●速報1●2006年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞
発表!!
現地時間の1月23日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA―American
Library Association)が、昨年米国で出版された子どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門(YALSA)になる。
各賞の受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"Criss Cross" by Lynne Rae Perkins (Greenwillow Books/HarperCollins Publishers)
☆Honor Books(4作)
"Whittington" by Alan Armstrong (Random House)
"Hitler Youth: Growing Up in Hitler's Shadow"
by Susan Campbell Bartoletti (Scholastic Nonfiction/Scholastic)
"Princess Academy" by Shannon Hale (Bloomsbury Children's Books)
"Show Way" by Jacqueline Woodson
(G.P. Putnam's Sons/Penguin Young Readers Group)
受賞作 "Criss Cross" は、1999年に出版された "All Alone in the Universe"
の続編。アメリカの小さな町に住む14歳の少年少女たちが人生の岐路に直面し、人と人とのふれあいの中で自分の生きる道を模索する物語。文章には詩や俳句などが挿入され、登場人物の心情を叙情的に表現している。美しい多数のイラストも描いた
Lynne Rae Perkins は絵本作家としても知られ、2004年に "Snow Music"
でボストングローブ・ホーンブック賞(絵本部門)のオナーに選ばれた。
オナーの "Whittington" は、イギリスの民話 "Dick Whittington and His Cat"
の再話を盛り込んだ短編で構成される。ある農園にやってきた猫は人間と会話ができ、両親がいない農園の姉弟と仲良くなる。弟がディスレクシア(失読症)で苦しんでいるのを知ると、猫は自分の名前の由来となった
Dick Whittington の物語を使って少年を勇気づけ、病の克服に手を貸す。作者の Alan Armstrong
は作家として執筆する傍ら、編集者としても活動している。
"Hitler Youth: Growing Up in Hitler's Shadow"
は、ナチス支配下のドイツを描いたノンフィクション。Hitler Youth
(ヒトラーユーゲント)はナチスの理念を青少年に教育するための組織。その中には青少年ならではの無垢さからナチスに利用される者や、逆にナチスの政策に疑問を抱き反対運動を起こす者もいた。そんな複数の若者たちの姿を、当時の日記や手紙、現在のインタビューを盛り込み描いている。作者
Susan Campbell Bartoletti は、ノンフィクションから絵本まで多数の児童書を出版。"Black Potatoes: The Story
of the Great Irish Famine, 1845-1850" で、2002年ロバート・F・サイバート知識の本賞に選ばれた。
"Princess Academy" は、Danland
という架空の王国が舞台。石切りをして働いていた14歳の少女が、予言により王子の花嫁候補として特別な学校に入学。プリンセス候補が多数ひしめく中、主人公は持ち前の機知と才覚で自分の道を切り開いていく。作者
Shannon Hale は、女優業や海外でのボランティアを経験し、モンタナ大学で創作を学んだあと作家として活動している。
"Show Way" は、作者 Jacqueline Woodson
の曾祖母をモデルにした物語。7歳のときに奴隷として売られてきた少女は、パッチワーク・キルトにメッセージを綴ることを学ぶ。Show Way
という模様には秘密のメッセージが隠されており、それは代々娘たちに、キルトの手法とともに伝えられてゆく。Woodson
は、自身のルーツであるアフリカ系アメリカ人を主人公にした物語を多数発表。2001年、"Miracle's Boys"(『ミラクルズ
ボーイズ』さくまゆみこ訳/理論社)でのコレッタ・スコット・キング賞など、数多くの受賞歴がある。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/newbery.html
▼Lynne Rae Perkins の公式ウェブサイト(HarperCollins Children's Books 内)
http://www.harperchildrens.com/authorintro/index.asp?authorid=18005
▼Alan Armstrong のインタビュー(Kidsreads.com 内)
http://www.kidsreads.com/authors/au-armstrong-alan.asp
▼Susan Campbell Bartoletti の公式ウェブサイト
http://www.scbartoletti.com/
▼Shannon Hale の公式ウェブサイト
http://www.squeetus.com/index.asp
▼Jacqueline Woodson の公式ウェブサイト
