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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

NZポスト児童書及びYA小説賞(ニュージーランド) レビュー集
New Zealand Post Children's Book Awards
 

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最終更新日 2009/09/01 レビューを1点追加

☆やまねこ資料室内NZP賞リスト☆ ★NZP賞の概要★

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

1992年 "Dangerous Spaces"『危険な空間』 / 2004年 "Grandpa and Thomas"


 * "The Silent One"『サンゴしょうのひみつ』 * "Bow down Shadrach"『帰ろう、シャドラック!』 * "The Halfmen of O"『惑星Oの冒険』 * "Brodie" * "The Video Shop Sparrow" *  "The Transformation of Minna Hargreaves" *  "Buddy"『バディ たいせつな相棒』 *  "RECYCLED"『リサイクル コリンはエコ戦士』 *  "Rocco" * "When the Kehua Calls" * "Chinatown Girl: The Diary of Silvey Chan, Auckland 1942"  * "Old Drumble"追加 * 


1982年ニュージーランド年間最優秀児童文学賞(現ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞)受賞作品

"The Silent One" (1981) by Joy Cowley ジョイ・カウリー
『サンゴしょうのひみつ』 百々佑利子訳 冨山房 1986年

その他の受賞歴 


 南太平洋上の島の小さな村に住むジョナシは、生まれつき耳が聞こえず、言葉もしゃべれない。赤ん坊のとき、ボートに乗せられ海の上をただよっていたジョナシを、ルイザがわが子のように育てた。しかし、ジョナシは村の大人たちに忌み嫌われ、12歳になってもブタ狩りに連れて行ってもらえない。子どもたちにはからかわれ、孤独だった。
 ある日、ジョナシはサンゴ礁で白いカメと出合う。えさを与えたりするうちに、カメはジョナシになついてくる。そのころ、村はかんばつに襲われ、続いてハリケーンに見舞われる。すべてジョナシと白いカメののろいだと信じる村人たちから、ジョナシはさらに迫害を受ける。

 物語の舞台は、イギリスの植民地だったころのポリネシア。村で生まれ村しか知らない人々は、迷信を信じ、ジョナシを恐れる。一方、村長の息子、アイサキはセブで教育を受けたことがあり、外の世界迷信にとらわれない。村長は息子がセブで見てきたものを信じるが、村人たちの気持ちも理解している。世代や立場による考え方の違いは、じゅうぶん納得できるものだった。
 ポリネシアに伝わる伝説を元に書かれたという。そのせいか、無知や迷信が引き起こした悲劇的な物語というよりは、おとぎ話を読んだような気になった。結末はせつない。

(赤塚きょう子) 2008年9月公開

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1992年 AIM Children's Book Awards(現ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞) 年間最優秀図書賞受賞作品

"Bow down Shadrach"(1991) by Joy Cowley ジョイ・カウリー
『帰ろう、シャドラック!』 大作道子訳 文研出版 2007

その他の受賞歴 


 クライズデールのシャドラックは、ハンナが生まれる前から一緒にいる大切な家族。だが、年老いたうえに怪我をしてしまったため、シャドラックを手放すことになった。ハンナと弟のマイキー、スカイは、両親からシャドラックは年老いた馬が余生をすごす場所、〈いこいの家〉へ行くのだと聞かされていたが、本当はドッグフード工場に売られていた。事実を知ったハンナたちは、シャドラックを連れ戻そうと決意。シャドラックを救おうと、トラックの荷台に勝手に乗り込んだり、バスに乗ったりしながら、子どもたちだけでドッグフード工場をめざす。

 両親が子どもたちを傷つけたくない気持ちでついたうそ。しかし、小さな村では秘密はすぐにばれる。真実を第3者から知らされたハンナは傷つき、憤る。これまで両親の言うことを何ひとつ疑うことはなかったのだ。両親と仲直りできても、「両親にうそをつかれた」という事実は変わらない。これは、ハンナの子ども時代の終わりの物語でもある。
 ドッグフード工場の描写は生々しく、また、ハンナたちがシャドラックを運ぶあいだ、実際に馬を長時間連れていれば当然起きるようなこともしっかりと描かれている。このような点で、単なるお涙ちょうだい物語とは一線を画しているように感じた。

