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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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賞情報 |
―― 2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 ――
4月2日から5日まで開催されたイタリアのボローニャ・ブックフェアにおいて、2003年ボローニャ・ラガッツィ賞(BolognaRagazzi Award)の授賞式が行われた。
2003年の各部門の★Winner(受賞作)☆Special mention(特別賞)は以下の通り。
(昨年度より16歳までを対象とした作品ということで、特に年齢別の部門設定はされていない
)
BolognaRagazzi Award 2003
○フィクション
○ノンフィクション
○ニュー・ホライズン賞
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フィクション部門受賞はフランスの作品である。詩人、作家、出版業者、ポストモダニストの先駆者と言われる、著者クノーは、『地下鉄のザジ』(生田耕作訳/中公文庫)で世界的に有名になった。短い話を99通りに作り替えていった "Exercices de Style" は1947年に初版。受賞作はその作品に多くのイラストなどを加え、本のイメージを一新したもの。初版本は『文体練習』(朝比奈弘治訳/朝日出版社)として紹介されている。特別賞は米国の作品。画家インノチェンティは『くるみわり人形』( E・T・A・ホフマン著/金原瑞人訳/西村書店)などが、そして作者ルイスはネイチャーシリーズ(橋本和訳/エヌティエス)などが紹介されている。幻想的で不思議な雰囲気のインノチェンティの絵とルイスのストーリーとのバランスのすばらしさが好評を得た。
ノンフィクション部門の受賞作は、ドイツ侵攻時のフランスで、レジスタンス全国評議会を組織し、武力に屈することなく活動したジャン・ムーランを取り上げたフランスの作品。特別賞はギリシャ神話に出てくる神秘的で不思議な生き物の数々が登場する英国の作品で、作者は『ディア・ダイアリー』(ほむらひろし訳/フレーベル館)など多数が邦訳されているサラ・ファネリ。
ニュー・ホライズン賞を獲得したイランの作品は、古典的な味わいが出るように、紙質やノンブルにこだわっている。作りに反して内容は現代文化をとりあげ、古代と現代をうまく融合させ、趣のあるものとなっている。特別賞はエジプトの作品。現代的な絵の中にもアラブのもつ独特の雰囲気、伝統が息づいており、まるでアラビアン・ナイトの世界を思い出させる。
(西薗房枝)
【参考】 ◆ボローニャ・ブックフェア公式ページ |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
注目の本(邦訳絵本) |
―― だれもがほしくなる魔法のベッド ――
『旅するベッド』 "The Magic
Bed" |
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ベッドが小さくなったので、ジョージーは新しいベッドを買いに行くことになった。パパとふたりでショッピング・センターに向かう途中、ジョージーは古物屋さんをみつける。ここにもぼくにぴったりのベッドがあるかもしれないと、店の人に聞いてみた。店の人がだしてくれたのは、どこへでも自由に旅ができるという不思議なベッド。すっかり気にいって、ふたりはそのベッドを買った。
パパとふたりでベッドをきれいに洗うと、文字があらわれた。ベッドで旅をするには、お祈りをして魔法のことばを唱えればいいと書いてある。でも肝心の魔法のことばのまん中が消えていて読めない。ジョージーはさっそくベッドにもぐりこんで、このことばをいいあてようとしてみたが……。
細い線と淡い色づかいで描かれたバーニンガムの絵は、夢と現実の境界があいまいで、どこまでも広がっていくような雰囲気がある。ひとつひとつの場面から、さらに想像がふくらんで、いろいろなお話がつくれそうだ。物語を読みながら絵をながめていると、ふわふわとこちらもベッドにのって、世界中を旅しているような気分になる。
子どもだけでなく、大人だってほしくなる魔法のベッド。でもこの本にでてくるママとおばあちゃんは、なぜ新しいベッドにしなかったの、といってしまう。自分も同じことをいってしまいそうで、ちょっぴりどきりとする。子どものことばに耳をかたむけることを忘れないように、いっしょにこの絵本を読んで楽しみたいと思う。
