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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ブランフォード・ボウズ賞(BBA)(イギリス) レビュー集
 

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最終更新日 2009/05/18 ミシェル・ペイヴァー作品リストへのリンクを追加

ブランフォード・ボウズ賞(BBA)リスト(やまねこ資料室) ブランフォード・ボウズ賞の概要

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メルマガ「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。


"The Burying Beetle" * "Gideon the Cutpurse"『タイムトラベラー 消えた反重力マシーン』(リンクのみ) * "Keeper"『キーパー』(リンクのみ) * "Outcast"『追放されしもの』(クロニクル千古の闇4)


2006年ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト

"The Burying Beetle"(1995) by Ann Kelley (未訳読み物)

その他の受賞歴


 イギリス、コーンウォールの海辺を舞台に、少女が身近な生き物を通して生と死を見つめる物語。
 8月に12歳になったガッシーは、小さな湾を見おろす崖の上に建つ小さな貸家に母親と二人で暮らしている。生まれつき心臓の病を抱えており、体への負担を減らそうと、4月にロンドンからコーンウォールに越してきたのだった。隣家は遠く離れていて住むには寂しいところだったが、家には山ほど本があり、時に荒々しくも美しい自然に囲まれていた。ガッシーの静かな日常が、彼女の言葉で語られていく。
 ほとんど何もおこらない。誕生日にパパから花束が届いた。散歩をした。次の日は疲れて丸くなっていた。そんなところから彼女のおしゃべりがはじまり、話題が次々と広がっていく。昔を思い出すことも多い。去年ママと離婚して若い女性と暮らし始めたパパのこと。その後、相次いで死んでしまった祖父母のこと。ふたりはガッシーをとてもかわいがってくれた。仲良しだったロンドンの友達。ケニヤですごし日々。そして、ガッシーは、まわりの動物や鳥や虫などに目を向けていく。3匹の飼い猫がつかまえてくるネズミやさまざまな虫、祖父の生まれ変わりだと信じているカモメのポップ、崖に巣を作っている雛を育てているハヤブサ、家の裏口にたずねてくるアナグマ、庭に集まる小鳥たち。ガッシーは、家にある本を読んで生態を調べ、その生と死を見つめていく。

 ガッシーは病弱で、いずれ、心臓と肺の移植手術が必要だ。移植をしても、あと十年ほどしか生きられないだろうと、自分の状況を冷静に把握している。その上で、ドナーから心臓を移植されるのはどんな感じだろうと考えたり、ドナーの親の気持ちに思いをはせたりする。知りたいことはたくさんあるのに、それを知る時間がないと、精力的に本を読む。「自分があと少ししか生きられないということを知っているのは、ある意味ラッキーだ。だって、一瞬一瞬を精一杯生きることができるもの」と前向きに考える。その内面は意外なほどに淡々としていて、それゆえに、作り事ではない、まるでノンフィクションのような力強さが伝わってきた。
 読者に、主人公がかわいそうという感情を持たせるのではなく、主人公に寄り添って生きることを見つめさせた作家アン・ケリーには、ガッシーと同じ病気を持 って生まれ、若くして亡くなった息子がいた。ガッシーのように一瞬一瞬を精一杯生きた彼は、移植を受けて1週間後に亡くなってしまったが、移植するチャンスをもらえたことをとても喜んでいたという。そうした親としての経験と深い思いから生まれたのがこの作品だ。本作品の読者からの続編を求める声に応えて、2作目の "The Bower Bird"(2007) が出版され、2007年コスタ賞児童書部門を受賞した(
レビュー :月刊児童文学翻訳2008年3月号)。3作目となる "Inchworm" は2009年2月に刊行予定だ。
 タイトルになっているシデムシは、小動物の死骸を見つけて地中に埋め、それを食べ、卵も産みつけるという虫で、移植ドナーへの思いが重なる。おもしろい筋書きやスピーディーな話の展開とは正反対のこの物語から読者が得るものは、生きること に対する静かで力強い喜びだろう。