(赤塚きょう子) 2008年9月公開

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1983年ニュージーランド年間最優秀児童文学賞(現ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞)受賞作品

"The Halfmen of O" (1982) by Maurice Gee モーリス・ジー
『惑星Oの冒険』 百々佑利子訳 岩波書店 1982

その他の受賞歴 


 ニックは夏休みを過ごしに、いとこのスーザンの家にやってきた。スーザンは生まれてまもなく謎の男にあざをつけられた影響か、周囲から変わった子だと思われている。到着早々、ニックは川で老人 にスーザンへのメッセージを託された。メッセージを受けた翌日、老人を訪ねたスーザンは、老人が持っていた奇妙な瓶から出る煙をかぎ、引き寄せられるように鉱山の中に消えてしまった。老人も自ら瓶の煙をかいで消える。急いであとを追ったニックが到着したのは、地球とは違う、宇宙のどこかにある惑星O(オー)だった。
 惑星Oはかつては善悪バランスのバランスを保っていたが、かぎ爪オティスが権力を握ってから、人間は善の心のみをもつ者と悪の心のみを持つ者――ハーフマン――となり、善の心のみを持つものはすべて殺されてしまった。かぎ爪オティスのかつての師匠で、惑星Oの現状を憂えた自由人ウェルズが、涙の形に二等分された善と悪の石をそれぞれ鳥人族、石人族に預け、腕にみしるしを帯びたもの以外にはけっして涙石を返さないよう誓わせたのち、時空を超えてスーザンのもとへやってきて、スーザンにみしるしをつけた――あの、謎の男が自由人ウェルズだったのだ。
 スーザンとニックは森人族に助けられながら、鳥人族、石人族、そしてかぎ爪オティスのもとをめざす。

 人間は善の部分と悪の部分の両方を持ってこそ、バランスが取れるというのが作者の考えである。訳者あとがきにもあるが、善と悪ふたつの涙石は勾玉を思わせ、東洋思想の影響が感じられる。
 登場人物のなかで一番魅力的だったのは、欲にかられてスーザンを惑星Oに送った老人、ジミー・ジャスパーズ。悪人だったが、おのれのやったことを後悔して改心し、しかし改心しながらも悪の心を捨てきれない……という揺れる人物像は、善と悪の両方の心を持つ人間の象徴ではないだろうか。森人族、石人族、海人族といった、人間とは異なるが知性を持った人たちが出てくるが、なかでも「人間の顔立ちで人間の言葉を話すが、翼と羽毛を持つ」「人間が鳥に進化したのか、鳥が人間に進化したのかわからない」鳥人族が素敵だった。
 この作品は "The Priests of Ferris"(1983)、"Motherstone"(1985)へと続く3部作の第1作。ただし、邦訳が出版されているのはこの作品のみである。

(赤塚きょう子) 2008年9月公開

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2002年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞 絵本部門 受賞作品

"Brodie" (2001) Joy Cowley ジョイ・カウリー 作 Chris Mousdale 絵 (未訳絵本)

その他の受賞歴 


『ブローディ』(仮題)

 ぼくのクラスメートのブローディは、病気がちだけど、おもしろくて人気者。ヘリコプターの操縦士になるのが夢で、絵を描くのがすごく上手で、いたずらや、お笑いのセンスも抜群だ。ブローディが入院するたびに、ぼくたちは、お見舞いのカードを書いた。誕生日のプレゼントは、大きなスケッチブック。ブローディは喜んでくれた。
 ところが、ある日、担任の先生から、ブローディが天国へ行ったと知らされ、ぼくやクラスのみんなは、愕然とする。小学校低学年のぼくたちは、ブローディが病気だとは知っていても、死ぬなんて、思ってもみなかった。

