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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> カーネギー賞レビュー集(2007年以前)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

カーネギー賞(イギリス) レビュー集 その1
The Carnegie Medal

(2007年以前)
 

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最終更新日 2009/05/01 レビューを2点追加 

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カーネギー賞受賞作品リスト(やまねこ資料室) カーネギー賞の概要

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。

*カーネギー賞公式サイトにおいて、2007年より、年表記が、出版年度(前年)から授賞年に変わりましたので、 やまねこサイトでも順次改めていきます。2005年度(発表は2006年)以前の作品については、以前のまま作品が出版された年度で表示しています。


以下の受賞作品は、他の賞のレビュー集ですでにレビューを公開しています。

1999年度HC"The Illustrated Mum" 『タトゥーママ』 / 2000年度SL"Coram Boy"『その歌声は天にあふれる』 / 1996年度HC"The Tulip Touch"『チューリップ・タッチ』 / 2003年度LL"Keeper"『キーパー』 / 2001年度SL"Journey to the River Sea"『夢の彼方への旅』 / 2007年(2006年度)LL"The Boy in the Striped Pyjamas"『縞模様のパジャマの少年』 /


"Fire, Bed and Bone" * "Gideon the Cutpurse"『タイムトラベラー 消えた反重力マシン』 * "Dear Nobody"『ディアノーバティ』/『あなたへの手紙 ディアノーバディ』 * "The Garbage King"『路上のヒーローたち』 * "Granny was a Buffer Girl"『シェフィールドを発つ日』←追加 * "Storm"『あらし』←追加 * 


1997年度 カーネギー賞Highly Commended

"Fire, Bed and Bone" (1997) by Henrietta Branford (未訳読み物)

 やまねこ公式レビュー 
 
レビュー(月刊児童文学翻訳1999年6月号)(未訳)

その他の受賞歴
 ・1998年ガーディアン賞  ・1997年スマーティーズ賞銅賞


 時は1381年。イギリスでは大きな疫病の嵐が去ったばかりだった。「わたし」は、ルーファスという小作農民の家で、猟犬として、平穏な日々を送っていた。その冬、3匹の子犬が生まれ、まだ寒い早春の日々、子犬の成長に目を細めていた。ところが、人間たちの世の中では、農民の反乱の不穏な動きがあり、飼い主のルーファス夫婦は、謀反の疑いをかけられて捕らえられてしまう。「わたし」は、野犬として生きていくべきか、選択を迫られる。

 主人公の「犬」が一人称で語るという異色の歴史物語である。イギリスで実際に起きた農民一揆「ワット・タイラーの乱」の時代が舞台だ。冒頭、登場者が動物か人間か分かりにくく、ちょっととまどったが、すぐに慣れ、犬の視点から描かれた過酷な物語の展開に引き込まれていった。原題は、飼い犬の恵まれた環境を示すものだ。センチメンタルな題名を選ばず、このような端的なタイトルにしたところに、実生活でも狩りや動物に親しんだという作者の骨太な一面を垣間見る気がする。
 作者のヘンリエッタ・ブランフォードは、1999年に53歳で、がんでこの世を去ったが、彼女と長年仕事を共にしてきたWalker Booksの編集者Wendy Boaseも同年、がんで亡くなった。この二人の才能を惜しみ、功績を讃えるために、2000年にBranford Boase Awardが設立された。この賞は、新人の児童文学作家のデビュー作と、新人発掘に貢献した編集者に対して与えられる。また18歳以下の青少年対象の文学賞部門もある。

(大塚道子) 2008年6月公開

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2007年(2006年度) カーネギー賞ロングリスト

"Gideon the Cutpurse" (2006) by Linda Buckley-Archer リンダ・バックリー・アーチャー
『タイムトラベラー 消えた反重力マシン』
 小原亜美訳 荒井良二装画・挿絵 ソフトバンククリエイティブ 2007.12

