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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集
コスタ賞(旧ウィットブレッド賞)児童書部門(イギリス) |
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最終更新日 2008/12/17 やまねこ賞の情報を追加
このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」や「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。
"The Diamond of Drury Lane" * "Harvey Angel"『屋根裏部屋のエンジェルさん』 * "The Illustrated Mum"『タトゥーママ』 * "Saffy's Angel"『サフィーの天使』 * "Indigo's Star"『インディゴの星』 * "Coram Boy"『その歌声は天にあふれる』 * "The Tulip Touch"『チューリップ・タッチ』 * "Harry and the Wrinklies"『ハリーとしわくちゃ団』 * "Journey to the River Sea"『夢の彼方への旅』(リンク)←追加
2006年コスタ賞 (旧ウイットブレッド賞)児童書部門ショートリスト
"The Diamond of Drury Lane" (2006) by Julia Golding ジュリア・ゴールディング (未訳読み物) |
その他の受賞歴 |
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1991年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門受賞作
"Harvey Angell" (1991) by
Diana Hendry ダイアナ・ヘンドリー 『屋根裏部屋のエンジェルさん』 こだまともこ訳 徳間書店 1997年 |
その他の受賞歴 |
両親を事故で失ったヘンリーは、下宿屋を営んでいる独り身のアガサおばさんに引き取られる。おばさんは、過去に悲しい出来事があったらしく、それ以来心をかたくなに閉ざしたまま。ケチで厳しいおばさんが営む下宿には、暗く冷たい雰囲気が漂っている。そんなある日、エンジェルという若い男性がやってきて屋根裏部屋を間借りすることになってから、下宿屋の雰囲気はがらりと変わり明るくなる。その一方、「つながり」だとか「回路」だとか変な話ばかりするエンジェルさんをヘンリーは怪しく思う。そこでヘンリーは、エンジェルさんの正体を暴こうと屋根裏部屋に忍び込んだり彼を尾行したりする。 家という物理的な空間に、目には見えないが確かに存在する「つながり」。このつながりをエンジェルさんが、アガサおばさんやヘンリーに気づかせる物語だ。ここでいうつながりとは、過去と現在のつながりであり、人と人とのつながりである。つらい過去を持つアガサおばさんと両親を失ったヘンリーをはじめ、下宿人たちは皆孤独だ。でも、家という媒介を通じで、自分の命が両親、祖父母……と昔からつながっていることに気づき、また、身近にいる人々の存在に感謝することを思い出せば、自分は決して独りではないことを知るのだ。この本を読んで、一世代で取り壊してしまう家や壊れたらすぐに破棄して新品を購入してしまう今の日本を残念に感じた。昔からある場所や先祖代々受け継がれてきた物には時代のぬくもりがあり、それを感じることで心が安らかになったり、自分という存在がより強く感じられたりするのではないだろうか。 (相良倫子) 2008年5月公開 |
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1999年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門 候補作品
"The Illustrated Mum" (19991) by
Jacqueline Wilson
ジャクリーン・ウィルソン 『タトゥーママ』 小竹由美子訳 偕成社 2004年 |
やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2000年6月号) レビュ ー(キッズBOOKカフェ:洋書でブレイク) |
(このレビューは、英語版を参照して書かれています)
