メニュー>「月刊児童文学翻訳」>バックナンバー>2006年12月号 オンライン書店
もくじ◎特集:第9回やまねこ賞――会員が選んだ、今年の児童書ベスト5は?(読み物部門/絵本部門/未訳部門/オールタイム部門) ◎特別企画:レビューを書こう(第2回レビュー勉強会より) 『おとうさんの庭』 ポール・フライシュマン文/バグラム・イバトゥリーン絵/藤本朝巳訳 『モーリーのすてきなひ』 マイケル・ローゼン文/チンルン・リー絵/きたやまようこ訳 『虎の弟子』 ローレンス・イェップ作/金原瑞人・西田登訳 "Bread and Roses, too" キャサリン・パターソン作 ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎世界のお祭り:第8回 ハヌカ(ユダヤ教) 12月中旬〜下旬 ◎読者の広場: 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。 |
|
☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のカジュアルウオッチ ☆☆ |
「FOSSIL は化石って意味でしょ?レトロ調の時計なの?」。これは創業者の父親が FOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。2005年より新しいスローガン "What Vintage are you?" を掲げ、更にパワーアップした商品ラインナップ、様々なキャンペーンを展開しています。Vintage を表現する重要なひとつのツールとして、FOSSIL の時計はすべて TIN CAN(ブリキの缶)にパッケージされています。年間200種類以上の新しい TIN CAN が発表されており、時計のデザイン同様に、常に世界中のコレクターから注目を集めています。
TEL 03-5981-5620
|
(株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社
|
去る11月1日から15日の間、やまねこ翻訳クラブ恒例の、やまねこ賞が開催されました。やまねこ賞では、前年10月から本年9月までに出版された邦訳児童書、および、過去に海外で出版された未訳児童書を対象に、会員がベスト5を投票し、大賞作品を決定します。大賞に輝いた邦訳作品の翻訳家の方には、賞状と副賞が贈られます。なお、今年も株式会社フォッシルジャパンより、副賞の時計をご提供いただきました。 |
「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考に、当クラブの判断で決定しています。
記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブサイトに掲載のバックナンバーをご参照ください。
http://www.yamaneko.org/mgzn/
なお、すべての投票と感想はこちらでごらんいただけます。
http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm
母親と祖父と3人で暮らしている少年ジェイク。しかし、小学3年生のとき、大好きな優しい祖父がアルツハイマー病を発症する。祖父の行動に振り回され、家族のいらだちや戸惑いが募る中、大事件が起こり……。老人の介護という児童書では難しいテーマを、温かいまなざしと優しい雰囲気で描いた物語。
(本誌2006年2月号「注目の本」のレビュー
をご参照ください)
◎認知症のおじいちゃんの世話をしなければならない、主人公の少年の心の動きが丹 念に描かれている。(yoshiyu)
◎自分の経験とも重なるところがあり、いろいろ考えさせられました。(shoko)
◎祖母を亡くしたころに読んだので、いろいろと思い出しました。(hanemi)
◎認知症のおじいちゃんに対する思春期の少年の包みかくさぬ想いがストレートに伝 わってきて、心打たれた。(ち〜ず)
◎家族のあたたかさがしみじみと。(蒼子)
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
【受賞のことば】 翻訳家 ないとうふみこさん
昨年の10月に出たこの本のことをおぼえていて、投票してくださったみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。求龍堂からやまねこ翻訳クラブに声をかけていただいたトライアル企画で出版に至った作品ですし、やまねこには足を向けて寝られません。