その他の受賞歴
 ・2007年ブランフォード・ボウズ賞HC


 ロンドン育ちのピーターと、ダービシャーの農場育ちのケイトは、共に12歳。2人はある日研究所を訪れ、そこにあった反重力マシンのせいでタイムスリップを してしまう。着いた先は、1763年、ダービシャーの森の中だ。そして、偶然そこに居合わせた大男タールマンに、マシンを奪われてしまう。状況がわからず途方にくれ る2人だったが、ギデオンという金髪の若い男が現れ、ビング大佐の屋敷まで2人を連れていってくれた。屋敷の人たちに会い、やっとタイムスリップという現実を受け止めることができた 2人は、18世紀の人間を装い、ビング家の息子たち、付き添いの牧師、侍女、ギデオンたちと一緒に馬車に乗って、タールマンがマシンを持って行ったロンドンまで旅をすることにした。

 3部作が予定されている「タイムトラベラー」シリーズの1作目。同じくシリーズものの「バーティミアス」、「ストーンハート」、「パーシー・ジャクソン」等を思いうかべながら読み始めた。しかし、本シリーズは〔タイムトラベル〕がテーマのファンタジーではあるが、シンプルな設定にゆっくりした展開で、主人公2人のキャラクターも丁寧に作られており、児童書という範疇を強く意識した作りになっている。タイムワープした先の18世紀のイギリスも、歴史を踏まえてきちんと描かれており、ジャミラ・ガヴィンの『その歌声は天にあふれる』やスーザン・クーパーの『影の王』 らのほうに、より近い作品といえるかもしれない。
 物語は、18世紀で主人公の2人が仲間たちと旅を続ける合間に、現代で2人の親が悲しみにくれ、警察が2人の失踪事件を追う様子をはさみながら進んでいく。時折、18世紀にいる2人の体がぼやけて、現代に幽霊のようになって現れるなど、読者を飽きさせない構成だ。ピーターは、約束を破った父親や、父と自分を残してアメリカで映画の仕事をしている母親に対して、複雑な思いを抱いており、 旅を続ける中で深い絆を結ぶようになったギデオンに父親の像を重ねたり、ケイトの父親への信頼の深さに戸惑ったりする。現代に残された父親のほうも、息子の最後の言葉「父さんなんか、だいっきらい」が、心に突き刺さったままだ。この親子の問題は、3部作を通じて大きなテーマとなるのかもしれない。
 頼りになるけれど影のあるギデオン、愉快で人の良い酒飲みの牧師、かわいらしいビング家の5歳の次男など、登場人物はバラエティに富んでいる。また、悪人のタールマンとその主人ラクソン卿の 名前は、2作目と3作目の題名にもなっており、今後どのような展開になるのか楽しみだ。歴史上の人物(ダーウィンの祖父や、ジョージ3世やシャーロット王妃など )が登場するのも興味深い。

(植村わらび) 2008年6月公開

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1991年度 カーネギー賞

"Dear Nobody" (1991) Berlie Doherty バーリー・ドハティ
『ディアノーバディ』 中川千尋訳 新潮社 1994/1998(文庫版)
『あなたへの手紙 ディアノーバディ』
  中川千尋訳 小学館 2007(改題改訳版)

 やまねこ公式レビュー レビュー(やまねこのおすすめ)(邦訳)

その他の受賞歴 ・第42回産経児童出版文化賞(第42回)


(このレビューは、 改題改訳版 『あなたへの手紙 ディアノーバディ』を参照して書かれています)

 大学への入学を明日にひかえたクリスのもとに、手紙の束が届いた。筆跡は、何か月も会っていないヘレンのものだった。そして手紙の書き出しはすべて「ディアノーバディ」。日付順に手紙を読み始めたクリスは、またたくまに10か月前に引き戻された。あの日ふたりはヘレンの部屋で初めてセックスした。ヘレンはダンスが上手な女の子。王立音楽院の作曲科への推薦も決まっている。クリスは英文学を専攻予定で、ふたりともAレベル受験の準備をしていた。ところが、ヘレンの妊娠という思いがけない出来事で、ふたりの運命は急展開していく。