10歳のドルフィンは、異父姉のスターと母親の3人暮らし。母親マリゴールドは精神不安定で母親らしいことは何一つできないため、ドルフィンにとってはスターが母親代わりだ。マリゴールドは、体中にタトゥーを入れている。人生で大きな出来事がある度、それを象徴する絵を彫っているのだ。その一つに「ミッキー」と名前の刻まれたハートがある。スターの父親でマリゴールドが忘れられない男性の名前だ。そしてある日、当のミッキーが現れ、スターを連れ去ってしまう。マリゴールドはショックのあまり気が更におかしくなり、幼いドルフィンは途方にくれる。
朝ごはんにスタンドで買ったチョコレートを食べたり、首まわりの汚れをクラスメイトにからかわれたり、気の高ぶった母親を子どものようになぐさめたりするドルフィンの行動ひとつひとつが健気でせつなくてたまらなかった。 (相良倫子) 2008年5月公開 |
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2002年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門受賞
"Saffy's Angel" (2001) by Hilary McKay ヒラリー・マッカイ 『サフィーの天使』 冨永星訳 小峰書店 2007 |
やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2003年1月号) |
(このレビューは、英語版を参照して書かれています)
8歳で字が読めるようになったサフィーは、それをきっかけに自分が養女だったことを知ってしまう。実の母は今の母の妹で、イタリアで交通事故で亡くなり、3歳だったサフィーは、まだ元気だった祖父の手で、イギリスのカッソン家に連れて来られたのだった。
「思春期の少女の自分探しの物語」といっても、この物語には、その手の話にありがちな暗さや重さはみじんもない。それは、カッソン家のきょうだいや両親、隣家の友人家族など、サフィーを取り巻く人々がみな生き生きとした、パワーあふれる人たちだからだろう。彼らのそんなパワーがサフィーを勇気づけ、後押しをしてくれる。自分探しの旅を経てようやく、そうした周囲からの愛情を実感し、それまで味わっていた疎外感を拭い去ることのできたサフィーの姿に心あたたまる。 (tommy) 2008年5月公開 |
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2002年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門受賞の続編
"Indigo's Star" (2003) by Hilary McKay ヒラリー・マッカイ 『インディゴの星』 冨永星訳 小峰書店 2007 |
その他の受賞歴 |
(このレビューは、英語版を参照して書かれています)
病気で1学期まるまる休んでしまったインディゴは、学校に戻るのが憂鬱だった。学校でいじめにあっていたからだ。ところが、いやいや入った新学期の教室には、アメリカからやってきた転校生、トムがいた。ふたりは徐々に打ち解けて友達になり、クラスメートのいじめと戦っていく。 「カッソン家シリーズ」二作目。今回は、浮世ばなれした一家の中でただひとり地に足のついた長男、インディゴが主人公。いじめにあっていても、家族には心配をかけないように黙っているインディゴ、そんなインディゴを助けるために、いじめのリーダーにガツンとやるサフィーと親友。いじめにあうインディゴやトムのことを気遣い、さらに、父親のことで心を痛めるローズ。この作品にも前作同様、全編に家族を思いやるあたたかな気持ちがあふれている。前作で加わったサフィーの親友、サラに続き、今回はトムが「家族」の一員に仲間入り。懐の深い一家からますます目がはなせない。これからの展開がとても楽しみだ。 (tommy) 2008年5月公開 |
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2000年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)オナーブック
"Coram Boy" (2000) by Jamila Gavin ジャミラ・ガヴィン 『その歌声は天にあふれる』 野の水生訳 徳間書店 2005 |
やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2001年2月号) |
