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●特集●第21回やまねこ賞
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さる11月1日から17日までの間、やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、
当クラブ内オンライン投票所にて開催されました。やまねこ賞は、前年10月から本年
9月までに出版された邦訳児童書を対象に、会員がベスト5を選び、大賞作品を決定
するものです(読み物部門、絵本部門)。これに加え、会員が過去1年間に読んだ原
書と、新刊以外の邦訳児童書を対象とする、別賞(原書部門、オールタイム部門)も
設けています。新刊を対象とする読み物部門と絵本部門の大賞に輝いた作品の翻訳者
には、賞状と副賞の図書カードが贈られます。
▽やまねこ賞投票所
http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm
※本号に掲載しているコメントは、原則として投票時のままです。投票の様子は「こ
れまでのあゆみ( http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm#ayumi )」からご
覧いただけます。
「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考
に、当クラブの判断で決定しています。
やまねこ翻訳クラブは、会員・非会員を問わず、海外児童書を主とした本の話題が
書き込める「読書室掲示板」を運営しています。
http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm
★☆★☆【2018年 第21回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★
★大賞 『嘘の木』フランシス・ハーディング作 児玉敦子訳 東京創元社
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19世紀後半のイギリス。14歳の少女フェイスは家族とともにヴェイン島にやってく
る。博物学者である父サンダリーが島の洞穴の発掘調査に招かれたからだが、それは
口実。本当は父のそれまでの発見に捏造疑惑がかかり、一家は逃げるように移住して
きたのだった。しかし、やがて捏造の噂は島にも広がり、ほどなくサンダリーは不審
死を遂げる。フェイスは父が密かに育てていた「嘘の木」の力を使って、深く敬愛し
ていた父の汚名をすすごうとするが……。真相究明の過程でフェイスは何を見つけ出
したのか? 女性への制約が多い時代の中で、もがきながら自分の生きる道を模索す
るフェイスの姿が感動を呼ぶ、2015年コスタ賞児童書部門および最優秀賞受賞作品。
◎嘘を栄養として育つ木というファンタジー要素と父の死の真相を探るというミステ
リー要素を合わせ持つ、14歳の少女の成長物語であると同時に、ヴィクトリア朝に生
きるさまざまな女性たちの物語でもある。異なる立場の女性たちに対する作者のリス
ペクトを感じる。(hanemi)
◎冒頭から作品の世界にぐいぐい引き込まれました。(mapleleaf)
◎本当なのか嘘なのか、お話とわかっていながら混乱してしまった。たくさんの史実
を織り交ぜながら展開する手に汗握るミステリ。男たちがいかにもっともらしい嘘で
女を虐げてきたかもおしえてくれる。(NON)
◎主人公の、無謀さと表裏一体の勇敢な行動にハラハラしたり、事件の謎ときにぐん
ぐん引き込まれながら、一気に読みました。(ゆま)
◎閉塞で不気味な物語世界に貫かれるひとすじの光は、知りたい、学びを深めたいと
いう主人公少女の貪欲な探求心だった。その光が次なる時代への希望として心に残っ
た。(Incisor)
◎コスタ賞児童書部門&最優秀賞受賞作。女性の地位が低い時代に、少女の葛藤と奮
闘そして成長を描いた物語。父の死の謎、主人公の科学に対する情熱、女性の生きざ
まなど、読み応えたっぷり。(モリー)
☆~~~~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 児玉敦子さん ~~~~~~~~~~~~~~~☆
