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速報 |
―― 2002年度 ウィットブレッド賞発表!! ――
現地時間の1月8日、2002年度ウィットブレッド児童文学賞の発表が行われた。この賞は、英国の企業ウィットブレッド社の主催により、英国とアイルランドに居住する作家によって書かれた子ども向けの作品の中で、最も優れた一作に贈られるもの。本年度の受賞作は以下の通り。
2002 Whitbread Children's Book of the Year
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受賞作 "Saffy's Angel" はボストングローブ・ホーンブック賞オナーブック(次点)にも選ばれた作品だ。ひょんなことから自分が養女であると知った少女 Saffy が、自分のルーツ探しを始めるという物語。作者 Hilary McKay は初作品『夏休みは大さわぎ』(ノーマン・ヤング絵/ときありえ訳/評論社)でガーディアン賞を受賞している。
候補作の "Exodus" は2002年のガーディアン賞にもノミネートされた作品。温暖化のために陸地の水没化が進む地球が舞台。主人公は自分の住む小島の島民とともに、海上に建設されたという空中都市を目指して旅立つ。しかし、待っていたものは……。環境、人権などの問題を取り上げた近未来冒険小説である。
"Sorceress" は、一昨年ガーディアン賞の最終候補作品となった『魔女の血をひく娘』(亀井よし子訳/理論社)の続編である。前作は17世紀を舞台にした作品だったが、この作品は現代が舞台である。前回の主人公 Mary となぜか精神的なつながりをもつ、ネイティブアメリカンの少女 Agnes が、Mary にその後何が起こったのかを語る。
"Mortal Engines" は、Philip Reeve の初作品である。近未来、町は荒廃し動く都市と化していた。騙されて移動都市を追い出された主人公 Tom は、同じような境遇の友人を得て、自分の住んでいた都市をさがす。この作品はスマーティーズ賞を受賞したほか、ブランフォード・ボウズ賞の候補作にもなった作品である。作者 Reeve は当作品発表の後、少年を主人公としたシリーズを出版している。
(西薗房枝)
《参考》 ◇ウィットブレッド児童文学賞作品・候補作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) ◇ボストングローブ・ホーンブック賞発表記事(本誌2002年6月号) |
ウィットブレッド賞 ニューベリー賞 コールデコット賞 プリンツ賞 スコット・オデール賞 "Saffy's Angel" MENU |
速報 |
―― 2003年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!! ――
現地時間の1月27日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コールデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA―American Library Association)が、昨年米国で出版された子どもの本の中で、最も優れた作品に対して贈るものである。受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
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1991年の『シャーロット・ドイルの告白』(茅野美ど里訳/偕成社)などで、過去に2度のオナー(次点)に選ばれたアヴィが、50作目にして初めてニューベリー賞を獲得した。その作品、"Crispin: The Cross of Lead" は、14世紀のイングランドの農村で暮らす少年が主人公の物語。身に覚えのない罪に問われて逃亡するなか、旅芸人に助けられながら自分の出生の秘密を知り、不公平な封建制に立ち向かうという、手に汗握る冒険活劇だ。
"The House of the Scorpion" は、近未来の大麻帝国を舞台に、いま話題のクローン人間の立場から生命の重さや社会のあり方を問う作品。昨年11月、全米図書賞児童書部門に輝いたことが記憶に新しい。ナンシー・ファーマーがオナー(次点)に選ばれたのは、これで3度目。
"Pictures of Hollis Woods" は、いくつもの里親の家を転々としてきた少女が、思いどおりにならないことに傷つきながらも、理想の家族を探し求める物語。パトリシア・ライリー・ギフは、1996年の "Lily's Crossing" に続いて2度目のオナー(次点)となった。
ひねりのきいたユーモアに定評のあるミステリ作家、カール・ハイアセンは、初めて手がけた児童書 "Hoot" でも持ち味を発揮した。フロリダの町で起こる怪事件を下敷きに、いじめられっ子の内気な少年が少しずつ殻を破っていく成長物語だ。影の主役は、表紙の顔の主?
