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●特集●第20回やまねこ賞 協賛:(株)フォッシルジャパン
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さる11月1日から17日までの間、やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、
当クラブ内オンライン投票所にて開催されました。やまねこ賞は、前年10月から本年
9月までに出版された邦訳児童書を対象に、会員がベスト5を選び、大賞作品を決定
するものです(読み物部門、絵本部門)。これに加え、会員が過去1年間に読んだ原
書と、新刊以外の邦訳児童書を対象とする、別賞(原書部門、オールタイム部門)も
設けています。新刊を対象とする読み物部門と絵本部門の大賞に輝いた作品の翻訳者
には、賞状と副賞が贈られます。今年も(株)フォッシルジャパンより、副賞の時計
をご提供いただきました。
▽2017年やまねこ賞投票所
http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm
※本号に掲載しているコメントは、投票時のままです。
「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考
に、当クラブの判断で決定しています。
記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブウェブ
サイトに掲載のバックナンバーをご参照ください。
http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm
やまねこ翻訳クラブは、会員・非会員を問わず、海外児童書を主とした本の話題が
書き込める「読書室掲示板」を運営しています。
http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm
★☆★☆【2017年 第20回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★
★大賞 『わたしがいどんだ戦い 1939年』
キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー作 大作道子訳 評論社
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1939年、第2次世界大戦中のロンドン。生まれつき右足が不自由なエイダは、母親
から虐待を受け、アパートの一室に閉じこめられていた。近所の子どもたちが郊外へ
疎開することを知ったエイダは、弟とともに家を抜けだし、痛む足を引きずって集合
場所へと向かう。汽車にゆられてたどり着いた先で出会ったのは、ひとりの女性と黄
金色のポニーだった……。自分の殻に閉じこもっていた少女が、村の人々との交流や
馬とのふれあいを通じ、少しずつ心を開いていく様子を描く。エイダの目から見た外
の世界の描写がみずみずしい。2016年ニューベリー賞オナー作品。
(本誌今月号「注目の本(邦訳読み物)」のレビューをご参照ください)
◎第二次世界大戦中の話だけれど、違う時代(現代を含めて)、違う国でも、エイダ
のように戦っている子どもがいると、あらためて考えさせられた。(Chicoco)
◎折れない心と賢さで自分の人生を必死に手に入れていくエイダの姿がとても力強く、
ものすごい生命力を感じた。(おとむとむ)
◎今で言う「毒親」の呪縛からエイダがどう逃れていくのか、はらはらどきどきしな
がら読みました。戦争をこういう角度から描いたのも新鮮。(ベス)
◎冒頭からぐいぐい惹きこまれました。戦争というテーマへの切り込み方が独創的で、
新鮮な面白さを感じました。続編も是非読みたいです!(mamacho)
◎凄まじい虐待による自己全否定から、苦しみながら自信をとりもどしていく姿に感
動!(ちゃぴ)
◎つらい場面が多いけど、たくまざるユーモアに思わずふふっと笑ってしまう場面も。
口調や会話に、それぞれのらしさがにじみ出ていて、登場人物がみんな生きてる感じ
がすごく好き。(BUN)
