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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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訃報 |
―― ロバート・コーミア ――
11月2日、アメリカのヤングアダルト(YA)文学の代表的作家であるロバート・コーミアが、血栓による合併症のため亡くなった。「身近な題材にこそドラマがある」と、生まれ故郷であるマサチューセッツ州レミンスタから居を移すことなく、75年の生涯を終えた。
コーミアがYA作家としての地位を確立した作品は、1974年発表の "Chocolate War" (『チョコレート戦争』/坂崎麻子訳/集英社、『チョコレート・ウォー』/北澤和彦訳/扶桑社)。徹底したリアリズムに基づいた苦い結末が賛否両論を呼んだが、若い読者から圧倒的な支持を得て読み継がれ、現在ではYA文学の古典的作品ともいわれている。以後寡作ながら、 "Fade" (『フェイド』/北澤和彦訳/扶桑社)、 "In the Middle of the Night" (『真夜中の電話』/金原瑞人訳/扶桑社)など、ホラー、ミステリーの手法も用いて、困難な現実に立ち向かい、自己を模索する若者の姿を描いた作品を世に送り出していた。
年齢を重ねてなお、10代の視点と心を持ち続け、厳しいストーリーであっても瑞々しさをたたえた物語を発表し続けたコーミア。75歳という年齢は決して若くはないが、7月にはイギリスを訪問し、次作についても語っていただけに、その突然の死が惜しまれてならない。
なお、コーミアの詳しい経歴については、本誌9月号書評編「作家紹介シリーズ:ロバート・コーミア」を参照のこと。
(森久里子)
訃報(ロバート・コーミア) カナダ総督文学賞発表 『ローザからキスをいっぱい』 『海の魔法使い』 "The Rope and Other Stories" Chicoco の親ばか絵本日誌 本誌バックナンバー補遺 MENU |
速報 |
―― 2000年 カナダ総督文学賞発表 ――
11月10日、カナダの歴史ある文学賞、カナダ総督文学賞が発表された。授賞式は14日。児童書部門(Children's Literature)の受賞者は以下の通り。
Governor-General's Awards for Children's Literature Text and Illustration ★物語(Text) 英語 Deborah Ellis for "Looking for X" (Groundwood Books) 仏語 Charlotte Gingras for "Un e(´)te(´) de Jade" ★絵(Illustration) 英語 Marie-Louise Gay for "Yuck, a Love Story" 仏語 Anne Villeneuve for "L'E(´)charpe rouge" ※アクサン・テギュ(´)は、直前の文字の上につく。 |
◇参考:この賞を主催するカナダ・カウンシル
◆カナダ総督文学賞の詳細については、本誌1999年12月号「世界の児童文学賞」の記事をご参照ください。
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注目の本(邦訳絵本) |
―― 温かい思いやりが心に染みる絵本 ――
『ローザからキスをいっぱい』 "Kisses from Rosa" |
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ローザは、おかあさんが結核で入院中、都会の家を離れて遠い農場のおばさんの家にあずけられることになった。農場では、ムーキーおばさんといとこのビルギットが、ローザを温かく迎えいれ、農場主のシュミット夫妻をはじめ、まわりのだれもがローザをかわいがってくれる。ベリーつみをしてジャムをつくったり、りんごを地下室にしまったりと、農場生活は珍しいことや楽しいことでいっぱいだ。でも、いつもローザはおかあさんからの手紙を一生懸命待っていて、手紙が届かないと悲しい気持ちになる。ローザも日曜日ごとに、おばさんに手伝ってもらって手紙を書き、茶目っ気たっぷりにイメージしたキスをいれて送った。おかあさんの鼻をくすぐるエスキモーのキス、さえずりながらする鳥のキス、ちょっぴり痛いライオンのキス……。
