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●速報1●2008年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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現地時間の1月14日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コー
ルデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA: American
Library Association)が、昨年米国で出版された子どもの本の中で、最も優れた作
品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門(YALSA
: Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/
▼YALSA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/yalsa/yalsa.htm
各賞の受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"Good Masters! Sweet Ladies!: Voices from a Medieval Village"
by Laura Amy Schlitz (Candlewick)
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☆Honor Books(3作)
"Elijah of Buxton" by Christopher Paul Curtis (Scholastic)
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"The Wednesday Wars" by Gary D. Schmidt (Clarion)
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"Feathers" by Jacqueline Woodson (Putnam)
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本年のニューベリー賞に輝いたのは、"Good Masters! Sweet Ladies!: Voices
from a Medieval Village"。ボルティモアにある私立学校に司書として15年間勤めて
いる作者が、5年生の歴史学習プロジェクトの一環として1997年に書いたものが本に
なった。19編の独白劇と2編の対話劇で構成されており、子どもたちは中世の農家や
騎士や粉引きの子どもになりきって、ノミやシラミのいる生活や封建社会の様子を生
き生きと表現していくことができる。子どもたちが演じるという新しい分野を児童文
学の世界に提示したことも、高く評価された。
オナーブックの1作目、Christopher Paul Curtis による "Elijah of Buxton" の
主人公 Elijah は11歳。自由を求めてカナダへと逃げてきた黒人奴隷の居住地で、最
初に生まれた子どもだ。彼は、友達が盗まれた大事なお金を取り戻そうとして、アメ
リカへの危険な旅を敢行する。そして、アメリカの奴隷制度という現実に向き合うこ
とになる。シリアスなテーマを扱っているものの、もちろん『ワトソン一家に天使が
やってくるとき』(唐沢則幸訳/くもん出版)のようにユーモアや笑いが忘れられて
いるはずはなく、Curtis の技量が存分に発揮された作品になっている。
1960年代後半、ベトナム戦争期のアメリカ、ロングアイランド近郊を舞台にしてい
るのは、Gary D. Schmidt の "The Wednesday Wars" だ。7年生になった主人公ホリ
ングは、時間割りの関係で、水曜日の午後を担任のベイカー先生とふたりきりでシェ
イクスピアの戯曲に取りくまなくてはならなくなった。嫌がるホリングだったが、時
間が経つにつれておもしろいと感じるようになる。Schmidt は、学校生活、スポーツ、
思春期の入り口、子どもに無関心な両親、ベトナム戦争の影、といった数多くの要素
をうまく盛り込み、読み応えのある作品にしあげた。
さて、最後に紹介する Jacqueline Woodson の "Feathers" の舞台も、同じくベト
ナム戦争時代の1971年。アフリカ系の子どもばかりの学校に通う6年生の女の子フラ
ニー、友達のサマンサ、転校生の白人の男の子、彼をいじめる子どもたちが登場する。
差別社会、問題を抱えた家族といった厳しい現実の中で、希望を持って生きていこう
とするフラニーの内面がやさしくリリカルに語られている。エミリー・ディキンスン
の詩から引用された "Hope is the thing with feathers" という言葉が印象的だ。
オナーの3作には、アメリカ児童文学賞の常連作家たちによる渾身の作品が並んだ。
邦訳が出る日も近いのではなかろうか。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/newbery.html
▼Schlitz が勤める私立学校のサイト内受賞記事
http://www.parkschool.net/more.cfm?objectid=262
▼Christopher Paul Curtis 公式ウェブサイト(Randomhouse 内)
http://www.randomhouse.com/features/christopherpaulcurtis/
▼Jacqueline Woodson 公式ウェブサイト
http://www.jacquelinewoodson.com/
▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
▽クリストファー・ポール・カーティス(カーチス)作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/c/cpcurtis.htm
▽ジャクリーン・ウッドソン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/w/jwdsn.htm