http://www.jacquelinewoodson.com/
▽ニューベリー賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
▽ボストングローブ・ホーンブック賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/bghb/index.htm
▽ロバート・F・サイバート知識の本賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/sibert/index.htm
▽ジャクリーン・ウッドソン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/w/jwdsn.htm
(井原美穂)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"The Hello, Goodbye Window" by Chris Raschka, written by Norton
Juster
(Michael di Capua Books/Hyperion Books for Children)
☆Honor Books(4作)
"Rosa" by Bryan Collier, written by Nikki Giovanni (Henry Holt and
Company)
"Zen Shorts" by Jon J. Muth (Scholastic Press)
"Hot Air: The (Mostly) True Story of the First Hot-Air Balloon Ride"
by Marjorie Priceman
(An Anne Schwartz Book from Atheneum Books for Young Readers, Simon &
Schuster)
"Song of the Water Boatman and Other Pond Poems"
by Beckie Prange, written by Joyce Sidman (Houghton Mifflin Company)
コールデコット賞に輝いた Chris Raschka は、"Yo!
Yes?"(『やあ、ともだち!』泉山真奈美訳/偕成社)で1994年コールデコット賞オナーに選ばれている。受賞作は2005年ボストングローブ・ホーンブック賞(絵本部門)のオナーにもなった。小さな女の子と祖父母の交流を描いた作品だ。パステル、油彩、水彩をたんねんに重ね、多くの色を使った
Raschka の絵は、徹底して女の子の視点から描かれ、Norton Juster の文章を盛り上げている。
オナーには4作品が選ばれた。"Rosa"
は、2006年コレッタ・スコット・キング賞画家部門も受賞。公民権運動へと続くバス・ボイコット運動のきっかけとなった、Rosa Parks
の勇気を称えた作品。Bryan Collier
はコラージュと水彩を使った独特な画法で多くの作品を手がけている。2002年コールデコット賞オナーに選ばれた、"Martin's Big Words: The
Life of Dr. Martin Luther King,
Jr."(『キング牧師の力づよいことば――マーティン・ルーサー・キングの生涯』ドリーン・ラパポート文/もりうちすみこ訳/国土社)が邦訳されている。
"Zen Shorts"
は、禅をテーマにした作品。ある日パンダが3人のきょうだいの前に現れる。パンダと子どもたちがやりとりする場面は淡い色合いの水彩画、パンダが禅の話をする場面では墨絵を意識したモノクロの絵、と使い分けている。Jon
J. Muth が文章も書いた作品に、"Stone Soup"(『しあわせの石のスープ』三木卓訳/フレーベル館)がある。
Marjorie Priceman も "Zin! Zin! A Violin"(『ツィン! ツィン! ツィン! おたのしみの はじまり
はじまり』ロイド・モス作/角野栄子訳/BL出版)で1996年コールデコット賞オナーになった。今回選ばれた "Hot Air: The (Mostly) True
Story of the First Hot-Air Balloon Ride"
は、世界で初めて気球を飛ばしたモンゴルフィエ兄弟の物語。気球に乗せた、動物たちの視点から空の冒険を描いた。
"Song of the Water Boatman and Other Pond Poems"
は詩集。池のまわりにいる生物の生態を、季節を通して11篇の詩で描く。Beckie Prange のあたたかみのある木版画が、自然界への理解を深めてくれる。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/caldecott.html
▼Bryan Collier の公式ウェブサイト
http://www.bryancollier.com/
▼Marjorie Priceman のページ(Bookpage 内)
http://www.bookpage.com/0507bp/meet_marjorie_priceman.html
▼Beckie Prange のページ(Houghton Mifflin Company 内)
http://www.houghtonmifflinbooks.com/catalog/authordetail.cfm?authorID=10384
▼Beckie Prange の公式ウェブサイト(近日オープン予定)
http://wildlifewoodcuts.com/
▽コールデコット賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽クリス・ラシュカ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/r/craschka.htm