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| あこがれのやまねこ賞を受賞したなんて、夢のようです。『嘘の木』は、数年|
|前からこの作者の作品を追いかけてきて、念願かなって訳すことができた作品で|
|す。主人公の気持ちによりそいつつ、作者のつくりあげた独創的で緻密な世界が|
|少しでも伝わるようにと訳しました。この1年、多くの方のさまざまな感想に触|
|れて、この物語の奥深さを再認識してきましたが、本の目利きのみなさまに選ん|
|でいただき、感激を新たにしています。ほんとうにありがとうございました! |
☆ ☆
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◆2位 『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』
アンジー・トーマス作 服部理佳訳 岩崎書店
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黒人の少女スターは、家族とともに荒れた黒人街に住む自分と、裕福な白人家庭の
子どもが多い私立高校に通う自分とのギャップに違和感を覚えながら日々を過ごして
いた。そんなある日、幼なじみの少年カリルが警察官に射殺される。それを正当化す
るためカリルを極悪人に仕立て上げようとする警察。唯一の目撃者だったスターは、
カリルのために勇気を振りしぼり、ある行動に出る。本作は2017年ボストングローブ
・ホーンブック賞フィクションと詩部門など、各国で多数の児童文学賞を獲得してお
り、すでに映画化もされている。
◎厳しい内容で、殺されるところはこわかったけれど、愛がいっぱい。危険な地域に
住んでいても、愛情あふれる強い両親がいるスターをうらやましくも思った。
(みちこ)
◎現代もなお続く黒人差別問題が、生々しく描かれている。(SUGO)
◎フィクションだけれどアメリカの現状が描かれていて、衝撃だった。頭に刷り込ま
れた差別と偏見を取り払うのは難しい。負の連鎖を食い止めたい。(ちゃぴ)
◎これまで先輩作家たちが書いてきた世界を、88年生まれの作家が書いた。国も人種
も軽く乗り越えて、心に迫る作品。(ワラビ)
◎差別される黒人の思いや暮らしぶりが、生々しいほどリアルに伝わってきて圧倒さ
れました。(ベス)
◆3位 『フローラ』エミリー・バー作 三辺律子訳 小学館
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前向性健忘症を患う17歳の少女フローラは、記憶を数時間しかとどめておけない。
大事なことは腕やノートにメモしておく。しかし、あるパーティーの夜、親友のボー
イフレンドであるドレイクとキスしたことだけは記憶から消えない。フローラは両親
が家を留守にしている間に、極北の町スヴァールバルへ行ってしまったドレイクを追
って1人旅立つ。それは自分を探すための旅でもあった。「本当の自分」を何度も見
失いそうになりながら懸命に、必死に自立していく少女の物語。
◎もやもやした記憶喪失の霧を突破するフローラのむこうみずな行動力が気持ちいい。
そして霧のなかから浮かびあがる驚きの真相。びっくり。(BUN)
◎フローラの一人称語りにのめりこみ、ものすごい不安と恐怖におそわれた。それだ
け翻訳がすばらしいということ。真実がわかってくる後半は感動です。(Chicoco)
◎本当の意味で「自分を探す」旅をしたフローラの勇気の物語。ラスト、フローラを
支え続けた言葉の意味を知って震えた。(くるり)
◎恋愛ものだと思って避けていたけれど、恋愛ものではないと教えられて読んでみた。
たしかに恋愛ものではなかった。ミステリー的な要素もある。ちなみにスヴァールバ
ル諸島は『世界食べものマップ』に載っている(世界種子貯蔵庫があるから)。
(hanemi)
◆4位(2作同点) 『凍てつく海のむこうに』
ルータ・セペティス作 野沢佳織訳 岩波書店
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第2次世界大戦末期、東プロイセンでは、ソ連軍の略奪から身を守るため人々が必
