●速報1●2007年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞
発表!!
現地時間の1月22日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA:American Library Association)が、昨年米国で出版された子どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門(YALSA:Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/
▼YALSA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/yalsa/yalsa.htm
各賞の受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"Higher Power of Lucky" by Susan Patron (Simon & Schuster/Richard Jackson)
☆Honor Books(3作)
"Penny from Heaven" by Jennifer L. Holm (Random House)
"Hattie Big Sky" by Kirby Larson (Delacorte Press)
"Rules" by Cynthia Lord (Scholastic)
本年のニューベリー賞は、Susan Patron の "The Higher Power of Lucky" が受賞した。孤児の養護施設に入れられることになった10歳の少女 Lucky が、その運命から逃れるべく、子ども同士で助け合いながら冒険を重ねていく物語。肉体的にも精神的にも力強く生き抜いていく子どもたちの様子が描かれている。作者 Patron は図書館勤務のかたわら、絵本や読み物を数多く発表しているが、本賞の受賞は今回が初めてだ。
オナーには3作品が選ばれた。Jennifer L. Holm の "Penny from Heaven" の舞台は1953年の夏。11歳の少女 Penny が、従兄弟とともに過ごす夏の様子が描かれている。Holm は1999年にもデビュー作の "Our Only May Amelia" がオナーに選ばれており、Baby Mouse シリーズや Stink Fries シリーズなど、子どもたちに人気が高い作品を多く発表している。
主人公 Hattie の一人称で語られるのが "Hattie Big Sky"。1918年、16歳の孤児 Hattie は自分の居場所を求めて、モンタナを目指してアイオワから旅立つ。生き生きとした情景描写と、史実に基づいたストーリー展開がすばらしい。作者 Kirby Larson は、アーノルド・ローベルの作品に感動し、児童書の作家を志すようになったという。
最後に紹介する作品は、Cynthia Lord の "Rules" だ。12歳の少女 Catherine は、自閉症の弟と仕事中毒の父、足の不自由な友だちとのかかわりを通して、一体なにが「ノーマル」なのか、そして、「ノーマル」である必要があるのかを考えていく。Lord 自身、自閉症の息子がおり、セラピー先で車いすに乗った少年親子と出会った経験があるという。作品の大部分はイマジネーションによるものだが、こういった経験がベースとなっているとのこと。ユーモアと洞察力に満ちたこの作品は、Lord のデビュー作である。
今年は奇しくも、受賞作、オナー作品ともに、主人公がすべて10代の少女という結
果になった。いずれの作家の作品も、邦訳はまだない。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/newbery.html
▼Jennifer L. Holm の公式ウェブサイト
http://www.jenniferholm.com/
▼"Hattie Big Sky" の公式ウェブサイト
http://www.hattiebigsky.com/index.html
▼Kirby Larson の公式ウェブサイト
http://www.kirbylarson.com/
▼Cynthia Lord の公式ウェブサイト
http://www.cynthialord.com/
▽ニューベリー賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
▽Jennifer L. Holm の作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/h/jholm.htm
(村上利佳)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"Flotsam" by David Wiesner (Clarion)
☆Honor Books(2作)
"Gone Wild: An Endangered Animal Alphabet" by David McLimans (Walker)
"Moses: When Harriet Tubman Led Her People to Freedom"
by Kadir Nelson, written by Carole Boston Weatherford (Hyperion/Jump at the Sun)
David Wiesner は、1992年の "Tuesday"(『かようびのよる』当麻ゆか訳/徳間書店)、2002年の "The Three Pigs"(『3びきのぶたたち』江國香織訳/BL出版)に続き、3度目のコールデコット賞受賞となった。その他にも2度オナーに選ばれており、もはや貫禄さえ感じられる。今回は、海辺にうちあげられた古いカメラを通してさまざまな海の風景を見せてくれるが、もちろん超現実の世界に魅せられた Wiesner ファンの期待が裏切られることはない。カメラのフィルムを現像してみると、そこには、写真を手にした子どもの写真、さらにウミガメの甲羅の上の移動都市や安楽椅子にすわるタコの写真など。そしてそれらの写真がつないでいくものとは……?