これは、作者の小さいころの経験をもとにつくられた絵本である。ローザが農場で過ごした夏、秋、冬が、落ちつきのある豊かな色彩で描かれている。母子が別れる場面で、ローザに優しくまわしたおかあさんの柔らかそうな手。緑に囲まれた夏と雪に埋もれた冬の、ため息が出そうに美しい農場風景。かわいらしいローザの手紙の絵、こまごまと描かれた部屋の内部など、魅力的なページばかりだ。
小さな子が親と離れて知らない土地で暮らすとなれば、心細くて胸がつぶれそうだろう。ローザも初めは涙をこぼしがちだった。けれど、しだいに農場の暮らしにとけこんでゆく。ローザが辛い気持ちを忘れて元気に過ごせたのは、まわりの人たちの思いやりに包まれていたから。この絵本に出てくる人たちはみな、ユーモアがあって、ほんわかと温かい。特に、おかあさんから手紙のこないとき明るく慰めてくれる郵便配達のオットーさんの優しさは心に染みいり、目頭を熱くさせる。おばさんの家で、ローザはおかあさんがいなくて寂しかったけれど、それ以上に人から温かい思いやりをたくさんもらった。農場で暮らした日々は、大切な思い出としてローザの心にしっかりと刻まれたにちがいない。
見返しには、幼いころのマザーズ本人と、家族や農場の人たちの写真が載っている。絵本にいっそうの親しみを持つとともに、当時を偲ぶ作者の深い思いを強く感じた。
(三緒由紀)
【作者】Petra Mathers(ぺトラ・マザーズ) ドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)生まれ。1986年、"Maria Theresa" でエズラ・ジャック・キーツ賞を受賞する。また "Molly's New Washing Machine"、『ぼくのお気にいり〜バルビーニさんちのセオドアくんの話』(BL出版)、"I'm Flying" の3冊は、ニューヨークタイムズ選定・年間最優秀絵本絵画賞を受賞している。米国、オレゴン州在住。 【訳者】遠藤育枝(えんどう いくえ) 1948年、京都市に生まれる。アメリカ・シモンズ大学児童文学研究センター修士課程修了。現在、京都精華大学教員。主な訳書に『地下鉄少年スレイク』(原生林)、『本に願いを――アメリカ児童図書週間ポスターに見る75年史』(BL出版/産経児童出版文化賞特別推薦)、『おばあちゃんがいったのよ』(BL出版)があるほか、今江祥智と共に多数の絵本を訳している。 |
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注目の本(邦訳読み物) |
―― 私だけのたったひとつ ――
『海の魔法使い』 "All the Names of Baby Hag" |
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静かな凪のときに、その赤ちゃん魔女は生まれました。まんまるで、はだはあわい緑。そして、きれいな、すきとおったひれに、水かきのついたちっちゃな足。姿はおねえさんやおにいさんにそっくりですが、きまじめな海の魔法使いにはめずらしく、生まれたときからにこにこしていました。そして、何よりみんなと違うのは、なかなか名まえがきまらないこと。
赤ちゃん魔女は、自分の名まえを自分で見つけなければなりません。魔法使いの世界では、みんなそうするのです。おねえさんの「白雪姫」は、浜べできいた人間たちの話から、心に残った言葉を名まえにしました。おにいさんの「レックス」は、いっしょにあそんだ大きな黒いラブラドール犬の名まえをもらいました。でも赤ちゃん魔女は、あんな名まえも、こんな名まえも、みんな好きなのです。ひとつになんてきめたくありません。そんな彼女にぴったりの名まえはあるのでしょうか。
いつまでも名なしの娘を心配して、ちょっとイライラしている母親。陸にあがって名まえをさがしてきてくれる兄姉たち。赤ちゃん魔女はそんな家族の心配をよそに、どんな名まえで呼ばれても、いつもにこにこ返事をしてしまう。似たような光景は、どこの家庭でも見られそうだ。たとえば、もし家族の誰かがいつまでも進路をきめずにぶらぶらしていたら、きっとあれこれ口を出してしまいたくなるだろう。しかし、彼女の父親はそうではなかった。心配している様子は見せず、穏やかにふるまいながら一生懸命考えていた。娘が心から望んでいる名まえ、ほかの誰ともちがう、彼女にぴったりの名まえを。悩んでいるとき、迷っているとき、こんな父親がいてくれたら、あせることなく自分自身と向き合うことができるかもしれない。
赤ちゃん魔女が見つけたのは「すべてのなかで、これしかない、たったひとつの名まえ」。私たちには自分で名まえをつける必要はないけれど、《私だけのたったひとつ》に思いをめぐらせてみてはどうだろう。名まえや、肩書きや、立場だけでは表わすことのできない、まさに自分そのものといえる何かが、きっとあるはずだから。