死で避難先を求めていた。ナチス・ドイツは住民を船に乗せてバルト海経由でドイツ
へ送る作戦を計画。元々は豪華客船だった〈ヴィルヘルム・グストロフ〉号も投入さ
れる。船には、戦争によって絶望の淵に立たされ、自分の弱さや過ちと直面しながら
も懸命に生き抜いてきた4人の若者が乗り合わせることになった……。膨大な取材を
もとに、実際に起きた海運史上最大の惨事を4人の視点で描く歴史フィクション。
2017年カーネギー賞受賞作品。
◎骨太な歴史小説であり、4人の若者の心情をこまやかに描いた良質なYA。4つの
人生がひとつに撚り合わさっていくさまが見事。第二次大戦末期のバルト海という遠
い場所の出来事が他人事とは思えなくなる。海外文学の力を感じる本。(からくっこ)
◎歴史的な出来事を題材に、人間の強さや弱さが巧みに描かれていて感動しました。
(mamacho)
◎第二次世界大戦の終盤、東プロイセンから脱出する船に乗った4人の若者の物語。
あまり知られていない戦時中の悲劇的な史実に光をあてた歴史フィクション。辛く切
ない場面がつづきますが、多くの人に読んでもらいたい作品です。(anya)
◆4位(2作同点) 『星を見あげたふたりの夏』
シンシア・ロード作 吉井知代子訳 あかね書房
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母のいないさみしさを抱えていたリリーは、目の悪い愛犬ラッキーがブルーベリー
畑に迷い込んだのをきっかけに、ブルーベリー摘みの季節労働に来ていた少女サルマ
と出会う。ヒスパニックのサルマの家族は、仕事を求めて1年中国内を転々としなけ
ればならない。だが、そんな生活の中でも明るく積極的なサルマを見ているうちに、
引っ込み思案だったリリーは少しずつ新しいことに挑戦できるようになっていく。そ
して、サルマも……。ブルーベリーのように甘酸っぱく、さわやかな友情の物語。
◎最初の1行にやられてしまう作品はなかなかない。しかも訳語に。主人公の一人称
の語り口がいいから、共感させる力がすごくある。とても穏やかで幸福な読後感。ほ
んと、いい夏だったな。(NON)
◎友だちへの思い、犬への思いがひしひし伝わってくる。女の子の繊細な心の動きと
ともに、人種差別や家族の悲哀も描かれる。おばあちゃんの心がとけたときには、思
わず涙が……。(モーモー)
◎ふたりの友情と、悲しみや孤独を受け入れて解放する心の動きが丁寧にやさしく描
かれている。お互いに小さな勇気を出し合って一歩前に進む姿が本当に愛おしい。
(くるり)
◆6位以下の作品
6位「MARCH」シリーズ
7位『エヴリデイ』
8位『ハックルベリー・フィンの冒険』(上・下)
9位『テディが宝石を見つけるまで』
10位『泥』『列車はこの闇をぬけて』(2作同点)
★☆★☆【2018年 第21回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★
★大賞 『ツリーハウスがほしいなら』
カーター・ヒギンズ文 エミリー・ヒューズ絵 千葉茂樹訳 ブロンズ新社
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誰もが子どものころに抱いたことのある「木の上で暮らしてみたい」という願望。
それを豊かな想像力と躍動感あふれるイラストで形にした、夢のつまった絵本が大賞
に輝いた。細かなところまで描きこまれた絵は、何度見ても新たな発見がある。手づ
くりのブランコに乗ったり、木の上に図書館を作ったり、友だちに秘密を打ち明けた
り……。自分ならどんなツリーハウスが作りたい? ページをめくりながら、そんな
空想をめぐらせるのも楽しい。髪の色も肌の色もさまざまな子どもたちが自然のなか
で一緒に遊ぶ様子に、作者のメッセージを感じる。
◎ページごとにアングルの変化する絵にひきこまれ、お気に入りのツリーハウスの住
人になっていた。絵本の世界にこんなに入りこんだのは子ども時代以来。ツリーハウ
スライフにすっかり癒され、エネルギーをもらった。(Incisor)
◎身近なものから、壮大なものまで、想像が無限に広がる。(ちゃぴ)
◎どれだけの草むらを描き分けるのだろうとおもうほど多彩なヒューズの緑がすきで
す。スケールの大きな話だから少しまちがうととりとめがなくなってしまいそうなの