アン・M・マーティンの "A Corner of the Universe" では、小さな町で平穏に暮らす少女のもとに、存在すら明かされていなかった若い叔父が訪ねてくる。精神面に問題を抱えた叔父を前に、揺れ動く少女の純粋な心が描かれた作品。
ステファニー・S・トーランの "Surviving the Applewhites" は、どこの学校にも持て余された非行少年が風変わりなホームスクールでひとりの少女と出会い、内なる才能を開花させていく、コメディー・タッチの作品だ。
(須田直美)
《参考》 ◆パトリシア・ライリー・ギフのサイト(Randomhouse 内のサイト) ◆アン・M・マーティンのサイト(Scholastic 内のサイト) |
※2003年3月、「パトリシア・ライリー・ジフ」を「パトリシア・ライリー・ギフ」に訂正
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【コールデコット賞】(画家対象)
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コールデコット賞に輝いたエリック・ローマンは、1995年に "Time Flies" (『タイム フライズ ときをとびぬけて』ブックローン出版、現BL出版)という文字なし絵本で、オナー(次点)に選ばれている。今回の受賞作品 "My Friend Rabbit" は、ねずみが、友だちのうさぎと、新しいおもちゃの飛行機で遊ぼうとしたことから大騒動が起こるという楽しい話だ。イラストは版画風、黒の輪郭線とビビッドな色使いが、印象的で素晴らしいと評価された。
また、オナー(次点)に選ばれたのは次の3作。
トニー・ディテルリッジィの "The Spider and the Fly" は、メアリー・ハウイットの教訓的な詩を題材に、蜘蛛とエレガントな蚊との恋物語を、サイレント映画を思わせるイラストで描いている。
ピーター・マッカーティーの "Hondo & Fabian" は、簡潔な文に、やわらかなタッチのイラストによって、海に遊びに出かけた犬と留守番をする猫の話が描かれている作品。邦訳には『うさぎ、うさぎ、どこいくの』(多賀京子訳/徳間書店)などがある。
ジェリー・ピンクニーは、聖書のノアの箱舟の話を力強い鉛筆のデッサンと水彩で描いた "Noah's Ark" で、今回5度目のオナー(次点)となった。邦訳には『おしゃれなサムとバターになったトラ』(さくまゆみこ訳/ブルース・インターアクションズ)などがある。
(高橋めい)
《参考》 |
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上記2賞の発表と同時に、マイケル・L・プリンツ賞の発表も行われた。この賞はヤングアダルト(YA)作品を対象とし、米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門(YALSA)が主催するものである。受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【プリンツ賞】(YA作品対象)
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受賞作 "Postcards from No Man's Land" は、現代に生きる17歳の少年の物語と、老女が戦争中を回想する物語とから構成される。少年は、第2次世界大戦中に異国で没した祖父の墓を訪れるため、アムステルダムにやってきた。そこで彼は、かつて祖父の手当てをしたオランダ人女性――もうひとつの物語の語り手に出会う。戦争、不倫など様々な社会問題を扱った本作は、イギリス人作家チェンバーズの1999年の作品で、カーネギー賞を受賞している。すでに10か国以上で翻訳出版されており、日本での出版も待たれる(徳間書店より年内刊行予定)。
次点3作のうち "The House of the Scorpion" については、上記ニューベリー賞速報記事を参照されたい。ここでは他の2作を紹介する。
"My Heartbeat" はフライマンワイヤーの3作目の作品。兄を慕い、兄の親友に恋い焦がれる14歳の少女が、性や同性愛の問題を通して成長していく様子を瑞々しいタッチで描く。"Hole in My Life" は、一昨年のニューベリー賞オナー(次点)や「あくたれラルフ」シリーズの作者ガントスの自伝。表紙の受刑者の写真は作者自身だ。学費を稼ぐためとはいえ、道を踏み外し20歳のときに投獄された。どん底からはい上がり、作家としての地位を築いた彼の生き方が語られている。
(河原まこ)
※"Postcards from No Man's Land" は、2002年に米国で出版されたため、2003年プリンツ賞の対象となった。
《参考》 |