☆~~~~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 大作道子さん ~~~~~~~~~~~~~~~☆
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| やまねこ賞に選んでいただき、ありがとうございます。自分が受賞するとは夢|
|にも思わなかったので、結果を知ったときには驚くばかりでしたが、じわじわと|
|喜びがわいてきました。受賞作の原書 "The War That Saved My Life" は、昨年|
|のやまねこ賞原書部門で1位になっています。その紹介記事を読んだ直後に、思|
|いがけず翻訳の依頼をいただきました。評価の高い作品を訳す機会に恵まれ、本|
|当に幸運です。読んでくださったみなさまに、心から感謝申し上げます。 |
☆ ☆
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◆2位 『レイン 雨を抱きしめて』
アン・M・マーティン作 西本かおる訳 小峰書店
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アスペルガー症候群のローズはパパとふたり暮らし。ある雨の夜、パパが1匹の犬
を連れて帰ってきた。「レイン」と名づけたその犬は、学校でクラスにうまくなじめ
ないローズにとって、かけがえのない友だちとなる。だが、ハリケーンが町を襲った
日、レインが姿を消してしまった。ようやくレインを見つけだし、再会を喜んだのも
つかの間、ローズは思いがけない事実を知らされた。物語の最後で親子それぞれの下
す決断は切ないが、未来への確かな希望が感じられる。
(本誌2017年3月号「プロに訊く連動レビュー」をご参照ください)
◎ハラハラしながら一気に読んだ。悲しいできごとがあれこれ起こるのに、読後感は
さわやか。希望を感じた。(ゆま)
◎かわいい、愛しい、せつない。(おちゃわん)
◎ローズも、酒飲みのお父さんも、悲しみと勇気に満ちた決断をした。涙がこみあげ
てきたけど、さわやかな読後感。(BUN)
◎ローズの言動の意図が周囲に理解されないのがはがゆいが、理解者のおじさんがい
てよかった。光が見えるラストにほっとした。(shoko)
◎主人公ローズのこだわりや思いがうまく描きだされていた。父親のだめな部分がき
ちんと描かれていた点も良かった。(ワラビ)
◆3位 『ジョージと秘密のメリッサ』アレックス・ジーノ作 島村浩子訳 偕成社
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10歳のジョージには秘密があった。それは、女の子向けの雑誌を隠れて読んでいる
ことや、鏡のなかの自分に「メリッサ」と名づけて語りかけていることだ。大好きな
ママに自分が「女の子」だと認めてもらうため、ジョージは親友ケリーの協力を得て、
ある計画を立てる。ジョージ(メリッサ)が自分らしく生きようともがく姿に胸が熱
くなる。トランスジェンダーである作者が、自身の経験をもとに書きあげた作品。
◎性同一性障害の男の子が主人公の物語。ジョージが、親友の女の子の協力を得て女
の子の服をいろいろ試すときの、はちきれんばかりの喜びが、とても印象的でした。
(ナウシカ)
◎トランスジェンダーというデリケートな問題を扱いながらも、ここまで爽快な読後
感を得られる作品に巡り合えたことに、ただただ感謝感激です!(やまのまま)
◎ジョージのけなげさに、途中なんども泣きそうになった。ありのままの自分を受け
入れてくれる人の存在が、どれほど大切かが心にしみる。どこかで悩んでいる誰かに
とって、きっと大きな力になってくれる本。(くるり)
◎スコットのジョージへの対応にほろりとしてしまった。いいお兄ちゃんだなあ。
(hanemi)
◆4位 『太陽と月の大地』
コンチャ・ロペス=ナルバエス作 宇野和美訳 松本里美絵 福音館書店
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舞台は16世紀のスペイン、グラナダ。エルナンドの家族は「モリスコ」と呼ばれる、
キリスト教に改宗した元イスラム教徒だ。エルナンドと幼なじみのマリアは、互いに