▽ブライアン・コリアー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/c/bcollier.htm
(竹内みどり)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"Looking for Alaska" by John Green (Dutton Books/Penguin Group)
☆Honor Books(3作)
"Black Juice" by Margo Lanagan (EOS/HarperCollins)
"I am the Messenger" by Markus Zusak (Alfred A. Knopf/Random House)
『メッセージ The First Card』
マークース・ズーサック/立石光子訳/ランダムハウス講談社
『メッセージ The Last Card』
マークース・ズーサック/立石光子訳/ランダムハウス講談社
"John Lennon: All I Want is the Truth" by Elizabeth Partridge
(Viking/Penguin Group)
"A Wreath for Emmett Till" by Marilyn Nelson (Houghton Mifflin
Company)
プリンツ賞は、作品の分野や作者の居住地に制限がなく、前年にアメリカで出版されたYA作品なら、過去に他国で出版された作品も対象となる。
受賞した "Looking for Alaska" は、デビュー作で受賞の栄誉に輝いた John Green の作品。16歳の主人公 Miles
は、つまらない日常にうんざりし、新しい出会いを求めてアラバマに旅立つ。寄宿学校を舞台に、過熱した友情が悲劇につながっていく様子を、ユーモアを交えながら、鋭い洞察力で描いている。作者
Green は27歳。主人公と同じく、アラバマの高校で寄宿生活を送った経験を持つ。
オナーは4作品。"Black Juice"
は10編の物語が収められた短編集。日常の一場面が、見方や捉え方によっては全く異質の世界になってしまう不思議さを、創意工夫された読みやすい文章で描いている。作者
Margo Lanagan は、1960年生まれ。現在オーストラリアで作家活動をしている。"I am the Messenger"
は、2003年オーストラリア児童図書賞 Older Readers 部門を受賞した "The Messenger"(『メッセージ The First
Card』『メッセージ The Last Card』立石光子訳/ランダムハウス講談社)の米国版(レビューは本誌2003年9月号書評編「注目の本」を参照)。作者
Markus Zusak は、2000年にデビューし、現在オーストラリアで最も注目される若手作家のひとり。"John Lennon: All I Want is
the Truth" では、作者 Elizabeth Partridge が、生前の Lennon
の手記とインタビューを元に、彼の生き方を鋭く描き出すことに成功している。Elizabeth Partridge
は、1993年にデビューして以来、数数の児童書、伝記、歴史フィクションなどを発表している。"A Wreath for Emmett Till"
は、2005年ボストングローブ・ホーンブック賞(詩とフィクション部門)のオナー作品。1955年にミシシッピー州で実際に起きた、黒人少年 Emmett Till
のリンチ殺人事件を題材としている。この事件は、当時の公民権運動の触媒ともなった出来事だ。作者 Marilyn Nelson
は、オハイオ州生まれ。数々の文学賞で高い評価を受けているが、邦訳はまだない。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼John Green の公式ウェブサイト
http://www.sparksflyup.com/
▼Elizabeth Partridge の公式ウィブサイト
http://www.elizabethpartridge.com/
▼Margo Lanagan のウェブサイト(Allen and Unwin 内)
http://www.allenandunwin.com/authors/apLanaga.asp
▼Markus Zusak のウェブサイト(Teenreads.com 内)
http://www.teenreads.com/authors/au-zusak-markus.asp
▼Marilyn Nelson の公式ウェブサイト
http://web.uconn.edu/mnelson/mainframe/
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
▽オーストラリア児童図書賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/au/cbca/index.htm
▽"The Messenger" のレビュー(本誌2003年9月号書評編「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/09b.htm#myomi
▽マリリン・ネルソン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/n/mnelson.htm
(村上利佳)
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