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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> オーストラリア児童図書賞レビュー集(幼年向け・絵本・ノンフィクション部門)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

オーストラリア児童図書賞(オーストラリア) レビュー集:2
CBCA Children's Book of the Year Awards

(幼年向け部門 Early Childhood)
 

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最終更新日 2008/05/01 新規公開(4点)  2008/08/26 情報を一部追加

高学年向け・低学年向け部門レビュー集 / 幼年向け・絵本・ノンフィクション部門レビュー集

オーストラリア児童図書賞リスト(やまねこ資料室)   
オーストラリア児童図書賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。


"Refugees" * "Grandpa and Thomas" * "You'll Wake the Baby!" * "Let's Get a Pup!"『いぬがかいた〜い!』 * "Lizzie Nonsense"『ゆめみるリジー』←追加


2005年オーストラリア児童図書賞絵本部門オナーブック

"Refugees" (2003) David Miller デイビッド・ミラー作 (未訳絵本)

その他の受賞歴


 線路を超え、その向こうの町を超えたところにある大きな古い木の下の沼地に、2羽のカモが住んでいた。水にもぐり、えさをとり、夜は小さな島で眠る平穏な日々は、ある日、沼地に大きな音を立てながら入り込んできたダンプカーに奪われてしまう。沼地は埋め立てられ、行き場所のなくなったカモは、新しい住処を探すために旅立った。

 紙で作った立体的な絵と鮮やかな色使いが魅力的な作品だ。紙が作り出すクリアーな線と、幹の白と葦のグリーン、赤い空に青い波など色のコントラストが美しい。カモやカモメの羽、犬の毛に技術の細かさが表れている。
 静かに淡々と語られるカモの危険な冒険は、国を追われ「難民」となった人々がたどる道と重なっているように思えた。 タイトルには、そういう意味も込められているのかもしれない。

(かまだゆうこ) 2008年5月公開

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2004年オーストラリア児童図書賞幼年向け部門受賞作

"Grandpa and Thomas" (2003)
 Pamela Allen パメラ・アレン作 (未訳絵本)

その他の受賞歴
 
2004年NZP童書及びヤングアダルト(YA)小説賞絵本部門候補作品
 2004年ラッセル・クラーク賞候補作


『おじいちゃんとトーマス 夏の海』(仮題)

 ある晴れた日、ビーチにやって来たおじいちゃんとトーマス。トーマスはバケツとスコップを持ち、おじいちゃんはバッグ、ピクニック用のしきもの、そしてグリーンのビーチパラソルを腕に抱えて。ビーチに行くときは、もちろん、おそろいの白いぼうしも忘れません。お気に入りの場所を見つけたら、さっそくパラソルをひろげて。海の音を聞きながら、ふたりの楽しい時間が始まります。

 砂山作りに水遊び、パラソルの下のピクニック……。いつものビーチで過ごすふたりの数時間が、飾らない絵と選び抜かれた言葉で描かれている。おじいちゃんとトーマスの間に流れるのは、リズミカルな寄せ返す波の音。5歳の娘は、この音、私も知っているよ、という笑顔で歌うように読んでくれた。
 オーストラリアを代表する絵本作家、パメラ・アレン。”Pamela's books are full of the music of language” と評されるが、まさにその通り。私はこの作家の魅力を、子どもと一緒に読むことを通して教えてもらった。彼女の作品は声に出して読むと、言葉の繰り返しによる軽妙さと話の展開がとてもうまくかみ合って、そのリズムのよさにのせられた子どもたちを楽しい気分にさせる。一人で文字が読める子なら、「今度は自分で読んでみたい」と自然に思うようになるだろう。言葉の持つリズムの楽しさや重要さについて改めて考えさせられる。

(かまだゆうこ) 2008年5月公開

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2001年オーストラリア児童図書賞幼年向け部門受賞作

"You'll Wake the Baby!" (2000)
 Catherine Jinks キャサリン・ジンクス作 Andrew Mclean アンドリュー・マクリーン絵 (未訳絵本)

その他の受賞歴


『シー! 赤ちゃんを起こさないで!』 (仮題)

 今日は雨。アニーと弟のアンディーは、家の中でモンスターごっこをして遊んでいます。でもあまりに騒がしいので、「シー!赤ちゃんが目を覚ましちゃうでしょう」と、ママに注意されてしまいました。そう、幼い弟は今、おねんね中なのです。じゃあ、静かな遊びをしようと「動物ごっこ」や「学校ごっこ」を考えるのですが、夢中になるうちに、またママの言いつけを忘れてしまいます。さて、二人は最後まで赤ちゃんを起こさないでいられるでしょうか……。

