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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集
オーストラリア児童図書賞(オーストラリア) レビュー集:1 |
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最終更新日 2008/08/01 レビューを1点追加
高学年向け・低学年向け部門レビュー集 /
幼年向け・絵本・ノンフィクション部門レビュー集 |
このレビュー集について
10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」や「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。
"Saving Francesca" * "Bob the Builder and the Elves"『ボブとリリーといたずらエルフ』 * "By the River" * "The Red Shoe"←追加
2004年オーストラリア児童図書賞高学年向け部門受賞
"Saving Francesca" (2003) by Melina Marchetta (未訳読み物) |
その他の受賞歴 |
『フランチェスカを救って』 (仮題) フランチェスカはシドニーに住む高校2年生。今年から転校した高校は元男子校で居心地が悪い上、たった30人しかいない女子学生ともあまり馴染めず、楽しくない。ほんとはもっと外交的な性格のはずなのに、いつからか、おとなしいタイプにおさまってしまった。そんな時、いつもエネルギッシュな母が急にうつ状態になってしまい、家の中に重苦しい空気が流れ出す。学校でも家でも悩み多き16歳。そんなフランチェスカを救ってくれるのは、一体誰?
本当の自分、本当の友情が見えないでいるティーンエージャーの姿を、ユーモアを交えながらリアルにとらえている。主人公をとりまく若者たちの姿も生き生きとして魅力的に描かれていて、同年代の読者が共感できる作品だ。 (かまだゆうこ) 2008年5月公開 |
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1999年オーストラリア児童図書賞低学年向け部門オナーブック
"Bob the Builder and the Elves" (1998)
Emily Rodda エミリー・ロッダ作 Craig
Smith 絵 『ボブとリリーといたずらエルフ』 深沢英介訳 宮崎耕平絵 そうえん社 2007年 |
その他の受賞歴 |
家を建てたり工事をしたりするのが仕事のボブのアパートに、ある日突然、エルフたちが大勢おしかけてきた。ひとり暮らしのボブは、少し散らかっているくらいが好きなのに、エルフたちに家中をピカピカに掃除されてしまう。おまけに、仕事に着ていく長靴や服まできれいにされ、仕事仲間にひやかされるはめに……。「何が何でも追い出してやる!」と、いきりたつボブだったが、追い出す方法がわからない。さて困ったぞ。誰に聞けばいいだろう。
ファンタジーが普通の生活の中に入り込んできて困ったことになる様子を、楽しく描いた作品。似たような作品は、座敷わらしなどの昔話からはじまって、今でも数多くあるので、子どもたちも、すんなり受け入れるだろう。ただ、エルフにはあまりスポットライトが当たらず不思議な存在のままで終わっている。 (植村わらび) 2008年5月公開 |
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2005年オーストラリア児童図書賞高学年向け部門オナーブック
"By the River" (2004) by Steven Herrick (未訳読み物) |
その他の受賞歴 |
14歳になるハリーは、オーストラリアの片田舎でお父さんと弟のケイスの3人で暮らし。小さな町の生活は単調で、人々はドラマチックな人生とは無縁な顔をしているけど、本当は、だれもが少しだけつらいことを背負ってひたむきに生きている。けんかの強いジョニーは不良の兄や酒ばかり飲む父のことで悩んでいるし、極上のオレンジケーキをくれた優しいリンダは、ある年の洪水で溺れ死んでしまった。密かに憧れていたミス・スペンサーは未婚のまま身ごもって、逃げるように町をあとにする。亡くなった妻を心から愛していたお父さんは、お母さんが贈ったハンカチに毎日きちんとアイロンをかけ、胸ポケットに忍ばせて仕事に出かける。つらいこと、冴えないこと、小さな楽しみや、美しい瞬間、すべてをまっすぐな視線で見つめながら、ハリーはゆっくりと大人になっていく。 表紙にひかれて購入したものの、本を開いたときは「詩集だったか!?」と驚いた。しかし、いくつもの詩がなめらかに連なってハリーの日常が鮮やかに描き出されており、物語の世界に入るうえで表現形態の特異性はまったく障害にならなかった。むしろ、厳選された言葉だからこそ、絵や音楽のようにダイレクトに響くように思えた。スティーブン・キングの小説をもとに製作された『スタンド・バイ・ミー』という映画を記憶されている方は決して少なくないと思うが、この本から香る空気はあの映画に似ている。全体的に悲しい出来事が多いのに暗さがなく、多感な少年の目から見た町や人、自然が等身大で力強く浮き上がってくる。ハリーの少年らしい考えかたに笑いがもれたり、洗練されているとはいえない町の人たちの、なにげないしぐさににじむ愛情にせつなくなったり、ああ、生きるってこういうことだなと思った。詩に対する見かたが変わる作品だ。 (岡本由香子) 2008年5月公開 |
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2007年オーストラリア児童図書賞高学年向け部門オナーブック
"The Red Shoe"(2006) by Ursula Dubosarsky ウルスラ・デュボサルスキー 追加 |
その他の受賞歴 |
物語は、6歳の女の子マチルダが、姉のフランシスにねだって有名なアンデルセンの童話『赤い靴』を読んでもらっているところから始まる。マチルダは、お母さんと2人の姉とともにシドニーに住んでいる。1956年のシドニーはまだ辺鄙な片田舎町。友達の家も離れているので、遊び相手はフロリアルくらいだ。フロリアルはある日、ラジオから飛び出してきた妖精で、マチルダにもその姿は見えないが、声だけははっきりと聞こえる。なかなかの毒舌家だ。お父さんは船乗りで、めったに家に帰ってこない。そのかわり、お父さんの弟であるポール叔父さんがしょっちゅう家を訪ねてくる。お隣はひとり暮らしの偏屈なおじいさん。マチルダのお父さんと同じく戦争経験者で、日本人とインディアンが大嫌いだ。
出だしはメルヘンチックだが、物語は抑えたトーンで淡々と流れていく。1956年の4月8日から4月30日までの新聞記事が各章の最後に順に織り込まれている。なぜ、赤い靴なのか、なぜ、新聞記事なのか、それがはっきりしないまま読み進み、最後になってすとんと腑に落ちるのが快感である。読者はマチルダと一緒になって日々の出来事を体験していくうちに、新聞記事と日常が不思議な一致をみせていることに気づく仕掛けだ。記事は当時の実際の新聞から抜き出してある。この本が高い評価を受けた理由は、冷戦時代のオーストラリアで実際に起きた出来事と創作の世界を巧みに交差させながら、家族のあり方や、戦争の傷について、押しつけがましくなく、それでいてリアルな重さをもって示唆しているところだと思う。 (岡本由香子) 2008年8月公開 |
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