本書の主人公ジェイク・ムーンは、やさしくて愉快で、でもちょっぴりみえっぱりで子どもっぽいところもある、ごくふつうの男の子。そんなジェイクがいとしくて、あめ玉でもしゃぶるように1行1行楽しみながら訳した作品です。家族に対して素直になれず、心に葛藤を抱えている人がいたら手にとってみてほしい。ちょっぴり元気になれるかもしれません。
『いつもそばにいるから』の情報をオンライン書店でみる "The Graduation of Jake Moon"の情報をオンライン書店でみる |
世界一の盗人を自認していた少年ジェン。アトリアの女王と結婚し王座に就くが、ジェン自身も周囲も立場の変化に戸惑い、新しき王は家臣たちに受け入れられない。深い孤立の中、王座をめぐる陰謀が動き始め、ジェンは行動を起こす。人気を博す、長編冒険ファンタジーの第3部である本作で、主人公が新たな魅力を見せてくれる。
◎読んでいくうちに背すじがのびる。生きていく力がこみあげる。(Incisor)
◎主人公の不屈の精神に惚れています。(カコ)
◎心理戦略ともいえる主人公の活躍がすばらしい。(おちゃわん)
◎シリーズの中でもっとも好きな巻で夢中になって一気読み。盗人ジェンはすてきすぎる。(さかな)
◎計り知れない底の深さを見せるかと思えば、時たま少年らしいあどけなさを垣間見せるジェンの魅力や権力者の駆け引きの面白さにもう夢中。(タイ)
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
【受賞のことば】 翻訳家 金原瑞人さん
ありがとうございます。しかし1回目の『ホエール・トーク』といい、今回の『盗神伝 新しき王』といい、しぶいなあ。どちらも大好きな作品なので、これは文句ではなく、純粋に、「やまねこさんって、しぶいなあ」という一種の感慨です。それも、いつもやまねこ賞がしぶいわけではなく、金原がらみのときに限って……という気がします。しぶさを期待される翻訳家になりつつあるのかもしれません。これからいっそう、みがきをかけていきたいと思いますので、どうぞよろしく!【受賞のことば】 翻訳家 宮坂宏美さん
「盗神伝」シリーズは、私も大好きな作品です。独特の構成や世界観、主人公ジェンのキャラクターに惚れ込み、ぜひ訳してみたいと思いました。そんなお気に入りの本で栄誉あるやまねこ賞をいただけたこと、とてもうれしく思っています。共訳してくださった金原先生はもちろん、あかね書房の重政さん、何かと力になってくれた友人の池上さん、そして、本を読んでくださったみなさんに、あらためて感謝します。ありがとうございました!
『盗神伝 IV 新しき王 前篇 ―孤立―』の情報をオンライン書店でみる
『盗神伝 V 新しき王 後篇 ―栄光―』の情報をオンライン書店でみる
"The King of Attolia" の情報をオンライン書店でみる
◆3位 『その歌声は天にあふれる』ジャミラ・ガヴィン作 野の水生訳 徳間書店
知的障害のある少年ミーシャクは、慈善家を装う父親が裏で行う恐ろしい仕事に加担させられている。心の支えは、地主の屋敷で暮らす、憧れの少女メリッサ。だがメリッサは、地主の息子アレクサンダーと恋に落ち――。18世紀の英国を舞台に、ばらばらの生き方をする登場人物たちが、やがてひとつの糸でつながれていく。聖歌隊のコーラスが美しく響く、感動的な長編物語。
(本誌2001年2月号書評編「特集」のレビューをご参照ください)◎タイトルだけでなくストーリー全体から歌声があふれてきそうな不思議な本です。(みさと)
◎子どもたちが虐げられていた18世紀の英国の現実が、いやというほどつきつけられる作品。つらいけれど、救いもあり、心に深く残った。(SUGO)
◎この本を読んで、わたしは「大河ドラマ」系の物語が好きだと、あらためて感じました。歴史がからみ、そこに生きた人の物語、おもしろかったです!(Chicoco)
◎18世紀のイギリスの厳しい現実を背景に、魅力的な登場人物たちが壮大な物語をつむぎだしている。(ワラビ)
◎いたましい場面は多いが、歴史もので、音楽がからんでいて、とにかく劇的。(anya)
『その歌声は天にあふれる』の情報をオンライン書店でみる
"Coram Boy"の情報をオンライン書店でみる
◆4位 『ミシシッピがくれたもの』リチャード・ペック作 斎藤倫子訳 東京創元社
15歳の少年が初めて訪れた、父の生まれ故郷であるミシシッピ川沿いの小さな町。そこで迎えてくれた祖母ティリーから、南北戦争にまつわる思い出話を聞かされる。戦争の影におびえる家族のもとに、不思議な魅力を漂わせた女性たちが訪れたことから始まる祖母の物語は、少年を大人へと成長させた。