(赤間美和子)
【作者】Patricia MacLachlan(パトリシア・マクラクラン) 1938年、アメリカ、ワイオミング州生まれ。『のっぽのサラ』(金原瑞人訳/ベネッセ)でニューベリー賞を受賞。ほかに『草原のサラ』(こだまともこ訳/徳間書店)、『潮風のおくりもの』(掛川恭子訳/偕成社)などがある。 【訳者】金原瑞人(かねはら みずひと) 1954年、岡山県生まれ。法政大学教授、英米文学翻訳家。主な訳書に『かかし』(ロバート・ウェストール作/ベネッセ)、『“少女神”第9号』(F・L・ブロック作/理論社)、『スウィート・メモリーズ』(ナタリー・キンシー=ワーノック作/金の星社)などがある。 【画家】中村悦子(なかむら えつこ) 1959年、群馬県生まれ。児童書の挿し絵や絵本の分野で活躍中。主な児童書の挿し絵に、『あらし』(ケビン・クロスレー=ホーランド作/ほるぷ出版)、『アリスの見習い物語』(カレン・クシュマン作/あすなろ書房)、『草原のサラ』(上記)などがある。 |
訃報(ロバート・コーミア) カナダ総督文学賞発表 『ローザからキスをいっぱい』 『海の魔法使い』 "The Rope and Other Stories" Chicoco の親ばか絵本日誌 本誌バックナンバー補遺 MENU |
注目の本(未訳読み物) |
―― 緻密な作品構成と確かな描写力が冴える、珠玉の短編集 ――
『ロープ』(仮題) "The Rope and Other Stories" |
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『トムは真夜中の庭で』でイギリス児童文学に大きな足跡を残したフィリパ・ピアス。彼女の最新の短編集 "The Rope and Other stories" には、1976年以後雑誌などで発表された作品を含む、8つの話が収められている。
デビュー作『ハヤ号セイ川をいく』で高い評価を得た後、続く『トム〜』でカーネギー賞作家となったピアスは、そこから先短編を書くことに心を傾けていく。BBC放送で学校教育用の脚本を担当していた彼女は、児童用の短い話を数多く手掛けてきた。読者の心を素早く捕らえる魅力あるキャラクター作りのうまさや、短い話の中での緻密な作品構成の妙は、まさに放送作家として磨きあげてきたもの。さらに、定評のある卓越した描写力で情景や心理を鮮やかに描き出し、優れた短編を生みだした。
ピアスの短編集は大きく3つに分けられる。子供の日常に起こる事件を面白おかしく描いた話、幽霊などのでてくるスーパーナチュラルな話、そして彼女の長編物語を濃縮したようなテーマ性のあるリアリズム的作品である。"The Rope and Other Stories" は、ひとつのテーマに絞って編集してあるわけではないが、全体としては3番目のリアリズム的作品群に入る。今年岩波少年文庫に加えられた『まよなかのパーティー』(猪熊葉子訳)も同類の短編集だが、"The Rope 〜" の方がテーマ性がはっきりと打ち出されている。これは作家が年齢を重ねた結果だろうか。
作品をいくつか紹介してみよう。表題作 "The Rope" は少年が休暇で訪れた田舎の祖母の家で、ある遊びに対する恐怖心に「折り合い」をつけていく話。がむしゃらに恐怖心を「乗り越える」のではないところが現代的だ。子どもたちの遊ぶ様子の描写が見事で、同じような体験をしたことのある人なら特別な臨場感を味わえるだろう。"Early Transparent" では老人問題と難民問題を目の当たりにした少年の心のゆれが描かれ、"The Fir Cone" では両親が離婚した少年が、親子3人で公園に行った甘い思い出の謎を解く。どちらも、現代社会の問題にぶつかった子どもが自分で解決策を見つけ出していくという内容だ。そして "Inside Her Head" は『それいけちびっこ作戦』(百々佑利子訳/ポプラ社)の続編。病気のシムをクラッケンソープおばあさんが見舞って、子ども時代の話を聞かせるというだけの設定だが、話の信憑性についてのふたりの掛合いとそれに伴う心理の変化が絶妙で、思わずクスリとしてしまう。
どの作品も丹念に練られ、その描写は、例えばロープの感触が手によみがえるようなリアリティをもつ。今年80歳を迎えたピアス、90年代は寡作な時期だったが、まだまだその才能を発揮して、私たちをうならせる作品を書きつづけて欲しい。
(大塚典子)