  この話は、「友だちを亡くした子どもたちのために本を書いてほしい」という声に応えて書かれたという。悲しみと向き合う子どもたちの様子を、日常生活のひとこまを切り取るようにして語っているところが、ジョイ・カウリーらしい。現実から目をそらすことなく、悲しみの中にも愛があることを教えてくれる。
 さまざまなタッチで描かれた絵も魅力的だ。いろいろなパーツを切り貼りしたようなページ、ブローディが描いた絵、お見舞いのカードをどっさり並べた絵。どれも、細かいところまで見て楽しめるので、テーマは重いけれど、親しみやすい絵本になっている。

(大作道子) 2009年1月公開

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2000年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞 絵本部門 候補作品

"The Video Shop Sparrow" (1999) Joy Cowley ジョイ・カウリー  Gavin Bishop ガビン・ビショップ 絵 (未訳絵本)

その他の受賞歴 


『ビデオ屋さんのスズメ』(仮題)

 夏まっさかりのニュージーランドの元日のこと。小学生の兄弟、ジョージとハリーは、休業中で鍵のかかったレンタルビデオ店に、一羽のスズメがいるのを見つけた。外に出ようと、ばたついている。二人は、スズメを助けてあげたいが、ビデオ店の主人は旅行中で連絡が取れないし、両親やまわりの大人たちは、「スズメの一羽ぐらい、どうってことない」と、すげない反応。でも、すがるような目で自分たちを見つめるスズメを、見殺しになんかできない。考えた末に、二人は、町長さんに直訴しにいく。

 出しっぱなしのクリスマスツリー、ヒマワリ、半袖姿の人々。いかにも南半球の新年らしい風景の中で、夏休み中の男の子たちが、一羽のスズメを救おうと奮闘する。
 ジョージとハリーの純粋な気持ちと、大人たちの冷めた態度が対照的で、思わず、くすっと笑ってしまう。ニュージーランドは、絶滅危惧種の鳥の保護には、非常に熱心だ。でも、そこらじゅうにいるスズメの命となると、話は違ってくる。少なくても、大人たちにとっては……。頭のいい町長さんが、この件をどう片づけたのかは、お楽しみ。
 人物の絵に、もう少しかわいらしさがほしいところだが、ガビン・ビショプが描く絵は、何ともいえない愛嬌があり、シニカルながらも微笑ましいこの話を、うまく演出している。

(大作道子) 2009年1月公開

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2008年 ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞  YA小説部門受賞作品

"The Transformation of Minna Hargreayes" (2007) by Fleur Beale (未訳読み物)

その他の受賞歴 


 都会で暮らす14歳の少女ミナ。家族とはあまりうまくいっていないけれど、何でも話せる仲よしの友人が3人いるし、学校で一番もてる2つ年上のボーイフレンド、セブと付き合い始めて、満ち足りた毎日を送っていた。自分の家に泊まりに来るようセブから誘われ、友人の家に泊まるとうそをついて出かけようとするが、なぜか母に感づかれ、セブと会うことを禁じられてしまう。
 そんなある日、父が信じられないような話を持ち出した。家族で1年間、クック海峡にある無人島で暮らし、その様子をテレビで全国に流すという。テレビ局が提示したギャラは莫大で、その間、今住んでいる家を人に貸すのため家賃収入も得られる。冗談じゃない !とミナは怒るが、ここのところ無気力な兄ノアは反対しない。母は最初反対していたが、ノアが睡眠薬の過剰摂取という事件を起こしてから気が変わり、多数決で無人島生活を送ることが決まる。
 ヘリコプターでしか渡れない島に到着早々、母が妊娠していることが判明。お腹の子の父親はミナの父ではなく、父の母への態度が豹変する。ミナも、自分とセブの仲を邪魔したくせに……と、母に憤りを感じる。続けて、フリーザーが壊れていることが判明し、父は島から引き上げることを決めるが、つわりがひどく、ヘリコプターに乗りたくない母は島から出ることを拒む。
 母のしたことを不快に感じ、父の母への態度に腹を立てながらも、ミナはつわりで動けない母の代わりに料理をしたり、にわとりの世話をしたりする。島での生活を通して少しずつ変わっていくが、ヘリコプターに乗って以来食欲が戻らず、いつまでたっても元気にならない母の様子に不安を感じていた。