(植村わらび) 2009年1月公開


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2004年ブランフォード・ボウズ賞受賞作品

"Keeper" (2003) by Mal Peet マル・ピート作 
『キーパー』 池 央耿訳 評論社 2006

その他の受賞歴
 2004年
スマーティーズ賞(現ネスレ子どもの本賞)9〜11歳部門銅賞


 ネスレ子どもの本賞(旧スマーティーズ賞)レビュー集を参照のこと

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2007年ブランフォード・ボウズ賞HC作品

"Gideon the Cutpurse" (2006) by Linda Buckley-Archer リンダ・バックリー・アーチャー
『タイムトラベラー 消えた反重力マシン』
 小原亜美訳 荒井良二装画・挿絵 ソフトバンククリエイティブ 2007

その他の受賞歴
 
2007年(2006年度) カーネギー賞ロングリスト


 カーネギー賞レビュー集を参照のこと

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シリーズ1作目『オオカミ族の少年』(クロニクル千古の闇1)が、2005年ブランフォード・ボウズ賞ショートリスト 。本レビューは4作目。

"Outcast" (2007) by Michelle Paver ミシェル・ペイヴァー
『追放されしもの』(クロニクル千古の闇4) さくまゆみこ訳 評論社 2008

「クロニクル千古の闇」シリーズの受賞歴
 1 『オオカミ族の少年』(2005年6月) "Wolf Brother" (2004)
  2004年度カーネギー賞ロングリスト 
2005年ガーディアン賞ロングリスト 2005年2005年BBAショートリスト
 2 『生霊わたり』(2006年4月) "Spirit Walker" (2005)
  2005年度カーネギー賞ロングリスト
 3 『魂食らい』(2007年4月) "Soul Eater" (2006)
  2008年 (2007年度)カーネギー賞ロングリスト 2007年チルドレンズ・ブックス賞高学年向け部門ショートリスト


 6000年前のヨーロッパ北西部が舞台となっている「クロニクル千古の闇」シリーズの第4作。
 父も母も亡くしてワタリガラス族と共に暮らしていたオオカミ族の少年トラクは、前作終末のできごとが公になり〈ハズシ〉にされてしまう。〈ハズシ〉となった者は、たったひとりで森に追放され、誰かに見つかれば殺されてしまう――それは、〈魂食らい〉を遠ざけるために、全氏族の族長らが話し合って決めた掟だった。
 オオカミの弟分ウルフと共に、森の中で追っ手から逃げまわるトラク。ウルフが時折嗅ぐ〈別のにおい〉や、トラクの刺青が刻まれた白い石を抜き取っていった緑色の手は、トラクの体を襲う異変と関係があるのか? トラクは、あれほど近しかった森の声も聞けなくなり、ウルフの言葉さえもわからなくなっていく……。

 巻が進むにつれて深みを増してくる本シリーズ。今回トラクは、魂の病に苦しむことになる。内にこもり、生きとし生けるもの全てとのつながりを失ってしまい、さらには魂が悪霊の餌食となり悪に抵抗できなくなる。14歳になるトラクはどうやってこの難関を克服していくのだろうか――作者は丁寧な筆の運びで、トラクの内なる葛藤や苦しみを描いていく。一方、トラクの大事な友である、ワタリガラス族の少女レンは、2 巻で登場したアザラシ族の少年ベイルと共に、トラクを助けようと奔走する。レンの秘められた苦しみも明らかになり、ちょうど思春期を迎えた二人の関係に微妙な変化が現れるところも見逃せない。
 解き明かされる謎もあれば新たに出てくる謎もありで、今後の展開から、ますます目が離せない。シリーズ全6巻のうち、第5巻 "Oath Breaker の原書が2008年9月に刊行 済で、第6巻 "Ghost Hunter"の原書は2009年9月刊行予定。邦訳は、2009年1月現在、4巻まで。

(植村わらび) 2009年1月公開

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