 物語は、クリスの回想と、へレンがまだ見ぬ子に宛てた手紙が同時進行する形で進んでいく。妊娠を知ったヘレンの気持ちは、次第に自分の中に宿った新しい命のことでいっぱいになるが、クリスのほうは相変わらず恋する男の子のままである。そんな男女の生理の差を痛々しいほどに感じた。一方、ふたりを取り巻く大人たちもこの出来事に動揺し、これまで隠してきた自分の過去を語り始める。クリスは、長年離れていた母に会う。ヘレンは母の出生の秘密を知り、自分もまたその命の流れの中にいることを知る。一番印象的だったのは、へレンが馬を疾駆させ、馬が暴走してしまうシーン。その時に助けてくれるクリスの叔母ジルがいい。
 十代の妊娠がテーマのこの本が、児童書に与えられるカーネギー賞を受賞したことに、驚きを感じたが、「児童書」の範囲がそれだけ広がったということだろうか。また、現代のイギリス社会の姿を浮き彫りにしながら、人間に普遍的なテーマが描かれていることが評価されたのだと思う。読みながら、クリスとヘレンの正直な気持ちが、ストレートに伝わってきて、しばし十代の頃に引き戻された。いま青春の渦中にいる若い読者のみならず、大人にも十分読みごたえのある作品である。
 本書は、1994年に新潮社から出版された邦訳『ディアノーバディ』(1998年には新潮文庫)の復刊(改題・改訳)。装丁も大人の女性向けで、最寄りの図書館では一般書の扱いだった。

(大塚道子) 2008年6月公開

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2003年度 カーネギー賞ショートリスト

"The Garbage King"(2003) by Elizabeth Laird エリザベス・レアード
『路上のヒーローたち』 石谷尚子訳 評論社 2008.08

その他の受賞歴


 エチオピアの首都、アディスアベバの路上で暮らす少年たちを、生き生きと描いた作品。
 13歳のマモは、姉に世話をやいてもらいながら、町をぶらぶらして過ごしていた。住むところと食べるものは何とかなるものの、学校には通 うお金はない。母親が死ぬと、マモは、おじと名乗る男に、遠く離れた農家に売り飛ばされてしまった。厳しい親方のもとで牛の世話をし、家畜小屋で寝起きし、わずかばかりの食べものしかもらえない生活で、マモはやせ細っていく。一方、裕福な家に生まれたダニは、勉強もスポーツも苦手で、厳格な父親の期待に沿えず肩身の狭い思いをしていた。唯一の味方の母親が手術のためにイギリスに発った朝、ダニは厳格な元使用人に預けられるのを恐れ、家出をする。 そして、その晩、命からがらアディスアベバに帰り着いたマモとダニが出会った。奇妙なきずなが生まれたふたりは、生きのびるためにギャングの仲間に入ることにする。ギャングといっても、帰る家がなく路上で暮らす子どもたちが助け合う集団だ。リーダーの少年ミリオンは、「盗みとけんかは厳禁、何でもみんなで分け合う」というポリシーの持ち主で、仲間からの尊敬を集めていた。
  
  金持ちの家に生まれ、困難に出会うとぬくぬくとした空想の世界に逃げ込んでいたダニにとって、路上生活はどんなに厳しいことだっただろう。貧富の差こそあれ、マモにとっても、家もなく、物乞いをしないと生きていけない生活は、はじめてだった。そのふたりがストリート・チルドレンの仲間になり、これまでにない経験の中で成長していく様子は、読んでいて辛さを覚える。同時に、少年たちの明るく、たくましく、やさしい面に触れ、生きていく希望を見い出し、勇気づけられたりもした。
 作家のレアードは、実際にエチオピアに通い、ストリート・チルドレンの子どもたちからさまざまな話を聞いたという。正義感はあるけれど、時にお酒を飲んでおこりっぽくなるリーダーのミリオン、すぐにかっとするミリオンの片腕バッファロー、赤ちゃんの時に母親が死んでしまったカラテなど、どの子も存在感たっぷりに生き生きと描かれているのはそのためだ。また、ギャングの仲間に入った際に、マモが、重い荷物を誰かに肩がわりしてもらったようでほっとした気持ちになった反面、最低のストリート・チルドレンになってしまったんだと落ちこむ場面など、作り事ではない説得力のある描写に、作者の力量を感じた。他の作品も是非読んでみたい。
 エチオピアでは、今この瞬間にも、空腹をかかえて物乞いをし、たくましく生きている子どもたちがいる。衣食住に困らないわが子に目を移した時、その事実に心を揺さぶられる。まず現実を知ることが第1歩だ。これからは、テレビや新聞でエチオピアと聞く度に、心の中にミリオンやカラテなどの顔が思い浮かぶだろう――児童文学の持つ役割の大きさを改めて感じた1冊だった。