淡い恋心を抱いていた。だがマリアはキリスト教徒で、エルナンド一家が仕える伯爵
家の娘でもあった。宗教間の対立がしだいに激しくなる中、ついに戦争がはじまり、
エルナンドと家族は先祖代々受け継いできた土地から追放されてしまう。スペインの
美しい自然を背景に、時代の波に翻弄される人々を壮大なスケールで描く。
◎この薄さに、この壮大な物語がとじこめられているのが信じられない。読了後、し
ばらく時間の感覚がなくなりました。(NON)
◎遠いグラナダの悲しい歴史や人々の思いを知ることのできる貴重な一冊。薄い本な
のに中身が濃く、物語も絵も文章もすばらしかった。(ベス)
◎16世紀のスペインが舞台で、1984年に書かれた作品だが、今こそ多くの人に読まれ
るべき話だと思う。(くるり)
◎16世紀のスペインを描いた短い物語に、現代と通じる重要なテーマが盛り込まれて
いる。30年前の作品が、今この世に出たことに感謝。(anya)
◎これまでなじみの少なかった16世紀のスペインが舞台。時代が違えども、為政者の
せいで憎しみや不幸が生まれる現実は同じであることに心が痛んだ。文学性豊かな作
品。(ワラビ)
◆5位 『スピニー通りの秘密の絵』
L・M・フィッツジェラルド作 千葉茂樹訳 あすなろ書房
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しっかり者の女の子セオは、幼い頃から画家の祖父ジャックによる美術の英才教育
を受けていた。そのジャックが、交通事故で突然この世を去った。「卵の下を探せ」
という謎の言葉を遺して。謎を解くカギが、ジャックの大事にしていた1枚の絵にあ
ることに気づいたセオは、偶然出会ったセレブな少女ボーディとともに謎解きに挑む。
ユーモラスな登場人物たちにクスッと笑いながら、予想のつかない展開に引きこまれ
る。絵画の知識がふんだんに盛りこまれている点も魅力だ。
◎突然の祖父の死で、少女が日々生きていくために奮闘することが、祖父の遺した絵
画をめぐるミステリー、思いがけないファミリーヒストリーにいきつき、ページをめ
くる手がとまらなかった。(Incisor)
◎ミステリー的展開にはらはらどきどき。さらに家族、戦争、芸術への愛などいくつ
もの要素がうま〜く入っていて、心ゆすぶられます。(キャメル)
◎主人公のセオとセレブなボーディの調査力や行動力が気持ちいい。少しずつ明らか
になる絵の謎や祖父の過去に惹きつけられて一気に読んだ。(shoko)
◆6位以下の作品
6位『もうひとつのワンダー』
7位『ファニー 13歳の指揮官』
8位『オオカミを森へ』
9位『コードネーム・ヴェリティ』『100時間の夜』
『ぼくとベルさん 友だちは発明王』(3作同点)
★☆★☆【2017年 第20回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★
★大賞 『どれがいちばんすき?』『こうえん』
ジェイムズ・スティーブンソン文・絵 千葉茂樹編訳 岩波書店
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詩集絵本 "Corn Book" シリーズから2冊に編さんされたアンソロジー。見開きご
とに現れるシンプルなスケッチ画は小粋な印象で、やさしい言葉で綴られる短い詩が
読者をくすりと笑わせたり、しんみりさせたり。洗濯物、おんぼろの門、ピザ屋もゴ
ミ袋も、思いがけない物語を秘めている。1コマ漫画の名手として知られるスティー
ブンソンならではの切り口と、身近なものへの温かいまなざしが心地よい。文字のデ
ザインも遊び心がいっぱいだ。絵と文が一体となった珠玉の詩集絵本がやまねこ会員
の心をとらえ、本年の大賞を受賞した。
◎詩はいつだってそばにおいておくものです。『こうえん』と共にこの詩集もそばに
おいておくものなのです。(さかな)※『どれがいちばんすき?』への投票
◎言葉のひとつひとつがすっと心に入ってきて、何気ない日常の風景やふだん目にし
ているものがとても愛おしく感じられてくる。(asayaka)
◎ページを開いて最初の「かさ」でハートを射抜かれました。イラスト、訳、レイア
ウト、どれも粋なユーモアがあっておしゃれ。いろんなものへの愛にあふれています
が、とくに犬愛を強く感じました。(Chicoco)