 外出するときは、厳格な祖母がびっくりするようなフルメークをし、同世代の日本の女の子と比べるとずいぶん大人っぽく感じられたミナだが、家では料理も洗濯も何もしない。つまり、一見大人びて、言うことは立派だが、中身は単なるガキだった。それが、母親の不義、親友の裏切りといったどろどろとした愛憎劇に巻き込まれるうちに、急速に成長していく。
 日本でも大家族を追跡取材したようなテレビ番組があるが、そんな番組に「無人島で1か月○○生活」的な要素を加えたような物語。莫大なお金と引き換えに、全世界に家族のプライバシーを公開というのは、あまりにも代償が大きいような気がするが、ミナの友人のひとりのように、世間の注目を浴びるミナがうらやましくてたまらないような人間もいるのだろう。

(赤塚きょう子) 2009年5月公開

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2003年  ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞 児童読み物部門受賞作品

"Buddy" (2002) by V.M.Jones V・M・ジョーンズ
『バディ たいせつな相棒』 田中亜希子訳 PHP研究所 2008

 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2008年3月号)

その他の受賞歴 
2003年エスター・ グレン賞候補作


 ジョシュは13歳。スポーツ万能。でも水泳は例外。あるトラウマのせいで、全く泳げない。そんなジョシュが、自信家のクラスメイトに勝ちたい一心で、トライアスロンのジュニア大会出場を決める。自転車レースとマラソンには自信あり。問題の水泳は、クラス担任のミッチ先生に特訓をお願いし、熱く温かい指導のもと、めきめき上達していった。
 トレーニングは順調だけど、ジョシュの毎日は、幸せいっぱいではない。両親は離婚し、父さんは、新しいパートナーを連れてきた。また、ジョシュには、重い障害を負い、施設で暮らす双子の兄がいる。生まれた時からずっと、最高の理解者である大切な相棒、バディだ。でも、バディのことは、学校では秘密にしている。
 ジョシュがトライアスロン大会への意気込みを伝えると、バディは、「応援にいく」と、力強くいった。

 思春期の少年ジョシュが、ありのままの自分を、生き生きと語っている。秘密や悩みを抱えながらも、自分らしく前向きに生きる姿に共感し、一気に読んだ。
 ジョシュのトラウマや、バディが重い障害を負った経緯は、終盤で明かされるが、大きなテーマの周囲にも、両親の離婚や再婚、男の子同士のライバル意識、魅力的な転校生の女の子への思い、ペットの子猫など、青春物語の要素が満載。クライマックス部分は、何度読んでも泣いてしまう。それなのに、壮大さをアピールしているわけではないのが、この作品の良さだと思う。ジョシュはヒーローではなく、普通の男の子として書かれているところが、とても気に入った。
 両親、父さんのパートナー、ミッチ先生など、大人たちの温かさも魅力的だ。ジョシュが、厳しい現実に向き合いながらも健全に生きているのは、愛されているからなのだろう。

(大作道子) 2009年5月公開

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2002年
ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞 児童読み物部門受賞作品

"RECYCLED" (2001) by Sandy Mckay サンディ・マカーイ
『リサイクル コリンはエコ戦士』 赤塚きょう子訳 さ・え・ら書房 2005

 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2003年5月号)

その他の受賞歴 


 小学生のコリンは、環境問題に熱心な担任のリード先生に触発されてリサイクルにめざめ、身近なところからエコに取り組み始めた。
 でも、家族は無関心。コリンが一生懸命指導しても、ゴミの分別もしようとしない。父さんも母さんも姉さんも、それぞれストレスを抱えていて、イライラ気味だ。コリンのやり方が強引なこともあって(よかれと思ってのことなのに)、リサイクルが進むどころか、家族の心が離れていくようだ。
 近隣のリサイクルセンターにも、危機が訪れる。コリンも授業の一環で見学に行ったそのセンターは、地域に大きく貢献しているすばらしい施設だ。それなのに、借地契約が切れるのを機に、「市」の方針で閉鎖されることになってしまった。跡地には住宅が建つという。それに対して、リサイクルセンターの責任者であるパディさんは、抗議すると決めた。環境問題より、地元の富裕な住民たちの利害を重視する「市」の態度は許せない。コリンは、リード先生やクラスメイトと一緒に、パディさんを応援。立ちのき礼状を渡しにきた役人の行く手を阻み、横断幕を掲げ、シュプレヒコールをあげるが、そこで、とんでもないハプニングが起きた。