(本誌2006年7月号「注目の本」のレビューをご参照ください)◎南北戦争や当時のニューオーリンズの社会の様子など、これまでわたしが知らなかったことをたくさん教えてくれました。(MOMO)
◎人間の誇りが、一本の筋として通っている。なにがあってもとにかく生きる女たちに、たくましさを感じる。(ちゃぴ)
◎歴史を学ぶことの大切さを感じる。男と女、都会育ちと田舎育ち、ふたつのものの間にはさまざまな川がある。(蒼子)
『ミシシッピがくれたもの』の情報をオンライン書店でみる
"The River Betseen Us" の情報をオンライン書店でみる
◆5位 『ペリー・Dの日記』L・J・アドリントン作 菊池由美訳 ポプラ社
戦争で荒廃した未来都市で、少年トニ・Vが偶然見つけた、ペリー・Dという少女の日記帳。生き生きと書き綴られた毎日のたわいない出来事が、次第に暗い影を帯びていく。政府が遺伝子標識を強制し、差別を始めたのだった。日記を通じ、時を越えて少年の心に響く、ペリー・Dのメッセージとは――。 (本誌2006年6月号「特別企画連動レビュー」をご参照ください)
◎近未来にいかにも起こりそうな話。人間は進歩しない生き物だと思わざるを得ない。ただ、良心を持ち続けたひともいることに救いを感じた。(ぐりぐら)
◎在るものがなくなっていく恐怖と、在るものを握りつぶす罪悪感の両方を強く感じた。(つー)
◎近未来のアンネの日記。歴史は繰り返す、かもしれない。(ぎねびあ)
『ペリー・Dの日記』の情報をオンライン書店でみる
"The Diary of Pelly-D"の情報をオンライン書店でみる
◆6位以下の作品
6位『沈黙のはてに』、7位『朝のひかりを待てるから』、8位 『世界はおわらない』、
9位『盗まれた雷撃(パーシー・ジャクソンとオリンポスの 神々シリーズ)』、10位『のんきなりゅう』
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
★☆★☆【2006年 第8回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★
|
『バスラの図書館員』の情報をオンライン書店でみる "The Librarian of Basra: A True Story from Iraq"の情報をオンライン書店でみる |
なかよしのアケヨに、おいしそうなくだものをとどけよう。ハンダは7つのくだものを頭の上のかごにのせて出かけます。アケヨはどのくだものがすきかな? うきうきと歩いていくハンダには、頭の上のくだものにどんなことが起こっているのかは見えません。アケヨを驚かせるつもりが、おしまいには自分までびっくりすることに……。真実を知っているのは読者だけという、楽しみがある絵本。
◎ケニアのルオ族をモデルにしたというかわいい少女と、リアルだけどユーモラスな動物たちの鮮やかな絵がいい。(くらら)
◎文と絵がともに物語り、ページをめくる楽しみがある。(ちゃぴ)
◎最後にものすごくハッピーな気持ちになった。(おとむとむ)
『ハンダのびっくりプレゼント』の情報をオンライン書店でみる "Handa's Surprise"の情報をオンライン書店でみる |
「8時になったらあかりをけして」と両親に言われたコブタの女の子。でも、暗いと怖くて眠れなくなっちゃう。そこでうーんと考えた。安心して眠れる方法を。文章は最初のページのみで、あとはひもを引っ張ってからのできごとを、29ページにわたって絵だけで丁寧に説明している。ドミノ・マニアもびっくりの工夫の数々をとくとご覧あれ。
◎天才コブタのからくりがとても楽しい。(おちゃわん)
◎何度見てもあきません。どこからか音まで聞こえてくるようです。(shoko)
◎壮大な発想と実行力にうなってしまう。(Incisor)
『あかりをけして』の情報をオンライン書店でみる "Lights Out"の情報をオンライン書店でみる |
アフリカの少女ンネカがおとうとのチディに色の名前を教えています。大おじさんのぼうしは赤、ヤシの葉っぱは緑、壁の模様は黒、お願い事に使うチョークは白……。世界一の色は青だと言い張るおとうとも、これで気が変わるかな? 色をテーマに、アフリカの色彩豊かな風景をスケッチした写真絵本。
(本誌2006年7月号「注目の本」のレビューをご参照ください)
◎アフリカの明るい太陽のせいでしょうか、写真の色がとても鮮やかできれい。(Chicoco)
◎すっきり、素直に、気持ちのいい写真絵本。(りり)
◎異文化にふれる楽しみに満ちた絵本。(さかな)
『おとうとは青がすき』の情報をオンライン書店でみる "Chidi Only Likes Blue: An African Book of Colours"の情報をオンライン書店でみる |