ですが、きびきびとした訳文が読者を引っぱってくれます。(NON)
◎細かく描きこまれた絵をながめながら、ツリーハウスへのあこがれが一気に膨らん
だ。(asayaka)
☆~~~~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 千葉茂樹さん ~~~~~~~~~~~~~~~☆
| |
| 2年連続で大賞に輝くなんて、びっくりですし、感激です。なにせ、自分の名|
|前が名前なので、木にまつわる絵本ならまかせておけという気持ちで取り組んだ|
|のですが、実はとても大変でした。原文はとても詩的で独特な感性に満ちていて|
|……。この作品ほど繰り返し繰り返し推敲を重ねたものは、かつてなかったほど|
|なので、その分、評価していただけるのはうれしい! ありがとうございまし |
|た。わたしもツリーハウス、ほしいなあ。まずはゆったりあわてずに、空を見あ|
|げよう。 |
☆ ☆
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◆2位 『ジャーニー 国境をこえて』
フランチェスカ・サンナ文・絵 青山真知子訳 きじとら出版
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戦争は、家も、ふるさとも、そしておとうさんも奪っていった。無駄のない線と色
づかいが特徴的な絵、淡々と綴られる文章が、子どもたちとおかあさんの旅を描く。
監視の目をかいくぐり、国境をこえ、はてしなく広い海を渡って、親子の旅には終わ
りがない。彼らはいつか新しいふるさとを見つけることができるのだろうか? 作者
は難民へのインタビューにもとづき、この絵本を作ったという。今この瞬間にも、こ
うした家族が世界各地で苦難の日々を送っていることに気づかされる。2017年ケイト
・グリーナウェイ賞アムネスティCILIPオナー賞受賞。
◎恐怖と不安ではりつめた旅を進める3人が、それぞれ涙を流す場面に胸をしめつけ
られる。(Chicoco)
◎戦争、移民という難しい題材を、美しい色彩とイラストで幼い子どもでも読めるよ
う見事に描いています。(まなみ)
◎何よりも絵がとても印象的。きれいで美しく、胸に迫る。(おちゃわん)
◎ある日とつぜん、満ち足りた暮らしからひきはがされ、だいすきな家や本棚や町を
すべておきざりにして逃げなければならないという世界が、美しい絵でありありと描
かれる。大人にも読んでほしい絵本。(BUN)
◎これまでの生活を捨てて、身ひとつで国外に逃れることがどういうことなのか、こ
の絵本のなかにぎゅっと詰まっている。(hanemi)
◆3位 『わたしたちだけのときは』
デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン文 ジュリー・フレット絵
横山和江訳 岩波書店
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おばあちゃんが小さな女の子だったころのこと。家族から引き離され、みんなと同
じ制服を着せられて入った学校では、長い髪を切られ、自分たちのことばを使うこと
を禁じられた。そこで子どもたちがおこなったささやかな抵抗とは……。カナダの先
住民族に対する同化政策の歴史について、祖母が孫の問いに答える形で描かれる。自
由な心は誰にも奪えないことを、静かな口調で教えてくれる絵本だ。2017年カナダ総
督文学賞児童書(絵)部門受賞。
◎カナダの先住民同化政策をもとにした絵本。こんなことがあったなんて、全然知ら
なかった。かけがえのない自由について、とても考えさせられる絵本だ。(モリー)
◎かつて、民族のアイデンティティーを否定されたおばあちゃん。でも、自由な心は
失われなかった。そのことに強い感動を覚える。(キジトラ)
◎読み終えてタイトルと表紙の絵を見ると、少女たちの勇気に胸がいっぱいになる。
(くるり)
◎知らなかった歴史を教えてくれた絵本。(BUN)
◆4位 『あめだま』ペク・ヒナ文・絵 長谷川義史訳 ブロンズ新社
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『天女銭湯』『天女かあさん』が日本でも好評を博した韓国の絵本作家、ペク・ヒナ