夢みる気持ちを忘れずに、自分だけの魔法のことばをみつけたら、ジョージーのようにベッドで旅ができるかもしれない。今晩から魔法のことばをいろいろ試して、夢の世界を広げてみたい。
(竹内みどり)
【文・絵】ジョン・バーニンガム(John Burningham) 1937年イギリス生まれ。1964年『ボルカ』(木島始訳/ほるぷ出版)と1970年『ガンピーさんのふなあそび』(光吉夏弥訳/ほるぷ出版)でケイト・グリーナウェイ賞を、1985年『おじいちゃん』(谷川俊太郎訳/ほるぷ出版)ではカート・マシュラー(クルト・マッシュラー)賞を受賞。その他多数の作品を発表している。 【訳】長田弘(おさだ ひろし) 1939年福島市生まれ。詩人。主な詩集に『深呼吸の必要』『心の中にもっている問題』(ともに晶文社)、『一日の終わりの詩集』(みすず書房)などがある。絵本に『ねこのき』(大橋歩絵/クレヨンハウス)、訳書には『クリスマスのおくりもの』(ジョン・バーニンガム作/ほるぷ出版)や、「詩人が贈る絵本」シリーズ(みすず書房)などがある。 |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
―― 誰にも読めない結末! 骨太のファンタジー ――
『盗神伝1 ハミアテスの約束』 "The Thief" by Megan Whalen Turner ★1997年ニューベリー賞オナー(次点)作 |
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ソニウス王国の牢獄に囚われた若い盗人、ジェン。町の酒場で、自分に盗めない物はないと豪語し顔と名前を売っていては捕まるのも当然だった。しかし、そんな危険をおかした裏には、ジェンのある「目的」が隠されていた。
悲惨な牢獄での数か月が過ぎたある晩のこと、王の助言者であるメイガスがジェンの独房にやってきた。牢から出してやる代わりにある物を盗めという。ジェンの腕をみこんでのことだった。翌日、メイガスは、有能な兵士ポル、メイガスの若い弟子ふたりと共に、ジェンを連れて馬で旅立った。旅が進むに連れ、それぞれの人となり、人間関係、旅の目的がじょじょに明らかになる。ジェンが盗みだす物は、ソニウスの隣にある中立国エディスに伝わるハミアテス王の神話と関係があるらしい。
冒険ファンタジーと銘打たれたこの作品の一番の魅力は、ストーリーの巧みさだ。メイガスに命じられた物をジェンはうまく盗みだすことができるのか? ジェンが危険をおかしてまでもやりとげようとしている目的とは何なのか? 各国の政治的な思惑とジェンの思いが錯綜し、最後にはあっと驚く結末が用意されている。「やられた!」そうつぶやいて本を閉じた後、また最初からページをめくらずにはいられない。そして、2回目でも3回目でも、ジェンの語る言葉の裏に、あんなことやこんなことが隠れていたのかと気づき、そのおもしろさに再び夢中になってしまうのだ。
架空の国と時代とはいっても、丘の上の石造りの建物、オリーブの林といったギリシャを思わせる風景や、王が統治する小国が林立し牽制しあうといった時代設定からは、歴史読み物のような現実味と重層感が伝わってくる。辛らつだけれどどこか憎めないジェン、高圧的かと思えば意外と情の深いメイガスなど、人物の描写も奥行きがある。ジェンが父親と同じ兵士になることを拒み、盗人になる道を選んだ理由とそこに至る葛藤にも説得力があり、骨太で、読み応えのある作品にしあがっている。
旅の途中、焚き火を囲んで語られる神話も作者が創造したもの。この神々は、物語に不思議な陰影を添えており、続編 "The Queen of Attolia" でも重要な役割を果たす。なお、続編の邦訳は前・後編に分かれ、前編は2003年7月に、後編は9月に刊行予定とのこと。ジェンに再会するのがとても楽しみだ。
(植村わらび)
(編集注)タイトルの巻数に使われているローマ数字は機種依存文字のため、本誌では算用数字で表記しました。
【作者】メーガン・ウェイレン・ターナー(Megan Whalen Turner) 1965年米国オクラホマ州生まれ。シカゴ大学卒業。はじめての作品は短編集の "Instead of Three Wishes"。2作目の本作でニューベリー賞オナー(次点)他、数々の賞に輝き、続編の "The Queen of Attolia" と共にアメリカの若者の間で高い人気を博している。
【訳者】金原瑞人(かねはら みずひと) 1954年岡山県生まれ。翻訳家。法政大学社 会学部教授。『エルフギフト』(スーザン・プライス作/ポプラ社)、『豚の死なない日』(ロバート・ニュートン・ペック作/白水社)、『レイチェルと滅びの呪文』(クリフ・マクニッシュ作/理論社)、『不思議を売る男』(ジェラルディン・マコーリアン作/偕成社)など英米の児童文学を中心に130冊を超す翻訳書がある。