オナーには、コールデコット賞では新顔の作家による2作品が選ばれた。
David McLimans の "Gone Wild: An Endangered Animal Alphabet" はABC絵本。Aの Chinese Alligator(ヨウスコウワニ)からZの Grevy's Zebra(グレビーシマウマ)まで、アルファベットの文字そのものが絶滅危惧種の野生動物に形を変えている。白と黒のみのシンプルかつユーモラスなデザインは芸術的。それぞれに動物についての簡単な情報も添えられている。彼の絵は New York Times 紙や Washington Post 紙、Time 誌などで紹介され高い評価を得てきたが、本作品ははじめての絵本となる。
"Moses: When Harriet Tubman Led Her People to Freedom" は、自らも北部へ逃
亡し、後に地下組織のメンバーとして多くの黒人を自由へと導いた黒人女性ハリエット・タブマンを描いた作品。Carole Boston Weatherford による、神とハリエットの対話が中心となる詩的な文章と共に、Kadir Nelson の深みのある表情豊かな絵が高く評価され、本年度のコレッタ・スコット・キング賞画家部門も同時に受賞した(公式ウェブサイトで絵本の何ページかを見ることができる)。Nelson は他にも、2005年コレッタ・スコット・キング賞絵本部門に輝いた "Ellington Was Not a Street" など数多くの絵本を出版している。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/caldecott.html
▼David Wiesner のページ(Houghton Mifflin 内)
http://www.houghtonmifflinbooks.com/authors/wiesner/home.html
▼David McLimans のページ(Walker Young Readers 内)
http://www.walkeryoungreaders.com/books/catalog.php?key=583
▼Kadir Nelson の公式ウェブサイト
http://www.kadirnelson.com/
▼Carole Boston Weatherford の公式ウェブサイト
http://www.caroleweatherford.com/
▽コールデコット賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽デイヴィッド・ウィーズナー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/w/dwiesner.htm
(植村わらび)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"American Born Chinese" by Gene Luen Yang (First Second Books)
☆Honor Books(4作)
"Astonishing Life of Octavian Nothing, Traitor to the Nation, Volume One: The Pox Party" by M. T. Anderson (Candlewick)
"An Abundance of Katherines" by John Green
(Dutton Children's Books)
"Surrender" by Sonya Hartnett (Candlewick)
"The Book Thief" by Markus Zusak (Alfred A. Knopf)
"American Born Chinese" が、グラフィック・ノベルで初めてのプリンツ賞の栄誉に輝いた。アメリカの白人社会で生きていく中国系アメリカ人の少年たちの日常と、中国の寓話 "Monkey King(孫悟空)" とのエピソードで構成されたオムニバス作品だ。作者自身が体験した、偏見への戸惑いやコンプレックスが、ユーモラスなイラストとともに描かれる。作者 Gene Luen Yang は米国サンフランシスコ近郊に在住。高校で教鞭をとりながら、数々の一般向けグラフィック・ノベルの作品を発表。本作は、全米図書賞児童書部門の最終候補作品に選ばれた。
オナーに選出された "The Astonishing Life of Octavian Nothing, Traitor to the Nation, Vol.1: The Pox Party" は、2006年の全米図書賞児童書部門の受賞作。『フィード』(金原瑞人・相山夏奏共訳/理論社)などの作品が邦訳出版されている作家、M.T. Anderson による本作は、独立戦争時の米国ボストンが舞台。アフリカのある国の王女だった母と Octavian は、世間から隔絶してはいるが何不自由ない暮らしを送っていた。しかし母の死後、自分が恐ろしい目的のために監禁、教育されていると知り、逃亡を図る……。
"An Abundance of Katherines" は、昨年デビュー作 "Looking for Alaska"(『ア
ラスカを追いかけて』伊達淳訳/白水社)でプリンツ賞を受賞した作者 John Green の第2作だ。天才的な知能を持つ少年 Colin が、付き合う相手の名前はなぜか全員 Katherine。19人目の Katherine と別れたあと、親友とともに旅に出てテネシー州にたどり着いた。高校を卒業したばかりという、大人と子どもの中間の年齢の少年が、
新たな環境と出会いを通して大人へと成長していく。
"Surrender" は、オーストラリアの田舎町で展開するミステリアスな物語。抑圧的で冷酷な両親のもとで育つ孤独な少年は、いい子として生きる反面、恐ろしい顔を持っていた。ある日、同じ年頃の少年と出会い、ふたりはやがて街を恐怖に陥れる……。作者 Sonya Hartnett は、オーストラリア児童図書賞など、数々の受賞歴がある。邦訳に、『木曜日に生まれた子ども』(金原瑞人訳/河出書房新社、2002年ガーディアン賞受賞作品)などがある。
"The Book Thief" は第二次世界大戦中のドイツが舞台。読み書きができない主人公の孤児の少女は、盗んだ本で養父から文字を習った。そして少女は、空襲で動揺する人々や家でかくまっているユダヤ人の少年に、本を読んで聞かせるようになる。ナチス政権下の過酷な時代の中、本と言葉の持つ力を感動的に描いた長編。オーストラリアの作家 Markus Zusak は、昨年も "I am the Messenger"(『メッセージ The First Card』『メッセージ The Last Card』立石光子訳/ランダムハウス講談社)で本賞オナーに選ばれた。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼Gene Luen Yang のページ(First Second Books 内)
http://www.firstsecondbooks.com/geneYang.html
▼M. T. Anderson のページ(Walker Books 内)
http://www.walkerbooks.co.uk/M.T.-Anderson
▼John Green の公式ウェブサイト
http://www.sparksflyup.com/
▼Sonya Hartnett のページ(British Council 内)
http://www.contemporarywriters.com/authors/?p=auth03C18M044312635225
▼Markus Zusak のページ(Random House 内)
http://www.randomhouse.com/features/markuszusak/
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
▽全米図書賞児童書部門受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/nba/index.htm
▽ガーディアン賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/guardian/index.htm
▽オーストラリア児童図書賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/au/cbca/index.htm
(井原美穂)
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