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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集>フランスの賞レビュー集その1



フランスの賞レビュー集一覧 クロノス文学賞 アンコリュプティブル賞 ソルシエール賞

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。



 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

クロノス文学賞(フランス) レビュー集
Prix Chronos de litterature
 

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最終更新日 2009/10/03 レビューを1点追加


クロノス文学賞の公式サイト (下の国旗をクリックすると、日本語での紹介文が読めます)

★クロノス文学賞の概要
 「老い」「世代間の関係」をテーマにした作品に対して与えられる文学賞。賞の名称は、ギリシャ神話の時の神「クロノス」にちなんでつけられた。候補作は6つのセクション(幼稚園児・小学1年生の部、小学2 ・3年生の部、小学校4・5年生の部、中学1・2年生の部、中学3・4年生の部、高校生以上・大人の部)に分けられ(2002年より)、審査員として登録した一般読者(子どもから成人まで)の投票によって受賞作が決定される。受賞式は3月、パリで開催されるブックフェアの会場で行われる。テーマに沿い、かつ、フランス語で出版された作品が対象になるため、外国作品の仏訳も含まれる。また、審査員として、外国からの参加も認められている。
 ※審査員登録のためには、「5名以上の団体であること」が必要。その条件を満たせば、外国にいる外国人でも、フランス語が読め、かつ、任意のセクションの候補作(5冊ほど)を全冊読了すると、審査員として受賞作決定の投票ができる。

【参考資料】『読書教育』(みすず書房)辻 由美 著
 


"Lettres d'Amour de 0 a 10 〔Lettres d'Amour de 0 à 10〕"『秘密の手紙0から10』 * "Mercredi mensonge"『水曜日のうそ』 * "Loulette"『ルウとおじいちゃん』
"La Greve De La Vie 〔 La Grève De La Vie 〕"『あたしが部屋から出ないわけ』 * "Le lievre qui avait de tres grands pieds 〔Le lièvre qui avait de très grands pieds〕" *
"Joker"『ノエル先生としあわせのクーポン』  追加


1997年(第2回)クロノス文学賞(中学生の部)受賞作 ※第2回当時、セクションは 3つのみ(幼稚園児・小学1年生の部、小学校4、5年生の部、中学生の部)

"Lettres d'Amour de 0 a 10 〔Lettres d'Amour de 0 à 10〕" (1996) by  Susie Morgenstern シュジー・モルゲンステルン
『秘密の手紙0から10』 河野万里子訳 白水社 2002  (邦訳読み物)

その他の受賞歴


 10歳のエルネストは、生まれてからずっと祖母と暮らしている。母がエルネストの出産で亡くなり、絶望した父が家を出ていってしまったからだ。祖母との生活は単調で、毎日毎日がまったく同じように過ぎていく。息子が出ていってしまってからというもの、祖母は家に引きこもり、ほとんど話をしないし、笑わない。家にはテレビも電話もない。あるのは、第一次世界大戦で戦死した祖父の遺した、判読できない手紙だけ。自分はずっとこうして暮らしていくのだと、エルネストは思っていた。だが、そんなある日、クラスに転校生のヴィクトワールがやってきて、すべてが変わりはじめる。

 生まれてから10年間というもの、エルネストは、他人やまわりの世界と、ほとんど関わることなく生きてきた。かたや、転校生のヴィクトワールは、14人きょうだいの13番目(自分以外は全員男の子)で、生存競争の中で育った、まるでコミュニケーション魂のかたまりのような、元気いっぱいの女の子だ。となりの席に突然やってきた、このヴィクトワールのおかげで、エルネストははじめて、他人と言葉を交わし、コミュニケーションすることの喜びを知る。こうして開かれた扉は、いつのまにか、かたくなな祖母の心までも解きほぐしていき、エルネストを全く新しい、思いもかけなかった世界へと導いていく。その過程がとても楽しい。はじまるときはモノクロの寂しい画面だったのに、だんだんと色彩を帯び、にぎやかになって、最後はフルカラーになって終わる、そんな映画を観ているようだ。
 生きていると、いろいろなことがある。人間関係に悩むことだって、数多くある。それでも、「人と人とが関わりあう」というのは、なんと素晴らしいことだろう。時にはそれが、思いもかけない奇跡を呼び起こすことだってある。人間っていいものだなあ、としみじみ感じさせてくれた作品だった。

