300種類以上のモデルを発売 し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、 ファッションサングラスなどのラインを展開しています。 TEL 03-5992-4611 http://www.fossil.co.jp/ (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆ 出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです ☆★ http://www.litrans.net/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★ http://honyakuwhod.blog.shinobi.jp/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります! 〈フーダニット翻訳倶楽部〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ広報ブログ =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=* ★広報ブログ「やまねこ翻訳クラブ情報」(litrans グループ ブログ内) http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/ ※各掲示板の話題やクラブの動きなど、HOTな情報をご紹介しています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●当クラブではさまざまな勉強会を開催していますが、今年は2月のコン テスト事後勉強会に続き、レビュー勉強会を3年ぶりに実施しました。入会して間も ない会員も積極的に参加し、連日たくさんのコメントがつく活発な勉強会でした。こ の成果は9月号と10月号でもご紹介しますので、どうぞご期待ください。これから夏 本番。みなさまにとって、実り多い素敵な夏になりますように。(か) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ 編集人 蒲池由佳/大作道子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 牛原眞弓 尾被ほっぽ 加賀田睦美 かまだゆうこ くどうあきこ 小島明子 相良倫子 笹山裕子 冬木恵子 三好美香 村上利佳 森井理沙 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内 asayaka からくっこ くらら ながさわくにお まなみ みーこ mapleleaf ゆま ラッテ html版担当 shoko ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ・無断転載を禁じます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ |
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