ある日、男の子の家にやってきたペンギン。とっても悲しそうにしています。迷子にでもなったのかな? 男の子は、なんとかしてあげようとあちこち聞きまわり、ついには南極までとどけることに。でも、本当にそれでよかったのでしょうか……? ネスレ子どもの本賞(5歳以下)金賞を受賞、ケイト・グリーナウェイ賞の候補にも選ばれた絵本。
◎原作を読んでうれしくなって、邦訳を読んでまたまたうれしくなりました。(つー)
◎かわいいだけじゃない、最後はぐっときます。(shoko)
◎小学校の読み聞かせで読んだあとで、家に遊びに来た子どもたちが絵をじっくりと 見ていました。(SUGO)
『まいごのペンギン』の情報をオンライン書店でみる "Lost and Found"の情報をオンライン書店でみる |
6位『アンジェロ』、7位『まんまるおつきさまをおいかけて』 『ねこのパンやさん』(2作同点)、9位『やねの上にさいた花』『びくびくビリー』 (2作同点)
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
★☆★☆【2006年 第9回やまねこ賞 未訳部門】☆★☆★
|
この本の情報をオンライン書店でみる |
「スパイ犬」として国家機関で教育を受けた犬が、やむを得ない事情から一般家庭で暮らし始め、家族の愛を知る。2006年チルドレンズ・ブック賞(幼年向け部門)受賞作品。
◎やまねこの勉強会中に、チルドレンズ・ブック賞幼年部門を受賞し、ご一緒した会員さんとオフで祝杯?をあげました。主人公の犬のキャラがおもしろい!(shoko)
◎勉強会の課題本なので迷ったけれど、いいものはいいのでやはり投票。こんな犬なら飼ってみても(飼わせていただいても)いいかも。(ぎねびあ)
この本の情報をオンライン書店でみる |
1640年代のイングランド。父親の再婚相手にいじめられ、身の危険を感じた少女は、気がつくと異世界にいた……。2005年度カーネギー賞ロングリスト作品、2005年ネスレ子どもの本賞(9〜11歳)金賞受賞作品。2007年、主婦の友社より邦訳刊行予定。
◎17世紀の英国とフェアリーランドを行き来する少女の物語。歴史ものとフェアリーテールの面白さが同時に味わえる。(anya)
◎子どもの不遇な時代が舞台。主人公が現実世界と異世界とを行き来するだけでなく、ひねりが効いており、読みごたえのある作品です。(SUGO)
この本の情報をオンライン書店でみる |
4位(11作同点)
"The Whispering Road" by Livi Michael
"Bras & Broomsticks" by Sarah Mlynowski
"The New Policeman" by Kate Thompson
"Conrad's Fate" by Diana Wynne Jones
"The Book Thief" by Markus Zusak
"Quick, Let's Get Out of Here" by Michael Rosen
"Each Little Bird That Sings" by Deborah Wiles
"Little Boy Star" by Rachel Hausfater and Joelle Zimmerman
"Land of Milk and Honey" by William Taylor
"Birthday Blues" by Anne Cassidy
今年の投票作品総数は、なんと51点。やまねこたちの読書の幅広さがうかがわれる結果となった。「大魔法使いクレストマンシー」シリーズの新作 "Conrad's Fate"、ナチスドイツ時代の物語 "The Book Thief"、アメリカのキュートなファンタジック・コメディ "Bras & Broomsticks"、10代の妊娠と悩み、命の重さを描く "Birthday Blues"、家族の思い出を描いた散文詩 "Quick, Let's Get Out of Here" など、4位になった作品を眺めただけでもその多様さには驚くばかり。その他にも、モーリス・センダック初のポップアップ絵本 "Mommy?" や、父親が衝撃的な事件を起こすまでの日々を娘が語る "The Queen of Everything"、精神疾患を患う母を持つ少年の戸惑いと奮闘を描いた "My Mum's from Planet Pluto"、穏やかに語られるホロコースト "Little Boy Star"、ファンタジー仕立ての少女の成長物語 "Maddigan's Fantasia"、日系アメリカ人が描く日本 "Kamishibai Man" など、注目すべき作品も多い。児童文学の翻訳を勉強する者たちが、未訳の作品に常に目を光らせていればこそといえるだろう。