【訳者】宮坂宏美(みやさか ひろみ) 本誌今月号情報編「特別企画」参照。 |
【参考】 ◆メーガン・ウェイレン・ターナーのサイト ◇ニューベリー賞受賞作品リスト《1997年》(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
注目の本(邦訳読み物) |
―― 負けるのは駄目なこと? ――
『ハッピー*ボーイ』 "Loser" by Jerry Spinelli |
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小学校にはじめて通う日、高さ1メートルもあるキリンの帽子をかぶっていった子。めちゃくちゃに字がへた。サッカーが大好きでがむしゃらに走りまわるけれど、めったにボールに追いつかない。すぐに笑いだし、笑いだすととまらなくなって先生を怒らせる。質問にはいつも手をあげて答えたがる。けれど、たいていは間違っている。校内のオーケストラ入会案内の紙には、全部の楽器に希望の印をつけて出す。毎朝、学校にすごく早くくる。なぜなら学校が大好き。ジンコフは、そんな子だった。
ジンコフ少年の小学校入学から中学1年生までのエピソードが綴られ、成長の軌跡が映しだされている。いつでも好奇心とやる気でいっぱい。一生懸命だけれど人並みはずれて不器用なジンコフの言動は、まがぬけていてほほえましい。けれども読み進むうち、なぜかしだいに胸が痛くなってくる。
大きくなるにつれて、子どもは優劣を意識するようになる。得意なことがひとつでもある子はいい。でも、ジンコフのようになにをやらせても鈍い子は、友だちからもからかわれ、劣等感をつのらせていく。と、私はいままで思っていた。ところが、ジンコフは違う。負けても負けても、みずみずしい精気にあふれている。
そんなジンコフがはじめ不思議でならなかった。道化者に見えて哀れでもあった。けれど優劣に価値をおく私の枠をはずして読みかえしたとき、違うものが見えてきた。負けることはそんなに駄目なことだろうか? 勝てば誇らしくて嬉しい。でも勝負にこだわるより、競技に全身でぶつかりプレイを楽しんだ方がずっとハッピーではないか? 傍目にどう映ろうと、夢中になっているとき、その人の内面は輝いている!
ジンコフの両親はその輝きを大切にしてくれた。嬉しそうにしていれば理由はなんであれ「おめでとうを千回分!」と祝福し、星のシールをくれた。ほかにも1年と4年の担任教師、町の通りで出会うおばあさんや小さな女の子。存在をそのまま認め愛してくれる人と真心を通わせ、輝きつづけるジンコフはだれよりも幸せだ。
それでも読むたびこの物語は切ない。私たちの誰もが他人に認められたい寂しがりやだと、気づかされるからだろうか。純粋な輝きを失った自分が哀しいからだろうか。
(三緒由紀)
【作者】ジェリー・スピネッリ(Jerry Spinelli) 1941年、米国ペンシルベニア州生まれ。少年時代はリトルリーグに参加し、プロ野球選手になるのが夢だった。文章を書きはじめたのは16歳から。妻も作家。『クレージー・マギーの伝説』(菊島伊久栄訳/偕成社)で1990年ニューベリー賞を受賞したほか、『ひねり屋』(千葉茂樹訳/理論社)でも1997年にニューベリー賞オナー(次点)に選ばれた。
【訳者】千葉茂樹(ちば しげき) 1959年、北海道生まれ。国際基督教大学卒業。児童書編集者として出版社に勤務していたが、現在は翻訳家として活躍している。北海道当別町在住。訳書は『エンデュアランス号大漂流』(エリザベス・コーディー・キメル作/あすなろ書房)『あたまにつまった石ころが』(キャロル・オーティス・ハースト作/光村教育図書)ほか多数。 |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
注目の本(未訳絵本) |
―― ネズミとウサギの微笑ましい友情物語 ――
『ウサギくんは ぼくのともだち』(仮題) "My Friend
Rabbit" by Eric Rohmann ★2003年コールデコット賞受賞作 |
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もらったばかりのおもちゃの飛行機を、友だちのウサギに貸してあげたネズミ。でも、ウサギはその飛行機を高い高い木の枝に引っかけてしまう。さあ、どうしたらいいかな? すると、ウサギは「だいじょうぶ! いいこと思いついたよ!」と、走っていった。ウサギの思いついた《いいこと》って? それはなんと、ゾウ、サイ、カバといった動物たちを順々に積み重ね、はしごの代わりにしようというもの。あとちょっとで飛行機に手が届く、と思ったその瞬間――。