(植村わらび)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"The Invention of Hugo Cabret" by Brian Selznick (Scholastic)
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☆Honor Books(4作)
"Henry's Freedom Box" by Ellen Levine, illustrated by Kadir Nelson
(Scholastic)
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"First the Egg" by Laura Vaccaro Seeger (Roaring Brook)
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"The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain"
by Peter Sis (Farrar Straus & Giroux)
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"Knuffle Bunny Too: A Case of Mistaken Identity" by Mo Willems (Hyperion)
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コールデコット賞に輝いた "The Invention of Hugo Cabret"(『ユゴーの不思議
な発明』金原瑞人訳/アスペクト)は、12歳の孤児ユゴーが主人公だ。彼は泥棒にし
て、時計の管理人であり、だれにも存在を知られないことを身上に、パリ駅の時計台
にある秘密の小部屋に住みついている。ところが時計職人だった父が遺したからくり
人形をめぐって、不思議な少女イザベルと出会い、おもちゃ屋の老人が登場し、物語
はミステリアスな方向へ……。500ページにもなる長編だが、そのうち約300ページを
デッサンのようなモノクロ挿絵がしめる。カメラワークのようなクローズアップや、
動きのある描写は読者をあきさせない。2007年度ニューヨークタイムズベストイラス
ト賞を受賞し、2007年全米図書賞児童書部門の最終候補作品にも選ばれた。映画化も
決定している。
オナー作品、"Henry's Freedom Box" は、まだ奴隷制の存在した1849年のアメリカ
を舞台に、自由を手にするために南部から北部へ自分を木箱に詰めて送る行動にでた
ヘンリー・ブラウンの物語。まるで写真のような臨場感あふれる挿絵が、強い力を持
って迫ってくる。Nelson は昨年も "Moses: When Harriet Tubman Led Her People
to Freedom" でオナーに選ばれている。
"First the Egg" の表紙は巣の上にある大きな卵が印象的だ。卵が先かにわとりが
先か、おたまじゃくしが先かカエルが先か、といった昔からの問いかけから始まるの
だが、絵本そのものに回文のような仕掛けがある。最後に思わず微笑んでしまう、楽
しくて温かい作品だ。
"The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain" は、ピーター・シスの自伝的
絵本で、彼がアメリカに移住するまでのチェコスロバキアでの生活を描いたもの。
2008年ロバート・F・サイバート知識の本賞にも選ばれている。白黒の細かい場景で
は赤い星と旗ばかりに目がいく。ところが作者がのちに知ることになった壁のこちら
側ではカラフルな色彩があふれんばかりだ。鉄のカーテンの向こう側で暮らすことに
はどれだけの制約を伴うものであったか。柔らかな雰囲気を漂わせた絵が、シリアス
な状況下で暮らす人々の様子をコミカルに伝える。
"Knuffle Bunny Too: A Case of Mistaken Identity" は、2005年オナーブック
"Knuffle Bunny: A Cautionary Tale"(『トリクシーのくたくたうさぎ』中川ひろた
か訳/ヴィレッジブックス)の続編。クリクリ頭のトリクシーがきれいな金髪のかわ
いらしい女の子に成長し、大好きなうさぎを持って幼稚園へいくことになる。ところ
がまったく同じうさぎを持っている女の子があらわれ……。Mo Willems は、2003年
の "Don't Let the Pigeon Drive the Bus!"(『ハトにうんてんさせないで』中川
ひろたか訳/ソニー・マガジンズ)でもオナーに選ばれており、今回で3度目となっ
た。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/caldecott.html
▼"The Invention of Hugo Cabret" 作品公式ウェブサイト
http://theinventionofhugocabret.com/index.htm
▼Kadir Nelson 公式ウェブサイト
http://www.kadirnelson.com/
▼Laura Vaccaro Seeger 公式ウェブサイト
http://www.studiolvs.com/website_root/index.html
▼Peter Sis 公式ウェブサイト
http://www.petersis.com/index2.html
▼Mo Willems 公式ウェブサイト
http://www.mowillems.com/
▽コールデコット賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽ブライアン・セルズニック作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/s/bslznck.htm
▽ピーター・シス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/s/psis.htm