 コリンが一人称で語るストーリー展開を楽しみながら、環境問題について学べる本だ。
 エコ戦士として突っ走るコリンは、決して優等生ではなく、ラグビーや、がらくたのコレクションが好きな普通の男の子。家庭でのリサイクルを提案しておきながら、自分が決まりを守れなくてひんしゅくを買ったり、かえってゴミが増えてしまったりと、失敗続き。反省しつつも懲りないところのあるコリンは、子どもらしくてほほえましい。
 仕事中毒の母さん、失業中の父さん、モデルめざしてダイエット中の姉さんの事情も織りまぜてあり、親しみやすい話になっている。母さんのストレス解消法がハンググライダーというのも、風変わりでおもしろい。
 コリンは、リサイクルセンターに関わる大人たちの事情に直面し、市のおえらがたに立ち向かうという大胆な行動に出る。環境問題の深刻さを素直に受けとめ、改善の努力をしようとするコリンのような子どもの存在は貴重だ。子どもならではの純粋な正義感が伝わってくる。ことのなりゆきは予想外だったけれど、その後のコリンは、肩の力が抜けて、少し成長したようだ。同じできごとをきっかけに、コリンの家族にも変化があったことが、飾らない口調で語られていて、読後感もさわやかだ。

(大作道子) 2009年5月公開

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1991年
AIM Children's Book Awards(現ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞)年間最優秀図書賞受賞作品

"Rocco" (1990) by Sherryl Jordan (未訳読み物)

その他の受賞歴 


 16歳の少年ロッコは、原因不明の体調不良と悪夢に苦しんでいた。長い間行方不明の叔父や、老人病院にいる祖母と関係があるのだろうか? 気がつくと、ロッコは、悪夢で見た世界にタイムスリップしていた。荒涼とした谷に集落があり、原始的に暮らす人々がいる。洞窟に住み、狩猟と農業で食料を得る。治療にはハーブを使い、疫病を恐れている。
 もとの世界に戻る術を知らないロッコは、人々に従い、暮らし始める。そして次第になじんでいった。アンシュールという名のこの土地は、未開ではあるが、人々は純粋で温かく、争いがない。信頼できる指導者もいる。アヨシという年老いた賢女だ。
 でも、いつかもとの世界に戻りたい。いや、このままアンシュールで結婚しようか。そう思い始めた頃、ロッコは、現代の病院で意識を回復した。

 1990年にニュージーランドで発表されたファンタジー。タイムスリップした世界で展開する話が、落ち着いたトーンで語られている。
 アンシュールで暮らすロッコは、もとの世界との関係を考え続ける。アンシュールに人々が住みつくようになった経緯は、語り部の女性が話してくれるが、それ以前のことは謎だ。その謎は、ロッコが現代に戻り、退院してから解明されていく。
 ファンタジックな設定に見合うだけの大きなテーマを携えた物語だ。ロッコの名字はメイクピース(Makepeace)。この名字が多くを語っているが、物語の展開には、最後の最後まで目が離せない。著者シェリル・ジョーダンは、画家としても実績があり、中世に造詣が深いという。静かで繊細な文体に魅力を感じた。

(大作道子) 2009年8月公開

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2003年
ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞 児童読み物部門 候補作

"When the Kehua Calls" (2002) by Kingi McKinnon (未訳読み物)