18世紀の英国。行商人オーティスは、望まれない子どもたちをロンドンの「コーラム養育院」に届ける慈善の仲介人として知られていた。一縷の望みをかけて彼に赤ん坊を渡す女たち。だが、実は彼には恐ろしい裏の顔があった。頭は弱いが汚れなき魂を持つ彼の息子ミーシャクは、父の恐ろしい仕事に無理やり加担させられていた。そんなミーシャクが「天使」と陰で慕う少女メリッサ、音楽家を志す少年アレクサンダーとトマス。本来なら交わるはずのない互いの運命が、ある秘密が生まれたことで交錯することに……。 まずこの時代の子どもたちの置かれた劣悪な環境に驚いた。作者はその過酷な運命を、淡々とした筆で書き連ねていく。まるでごく当たり前のことであるかのように。そう、あの時代、あれは特別なことではなく、ごく当たり前のことだったのだ。この作品では、その過酷さに一筋の光が差し込まれる。その光を差し込んだのは、実の父に虐待される頭の弱い少年だった。彼の純粋な気持ちが痛々しい。非力な赤ん坊に過酷な運命を背負わせることができるのも、ここまで純粋にだれかを大切に思うことができるのも、同じ〈人間〉だという事実に言葉を失う。 (村上利佳) 2008年5月公開 |
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1996年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門受賞作
"The Tulip Touchl" (1996) by
Anne Fine
アン・ファイン 『チューリップ・タッチ』 灰島かり訳 評論社 2004 |
その他の受賞歴 1996年度カーネギー賞HC |
(このレビューは、英語版を参照して書かれています) ナタリーは、お父さんの仕事の都合で、大きな古いホテルに引っ越してきた。ある日、庭のはずれで、チューリップという少女に出会う。二人は学校も一緒だった。同級生たちはチューリップを毛嫌いしていたが、ナタリーはなぜか彼女に魅かれ、いつも一緒に遊ぶようになる。チューリップは平気でうそをつき、作り話をした。ナタリーのお父さんはそれを「チューリップ・タッチ(チューリップ風)」と呼んで、おもしろがった。だがチューリップの遊びや言動にはトゲがあり、それは次第にエスカレートしていった。 黒い表紙から、何かを訴えるような大きな瞳がこちらを見つめている。そのまわりには、"no one is born evil"(生まれつき邪悪な人間なんていない) の文字が並び、読む 前から不安な印象を与える。物語は、現実に起こりうる子どもの世界をあまりにくっきりとえぐり出しているので、途中読み進むのがつらくなった。チューリップに心の底では抵抗しながらも、ひきつけられてしまうナタリーの心理が、手に取るようによく分かる。チューリップのような子どもを作り出す世の中や、忙しさにかまけ子どもの声に耳を傾けようとしない大人たち。この本は、そういう大人たちに警鐘を鳴らしているといえるだろう。 (大塚道子) 2008年5月公開 |
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1997年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門ショートリスト
"Harry and the Wrinklies" (1997) by アラン・テンパリー Alan
Temperley 『ハリーとしわくちゃ団』 日当陽子訳 評論社 2007 |
その他の受賞歴 |
大金持ちの両親を持つハリー・バートンは、幸せを感じたことがなかった。両親は旅行にあけくれ、ハリーの世話は乳母兼遊び相手兼家政婦のラヴィニアにまかせっきりだったのだ。ハリーが密かに「ゲシュタポ・リル」と呼ぶこの家政婦は、ハリーをこきつかい、ハリーのためのお金を使い込み、豪邸の装飾品をこっそり売り払い、自分の身を飾り立てるという、とんでもないやつだ。
これまで不幸せだったハリーは、ラグ・ホールで年寄りのおばあさんやおじいさん達に温かく迎えられ、はじめて幸せを感じる。ロビンフッドのような広い森、桟橋から飛び込んだり泳いだりして遊べる湖、男の子にとってはうらやましくなるような絶好のロケーションだ。良かったね、ハリー、と思う間もなく、すぐにはらはらドキドキの冒険がはじまった。ラグ・ホールに住んでいるお年寄りは、元大学教授、元レーサー、元軽業師、元レスラー等、そうそうたるメンバーだ。ハリーは、おばあちゃんたちの秘密を早々に見抜いて、「しわくちゃ団」と命名する。そして、一緒に、プリーストリー大佐と再び現れたゲシュタポ・リルに立ち向かっていく、という展開。悪役も含めて、登場人物たちがみんな個性豊かなので、突拍子もない設定が十分に楽しめ、痛快なお話に仕上がっている。イギリスでテレビドラマ化された、というのもうなずける。 (植村わらび) 2008年9月公開 |
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2001年ウィットブレッド賞(現 コスタ賞)児童書部門ショートリスト
"Journey to the River Sea"(2001) by
Eva Ibbotson
エヴァ・イボットソン←追加 『夢の彼方への旅』 三辺律子訳 偕成社 2008.06 |
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