◎楽しい! 軽やかでシニカルな面もあり、声に出して読みたくなるえりすぐりの詩
がぎっしり。読んだあとには「どれがいちばんすき?」と人に聞いてみたくなる。丁
寧な本作りにも、うっとり。(SUGO)
◎暮らしの一瞬を切り取って、違う角度からみたものや、隠された物語を感じさせる。
読むほどに魅力が増す。(ちゃぴ)
☆~~~~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 千葉茂樹さん ~~~~~~~~~~~~~~~~☆
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| 実はこの2作が形になるまでには、やまねこさんの歴史より長い時間がかかっ|
|ています。なにせ、シリーズの第1巻がアメリカで出版されたのは1995年なんで|
|すから。それ以来ずっと、なんとか日本にも紹介したいとあちこち持ちこんだり|
|もしましたが、ようやくこのような形で本になり、しかもそれがやまねこ賞の大|
|賞に輝くなんて! 出版直前に永眠されたスティーブンソンさんも、きっとよろ|
|こんでくださっているでしょう。ほんとうにありがとうございました! |
☆ ☆
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◆2位 『世界食べものマップ』
ジュリア・マレルバ&フェーベ・シッラーニ文・絵
中島知子&赤塚きょう子訳 辻調グループ辻静雄料理教育研究所監修 河出書房新社
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手にするだけで楽しくなってくる、ずっしり重たい大判絵本。世界のさまざまな国
の食べ物が、地図の上にイラストで紹介される。日本の地図には、ひじきやシイタケ
のような定番もあれば、静岡メロンやたこ焼きのように“通”なものまで。食の宝庫
イタリアには、びっくりするようなチーズも! 北米・南米・ヨーロッパ・アジア・
アフリカ・オセアニア、次はどのページを開きましょうか?
◎楽しくて楽しくて何度も眺めてしまう。ワクワクすればするほどお腹がペコペコに。
(Incisor)
◎何度ひらいても新たな発見があって見飽きないです。食べてみたいものも、ええっ?
とびっくりするものも満載で世界は広いと実感できる楽しい本。(からくっこ)
◎この本に投票しないわけには絶対にいかない。何度見てもどこを見ても楽しい。す
ばらしさしかない。(くるり)
◎何度もひらいて楽しめる絵本。海外の本や映画で食べものの名前が出てきたときに
調べてみると大抵のっているのでうれしくなります。(Chicoco)
◆3位(2作同点) 『天女かあさん』
ペク・ヒナ文・絵 長谷川義史訳 ブロンズ新社
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衝撃の『天女銭湯』に続く、韓国作家の人形絵本。ひどい雨の日、仕事中のかあさ
んは、息子のホホが熱で早退したとの連絡を受ける。ホホの世話を頼もうとあちこち
電話をかけ、やっとつながった先は、なぜか天女だった。「きょうは わたしを か
あさんと おもいなはれ」。天女かあさんが卵を片手に台所に立つと、あら不思議。
ホホを優しく看護する、天女ならではの技の数々がおもしろい。人情味あふれる人形
の造形とともに、生活感たっぷりの舞台小道具にも注目したい。
◎天女さま、あなたのインパクトはすごすぎます。(MOMO)
◎今回も細部まで作りこまれていて、すごい!(モリー)
◎この作者の手による人形が素晴らしい。表情、しぐさ、仕掛け。どれをとっても楽
しめます。(おちゃわん)
◎ほんわかするような、ぞくぞくするようなふしぎな感触。(ちゃぴ)
◎独特な表情のキャラクターたち。関西弁と愛情たっぷりなストーリーにほっこり。
(おとむとむ)
◆3位(2作同点) 『ふたりはバレリーナ』
バーバラ・マクリントック文・絵 福本友美子訳 ほるぷ出版
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小さなエマと大きなジュリア、ふたりの1日がシーンごとに交互に描かれる。年齢
も離れていて出会ったことのないふたりだけれど、エマもジュリアもバレエが大好き!