その他の受賞歴 


 13歳のレウィはマオリ族の少年。都会で生まれ育ったが、父の失業を機に、両親の故郷である片田舎に引っ越してきた。着いて早々、荒れ果てた古い家の裏庭で、幽霊のようなものを目撃。この土地に不気味さを感じる。家は修繕され、快適な新居になるが、裏庭の不気味さは消えない。でも、両親は感じていないらしく、新生活に満足そうだ。
 レウィには、いとこのポーリーという良き話し相手ができた。マオリ独特のことをたくさん教えてくれる。マオリの世界にも幽霊はいるそうだ。マオリ語で、ケフアという。ある日2人は、裏庭でフクロウの絶叫を聞いた。フクロウに取り憑いたケフアの声ではないだろうか。ケフアが叫ぶと、まもなく誰かが死ぬという言い伝えがあるのだ。
 レウィは悪夢に苦しみ始め、妹のメガンは病気で入院。原因は不明だ。ポーリーは、「ケフアのしわざだ。両親に話せ」というが、都会育ちのレウィは、ためらってしまう。両親はわかってくれないだろう。レウィのことを、頭がおかしくなったと思うに違いない……。ぐずぐずしているうちに、メガンの病状は悪化し、やがて危篤に! ポーリーに促され、レウィは、やっと、ケフアのことを父に話す。マオリの知恵でメガンを救えるだろうか。

 著者キンギ・マッキノン(1943-2006)は、レウィ同様、都会で生まれ、少年時代に田舎に移り、マオリ族のコミュニティで育ったそうだ。この作品も、自分の経験がモチーフだという。
 幽霊を題材にしたホラーではあるが、恐ろしさとともに、マオリの人々の素朴さや温かさが感じられる作品だ。マオリ独特の風習にはあやしげな雰囲気もあるけれど、都会っ子レウィのちょっとたよりない語りにうまく導かれ、先へ先へと読み進むことができた。終盤の、メガンを救うための儀式の場面は、ドキドキしながら興味津々で読んだ。
 住み慣れない土地で、幽霊におびえながら暮らすレウィの気持ちにも共感できる。怖い思いをしつつも、親戚や隣人に囲まれ、マオリらしさを取り戻し始めた両親にも見守られて、いつのまにかマオリの暮らしに心地よさを感じていたレウィ。ポーリーとの男の子同士の友情もさわやかで、心に残った。

(大作道子) 2009年8月公開

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2006年
ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞 児童読み物部門 候補作

"Chinatown Girl: The Diary of Silvey Chan, Auckland 1942"(My Story シリーズ) (2005) by Eva Wong Ng (未訳読み物)

その他の受賞歴 


 12歳の少女シルビーが1942年に書いた日記形式の作品。シルビーは、大都市オークランドの小さなチャイナタウンに住む中国人移民3世だ。勤勉な両親や同胞たちと、中国の伝統を守りながら慎ましく暮らす一方で、ニュージーランドの学校生活も楽しんでいる。しかし、戦争の暗い影が次第に濃くなり、日本軍の接近におびえる日々だ。
 戦争のおかげで、思いがけないことも起こった。長い間差別されてきた中国人移民が、ついに市民権を与えられる。また、ニュージーランドとアメリカの間に友好関係が結ばれる。ニュージーランド防衛のため、米軍が駐留してくれるのだ。どちらも、「ジャップ」という共通の敵に対するためだ。米軍兵を歓迎するパレードも盛大に行われた。
 シルビーは、アメリカから来た中国系の青年兵士3人と親しくなる。自宅に招いて家族みんなでもてなし、一緒に歌を歌い、この上なく楽しい時を過ごした。また、青年兵士の1人と、将来のことを語り合い、希望も生まれる。しかし、こんなことも長くは続かない。3人の兵士は、近い将来、戦地へ送られるのだ。