友だちにおもちゃを貸す――小さい子どもにとって、これはかなり決心のいることだ。ましてやそれが、もらったばかりの新品であれば尚のことだ。しかもその友だちが、《悪気はないけれどやることなすこと裏目に出るタイプ》ときては、貸したおもちゃの行く末は想像に難くない。
黒の輪郭線に鮮やかな色づかいで仕上げられた絵は、その独特の筆づかいにより、木版画を見ているかのようだ。語られる言葉は少ないものの、この魅力的な絵がどんな言葉よりも雄弁に、騒動に巻き込まれた動物たちの戸惑いや怒りを物語っており、幼い読者の心をつかむだろう。
油性絵の具を駆使したローマンのコールデコット賞オナー(次点)作品『タイムフライズ ときをとびぬけて』とは、絵の作風がまったく違う。写実的な絵だったこの作品を知っている読者は、がらりと変わった絵に驚くことだろう。
さて本作品のネズミ、心が広いというか、かなり《人のいい》性格に設定されている。最後の最後まで、ウサギの巻き起こすトラブルに付きあわされるのだが、「ウサギくんは、悪気はないんだよ」とつぶやく。常にマイペースで動き、いたる所で騒動を巻きおこすタイプと、そんな相棒の引き起こす騒動に常に巻き込まれていくタイプ。現実の世界でもこういうコンビはよく見かける。現実ではこの組み合わせが必ずしもうまくいくとは限らないが、ローマンの魅力ある絵に加えて《人のいい》ネズミのおかげで、なんとも微笑ましい作品に仕上がっている。
(村上利佳)
【文・絵】Eric Rohmann(エリック・ローマン) 1957年米国イリノイ州生まれ。アリゾナ州立大学、イリノイ州立大学にて美術を学ぶ。デビュー作『タイムフライズ ときをとびぬけて』(ブックローン出版、現BL出版)は、1995年コールデコット賞オナー(次点)に選ばれる。イリノイ州シカゴ在住。 |
【参考】 ◆エリック・ロ ーマンについて(Barnes & Noble.com: Meet the Writers) |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 元サーカス団員をめぐって町は大騒ぎ! ――
『サーカスがやってきたら』(仮題) "When the Circus Came to Town" by Polly Horvath ★やまねこ翻訳クラブ第8回シノプシス勉強会・第1回部分訳勉強会 課題本 |
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アイビーの家の隣に引っ越してきた新しい住人は、サーカス団と一緒に旅をする生活をしていたハリバット一家。アイビーは同い年のアルフレッドと友達になった。
続いてサーカスで蛇使いをしていたエルマイラが、ハリバット家の向かいに引っ越してきた。けれど、蛇を連れて散歩したり、PTAや全米自動車協会などあらゆる会の会員になりたがったりと、一般常識を超越した行動の多いエルマイラは一部の人たちの反感をかってしまった。アルフレッドは、自分たちも悪く言われるようになるのではないかと心配して暗くなる。元気づけるため、アイビーは教会主催のお菓子作りコンテストに参加しようと誘った。
その後、次々とサーカスの人たちが移り住んでくるが、彼らを疎ましく思う人たちが増えていく。自分たちが歓迎されていないことを知ったハリバット氏が、よその町に引っ越すと言い出し、アイビーはショックを受けた。「お菓子作りコンテストでサーカスの人が優勝したら、町に残る」とハリバット氏に約束してもらうのだが……。
偏見や差別といったシリアスなテーマを、11歳の少女の視点でユーモラスに語っている。教会主催の奉仕活動には熱心な人たちが、サーカスの人たちを受け入れることができないという矛盾が面白い。そんな大人たちを自称作家のアイビーが鋭い観察眼で批判する。アルフレッドに出会うまで、友達がいなくても孤独を感じることはなかったアイビーが、友達の大切さを知り、人の心の温かさを知った。そんなアイビーを温かく見守るお父さん、お母さんの存在がまたいい。
エルマイラがあまりにも強烈だったせいで、サーカス出身者といえば奇抜なことをするだけの人たちだと思われてしまうのは気の毒である。屋根の上でアクロバットをしたり、ガレージを17も買ったりする空中ブランコ乗りの兄弟にはびっくりさせられるけれど、彼らが母親思いの優しい青年たちだということはわかるし、女占い師と怪力男にいたっては単なるリタイアした熟年カップルである。エルマイラだって、並外れた蛇好きではあるものの、初めて自分の家と自分の町を持ってはしゃいで、感激しているだけなのだ。そんな部分がアイビーには最初からわかっていたのだと思う。
(赤塚京子)