【作者】 Philippa Pearce (フィリパ・ピアス) 1920年、イギリス・ケンブリッジ州に生まれる。ガートン・カレッジ卒業。BBC放送の学校放送部で、脚本・演出を担当。1955年、『ハヤ号セイ川をいく』(足沢良子訳/講談社)で作家としてデビュー。『トムは真夜中の庭で』(高杉一郎訳/岩波書店)でカーネギー賞、『ペットねずみ大さわぎ』(高杉一郎訳/岩波書店)でホイットブレッド児童文学賞を受賞。戦後のイギリス児童文学を代表する作家である。 |
訃報(ロバート・コーミア) カナダ総督文学賞発表 『ローザからキスをいっぱい』 『海の魔法使い』 "The Rope and Other Stories" Chicoco の親ばか絵本日誌 本誌バックナンバー補遺 MENU |
Chicocoの親ばか絵本日誌 第5回 | よしいちよこ |
―― 「親子2代で読みつぐ本」 ――
今回は昔から読みつがれている絵本を2冊紹介します。この2冊は、わたしも子どものころに読んだ覚えがあります。なつかしい気持ちで手にとりました。
まずは、『おおきなかぶ』(ロシア民話/A・トルストイ再話/内田莉莎子訳/佐藤忠良絵/福音館書店)。おじいさんが植えた種が巨大なかぶになります。おじいさんひとりではぬくことができず、つぎつぎに助っ人をよんできて、いっしょに引っぱります。国語の教科書にも出てくる有名な話です。しゅんが8か月ごろに読みはじめました。最初はとちゅうで本を閉じてばかりいましたが、だんだんなれて、1歳すぎに最後まで聞けるようになりました。「うんとこしょ、どっこいしょ」と、わたしが引っぱる手ぶりをつけると、しゅんもいっしょに引っぱります。1歳8か月になった今、絵を指さしながら「じーしゃん(おじいさん)」「わんわん」「えこ(ネコ)」などと教えてくれます。子どもむけの雑誌やテレビで同じストーリーをよく見かけますが、不思議なことにあまりのってきません。この話ではなく、この絵本が好きなのです。地味だけど素朴で、愛敬のある絵と、のんびりしているようで、リズムの良いいいまわしに、かぶを引っぱる手ぶりが加わって、特別な楽しさが生まれるのでしょう。
さて、もう1冊は『三びきのやぎのがらがらどん』(マーシャ・ブラウン作/せたていじ訳/福音館書店)。小さいやぎ、中ぐらいのやぎ、大きいやぎの3匹が、山へ草を食べに行きます。とちゅう、おそろしいトロルがすむ橋をわたらなければなりません。しゅんが1歳1か月ごろ、はじめていっしょに読みました。『おおきなかぶ』と同じく、最後までじっと聞けず、何度も本を閉じて中断しました。それが、いまではお気にいりの1冊です。わたしが「本を読もうか」というと、「どんどん(“がらがらどん”のつもりらしい)」といって、いそいそと本棚から持ってきます。わたしがトロルのせりふをおそろしげに読むと、しゅんはきゅっと肩をすくめます。近ごろは、「トロロ(トロル)、こわい」といえるようになりました。でも、大きいやぎを指さして「こわい」ということのほうが多いようです。そういわれて気づきましたが、このお話、トロルもこわいけれど、やぎもこわいんですよね。子どもと本を読んでいておもしろいのは、こういう発見ができることでしょう。次回は、発見がいっぱいの絵本をご紹介します。お楽しみに。
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本誌バックナンバー補遺 |
―― 邦訳情報 ――
本誌バックナンバーで「未訳」としてご案内した本のうち、以下のものが現在邦訳出版されています。
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(生方頼子/菊池由美)
訃報(ロバート・コーミア) カナダ総督文学賞発表 『ローザからキスをいっぱい』 『海の魔法使い』 "The Rope and Other Stories" Chicoco の親ばか絵本日誌 本誌バックナンバー補遺 MENU |
●編集後記●
『月刊児童文学翻訳』98年・99年バックナンバー合冊版、ごらんいただけたでしょうか。ささやかですがご参考までに、今号で追補を載せてみました。(き)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 赤間美和子(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 菊池由美 (やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 SUGO Chicoco つー どんぐり NON BUN ベス みーこ みるか MOMO YUU りり Rinko ワラビ わんちゅく |
協 力: |
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