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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> アメリカの賞レビュー集その1



アメリカの賞レビュー集 一覧

セオドア・スース・ガイゼル賞(ドクター・スース賞)  ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞

シュナイダー・ファミリー・ブック賞  ブルー・リボン賞  

その他、ニューベリー賞などは、目次ページから

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

セオドア・スース・ガイゼル賞(ドクター・スース賞)(USA) レビュー集
Theodor Seuss Geisel Award
 

★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★ Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary ★

最終更新日 2009/04/01 新規公開(レビュー2点)

Theodor Seuss Geisel Award 公式サイト  過去の受賞作一覧

★ セオドア・スース・ガイゼル賞の概要

 ドクター・スースとして知られる作家、セオドア・ガイゼル(1904〜1991)にちなむ賞。低学年までの子どもが読む力をつけ、読書の楽しみを知る助けとなるような本が選ばれる。前年にアメリカで出版された、幼年から2年生向けまでの本が対象で、他国で出版されたことがある本は対象外。物語、ノンフィクション、詩など内容は問わないが、24ページから96ページの 「物語の内容を語るイラストが描かれている本」であることが条件。作者はアメリカ市民またはアメリカ在住者に限る。
 受賞者はALAが任命した7名の委員会が決定する。毎年1月、ALAの冬期会議(Midwinter Meeting)中に発表され、授賞式はALAの年次総会(Annual Conference)で行われる。2004年創設、2006年から受賞開始。
 


"Zelda and Ivy"『ゼルダとアイビー』 * "Henry and Mudge and the Great Grandpas"


2007年セオドア・スース・ガイゼル賞受賞作品

"Zelda and Ivy: The Runaways"(2006)  by Laura McGee Kvasnosky ローラ・マギー・クヴァスナースキー
『ゼルダとアイビー』 小島希里訳 BL出版 2008年

その他の受賞歴


 ゼルダとアイビーはキツネの姉妹。おとうさんが毎日作ってくれるきゅうりのサンドイッチにあきあきして、ふたりで家出することにしました。荷物を詰めたら、お庭のフジウツギのかげに毛布を広げて家出開始。こっそり家の様子をさぐりますが、おとうさんもおかあさんも、心配しているふうはなく……。

 家出を決意した姉につられて妹もいっしょに家出。でも、両親はこどもたちの家出に気づかず、なんにも心配していない。いかにも小さい子が考えそうな「家出」の顛末が微笑ましい。
 本はこの「家出」の他に「タイムカプセル」「まほうのドリンク」の3つのお話からなっていて、それぞれ別の話でありながら、少しずつつながっている。そしてどれもみな「ああ、たしかにこういうふうに思ったことがある」という記憶を呼び覚まされる、なつかしさの漂うお話だ。
 

(冬木 恵子) 2009年4月公開

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2006年セオドア・スース・ガイゼル賞受賞作品

"Henry and Mudge and the Great Grandpas"(2005) (未訳 初級読み物) 
 by Cynthia Rylant シンシア・ライラント、illustrations by Sucie Stevenson 〔Suçie Stevenson 〕

その他の受賞歴


 ヘンリーと、相棒の犬マッジは、お父さんとお母さんと一緒にひいおじいちゃんのビルに会いにきました。ビルは、たくさんのお年寄りと一緒に、森の中に立つ家で暮らしています。ヘンリーもマッジも、おじいちゃんたちが大好き。ヘンリーはおみやげをたくさん届け、マッジは疲れたおじいちゃんたちが寄りかかれるように、大きな体をかしてあげます。

 この「ヘンリーとマッジ」シリーズ(出版社参考ページ)は、1987年の1作目 "Henry and Mudge" から2006年の "Henry and Mudge and the Big Sleepover" まで28作品が出版され、アメリカの子どもたちに愛されてきました。 Simon & Schuster 社の、 Ready to Read シリーズのレベル2(Reading Independently)に配されていて、絵本から読み物に発展していく子どもたちが楽しく読めるように、絵がふんだんに用いられています。
 セオドア・スース・ガイゼル賞の、記念すべき第1回受賞作となった本作では、家族みんなとおじいちゃんたちの家をたずね、マッジと森に探検にいき、湖でおじいちゃんたちみんなと泳ぐ ヘンリーの幸せな1日が、4つの章立てで語られています。少年と愛犬のきずな、お年寄りとの交流、お年寄りの暮らしとそれぞれの個性が、ユーモアいっぱいに描かれていて、初級向けながら読み応え満点。
 このシリーズを読むと、今の日本では、大型犬と自由に走り回る少年時代を経験できる子どもは少ないだろうなと、ヘンリーがうらやましくなってしまいます。

