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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> アメリカの賞レビュー集その2



アメリカの賞レビュー集 一覧

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このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。



 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

シュナイダー・ファミリー・ブック賞(USA) レビュー集
Schneider Family Book Awards
 

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最終更新日 2009/04/01 新規公開(レビューを1点)

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★シュナイダー・ファミリーブック賞 の概要

 2004年、キャサリン・シュナイダーとその家族からの寄付を受けて、米国図書館協会(ALA)により創設される。障がいをもつ子ども、若者、その家族や友だちを描いた作品が対象。幼年〜低学年向け(0〜8歳)、中高学年向け(9〜12歳)、ティーン向け(14〜18歳)の3部門で、すぐれた作家または画家に贈られる。
 


 


2004年 シュナイダー・ファミリーブック賞 Middle School Book 部門受賞

"A Mango-Shaped Space"(2003) by Wendy Mass ウェンディ・マス
『マンゴーのいた場所』 金原瑞人訳 金の星社 2004

その他の受賞歴


(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 13歳のミアは、音を聞いたり文字や数字を見たりすると、同時に色が見える共感覚の持ち主だ。けれど8歳のときに学校でそのことを口にして、皆から頭が変だと言われて以来、共感覚の話はミアにとって タブーとなった。親友にも、家族にさえも共感覚を持つことを秘密にしたまま、どうにかやってきたミアだったが、学校の勉強が難しくなるにつれ、いつでも色が見えることは、数学や外国語を学ぶことの妨げになってくる。ついに家族に打ち明けたミアは紆余曲折を経て、世の中にはたくさんの共感覚者がいることを知り、その世界にのめりこんでいくのだが……。

 共感覚という言葉すら知らなかった私にとって、ミアの世界は驚きに満ちていた。五感のうち2つ以上の感覚が同時に働く人のことを共感覚者というそうだが、その世界を想像することは難しい。この本では、共感覚を持つ少女ミアの独特な世界が丁寧に描かれている。そこに、この年頃の少女が遭遇する友達関係の難しさや異性への興味、大切な人やものを亡くすことの苦しみや悲しみも盛りこまれ、少女の成長物語となっている。ミアは共感覚者であるために様々な困難にあうが、同時に新たな出会いを得て、新たな世界を知ることにもなる。物語がすすむにつれて、ミアが共感覚をポジティブにとらえるようになることが嬉しかった。人と違っていることは悪いことではないという作者のメッセージが、穏やかに伝わってくる。
 タイトルのマンゴーというのは、ミアの飼っている猫のことだ。鳴き声やたてる音、まとっているオーラの色からマンゴーと名づけられたその猫には、亡くなったおじいちゃんの魂が宿っている。ミアが愛して止まないマンゴーは、この物語のキーとなる重要な猫である。

(佐藤淑子) 2009年4月公開

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

BCCBブルーリボン賞(USA) レビュー集
 The Bulletin of the Center for Children's Books Blue Ribbons
 

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最終更新日 2009/07/05 リンクを1点追加

ブレティン(BCCB)誌公式サイト  ブルーリボン賞受賞作品をまとめたページ

★BCCBブルーリボン賞の概要

 図書館員の向けて発行されている児童書書評誌 "The Bulletin of the Center For Children's Books" のスタッフが選ぶ賞。読み物部門、ノンフィクション部門、絵本部門の3部門があり、それぞれ10冊前後が選ばれる。次の年の1月1日発表。


"If You Come Softly"『あなたはそっとやってくる』 * "Whatever"『だから?』


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

2005年絵本部門 "Tadpole's Promise" / 2004年フィクション部門 "Indigo's Star"『インディゴの星』 / 2003年絵本部門 "Don't Let the Pigeon Drive the Bus!"『ハトにうんてんさせないで』 / 2002年フィクション部門 "Saffy's Angel"『サフィーの天使』 / 2001年絵本部門 "'Let's Get a Pup!' Said Kate"『いぬがかいた〜い!』 / 1997年フィクション部門 "The Tulip Touch"『チューリップ・タッチ』 / 1992年絵本部門 "The Fortune Tellers" / 1992年絵本部門 "The Mirette on the Hight Wire" / 1992年フィクション部門 "Missing May"『メイおばちゃんの庭』 / 1990年絵本部門 "The Tale of the Mandarin Ducks" * "While We Are Out"『うさぎのおるすばん』←追加 * 


1998年BCCBブルーリボン賞フィクション部門

"If You Come Softly"(2008) (未訳絵本) by Jacqueline Woodson ジャクリーン・ウッドソン
『あなたはそっとやってくる』 さくまゆみこ訳 あすなろ書店 2008年

その他の受賞歴 ・ALA Best Book for Young Adults
・2005 Rhode Island Teen Book Award Nominee (all readers)


少女と少年が出会った。
雨の学校、少女が転校したはじめての日に。
ふたりはぶつかって、少女の教科書がおちた。
拾い上げようとかがみこんだ少女と少年は、そして、恋におちた……。