 この作品を読んで、第2次大戦におけるニュージーランドの最大の敵国が日本だったことを初めて知り、衝撃を受けた。中国人差別政策が撤廃されたことも、イギリス連邦国家であるニュージーランドがアメリカと手を取り合ったことも、日本という共通の敵を持ったがゆえのことだったのだ。日本人にとって、非常に重いテーマを扱った作品だ。
 とはいえ、全体の雰囲気は、読者の心に重くのしかかるものではないだろう。シルビーはまだ12歳の少女であり、中国人移民としては比較的恵まれた生活をしているおかげで、素直でおだやかだ。移民3世なので、日本軍の中国侵略を直接経験しているわけでもない。そんなシルビーの語り口は、日本の読者にも読みやすいと思う。
 シルビーの日常生活の記録は、多岐に渡っている。家族のこと、チャイナタウンの人々のこと、春節のお祝い、学校生活、白人の親友との友情、戦争の影……。楽しいことも、悲しいことも、苦しいことも、素直に書き綴っている。中国人としての誇りと、ヨーロッパ的なものへの憧れの両方が伝わってきて、「夢多かれ」と、シルビーを応援したくなる。
 この年、シルビーにとって最も印象的だったのは、中国系米軍兵士たちとの出会いだろう。11月と12月の日記は、そのことが中心となる。
 全体を通して読むと、淡々とした印象で、物語性に欠けることは否めないが、私は、シルビーという女の子に大きな魅力を感じた。また、ニュージーランドと太平洋戦争との関わりが書かれているという点で、われわれ日本人にとって、貴重な作品だ。

(大作道子) 2009年8月公開

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2009年
ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞 児童書読み物部門受賞作品

"Old Drumble" (2008) by Jack Lasenby (未訳読み物) 追加

その他の受賞歴 2009年エスター・グレン賞候補作


『どえらい牧羊犬、ドランブル』(仮題)

 1930年代のある年、ニュージーランド北島の開拓地に暮らす少年ジャックは、小学校入学前の夏を満喫していた。何よりの楽しみは、ときどきやってくる家畜追いのアンディと牧羊犬のドランブルに会うことだ。アンディは、何十年も行動をともにしてきたドランブルの武勇伝の数々を語ってくれる。
 目の威力で家畜の群れを従わせ、市場までの長い道のりをみごとに導いていく名犬ドランブルだが、昔はものすごい声の持ち主でもあった。とどろくような一吠えで、川の流れを止めてみせたことがある。また、増水した川にロープを渡し、綱渡りで川を越えたこともある。シーツの切れ端で目隠しした牛や羊を、自分の後ろに1列に並ばせて綱を渡らせたのだ。かと思えば、犬だというのに、パブを何十軒もはしごしてヘベレケになったり、熱々のカボチャにがっついたせいで、のどをやけどし、吠えることができなくなったりというエピソードもある。アンディが語るドランブルの話は、良くも悪くも豪快だ。
 ジャックは、そんなドランブルとアンディのコンビに果てしなくあこがれていた。でも、夏も終わる頃、これからはあまりアンディと会えなくなるだろうとパパに言われる。アンディも年だし、時代は変化し、家畜追いの仕事はトラックや鉄道に取って代わられるかもしれないからだ。

「古き好き時代」という言葉がぴったり合いそうな雰囲気を持った作品。1930年代のニュージーランドの田舎の暮らしに思いをはせながら、ゆっくり味わった。大恐慌で厳しい時代だったに違いないが、現代にはない素朴さや温かさ、大らかさ、それに、荒っぽさやたくましさを感じさせてくれる。
 主人公のジャックも、エネルギーに満ちあふれている。アンディのほら話を信じこんで大興奮し、家路につくときには犬になりきってしまう。近所の子どもにアンディとドランブルの話を聞かせるときには、知らず知らずのうちに大幅に脚色している。スラング満載のアンディの話をそのままママにも話してしまい、パパにたしなめられるが、ママの目はまるでドランブルの目のような威力があって、ジャックは何の隠し事もできなくなってしまうのだ。そんな家族3人のやりとりは、情景が目に浮かぶようだ。
 わくわくしながらページをめくるというよりは、ときどきクスリと笑いながらゆったり読み進んだ。平和な夏が終わる頃に、少し悲しいできごとが起こるが、ジャックはそれをどう受けとめるのか? 味わいどころである。

(大作道子) 2009年9月公開

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