(植村わらび) 2009年4月公開

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞(USA) レビュー集
The New York Times Best Illustrated Children’s Books
 

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最終更新日 2009/07/05 レビューを1点追加

賞の公式サイトはない  NY Times サイト内、2008年度受賞作品スライドショーのページ  (参考:Library Thing サイト内の一覧ページ)

★ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞の概要

 1952年創設。ニューヨークタイムズ紙の「ブックレビュー」コーナーが主催。毎年3人の審査員(絵本作家、児童書編集者、児童書専門の図書館員など)に、その年に出版された数千冊の絵本の中からベスト10を選んでもらう。毎年11月発表。
 


"The Black Book of Colors" * "Wabi Sabi" * "Wabi Sabi" * "While We Are Out"『うさぎのおるすばん』←追加 * 


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

2005年度 "The Hello, Goodbye Window"『こんにちは・さようならのまど』  2000年度 "Only Passing Through: The Story of Sojourner Truth"『とどまることなく』  2000年度 "A Day, A Dog"『アンジュール』 1997年度 "Leon and Bob"『ふしぎなともだち』  1996年度 "Golem"『土でできた大男ゴーレム』  1995年度 "Zin! Zin! Zin! A VIOLIN!"『ツィン! ツィン! ツィン! おたのしみの はじまり はじまり』  1992年度 "Mirette on the High Wire"  1992年度 "The Fortune-Tellers" 1990年度 "The Tale of the Mandarin Ducks"  


2008年度ニューヨークタイムズベストイラスト賞

"The Black Book of Colors"(2008) (未訳絵本)
 text by Menena Cottin,
 illustrated by Rosana Faria 〔Rosana Faría〕 ロサナ・ファリア

その他の受賞歴
メキシコで出版された"El libro negro de los colores"(2006)が、2007年ボローニャ・ラガッツィ賞 New Horizons 部門を受賞。(本作はそれをElisa Amado(エリサ・アマド)が英訳したもの。)


トーマスはいう。黄はマスタード味。
だけど、ふわふわしたひよこの羽みたいにやわらかい。
赤。熟しきらないいイチゴの酸味。でも、スイカみたいに甘い。
ころんだひざでは、ひりひりする。
茶色は枯れ葉。足元でカサカサ音をたてる。チョコレートの香りのときもある。
ひどいにおいのときもある。
トーマスはいう。青は空。凧がとんでいるときの空。
太陽は、ぼくの頭をじりじり焦がす。

 タイトルの通り、表紙から裏表紙まで、すべてが黒い絵本である。そこに文字だけが白でかかれている。あとは、黒。すべて黒だ。これはトーマスの世界。そう、これは目が不自由なトーマスが感じる、色の世界を描いた本なのだ。
 まっ黒な画面にでこぼこと浮き出る点字、そしてトーマスが感じる色の場面。あるページでは羽が、またあるページではイチゴや枯れ葉、凧が、やはりまっ黒な画面に、つるつるした線が浮かび上がるように描かれている。どちらも手で触ってわかるようになっている。本に光をあてれば点字も絵も光って見える。だが、できることなら目だけでなく、触って感じてほしい。指で、手で、そして心で。彼の世界を。
 光がない世の中は、トーマスにはどう見えているのだろうか。色とはどんなものなだろう。
 詩のように語られる、黒く、だが、かえって色鮮やかな世界。においや味、触感といった五感をつかってたっぷり堪能することができた。ほんの数ページ味わっただけなのに、これまで見えていたものが、まるで違って感じられた。私の目は正しくものを見ていたのだろうか。目の力だけに頼りすぎてはいないだろうか。感覚をとぎすませれば、また新たな光を感じられる……。これは、まったくこれまで味わったのことのないような、心の目を開かせてくれる、美しい作品だ。