【作者】Polly Horvath(ポリー・ホーヴァート) 1957年、米国ミシガン州生まれ。1989年に "An Occasional Cow" でデビュー。本作は4作目。"The Trolls" が1999年に、初邦訳作品『みんなワッフルにのせて』(代田亜香子訳/白水社)は2001年にボストングローブ=ホーンブック賞オナー(次点)となった。後者は2002年にニューベリー賞オナー(次点)にも選ばれている。現在カナダ・バンクーバー島在住。 |
【参考】 ◆ポリー・ホーヴァート インタビュー ◇ボストングローブ・ホーンブック賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
子どもに語る 第4回 |
娘の小学校入学と同時に図書ボランティアのおはなし会を始めてから5年目になる。それまで娘や甥に絵本を読んで聞かせていたので、学校の子どもたちにも読んでみたいなと考えたのがきっかけだった。私が参加している小学校の図書ボランティアは、生徒数約890名に対し、約30名いる。在校生と卒業生のお母さんで構成されていて、おはなし会、図書室の本の購入や修理、図書便りの作成など、係を分担して行っている。おはなし会は不定期で、朝の読書の時間か、中休みの15分の間に読むことになっている。対象になる学年はその都度変わる。
さて私がこのグループに入った頃、自分でおはなし会をする前に、何度か先輩の様子を見に行ってみた。プロの朗読者や、元幼稚園の先生がそれぞれの個性あふれるおはなしを披露していた。どれも圧倒されるほど上手く、私はだんだん心細くなってきた。が、まずはやってみようと考えることにした。そして先輩ほど上手でなくて当たり前だから、下手は下手なりに、しっかり選書をして、何度も練習し、じっくり読もうと決めた。本は、今まで自分の子どもに読んで反応の良かったものから選ぶことにした。忘れられない初めてのおはなし会は、中休みの時間だった。校長先生と図書担当の先生も立会いの中、心臓をドキドキさせながら緊張の15分があっという間に過ぎた。読んだのは、『めんどりペニー』(ポール・ガルドン作/谷川俊太郎訳/童話館出版)と『いつかはきっと…』(シャーロット・ゾロトフ文/アーノルド・ローベル絵/矢川澄子訳/ほるぷ出版)の2冊。『めんどりペニー』は、何種類もの鳥が登場し、繰り返し言葉やテンポもあり結末に鋭いオチが付いている。小学生から大人まで十分楽しめる絵本だ。また『いつかはきっと…』は小ぶりの絵本だが、主人公がクリスマスツリーのてっぺんに立つところを縦にもって広げると、たいていの子どもから「きれいだね」と歓声があがる。自信のない子どもを勇気づける主人公エレンの優しい語り口がとてもいい。集まってきた十数名の1、2年生はじっと聞いてくれた。読んだ私もそれを感じてほっとした。
しかし、これからが試行錯誤のスタートだった。一口におはなし会といっても、素話もあれば、パネルシアターもある。先輩のお話にはスタイルがあった。私にも個性のある読み聞かせができないだろうかと、季節に合わせて絵本を選んでみたり、読み聞かせの講習会に行ってみたりした。でも、理論より、失敗から学ぶことの方が大きかった。例えば『メアリー・アリス いまなんじ?』(ジェフリー・アレン文/ジェームズ・マーシャル絵/小沢正訳/童話館出版)を読んだときのことだ。家では、娘に電話交換手の問答がとても受けたので、きっと学校の子どもたちも大爆笑すると見込んでいたのだが見事にあてがはずれた。電話交換手のアリスが風邪で仕事を休むと、代理の交換手に名乗りをあげた動物たちが騒動を引き起こすという楽しいお話だが、残念ながら今は「電話交換手」という職種が知られていなくて、説明してもどんどんしらけていく。親子で読むのに向いている絵本と、子どものおはなし会で読む絵本は違うということに気がついた。また後になって、おもしろいお話というのは聞く対象の反応に期待をかけすぎ失敗しやすいということも判った。 |
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『どこへいくの? |
あるとき、私はおはなし会をどうすすめるか迷っていることや、本選びに失敗したことを読み手仲間に相談してみた。すると彼女は「おはなしをする人のバイブルみたいなものよ」と言って、『お話とは』(松岡享子著/東京子ども図書館 ※)などを薦めてくれた。さらに、『どこにいくの? ともだちにあいに!』(いわむらかずお/エリック・カール作/童心社)という本を1年生のおはなし会で一緒に読まないかと誘ってくれた。この絵本はコラボレート作品で、いわむらかずおさんとエリック・カールさんが同じお話を共同で作り1冊の本になっている。2つのお話がそれぞれ本の両端から始まり、真ん中で終わるという構成だ。最初は友人がいわむらさんの日本語の部分を全部読み、次に私が右のページからカールさんの英語部分を読むという方法で読んでみた。子どもたちは英語にも違和感なく聞き入り「同じお話が、真ん中でいっしょになるんだね」と感想があった。 |