バレエのレッスン、そして夜の劇場公演へと期待感は高まって……。主人公をはじめ、
作中にはさまざまな人種の人々が登場し、アメリカ社会の多様性を映し出している。
バレエを共通項としたふたりの姿が、夢を追う少年少女たちの心を躍らせてくれるだ
ろう。
◎どの絵もほんとうに踊りだしそう。何度見ても飽きません。(モーモー)
◎最後の場面がとても素敵。「ふたりはバレリーナ」という邦題が、一言でこの絵本
を表現していて素晴らしいです。(みーこ)
◎バレエが好きで、バーバラ・マクリントックが好きなので、この絵本はどんぴしゃ
りでした。(コアラン)
◎ふたりの姿がシンクロしつつ進み、最後になんてまあ、ステキなこと。バレエファ
ンにはたまらない!(おとむとむ)
◆5位 『うみべのまちで』
ジョアン・シュウォーツ文 シドニー・スミス絵 岩城義人訳 BL出版
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海のそばに住む少年の1日が、静かなトーンで描かれる。カモメの鳴く声とともに
目覚め、カーテンを開けると広がる海。公園で遊ぶとき、おつかいに行くとき、おじ
いちゃんのお墓に行くときも、海はいつでもそばにある。穏やかな海、光る海。その
海の下の炭鉱で、父さんは働いているのだ。美しい海と幾度となく対照される、暗い
トンネル。作者の故郷ケープ・ブレトン島(カナダ)でかつて栄えた炭鉱町へのレク
イエムといえる作品だ。
◎抑えめの色合いだけれど、輝く海が美しい。(hanemi)
◎心にしみてくる絵本でした。時代と風景、人生と生活・・・いろんなものが描かれ
ている。光る海の絵が絶品。(ワラビ)
◎ページのなかの海のまぶしさに思わず目を細めてしまうほどの圧倒的な絵、シンプ
ルな言葉で炭鉱町の歴史や人生のドラマまでもを描き出すテキスト。絵本の力をあら
ためて感じた作品だった。(くるり)
◎海が陽光を反射し、きらきら明るい風景のなかで進む〈ぼく〉の1日。それを支え
るのが、海の真っ暗な底にほられた炭鉱で働く父さん。色の対比がすばらしい。
(Chicoco)
◆6位以下の作品
6位『走れ!! 機関車』
7位『シャクルトンの大漂流』
8位『カランポーのオオカミ王』
9位『こどもってね……』『こらっ、どろぼう!』
『こわい、こわい、こわい? しりたがりネズミのおはなし』
『サイモンは、ねこである。』(4作同点)
★☆★☆【2017年 第20回やまねこ賞 原書部門】☆★☆★
原書部門の投票条件は、児童書の原書であることのみ。言語、出版年、邦訳の有無
は問わず、この1年に読んだ原書に順位をつけず最大5作品まで投票できる。今年は
16名から投票があり、各国の児童文学賞受賞作品やノミネート作品、話題作の続編な
ど、31作品が挙がった。会員それぞれの幅広い読書傾向を反映しているため、この部
門では例年票がばらけてしまう。そんな中で複数票を獲得した "Are You an Echo?:
The Lost Poetry of Misuzu Kaneko"(4票)と、"Sachiko: A Nagasaki Bomb
Survivor's Story"(2票)について、投票に添えられたコメントとともにご紹介す
る。どちらも日本に縁のある作品というのが興味深い。残りの作品については、やま
ねこ賞受賞作品リストをご覧いただきたい。
★ "Are You an Echo?: The Lost Poetry of Misuzu Kaneko"
narrative by David Jacobson, translations by Sally Ito & Michiko Tsuboi,
illustrations by Toshikado Hajiri
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日本で広く親しまれている詩人、金子みすゞを英語で紹介した絵本。本作は伝記と
詩で構成されており、彼女が生きた時代の風景と文化を伝える美しい絵が全ページに
わたって描かれている。詳しくは、本誌増刊号No.9「絵本 "Are You an Echo?" 〜
金子みすゞを英語圏の子どもたちへ〜」をご覧いただきたい。
( http://www.yamaneko.org/mgzn/plus/html/z09/index.htm )
◎イラストが美しく、みすゞの詩を英語と日本語の両方で楽しめるのが良かったです。
東日本大震災のことにも触れられていて、当時のことを思い出して胸にぐっとくるも