(美馬しょうこ) 2009年4月公開

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2008年度ニューヨークタイムズベストイラスト賞

"Wabi Sabi"(2008)(未訳絵本) Mark Reibstein作、Ed Young エド・ヤング

その他の受賞歴


 わびさびは、日本の京都で暮らす猫。ある日、外国からのお客さまに、わびさびという名前の意味を問われた飼い主は、口で説明するのは難しいと答える。自分の名前には、いったいどんな意味があるのだろう? わびさびは、周囲の犬や猫たちに、その意味を尋ね歩くが、納得のいく答えは得られない。とうとう比叡山に住む、年老いた賢い猿を訪ねたわびさびは、自分の名前が持つ真の意味を知る。

 日本の文化に興味を持つ外国の人は多いというが、本書のような日本文化の真髄を紹介した絵本が出版されたことを、日本人としてとても嬉しく思った。詫び、寂びとは何か? 日本人でも説明しづらいことだろう。この本では詫び、寂びという概念が、「わびさび」というひとつの単語のように扱われているので、多少の違和感がある。だが、そのことを差し引いても、言葉では表しにくい概念が、猫という身近な動物を案内人として、とても分かりやすく説明されていると思う。作者は日本在住経験があり、実際に「わびさび」という名の猫を飼っていたそうだ。
 コラージュの技法で描かれたエド・ヤングによる絵は、和の趣に満ちていて、詫び、寂びの世界を余すことなく伝えてくれる。月光のあたる抹茶の美しさ、池にうかぶ鮮やかな紅の葉、猫のシンプルな後姿……どの絵にも味わいがある。また、各ページには松尾芭蕉や正岡子規の俳句が日本語で書かれている。(巻末には英訳あり。)英語圏の読者にとっては、装飾的な意味合いも強いと思うが、私たち日本人にとっては、そのページの絵と呼応した選句に唸らされるだろう。内容からいって、子どもには難しい部分もあるかもしれない。日本文化に興味のある大人にも読んで欲しい本である。

(佐藤淑子) 2009年4月公開

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2003年度ニューヨークタイムズベストイラスト賞 

"While We Were Out"(2003) by Lee, Ho-baek 이호백 イ・ホベク
韓国版タイトル:『도대체 그 동안 무슨 일이 일어났을까?』(2000)
邦訳タイトル:『うさぎのおるすばん』 黒田福美訳 平凡社 2003
邦訳奥付英語タイトル:"What on Earth Happened Last Night?"

その他の受賞歴
・2003年BCCBブルーリボン賞絵本部門


 ベランダで飼われている白いウサギが、家の人たちが留守のあいだに部屋の中にはいってきました。そして、ずっと気になっていたことを、じゅんばんにやっていきます。冷蔵庫をあけて食べるものをさがし 、いすにすわってテーブルで食事をしたり、ビデオを選んでおかしを食べながら鑑賞したり。何より楽しみにしていたのは、ローラーブレード。さあ、うまくすべれるかしら。

 この絵本の登場するのは、極端に擬人化されたウサギではなく、わりと本物に近い体型に描かれたウサギです。人間のすることをあれこれ体験していくウサギの様子は、見ていてとてもほほえましい。絵本にふれた子どもたちは、「ウサギが家の中に入ってきてうろうろすること? あるある。きっとこんなことをするはず!」と、確信することでしょう。想像力をかきたててくれる絵本です。
 家の中は、たんすの中にしまってあったチマチョゴリをのぞけば、日本でも韓国でもアメリカでもどこでも通じそうな現代風の様子で、民話絵本や韓国らしさを全面に出した絵本とは一味違う印象でした。 そのあたりに、この絵本がアメリカでも受け入れられ、かつ受賞もした要因があるのかもしれません。韓国に住んでいる作者のイ・ホベクは、リンダ・スー・パークの絵本 "Bee-bim Bop!" の絵も描いています。

(植村わらび) 2009年7月公開

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