『よあけ』 |
これは私にとって1つのきっかけになった。おはなし会は何よりも実践してみないと判らないことが沢山あること。語り手の数だけおはなしのやり方があること。おはなしを型どおりに読もうなどと気負う必要はないこと。自分なりの読み方を探してゆけばよいのだと気がついた。そしておはなし会で同じ絵本を日本語と英語とで読んでみるのも、わたしのスタイルの1つになるかもしれない。その場に集まった子どもたちに原書を見せてみて、もし原書も読んで欲しいという希望があれば、邦訳と一緒に読んでみることにしたらどうか。英語がわからなくても、本当の原書の味わいが誰かに伝わるのではないかと密かに期待した。
『いつもちこくの |
そこで、3年生と5年生のクラスでおはなし会をすることになったとき、たまたま原書も持っていた『100まんびきのねこ』(ワンダ・ガアグ作/石井桃子訳/福音館書店)を読むことにした。無理に原書は読まないようにしようと思っていたのだが、英語を学ぶ子どもが増えたせいか、私が読み出す前に原書にも注目が集まり両方とも読んでとリクエストがきた。3年生のクラスでは「日本で英語が聞けてうれしい」という帰国子女の感想が返ってきた。5年生のクラスでは「もとの本って、こんな本なんだね」と男子が原書を見に来た。その言葉を聞いて肩の力がすうっと抜けた。また、静かで情緒豊かな『よあけ』(ユリー・シュルヴィッツ作/瀬田貞二訳/福音館書店)を邦訳と原書で読んだ時、とても印象的な5年生の男子の感想があった。「英語の音って、とってもいい響きなんだね。ぼく、気がつかなかった。この本は、英語の方が好き。絵も、原書だともっとあざやかなんだね」としみじみと話してくれた。他にも子どもから気づかされることもあった。例えば、1か月近くおはなし会の当番で通った1年生のあるクラスで、『いつもちこくのおとこのこ――ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー』(ジョン・バーニンガム作/谷川俊太郎訳/あかね書房)を読んだ時のこと。普段から絶対に座って聞くことがなくあちこち動いてしまう男子が、この時真っ先に「英語の方も読んでー」と手を挙げてきた。いつものように飽きてしまうと思いきや、彼は食い入るように本の方を見つめて聞いていた。本当に聞きたい時は子どもはじっとしているのだ。
こんなふうにして、いつまでも手探りではあるけれど、おはなし会をするたび、子どもたちから何かをもらっているような気がする。わずかな感触だが、これがあるからおはなし会はやめられない。
※『お話とは』は、「たのしいお話」の9冊シリーズの中の1冊です。もし入手しにくい場合は、日本エディタースクール出版の『〈たのしいお話〉お話を子どもに』と『〈たのしいお話〉お話を語る』にも同様の内容が出ています。 |
2003年ボローニャ・ラガッツィ賞発表 『旅するベッド』 『盗神伝1 ハミアテスの約束』 『ハッピー*ボーイ』 "My Friend Rabbit" "When Circus Came to Town" 子どもに語る MENU |
●お知らせ●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
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●編集後記●
春眠暁を覚えず――ベッドの旅から戻れなくなりそうな季節ですね。私の住む東北も、そろそろ桜が楽しめそうです。
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 竹内みどり(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 赤間美和子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 蒼子 河まこ キャトル きら くるり さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー 月彦 どんぐり なおみ NON ぱんち みーこ みるか 麦わら MOMO ゆま yoshiyu りり りんたん ワラビ わんちゅく |
協 力: |
出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内 ぐりぐら ち〜ず ながさわくにお hanemi BUN ベス めい |
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