のがありました。(まなみ)
◎米国の友人に誇りをもって贈った。この美しい絵本がうまれたことに感謝。
(Incisor)
◆ "Sachiko: A Nagasaki Bomb Survivor's Story" by Caren B. Stelson
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長崎の被爆者 Sachiko Yasui に直接話を聞き、まとめあげられたノンフィクショ
ン。当時6歳だった少女の壮絶な原爆体験と、その後の被爆者としてのつらい日々が
描かれ、平和への切なる願いが伝わってくる。2017年ロバート・F・サイバート知識
の本賞オナー、2016年全米図書賞児童書部門ロングリストに選ばれている。
◎アメリカ人の作者による長崎のこと。姉妹都市の行事で来米した安井幸子さんの被
爆体験をきいたことがきっかけだという。海を越えて話す勇気と聞く勇気。
(Incisor)
★☆★☆【2017年 第20回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★
オールタイム部門の対象となるのは、会員がこの1年で読んだ新刊以外の邦訳児童
書。投票者は30名で、挙げられた作品数は84に上った。この部門では、前年の読み物
部門・絵本部門の上位作品が選ばれることが多い。今年は、昨年の読み物部門大賞の
作品が7票を獲得し、堂々のトップとなった。2位の作品は2016年9月刊行で、投票
までの期間が短かったこともあり、昨年の新刊読み物部門での上位入選は逃したが、
今回オールタイム部門で3票を獲得した。両作品とも、心揺れる思春期を描いた少し
切ないYA小説である。3位は2票を獲得した8作品で、そのほかは各1票。3位以
下については、やまねこ賞受賞作品リストをご覧いただきたい。
★1位『ペーパーボーイ』 ヴィンス・ヴォーター作 原田勝訳 岩波書店
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吃音に悩む11歳の少年ヴィクターは、夏休みのあいだ、友だちの代わりに新聞配達
をすることになった。そのなかで個性的な人たちと出会い、思いがけない事件にも巻
きこまれて、戸惑いながらも成長していく。一人称で語られるこの物語にはコンマが
ほとんどない。話すと息つぎばかりしてしまうので、タイプライターを使うときぐら
いは点を打ちたくないからだ。そんな主人公の文章を、読点なしで見事に再現した訳
者の工夫がすばらしい。2014年ニューベリー賞オナー作品。
◎主人公の気持ちがよく分かる。導き手となる知恵者の存在に励まされます。(キャ
メル)
◎読者になれた幸運に感謝。(Incisor)
◎スピロさんとのやりとりがいい。読点がないのに自然に読めるのがすごい。(モリ
ー)
◎周囲の人たちの細かいエピソードもよかった。登場人物たちのその後を頭のなかで
思い描いている。(hanemi)
◎時代と季節と、吃音の少年の苦悩と、閉塞感に緊張して読み進めながら、最後の最
後に感じるこの爽やかさよ! すてきな大人がいっぱい出てくるのもいい。(くるり)
◆2位『飛び込み台の女王』 マルティナ・ヴィルトナー作 森川弘子訳 岩波書店
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“飛び込み台の女王”カルラは、ナージャにとって親友であり、飛び込み競技でのラ
イバル、そしてあこがれの選手だった。ところが、ある日を境にカルラが飛び込めな
くなったことで、すべては一変し――。エリート選手として、周囲からの期待とプレ
ッシャーにさいなまれつつ生きる少女たちの等身大の姿を、リアルに描いた友情と成
長の物語。2014年ドイツ児童文学賞児童書部門受賞作。
◎思春期前半の少女が主人公のスポーツ小説として、今まで読んだなかでベスト。
(hanemi)
◎飛び込みという競技と13歳の少女たちの危うさのシンクロが見事で、スポーツ物と
して骨格がしっかりしていながら、児童書でしか書き得ない人生の深い哲学がある。
(くるり)
【参考】
▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm
▽やまねこ賞大賞受賞作品一覧(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/ichiran.htm
(山本みき/小島明子/森井理沙/牛原眞弓) |