(山田智子) 2008年10月公開

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2005年クロノス文学賞(中学校3・4年生の部)最終候補作

"Mercredi mensonge"(2004) by Christian Grenier クリスチャン・グルニエ
『水曜日のうそ』 河野万里子訳 講談社 2006 (邦訳読み物)

 やまねこ公式レビュー 
 
レビュー(月刊児童文学翻訳2007年 3月号)(邦訳)

その他の受賞歴
・2005年ナント賞 ・2005年ナルボンヌ賞


 パリ郊外のマンションで暮らすイザベラ15歳。近所には、おじいちゃんがひとりで住んでいる。毎週水曜日12時きっかりにイザベラのマンションに来て30分だけおしゃべりをしていくのが、こ こ何年かのおじいちゃんの習慣だ。イザベラは82歳になるおじいちゃんのことが大好きだけれど、忙しいパパは、実の父親を邪険に扱う。体が痛いという愚痴や、毎度おなじみの昔話を嫌がり、それが顔や行動に出てしまうのだ。
 ある日、500キロ離れた大学の助教授の話がパパに舞い込み、一家でリヨンに引っ越すことになった。体が弱ってきているおじいちゃんは、長年住み慣れたこの土地を離れるのを 嫌がるだろう、と考えたパパは、おじいちゃんを動揺させないために嘘をつくことにした。毎週水曜日、今のマンションに戻ってきておじいちゃんを迎えるのだ。でも、イザベラはそんな嘘をつくのはいやだったし、親しくなりつつある男の子ジョナタンと離れることを考えると、胸がはりさけそうだった。

「今が幸せだということは、過ぎ去ってからでないとわからない」大人になるとよく理解できることだけれど、それでも普段は忘れてしまいがちだ。この本を読むと、そのことを再度かみしめることができる。自分の年齢のせいか、私はイザベラのパパのことが気になって仕方がなかった。父親のことを大事に思ってはいる ものの、忙しさにかまけて、また、自分の父親のことなんて何でもわかっているつもりで、きちんと向き合わなかったパパ。実の親子は、なかなか難しいよね、これまでに培われたわだかまりのようなものもあるかもしれないし、老いていく親への寂しさもあるかもしれないし、と自分と重ねて考えてしまう。血のつながらない他人のほうが、父親 をよく理解してくれていた、父親が行きたがっていた生まれ故郷に連れていってくれていた、そんなエピソードにも涙が浮かんできた。
 また、この作品は、年を取るとは実際にどういうことなのか、老人の世界を垣間見せてくれる。体が動かなくなる、まわりの世界がせまくなる、好奇心を失ってしまう――おじいちゃんの口から聞くと 、自分の身にも切実にせまってくる。そして、若いイザベルたちに対する深い思いも心にしみる。クロノス文学賞のもつ意義の大きさを感じさせてくれる作品だ。

(植村わらび) 2008年10月公開

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2007年クロノス文学賞(小学校4・5年生の部)受賞作品

"Loulette"(2006) by Claire Clement クレール・クレマン
『ルウとおじいちゃん』 藤本優子訳 講談社 2008.08 (邦訳読み物)

その他の受賞歴


 おじいちゃんは詩人だ。いつもすてきな詩を頭のなかの安全な場所にしまいこみ、わたしたちに分けてくれる。わたしはおじいちゃんの「幸運の女神」。だってわたしがいれば、おじいちゃんはいつだってカードに勝つのだ。
 ルウの大好きなおじいちゃんは、おばあちゃんの突然の死にあって、心を閉じてしまう。しゃべらず、食べず、動かないおじいちゃん。ただ息をしているだけだった。おじいちゃんの娘であるルウの母親は、二人の子どもと仕事を抱え、途方にくれ、おじいちゃんを施設に入れることを決心する。だが、ルウは大反対。そしてある計画を実行に移すのだった。