による人形絵本。友だちのいないドンドンが不思議なあめだまをなめると、いろんな
声が聞こえてきた。家のソファー、犬、そして天国のおばあちゃんの声。それを耳に
したドンドンは、自分の殻を破ることができるだろうか? 関西弁の訳は人間味あふ
れ、ユーモラスな人形の表情と相まって、ほのぼのとした気分になれる作品だ。
◎今回は天女シリーズじゃなかった。それでも、この人形写真の世界には生活にひそ
むファンタジーが絶妙にはまる。最後の紅葉の公園のシーンは、このうえなく美しい。
(ワラビ)
◎男の子のいろんな表情と気持ちの変化にもう、やられました。(おとむとむ)
◎ふしぎなあめだまをなめたら、いろんな声がきこえてきた。ひとりぼっちだと思っ
ていたけど、そうでもないのかも? たのしくて、深くて、心がほっこりします。
(BUN)
◆5位 『すいかのプール』アンニョン・タル文・絵 斎藤真理子訳 岩波書店
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ふたつに切ったすいかを大きなプールに見立てるという、斬新な発想で作られた楽
しい絵本。すいかのプールにはしごをかけて、赤い果肉のなかに飛びこんだり、皮で
すべり台を作ったり、遊び方は無限大。果肉のサクサクとした感触が妙にリアルで、
読めば夏が恋しくなる、すいかが食べたくなること間違いなし。来年もすいかのプー
ルのプールびらきが待ち遠しい。
◎それがあたりまえの世界になっている設定が自然すぎる!(おとむとむ)
◎こんな楽しいプールがあったら、猛暑も明るく乗り切れそう。すいかの赤がぱっと
目を引く。(asayaka)
◆6位以下の作品
6位『きのうをみつけたい!』
『わたしのくらし 世界のくらし 地球にくらす7人の子どもたちのある1日』
(2作同点)
8位『この計画はひみつです』『シルクロードのあかい空』
『チトくんとにぎやかないちば』(3作同点)
★☆★☆【2018年 第21回やまねこ賞 原書部門】☆★☆★
原書部門には出版年ほかの制限はなく、児童書の原書を最大5作品まで、順位をつ
けずに投票できる。今年は英語で書かれた読み物19作と絵本3作が各1票ずつを得た。
ここでは、本年カーネギー賞受賞作ならびにノミネート作品、そして昨年末より日本
初の巡回展示会が開催されているインドの出版社「タラブックス」の絵本に注目し、
会員の投票コメントとともに3作をご紹介する。その他の作品については、やまねこ
賞受賞作品リストをご覧いただきたい。
【カーネギー賞関連】
★ "Where the World Ends" by Geraldine McCaughrean
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(本誌2018年7月号「カーネギー賞受賞作品レビュー」をご参照ください。)
▽本誌バックナンバー(2018年7月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2018/07.htm#myomi
◎2018年カーネギー賞受賞作。断崖絶壁の孤島に閉じ込められた少年たちの物語。め
ちゃ壮絶。鳥猟の場面も興味深かった。昔、現実にあった事件がもとになっているそ
うで、びっくり。(モリー)
★ "There May Be a Castle" by Piers Torday
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雪のクリスマスイブ、Mouse と呼ばれる男の子は事故で車から投げ出される。目を
覚ますと、そこは怪物や魔法使いのいる異世界だった。そして、お城を探す冒険の旅
が始まる――。一方、現実の世界では、姉の Violet が家族を救おうと必死になって
いた。2018年カーネギー賞ノミネート作品。
◎11歳のわりに子どもっぽくて頼りない少年が、事故をきっかけに突然空想の世界に
入り込んでしまい、冒険する物語が面白かったです。意外なラストに涙が止まりませ
んでした。(まなみ)
【タラブックスの絵本】
★ "Mangoes and Bananas"
text by Nathan Kumar Scott, illustrations by T. Balaji
(邦訳『マンゴーとバナナ まめじかカンチルのおはなし』