来年もまた、どんな新作が、そしてどんな隠れた名作がここに登場するのか楽しみだ。
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
★☆★☆【番外編 第9回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★ |
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
●特別企画●レビューを書こう(第2回レビュー勉強会より)「レビューを書く」と口で言うのは簡単だが、これはなかなか難しいことだ。本の内 容を魅力的に紹介し、レビューを読んだ人に「この本を読んでみたい」と思わせるよ うに書くのは容易なことではない。だが、翻訳家になるための文章修行にはもってこ いだ。そこでやまねこ翻訳クラブでは、昨年に引き続き第2回「レビュー勉強会」を、 11月に約1か月の日程で開催した。自分の文章を人に読んでもらうことで、ひとりよがりな表現や思い込みといった、 自分だけではなかなか気がつかないところを修正することができる。また、人のレビ ューを読み、つじつまが合わないところや文章のねじれを指摘することで、「読者に わかりやすい文章」とはどういうものかがわかる。熱気あふれるやりとりを交わすな かで、目から鱗が落ちることもしばしばだ。 今月は、このように切磋琢磨した勉強会参加者のレビューを4本お届けする。 【参考】 ▽本誌2005年10月号「特別企画 レビューを書く(実践編)」 ▽本誌2003年11月号情報編「特別企画 レビューを書く(翻訳学習者編)」
『おとうさんの庭』
|
『おとうさんの庭』の情報をオンライン書店でみる "The Animal Hedge"の情報をオンライン書店でみる |
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
モーリーの宝物。それは、遠いところに住んでいるおばあちゃんからもらった青い石。モーリーは毎晩その石を眺めながら眠りにつく。
あるとてもよく晴れた日、うきうきした気分になったモーリーは、宝物の石をみんなに見せようと学校へ持っていった。でも、先生はクラスメートのラッセルと話していて、石に気づいてくれない。いったんはモーリーの石を見に集まってきたクラスメートたちも、ラッセルが持ってきた恐竜のおもちゃのほうに興味をそそられてしまう。手にした青い石を見つめるモーリーの目に涙があふれてきた。今日はなんていやな日になってしまったんだろう。大きなライオンでも出てきて、みんなを飲み込んじゃえばいいのに。そのとき、悲しそうなモーリーに気づいて先生が声をかけた。そして、
先生は手をたたいてみんなの注意を引き……。
自分の話を聞いてもらいたいのに、誰も耳を傾けてくれない。無視されたというつらい思いを、子どものころに味わった人も多いだろう。また、気持ちをわかってもらえたときの喜びが記憶にある人もいるはずだ。大人から見ればささいなことでも、子どもにとっては大きな出来事になりうる。子どもが感じるそうした切なさや喜びをストレートに描いた、心温まる本である。
教室の場面では、見開きの左側に主人公のモーリーを配置し、初めはクラスメートたちがまわりに集まっている。ページをめくっていくと、右側に描かれたラッセルを追って、一度は左側から右側へ移動していったクラスメートたちが、また左側に戻ってくるという展開になっている。このクラスメートたちの動きが、モーリーの感情の揺れと重なって効果的である。チンルン・リーの柔らかなタッチの絵が、優しい雰囲気の作品にふさわしい。さまざまな人種の子どもたちの表情にも、ほのぼのとさせられる。
モーリーにとって最悪に思えた日。それがすてきな日に変わったのは、子どもの心を理解するすばらしい先生のおかげだろう。ほんわかとした気持ちになったあとで、このように子どもに対処できる先生がどれくらいいるだろうか、とふと考えさせられた。
(金井真弓)
【作】マイケル・ローゼン(Michael Rosen)
1946年、英国のサウス・ハーロウに生まれる。オックスフォード大学を卒業後、フリーランスのライターや教師、ジャーナリストを経験し、ラジオやテレビの仕事にも携わる。数々の受賞歴を誇る作家であり詩人である。現在は英国のハックニー在住。代表的な絵本に "Michael Rosen's Sad Book"(『悲しい本』谷川俊太郎訳/あかね書房)などがある。
【絵】チンルン・リー(Chinlun Lee/李瑾倫)