 ルウの考えた計画はとても危なっかしくて、信じられないものなのだが、ルウのおじいちゃんを思う気持ちが痛いほど伝わってきて、はらはらしながら応援する。施設にいれることが、最もよい解決方法だと信じる母親に対して、登場人物の一人ルウたちの世話にくる近所の大学生ヤスミナは、どうやら異国の人で彼女の国では年寄りが一人っきりになることはないと批判的だ。だから、たとえ一言も発しない年寄りでさえ、敬意をもって世話をする。ヤスミナの存在と、彼女がルウに言う言葉が、老人問題の奥深さを垣間見せる。
「老人」「子ども」「動物」に「詩」、さらには「ホームレス」まで登場して、物語の面白さに欠かせない要素満点なお話だ。しかしそれだけに終わらない。白地に茶色の飾り文字のしゃれた装丁の本。ほろ苦くそしてたっぷりと甘い夢を見せてくれる。

(尾被ほっぽ) 2008年12月公開

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2003年クロノス文学賞(小学校4・5年生の部)受賞作品

"La Greve De La Vie 〔 La Grève De La Vie 〕"(2002) by Amelie Couture 〔 Amélie Couture 〕 アメリー・クーテュール
『あたしが部屋から出ないわけ』 末松氷海子訳 (小泉るみ子絵) 文研出版 2008.08 (邦訳読み物)

その他の受賞歴


 夏休みの最初の日、9歳のリシューはストライキをはじめた。サマー・スクールなんか行きたくない! お父さんと義理の母のイザベルとお母さんのちがう、半分だけの弟と暮らすのはいやだ。都会に暮らすのもいや。そして何よりも、去年の12月に、おばあちゃんが死んじゃったのがいやだ。おばあちゃんと一緒に暮らした農家にもどりたい。でもそれはもう、できない……。何もかも面白くなくリシューには全部のことに怒って、部屋に閉じこもってしまった。

  生まれてすぐに母親を亡くし、リシューはおばあちゃんに引き取られ、田舎で暮らしていた。おばあちゃんが病気になってからは、再婚した父親と都会で暮らすようになったが、リシューは典型的なおばあちゃんっ子。おばあちゃんが恋しくてたまらない。おばあちゃんが死んだとき、ちょうどイザベルが妊娠していたため、お葬式に連れて行ってもらえなかった。ちゃんとお別れができなかったリシューの心には、不満と悲しみがどんどん溜まっていったのだろう。リシューは「いや」という言葉と共に心を閉ざしてしまった。うまく言葉で表せない悲しみや怒りを心に抱え込み、出口のないまま消化できぬまま、がんじがらめになってしまっている子どもの心が痛々しいほど伝わってくる。
 そんなリシューの心に変化の兆しが見えはじめたのは、弟ルカの面倒をみてからだ。亡くなった命を哀しむばかりだったのが新しい命を愛しく思ったとき、リシューの中で何かが変わりはじめたのだろう。特にイザベルがリシューの心に寄り添うように語りかけてくれ、リシューが大泣きしてしまう場面は心を打つ。やはり悲しい時には悲しみを、涙とともにきちんと外に出してしまわなくては。それは子どもだけではない。おとなだって、どうにもならない悲しみを抱え込むことがあるだろう。そんなときは言いたい。「悲しいときは泣いていいんだよ」、と。

(吉崎泰世) 2009年3月公開

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2009年クロノス文学賞(幼稚園児・小学校1年生の部)最終候補作

フランス語タイトル:"Le lievre qui avait de tres grands pieds 〔Le lièvre qui avait de très grands pieds〕" 追加
 by Catherine Rayner キャサリン・レイナー
英語:"Harris Finds his Feet" (2008) からの翻訳 by Tania Capron