ウィットブレッド賞 ニューベリー賞 コールデコット賞 プリンツ賞 スコット・オデール賞 "Saffy's Angel" MENU |
速報 |
―― 2003年 スコット・オデール賞発表!! ――
去る1月15日、スコット・オデール賞が発表になった。この賞は、1982年に作家スコット・オデールによって設立されたもので、南北アメリカ大陸を舞台にした、子ども向けの優れた歴史小説に贈られる。受賞対象となるのは、前年にアメリカで出版された、アメリカ人作家による作品。毎年、選考委員会が1作品を選ぶ。
2003 Scott O'Dell Award for Historical Fiction
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受賞した "Trouble Don't Last" は、博物館に勤務する歴史学者 Pearsall のデビュー作。奴隷を自由州やカナダへ逃がすための秘密組織「地下鉄道(Underground Railroad)」を、奴隷側の視点から描いたものだ。
1859年、オハイオ州の農場で働く、11歳の奴隷少年サミュエルは、老奴隷のハリソンに連れられ、カナダへの逃亡を図る。しかし、常に不運に付きまとわれる少年にとって、自由を目指した旅は「地獄に向かうよりも、恐ろしい」ものだった。次々に起こる問題、最終章まで続くスリリングな展開は、読者を一気に引き込んでいく。
(河原まこ)
《参考》 |
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注目の本(未訳読み物) |
―― 私の天使はどこ? ――
『サフィの天使』(仮題) "Saffy's Angel" ★2002年度ウィットブレッド賞受賞作 |
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サフラン、愛称サフィは8歳でようやく字が読めるようになった。しかしそれが運命の岐れ道に。字を読めるようになったことで、サフィは自分が養女だったことを知ってしまう。ずっと4人きょうだいの1人だと思っていたのに! 私のお母さんはどんな人だったの?知りたいことがふくらむサフィ……。
決してセンチメンタルな物語ではない。作者マッカイの筆致は明るく、すいすい読めてしまう。それは、自分は誰かというルーツ探しをするサフィが、常に前向きで頼もしく描かれているからだろう。サフィを支えるのは、きょうだい3人だ。彼らの存在は、物語の大事な柱となっている。姉のキャディは、車の運転を習うため、膨大な時間をインストラクターと過ごしていた。キャディはその彼に夢中になる。運転を覚えながら、キャディは恋のかけひきでも忙しい。弟のインディゴはきょうだいの中で唯一の男の子、趣味(?)は窓の敷居に座ること。妹のローズは両親の芸術家気質を受け継ぎ、絵画の才能がある。
さて、サフィが自分の出生を知った時、残念なことに祖父が亡くなってしまう。その祖父が亡くなる時、不思議な遺言をのこした。「サフィの石の天使、それは庭にある」――天使、庭、それらは何処にあるのか。遺言の謎を解き明かすため、生母が暮らしていた、イタリアのシエナに向かうサフィ……。
「自分は何者か」という問いを持ったことのある人は多いはず。サフィは、ひょんな事から自分が養女だと知り、その思いをより強くした。家族に励まされ、少しずつ謎に近づいていく描写はスリリングだ。きょうだいの機微がよく伝わってくるのは、マッカイ自身4人姉妹で育ったからではないだろうか。
サフィ自身が考え、行動に移した自分探し。そのゴールはなんとも清々しい!
(林さかな)
【作】Hilary Mckay(ヒラリー・マッカイ) ボストン生まれ。セント・アンドリュース大学で植物学と動物学を学ぶ。その後、英語、美術史、心理学を学び、児童文学を執筆するようになる。デビュー作 "Exiles"(『夏休みは大さわぎ』ときありえ訳/評論社)で1992年度ガーディアン賞を受賞。現在夫と2人の子どもと一緒にダービシャー在住。 |
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 吉村有加(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 林さかな/赤間美和子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 蒼子 河まこ キャトル きら くるり さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー 月彦 どんぐり なおみ NON ぱんち みーこ みるか 麦わら MOMO YUU ゆま yoshiyu りり ワラビ わんちゅく |
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