(尾被ほっぽ)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"The White Darkness" by Geraldine McCaughrean
(Harper Tempest, an imprint of HarperCollins)
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☆Honor Books(4作)
"Dreamquake: Book Two of the Dreamhunter Duet" by Elizabeth Knox
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(Frances Foster Books, an imprint of Farrar, Straus and Giroux)
"One Whole and Perfect Day" by Judith Clarke
(Front Street, an imprint of Boyds Mills Press)
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"Repossessed" by A.M. Jenkins (HarperTeen, an imprint of HarperCollins)
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"Your Own, Sylvia: A Verse Portrait of Sylvia Plath" by Stephanie Hemphill
(Alfred A. Knopf, an imprint of Random House Children's Books)
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プリンツ賞は、作品の分野や作者の居住地に制限がなく、前年にアメリカで出版さ
れたYA作品なら、過去に他国で出版された作品も対象となる。
今年の受賞作品は、児童文学の巨匠 Geraldine McCaughrean の "The White
Darkness" に決まった。20世紀初頭の南極探検家ローレンス・オーツを敬愛する14歳
の少女 Symone。彼女が楽しみにしていた南極大陸への旅行が、おじの思惑で命をか
けた危険な旅になってしまう。複雑なプロットと豊かな想像力で生み出された本作品
は、英国ではすでに2005年ウィットブレッド賞(現コスタ賞)児童書部門ならびに
2005年カーネギー賞のショートリスト作品に選ばれ、高い評価を受けている。昨年米
国版が出版され、今回の受賞に至った。
今年のオナーは4作品。"Dreamquake: Book Two of the Dreamhunter Duet" は、
今から100年ほど前の、南半球のとある小さな町が舞台だ。地図には描けない異次元
空間「プレイス(その場所)」に入り、中から夢を持ち帰って他人に見せる選ばれし
ドリームハンター Laura を主人公にした第2巻。なお、本作品は1、2巻ともに
『ドリームハンター上・下』(鈴木彩織訳/日本放送出版協会)として邦訳されてい
る。作者 Elizabeth Knox は、ニュージーランドの作家である。
風変わりな家族に対して愛情と同時に当惑も抱く少女 Lily が、家族や周りの人々
とともに成長していく様子を描いたのが、"One Whole and Perfect Day"。作者
Judith Clarke はオーストラリアの作家で、数々の文学賞を受賞しており、日本でも
"Starry Night"(『星降る夜に』/柿沼摩貴子訳/DHC)が紹介されている。
仕事に疲れ休暇を取ろうと考えた悪魔が、人間の体を借り、人間はどうして罪を犯
すのか、実体を持つということはどんな気分なのかを体験してみようとする話が、
A.M. Jenkins の "Repossessed" だ。米国内での評価は高い Jenkins だが、大きな
文学賞のオナーに選ばれたのはこれが初めてで、邦訳はまだない。
最後に紹介する "Your Own, Sylvia: A Verse Portrait of Sylvia Plath" は、実
在のアメリカ女流詩人シルヴィア・プラスの作品と人生を題材にしている。プラスの
人生に関わった人々の視点からの詩、という形で年代順にプラスの人生が語られる。
プラスについては、すでにたくさんの伝記が出ており、その人生は映画化もされてい
るが、Stephanie Hemphill は、それでもまだプラスの詩の真の魅力は伝え切れられ
ていないと考え、今回題材に選んだという。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/yalsa/printz/
▼Geraldine McCaughrean 公式ウェブサイト
http://www.geraldinemccaughrean.co.uk/Indexx.html
▼Elizabeth Knox 紹介ページ(New Zealand Book Coucil 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/knoxelizabeth.html
▼"One Whole and Perfect Day" レビューページ(ABC.net.au 内)
http://www.abc.net.au/rollercoaster/therap/reviews/s1793439.htm
▼A.M. Jenkins 紹介ページ(HarperCollins 内)
http://www.harpercollins.com/authors/15325/A_M_Jenkins/index.aspx
▼Stephanie Hemphill 紹介ページ(Random House 内)
http://www.randomhouse.com/author/results.pperl?authorid=70523&view=full_sptlght
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/
▽オーストラリア児童図書賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/au/cbca/index.htm
(村上利佳) |