その他の受賞歴
2009年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト


ケイト・グリーナウェイ賞のレビュー集を参照のこと

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2000年クロノス文学賞(小学校4・5年生の部)最終候補作

"Joker"(1999) (未訳絵本) by Susie Morgenstern シュジー・モルゲンステルン
『ノエル先生としあわせのクーポン』 宮坂宏美、佐藤美奈子訳 西村敏雄(絵) 講談社 2009年

その他の受賞歴
・2002年バチェルダー賞オナーブック


バチェルダー賞のレビュー集を参照のこと

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フランスの賞レビュー集一覧  クロノス文学賞 アンコリュプティブル賞 ソルシエール賞


 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

アンコリュプティブル賞(フランス) レビュー集
Prix des Incorruptibles
 

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最終更新日 2008/10/01 新規公開

アンコリュプティブル賞の公式サイト → 受賞作一覧はこちらから

★アンコリュプティブル賞の概要
 主 催:NPO法人アンコリュプティブル賞(フランス)
 創 設:1988年
 概 要:この賞の趣旨に賛同し、パートナーとなることに同意した、児童書・少年少女向け作品を刊行している出版社が提案する作品が候補作となる文学賞。賞の名称になっている『アンコリュプティブル』には、「大人の意見に惑わされない」との意味が込められている。
 候補作は7つのセクション(幼稚園児の部、小学1年生の部、小学2年生の部、小学校3・4年生の部、小学5年生・中学1年生の部、中学2・3年生の部、中学4年生・高校1年生の部)に分けられ、審査員として登録した子どもたちの投票のみによって受賞作が決定される。受賞式は5月末から6月初旬(年によって変動)の間に行われる。
 フランス語で出版された作品が対象になるため、外国作品の仏訳も含まれる。また、審査員として、外国からの参加も認められている。

 【参考資料】『読書教育』(みすず書房)辻 由美 著


"35 kilos d'espoir"『トトの勇気』


2003年(第15回)アンコリュプティブル賞(中学2・3年生の部)受賞作

"35 kilos d'espoir"(2002) by Anna Gavalda アンナ・ガヴァルダ
『トトの勇気』" 藤本泉訳 鈴木出版 2006 (邦訳読み物)

その他の受賞歴
2005年ドイツ児童文学賞児童書部門ノミネート


 3歳までは、ぼくは幸せだった。でも、幼稚園と学校に行くようになってから、ぼくの人生は変わってしまった。ぼくは自分の手で、なにかを作り出すのがとても好きだけど、勉強は大嫌いだ。学校も嫌いだ。ぼくの学校のことになると、パパもママもどなったり泣いたりするばかり。ぼくのことをわかってくれるのは、たったひとり、おじいちゃんだけ。おじいちゃんがいなければ、ぼくはきっと、やってこれなかった。

 グレゴワール(トト)は13歳で、中学一年生(日本でいうと小学六年生)だ。フランスは小学校が五年間、中学校が四年間。学校制度は日本よりも厳しく、小学校から落第や退学があり、グレゴワールもそれで2度退学させられている。勉強が苦手な子にとっては辛すぎる環境だ。そんな彼の一人称で語られている物語は正直で、切なくて、すぐに引き込まれてしまう。多くの子どもたちの共感を得たことも充分うなずける。
 学校のことで取り乱し、荒れ狂う両親とちがって、彼の適性を早くから見抜き、温かく励ましてくれるおじいちゃんの姿や言葉のひとつひとつが、深く心に残る。二度目の退学をくらって、すっかり落ち込んでいたグレゴワールが、おじいちゃんのおかげで希望を取り戻したように、すべての子どもたちに、このレオンおじいちゃんみたいな人がいたなら、どんなに勇気づけられることだろう。大人として、深く考えさせられた作品だった。

(山田智子) 2008年10月公開

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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> フランスの賞レビュー集その1

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