1965年、台湾で生まれる。台北の ワールド・オブ・ジャーナリズムアンドコミュニケーションと、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業する。『100ぴきのいぬ、100のなまえ』(フレーベル館)をはじめ、きたやまようことのコンビで3冊の絵本がある。
【訳】きたやまようこ(北山葉子)
1949年東京生まれ。文化学院卒。「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズ(あかね書房)で第20回講談社出版文化賞絵本賞を受賞する。そのほか『りっぱな犬になる方法』(理論社)など多数の著書がある。訳書に『ぼくのともだちおつきさま』(アンドレ・ダーハン文・絵/講談社)など。
【参考】
▼きたやまようこ公式ウェブサイト
kitayama-yoko.com/top.html
『モーリーのすてきなひ』の情報をオンライン書店でみる "Totally Wonderful Miss Plumberry"の情報をオンライン書店でみる |
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
『西遊記』を知らない人はいないだろう。では、古代中国で編纂された地理と博物学の書『山海経(せんがいきょう)』は? 知る人ぞ知るこの古典には、実はクンクン、ルー、シェイといった摩訶不思議な生き物が満載されている。その伝説の妖怪たちが、時を経て、現代アメリカによみがえった。彼らの狙いはただひとつ。サンフランシスコに住む中国系の少年、トム・リーの祖母が守るサンゴ細工のバラだ!
ある日トムは、人間に変身できる虎を祖母から紹介される。魔法が使える祖母は、昔から家中に魔よけを貼り、サンゴ細工のバラを大事にしてきた。トムは常々、あんなバラを守る必要があるのだろうか?と訝しく思っていたのだが、どうやら虎は、祖母のもとであのバラを守る修行をしていたらしい。3人でお茶を飲んでいると、突然、壁の鏡が割れ魔よけが燃え始める。祖母が張った結界を破り、怪物が襲ってきたのだ。なんとか逃げ出したトムは、虎から、バラにまつわる秘密を聞かされる……。
アメリカを舞台に中国の伝承をたくみに織り込んだ、胸躍るダイナミックなファンタジーの登場だ。中国系アメリカ人である作者イェップは、これまでにも中国の神話や民話を組み合わせたファンタジーを数多く発表している。だが本作品では、『西遊記』『山海経』から今まで以上に多くの登場人物や怪物、エピソードを借りてきており、中国テイストがより一層際立つ作品となっている。しかも取り入れたエピソードが複雑に絡み合い、本作品を支える土台となって見事に生かされているのだ。
さて、平凡な毎日から一転して、突如異国の妖怪と戦う羽目になってしまったトムだが、最初は逃げることばかり考えてしまう。しかし、バラを守るために戦って死んだ祖母の偉大さを知るにつれ、祖母の遺志を継ぎバラを守ることが自分の使命だと、自覚するようになっていくのだ。そして、中国では聖獣とみなされている虎や龍、孫悟空をモデルとした猿とともに、命がけの冒険を続けていく。この3匹、かつては勇士としてその名を轟かせたものの、それぞれ心に傷を持ち、今となっては肉体の衰えすら感じている。そんな彼らが皮肉合戦を繰り広げながらも時にいたわりあい、かつ、相手の誇りを尊重する姿がとてもよい。仲間の意味を考えさせてくれる作品だ。
(村上利佳)
【作】ローレンス・イェップ(Laurence Yep)
1948年、米国サンフランシスコ生まれ。中国系アメリカ人。多くの児童書を発表しており、児童文学賞の受賞も多い。邦訳に『ワニてんやわんや』(ないとうふみこ訳/徳間書店)『竜の王女シマー』(三辺律子訳/早川書房)などがある。2005年、児童書に対する功労を称えて贈られる、ローラ・インガルス・ワイルダー賞を受賞。
【訳】金原瑞人(かねはら みずひと)
1954年、岡山県生まれ。法政大学文学部博士課程修了、同大学教授・翻訳家。訳書は、『シルバーチャイルド 1 ミロと6人の守り手』(クリフ・マクニッシュ作/理論社)、『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々〔1〕盗まれた雷撃』(リック・リオーダン作/ほるぷ出版)など多数。
【訳】西田登(にしだ のぼる)
1963年、愛知県生まれ。中央大学大学院英文学専 攻修士課程卒。訳書に、金原瑞人氏との共訳で『ホエール・トーク』(クリス・クラ ッチャー作/青山出版社)、『アイアンマン』(クリス・クラッチャー作/ポプラ社) がある。
【参考】
▼金原瑞人公式ウェブサイト
http://www.kanehara.jp/