 題名も、中身も一目で見て気に入った作品。どこにでもありそうな、雨の日の幼い子どもたちの様子を、ユーモアを効かせてほほえましく描いている。 退屈な雨の日、何度注意されても、つい忘れて家の中で騒いでしまう元気な姉と弟に、同じ年頃の幼い読者は自分の姿をぴったりと重ね合わせることが出来るだろう。そして、パパやママはこの本を読み終わるころ、ふっと優しい笑顔になれるはず。
 オーストラリアでは絵本作家、挿絵画家として広く知られているアンドリュー・マクリーン。彼の絵の魅力を一言でいうと、「自己主張しすぎない」ところだと思う。だからこそ、読者は親しみを持って、その絵の中にすっと溶け込んでいける。スケッチブックにさらさらっと描いたようなペン使いと、水彩絵の具でうすく色づけられた絵から伝わってくるのは、何でもない日常の中にある、しあわせな時間だ。

(かまだゆうこ) 2008年5月公開

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2002年オーストラリア児童図書賞幼年向け部門受賞作

"Let's Get a Pup!" (2001)
 Bob Graham ボブ・グラハム作

(米国版タイトル)"'Let's Get a Pup!' Said Kate"

『いぬがかいた〜い!』 木坂涼訳 評論社 2006年
 やまねこ公式レビュー 月刊児童文学翻訳2002年6月号

その他の受賞歴 2001年度ケイト・グリーナウェイ賞候補作
 2002年ボストングローブ・ホーンブック賞絵本部門

 2001年 ASPCA Henry Bergh Children's Book Award〈アメリカ〉
 2001年 The Bulletin of the Center for Children's Books Blue Ribbon〈アメリカ〉絵本部門


 毎晩いっしょに寝ていた猫のタイガーが逝ってしまってから、なんだかベッドが広すぎる。でも、季節の移りかわりとともにケイトの心もうごめきはじめた。いぬがかいた〜い! ケイトとママとパパの三人がさっそく向かったのは犬救済センター。そこには、住むところのないひとりぼっちの犬たちがたくさんいて、新しい家が見つかるのを待っていた。うちの家族にぴったり、って気がしたのが、人なつっこくて元気いっぱいの子犬デイブだったんだけど……。

 欧米諸国では、捨てられたり迷ったりして施設に保護された犬猫の7〜8割が新しい飼い主のもとに引きとられ、残りの子がやむなく殺処分されるという。日本の場合、里親が見つかるのは1割未満、なんと9割以上が殺処分されている。犬や猫と暮らしたいという気もちのある人には、ペットショップやブリーダーのところではなく、ぜひ収容施設に足を向けてほしいと願わずにはいられない。
 動物ものの本のなかにも、そんな思いをこめて、現状の悲惨さを真正面から訴えた作品がある。それはそれで大きな意義をもっているのだが、実際に手にとってもらえるかどうかは微妙だろう。人間社会の残酷な側面を突きつけられるのは耐えがたいと感じる人も少なくないからだ。
 その点、この絵本には、どんな人の心のなかにも するりと入りこんでいく軽妙さがある。どことなく『ピーナッツ』をほうふつとさせるコミックっぽい画風のイラストは、描きこまれた小道具ひとつひとつに、クスッと笑ってしまうリアリティがあって楽しい。おはなしも前向きで希望に満ちている。ひとりの人間にできることなんて限られているけれど、じつはその〈ひとりがせいぜいできること〉こそが何よりもたいせつだと気づかせてくれる。それに、救うつもりでいるこちらのほうが、ほんとうは救われているってことにも!

(雲野 雨希) 2008年5月公開

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2005年オーストラリア児童図書賞 絵本部門ショートリスト

"Lizzie Nonsense" (2004) Jan Ormerod ジャン・オーメロッド 文・絵 追加
『ゆめみるリジー』 はやかわゆか訳 アールアイシー出版 2007.08

その他の受賞歴
・2006年IBBYオナーリスト(オーストラリア)


 リジーは両親と赤ちゃんと森の奥で暮らしている。お父さんの仕事は、ビャクダンの木を荷馬車に積み、80キロもの道のりを運ぶことだ。だから一度出かけると幾日も家を留守にする。リジーとお母さんと赤ちゃんだけの生活が始まる。周囲にだれも住んでいない森の小さな家では、朝の水くみから始まって、畑仕事、裁縫、料理、山のような仕事がまっている。時には森からとんでもないお客までやってくる。けれどもどんな時も、どんな場合も、リジーはさまざまに想像し、過酷な現実を変えてしまう。ほら、小さな丸木小屋はお城になるし、質素な食事だって特別なご馳走に!

 オーストラリアの開拓生活? なんて大変、なんて寂しい、なんておっかない生活。ちっともいいことが思い浮かばない。ところが、ところが、このリジーときたら、抜群の空想力に創造力。どんなに侘しく、寂しく、辛い仕事にも、ユーモアと前向きなエネルギーを与えることができるのだ。もう天才的!
 母と子がしっかり寄り添い、自分たちの生活を守っていく。ほんとはとても心細いだろうに。暖かな絵はそれすら感じさせない。ポッサムやカンガルーや、ディンゴさえ、自然の脅威としてではなく、3人を見守る存在に見える。とてもステキだ。長い留守からお父さんが戻ってくる場面では、一人ひとりのあふれる思いが、まるで光のようにほとばしり出て胸を打つ。家族愛の爆発。素晴らしい!!

(尾被ほっぽ) 2009年5月公開

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