エリーは白人でユダヤ人。マイアは黒人でバスケのスター選手。
どちらも裕福で頭が良く、そしてふたりとも孤独を抱えていた。

 エリーとマイアのモノローグで綴られる、なんとも切ないラブストーリーだ。はかなくて、悲しくて、そして美しい。ラストのシーンでは涙が浮かんでくるほどに……。
 お金には不自由していないけれど、どちらも家庭に問題を抱えているエリーとマイア。会った瞬間からわかりあえると気づいたふたりの距離はどんどん縮まっていく。だが、ユダヤ系アメリカ人で白人の女の子とアフリカ系アメリカ人で黒人という組み合わせを見る世間の目は冷たい。刺すような周囲からの視線にふたりは傷つき、そして、いらだつ。時代が違う、そう思おうとするエリーに、見せつけられる偏見の目。家族や世間、そして自分自身の目。
 この物語は、単なる肌の色に関する差別だけを描いたものではない。これまでも『レーナ』や『ミラクルボーイズ』などで、社会的な問題を描いてきたジャクリーン・ウッドソンは、この作品でもさまざまな問題を読者に問いかけている。貧富の差や人種差別、同性愛、そして、家族の問題。あちこちにちりばめらる問いに、読みながら考えられずにいられない。わたしは、どうなのだろう? つきつけられる問題が、ちくりちくりと胸を刺す。
 とはいえ、これは差別問題を提起するのがメインのお話では、断じてない。最初に述べたように、これは、ラブストーリー、そう「初恋」の物語である。二人の間には数々の困難があった。でも、次第にもふたりの心はぴったりと寄り添い、そして確信にかわる……。ガラスのようにもろく、透明でこわれそうな初恋を、甘くてほろ苦い初恋を、どうか堪能してほしい。

(美馬しょうこ) 2009年4月公開

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2005年BCCBブルーリボン賞絵本部門

"Whatever"(2005) by William Bee ウィリアム・ビー
『だから?』  たなかなおと訳 セーラー出版 2008年

その他の受賞歴


りゆうはとくにないけど、むっとしたかおのビリーに、
にこやかなえがおのパパ。

なにをしてあげても、ビリーはよろこびません。
ビリーはいつもいいます。
「だから?」

パパがなにをしても、やっぱりビリーはいうのです。
「だから?」

そこでパパは……。

 最近ちょっぴりひねてきたうちの下の子。話しかけると、ちょっといばっていう。
「それがどうした?」
「それがなにか?」
えーっと思う反面、でも、きっとこれは成長の証しでもあるに違いない。そうはわかっていても、やっぱり複雑な気持ちになり、いつも腹を立ててばかりのわたし。
そこで親子3人で読んでみたのが、この絵本だ。

 おもちゃをあげても、せがたかい生き物をみせても、ぼよんぼよんのおしろでとびはねたって、ビリーはいう。
「だから?」
そんなビリーをやさしく見守るパパは、実はラストで、思いもよらない切りかえしをすました顔でやっちゃうのだ。これには心底驚かされた。えーっ、いいの!? ナンセンス、いや、シニカル? 訳者のたなかさんは、「常識をくつがえす、理解の範囲を超える、こんな場面に出会う事で『苦々しい』って感じを味わって欲しい」とおっしゃる。そのもくろみは、わたしについては大成功。ショックをうけつつも、くすっという笑いが出て、やはりこの黄色い表紙絵本はまんまと心に残ったのだ。

わかったような、わからないような顔をしていた子どもたちよ。また生意気な口をきいてごらん。今度は私も切り返してやるからね。
「ふうん、……だから?」

(美馬しょうこ) 2009年4月公開

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 The Batchelder Award
 

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最終更新日 2009/10/05 新規公開

公式サイト

★バチェルダー賞の概要: アメリカ図書館協会が、一年間に翻訳出版された児童文学の中からもっともすぐれた作品に与える賞

★日本語からの翻訳作品の受賞歴: 1997年「夏の庭」(湯本香樹実 作)、2008年「ブレイブ・ストーリー」(宮部みゆき 作)、2009年「精霊の守り人」(上橋菜穂子 作)
 



2002年バチェルダー賞オナーブック

US版タイトル:"A Book of Coupons"(1999) by Susie Morgenstern シュジー・モルゲンステルン
フランス語:"Joker"(1999) からの翻訳 translated by Gill Rosner

邦訳:『ノエル先生としあわせのクーポン』
  宮坂宏美、佐藤美奈子訳 西村敏雄(絵) 講談社 2009年 NEW

その他の受賞歴
・2000年 クロノス賞(小学校4・5年生の部)受賞(クロノス賞レビュー集


 あきるほど長い夏休みが終わり、やっと学校がはじまった。いよいよ五年生。小学校最後の1年が始まる!ところが、教室で待っていたのは、でっぷり太ったおじいちゃんのノエル先生だった。こんなおじいちゃんが、「新しい先生」だって? でも、がっかりしたのは、わずかな間だけだった。新学期の最初の日、ノエル先生が、みんなにクーポンの束を配ってくれたのだ。それは、学校をサボったり、寝ぼうしたりできる、不思議なクーポンばかりだった。

 ノエル先生のクーポンには、「寝ぼうする券」、「わすれ物をする券」、「学校を1日サボる券」、「さわぐ券」など、えっ、こんな券、生徒に配っちゃっていいの? と思うものがかなりある。でもこのクーポン、子どもだけでなく、大人にとってもかなり魅力的。こんなクーポン、実際にあったらいいなあ、と、この本を読んだすべての人が感じることだろう。
 しかし、最初はとっぴなことばかり許しているように感じるこのクーポンだが、読み進むにつれ、クーポンを使うことは、「人生の経験値を上げること」だとわかってくる。ノエル先生を目の敵にしている校長先生のように、休みの日も部屋の壁ばかり見て過ごし、他人のあらさがしばかりしているのでは、人生はただ過ぎていくだけ、そんなのはちっとも面白くない。どんどんいろいろなことを経験して、人生を豊かにしよう。そんな温かいメッセージが、この本にはたっぷり込められている。

(山田智子) 2009年10月公開

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