ネイサン・クマール・スコット文 T・バラジ絵 なかがわちひろ訳 アートン)
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インドネシア民話のトリックスター「まめじかカンチル」を主人公とする絵本シリ
ーズの1作目。本作では、カンチルが、木になった果物をひとりじめするサルをぎゃ
ふんと言わせる。
◎インドネシアの楽しい昔話が、インドの伝統の更紗、カラムカリによる絵で表現さ
れる世界観にたちまち魅了された。巻末の更紗の染色工程の解説もうれしい。
(Incisor)
★☆★☆【2018年 第21回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★
オールタイム部門では、会員がこの1年で読んだ邦訳児童書から新刊以外のお薦め
の本を最大5点まで、読み物・絵本の区別なく、順位をつけずに投票する。今年は読
み物31作と絵本20作がタイトルを連ねた。古典名作から近年のやまねこ賞上位作品ま
で、多彩な内容だ。ここでは、その中で最も多い7票を集めた絵本と、僅差で2位と
なったYA小説を、投票者のコメントとともにご紹介しよう。
★1位 『うみべのまちで』
ジョアン・シュウォーツ文 シドニー・スミス絵 岩城義人訳 BL出版
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電線のある風景に、光る海を見つめる少年の横顔。作品の世界観が凝縮された表紙
画に心をつかまれる。カナダの炭鉱の島に暮らす家族の1日が、美しい海と海底の炭
鉱との対比で描かれ、子ども時代の幸福さ、将来への覚悟が静かに伝わってくる作品
だ。抑えた色彩と太い輪郭線を用いたイラストは東洋の書画に通じるようで、どこか
懐かしい。2018年ケイト・グリーナウェイ賞受賞。詳しくは、本誌2018年6月号「産
経児童出版文化賞翻訳作品賞受賞作品レビュー」、10月号「プロに訊く」をご参照い
ただきたい。
▽本誌バックナンバー(2018年6月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2018/06.htm#hehon
▽本誌バックナンバー(2018年10月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2018/10.htm#pro
◎独特の味わい。静かで、寂しくて、でも語っている少年は寂しくはないんだ。きら
きら光る海の絵がすばらしい。(みちこ)
◎1950年代のお話。子供たちは幼い頃から炭鉱ではたらく決心をしている。みんなそ
うやって生きてきたから。ひたひたと心にしみてくるものがある。(モーモー)
◆2位 『サイモン vs 人類平等化計画』
ベッキー・アルバータリ作 三辺律子訳 岩波書店
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主人公サイモンは、アメリカの高校生。まさに、青春ど真ん中の日常を送っている。
仲間たちとのなにげないやりとり、SNS から始まる恋心、暑苦しいけど大切な家族。
同性に惹かれるサイモンの語りはテンポよく、合間にはさまれる「ブルー」との往復
メールは、読者も赤面のラブレター! 近くにいながら名乗らないシャイな「ブルー」
は、いったいだれ!?
◎あと少し早く読んでおけば昨年の1位に投票していたのにと悔やまれたほど面白か
った!登場人物がみんな魅力的。恋のはじまりのきゅんとした感じ、いいな。仲間、
友達、家族、めんどくさくて、あったかくていいな。(Incisor)
◎LGBTカミングアウトの悩みと周りの反応、恋模様が多彩な登場人物により、からっ
と描かれる。恋に性別がないことが楽しく伝わってきた。(ちゃぴ)
3位は『カランポーのオオカミ王』、4位は『わたしがいどんだ戦い 1939年』、
5位には『熊とにんげん』がランクインした。
【参考】
▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm
▽やまねこ賞大賞作品一覧(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/ichiran.htm
(市中芳江/山本みき/小島明子) |