(植村わらび) 2008年12月公開

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1986年カーネギー賞 受賞作品

"Granny was a Buffer Girl" by Berlie Doherty バーリー・ドハティ  追加
『シェフィールドを発つ日』 中川千尋訳 ベネッセ 1990

その他の受賞歴
 ・1988年ボストングローブ・ホーンブック賞 フィクションと詩部門オナーブック


 明日フランス留学に旅立つ女子大生ジェスのために、今夜は家族でお祝いのパーティーだ。一緒に暮らす両親と兄、おじいちゃんに加え、父方の祖父母もそろい、夕食後にはだれからともなく昔話が始まった。祖父母たちのなれそめや、両親の出会い。そこには、かつて鉄鋼業で栄えたシェフィールドの街の歴史も刻まれている。そして、幼くして亡くなった長兄ダニイのことは、家族みんなが深く心にとどめていた。初めて聞く家族の秘密の物語を胸いっぱいに抱え、ジェスは新しい世界へと旅立っていく。

 原題 "Granny was a Buffer Girl" は、直訳すると『おばあちゃんは研磨工だった』である。この父方のおばあちゃんは、当時の過酷な労働のせいで今は肺をわずらっているが、娘時代の淡い恋の思い出を語ってくれた。イギリスの児童文学には、祖父母と孫の交流を描いたものが多いことに改めて驚く。実際、英国では故郷に留まって両親の近くで暮らす人々が、日本で想像している以上に多いのだろう。この本を読み、どんな平凡な人生にもドラマやロマンスがあることを再認識し、そんなひとりひとりの人生が時代を形作っているのだと感じた。またそんな身近な歴史を次の世代に受け継いでいこうという作者の強い意志が伝わってきた。
 読んだ人が、自分の家族の歴史をふりかえってみたくなる、そんな本である。

(大塚道子) 2009年5月公開

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1985年カーネギー賞 受賞作品 & Carnegie Anniversary Top 10

"Storm" by Kevin Crossley-Holland ケビン・クロスレー・ホーランド 追加
『あらし』 島田香訳 ほるぷ出版 1990

その他の受賞歴


 アニーは、おとうさんとおかあさんといっしょに、ぬまのほとりのいっけん家に住んでいました。ぬまはアニーのあそびあいてです。でも冬になると、日が暮れた学校からのかえり道、ぬまのそばを通るのが、こわくてなりませんでした。ぬまにはゆうれいがすむという、うわさがあったからです。ある冬、けっこんして遠くに住んでいるおねえさんが、赤ちゃんをうむために家にかえってきました。ところが、いよいよ赤ちゃんがうまれそうだという夜、ものすごいあらしがやってきました。

 この本を読んで思い出したのは、コルシカの昔話「金の髪」と、フィリッパ・ピアスの『幽霊を見た10の話』(高杉一郎訳/岩波書店)の中の「水門で」。いずれも幽霊が出てくる緊張感あふれるお話だ。本作品は60ページほどの短編童話だが、あらしの晩のアニーのおそろしい体験が、臨場感いっぱいに描かれていて、ドキッとするような深い印象を残す。まさに幼年向けゴースト・ストーリー。日本ではあまり知られていないが、カーネギー賞オールタイム・トップ10に選ばれたということは、イギリスでは広く読まれている本なのだろう。邦訳は、中村悦子の線画の挿絵が、雰囲気によく合っている。

(大塚道子) 2009年5月公開

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