▽ローレンス・イェップ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/y/lyep.htm
▽金原瑞人訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/mkaneha7.htm
『虎の弟子』の情報をオンライン書店でみる "The Tiger's Apprentice"の情報をオンライン書店でみる |
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
1912年、米国マサチューセッツ州。12歳のローザは、紡績工場で働く母や姉と共に、貧しい暮らしを強いられていた。やがて工場の労働者たちが、賃金引き下げに反対して大規模なストライキを始め、ローザの母と姉もストに加わるようになる。もう1人の主人公ジェークは13歳。学校にも通わず紡績工場で働いている。アルコール依存症の父親から、たびたび暴力を受けるため、ゴミ集積所で夜を明かすことも多い。ある日ゴミ集積所でジェークに出会ったローザは、母親に内緒でジェークを一晩家に泊めた。
ストが激しくなり、工場周辺の子どもたちは安全のため、近郊の土地へ送られることになった。ローザは隣のヴァーモント州に行くことになったが、ジェークは父親の承諾が得られず行くことができない。ジェークに半ば脅され半ば懇願されたローザは、ジェークを兄だと偽り、ヴァーモントに向かう。到着した2人は、ジェルバーティさんの家に引き取られ、何不自由ない生活が始まった。だがローザはストに参加している母と姉が心配でたまらない。一方ジェークは、身元がばれる前にお金を盗んで逃走しようと機会をうかがうのだが……。
題名の「パンとバラ」は、ストライキで掲げられたスローガンの一部である。パン(賃金)とバラ(人としての尊厳が保たれる待遇)を求めたこの労働運動は実際にあったもので、巻末にはストの背景が作者によってまとめられている。労働運動は子どもにとってなじみのない話だが、主人公2人の視点で書かれているため、経緯が理解しやすい。最初ストに否定的だったローザは、徐々に考えを改め、ストに参加する母や姉を誇りに思うようになっていく。その過程を通して、読者も労働運動の意味について考えさせられる。またジェークとジェルバーティさんとの関わり合いも、読みどころである。ジェークはジェルバーティさんに対して恩知らずな行いをするが、その陰には親の愛情を知らない悲しみが隠されている。そんな気持ちを理解して、ジェークを包み込むジェルバーティさんの優しさには、胸が熱くなるだろう。
労働運動の歴史に加え、心を通い合わせることの素晴らしさを改めて教えてくれる、読み応えのある作品である。
(佐藤淑子)
【作】Katherine Paterson(キャサリン・パターソン)
1932年中国で生まれる。在は米国ヴァーモント州在住。"Bridge to Terabithia"(『テラビシアにかける橋』岡本浜江訳/偕成社)と "Jacob Have I Loved"(『海は知っていた――ルイーズの青春』岡本浜江訳/偕成社)で2度ニューベリー賞を受賞。1998年には国際アンデルセン賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を得ている。邦訳も多数ある。
"Bread and Roses, too"の情報をオンライン書店でみる |
第9回やまねこ賞 読み物部門 絵本部門 未訳部門 オールタイム部門 特別企画 レビューを書こう 『おとうさんの庭』 『モーリーのすてきなひ』 『虎の弟子』 "Bread and Roses, too" 賞速報 イベント速報 世界のお祭り 読者の広場 もくじ |
●賞速報●★2006年全米図書賞(児童書部門)発表★2006年カナダ総督文学賞(児童書部門)発表 ★2006年コスタ賞(旧ウィットブレッド賞)ショートリスト発表 (受賞作の発表は2007年1月10日) ★2006年ラサリーリョ賞発表 ★2006年ネスレ子どもの本賞発表 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award |
|
●イベント速報● |
---|
★展示会情報 |
安曇野絵本館「ユリア・ヴォリ絵本原画展」 大丸ミュージアム・東京「オランダ絵本作家展」など |
★セミナー・講演会情報 |
朝日カルチャーセンター新宿教室「ヤングアダルトと文学」 東急セミナーBE 渋谷校「フィンランド児童文学」など |
★イベント情報 |
高崎シティギャラリー「第13回絵本原画展〜小松義夫『地球人記』展」など |
詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。
(井原美穂/笹山裕子) |
|
●世界のお祭り●第8回 ハヌカ(ユダヤ教) |
クリスマスが近づき、パーティーやプレゼントの計画を立てているかたも多いと思います。キリスト教のクリスマスは日本でもイベントとしてすっかり定着しましたが、この時期ユダヤ教にもハヌカというお祭りがあるのをご存知でしょうか。 *〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜* ふだんだと、わたしは日暮れ近くまで学校に残ったが、その日はハヌカの前夜祭に当たっていたから、わたしは、いつもより早く家へもどる予定だった。冬のあいだに来る一度きりの祭日ハヌカが、わたしは大好きだった。夕方、お祈りをすませると、さっそく父はハヌカのろうそくにお浄めをし、母はパンケーキを油で焼き、わたしはブリキ製のドレイデルとお祝いのおかねがもらえるものと決まっていた。わたしは家へ帰る時間を待ちかねた。 *〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜* クリスマスとハヌカ。その宗教も起源も違いますが、寒い冬に暖かい明かりの灯る 家で、家族が心穏やかに過ごす喜びは、どの文化でも変わらないもののようですね。 (笹山裕子/村上利佳)
★参考文献 |
|
●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! |
このコーナーでは、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。
|
|
新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。
詳しくはmaple2003@litrans.netまで
出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです
=- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★
http://www.litrans.net/whodunit/mag/
未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。
翻訳家や編集者の方々へのインタビューもあります!
〈フーダニット翻訳倶楽部〉
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -=
*=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ発行メールマガジン&ウェブジン =*=*=*=*=*=*
★やまねこActivator ★ (毎月20日発行/無料)
やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します!
http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm
★英文ウェブジン "Japanese Children's Books (Quarterly)"★
英語圏に日本の児童文学情報を発信! 自由閲覧です!
http://www.yamaneko.org/mgzn/eng/index.htm
*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*
◆次号予告は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。◆
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 美馬しょうこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 大原慈省/横山和江(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 赤間美和子 井原美穂 金井真弓 金山裕実 かまだゆうこ 笹山裕子 佐藤淑子 冬木恵子 村上利佳 |
協 力: |
出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内 おちゃわん さかな 小湖 タイ Chicoco ながさわくにお html版担当 蒼子 ワラビ |
|
メニュー>「月刊児童文学翻訳」>バックナンバー>2006年12月号 オンライン書店
Copyright (c) 2006 yamaneko honyaku club. All rights reserved.