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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集>ニューベリー賞レビュー集(1990・2000年代)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ニューベリー賞(アメリカ) レビュー集
The Newbery Medal

(1990・2000年代)
 

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最終更新日 2009/07/05 レビューを2点追加

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ニューベリー賞リスト(やまねこ資料室)   
ニューベリー賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"The Higher Power of Lucky" * "Lily's Crossing"『リリー・モラハンのうそ』 * "The Dark-Thirty: Southern Tales of the Supernatural" * "The House of Scorpion"(リンク) * "Al Capone Does My Shirts"『アル・カポネによろしく』 * "Missing May"『メイおばちゃんの庭』 * "Pictures of Hollis Woods"『ホリス・ウッズの絵』←追加 * "The Underneath"←追加 * 


2007年ニューベリー賞受賞作

"The Higher Power of Lucky"(2006)
 by Susan Patron スーザン・パトロン
『ラッキー・トリンブルのサバイバルな毎日』 片岡しのぶ訳 あすなろ書房 2008.10
 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2007年6月号)

その他の受賞歴 

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

『ラッキーの探し物』(仮題)

 10歳の少女ラッキーの趣味は、アルコール中毒やタバコ中毒など、さまざまな更生会の会話を盗み聞きすること。更生会の人々は、一様に「Higher Power」を見つけて立ち直ったという。ラッキーもそのHigher Powerを見つけ、今抱える問題を解決したいと思っている。その問題とは、孤児院に入れられるかもしれないということ。2年前に母が事故死し、父は子育てを放棄。今は、父の先妻でフランス人のブリジットが後見人としてラッキーの面倒を見ている。そんなある日、ブリジットがフランスに帰る気配を見せ、ラッキーは引き止めたい一心で家出を決める。

 トレーラー暮らしのブリジットとラッキー、ブリキの家に住むおじさん、麻薬取引で投獄された娘の代わりに孫の面倒を見るおばあさん……。政府からの配給品で暮らしている負け犬の吹き溜まりのようなコミュニティがこの物語の舞台だ。だが、子ども(ラッキー)に限りなく近い視点で物語が語られているおかげで、悲壮感はまったく感じられない。子どもたちが、一冊しかない絵本を読んだり、糸結びや昆虫採集など、お金のかからない遊びをしたりして毎日を楽しんでいる様子はたくましく頼もしい。
 ラッキーが孤児院へ送られまいと苦心する一方で、異国の地で突然女の子の面倒を見ることになったブリジットの戸惑いや決断に思いを馳せると、この物語はより味わい深いものとなるだろう。人生の中で変えられないものは受け入れ、受け入れた上でベストを尽くすこと。そして変えられるものについては、変えていく努力をすること。そのバランスの大切さが、様々な登場人物の生き方を例に描かれている。
この作品は、文中で“scrotum”という言葉を使ったことで物議を醸し、いくつかの図書館に取り扱いを拒否された。出版社側はこれに対し、「1つの単語にとらわれるのではなく、全体を通してこの作品の素晴らしさを味わってほしい」と述べている。実際、この単語は物語の最後で、ラッキーに対するブリジットの誠実な態度を表す上で効果的に使われている。

(相良倫子) 2008年4月公開

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1998年ニューベリー賞オナーブック

"Lily's Crossing" (1997) by Patricia Reilly Giff パトリシア・ライリー・ギフ
『リリー・モラハンのうそ』 もりうちすみこ訳 さ・え・ら書房 2008

その他の受賞歴
 ・1997年ボストングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部門HB


 第2次世界大戦下の1944年、ニューヨーク郊外の避暑地ロッカウェイの別荘で、リリー・モラハンは最悪の夏休みを迎えていた。小さな頃から夏を一緒に過ごしてきた友達のマーガレットは、急にデトロイトに引越してしまった。そのうえ、リリーの父親が戦争に行くと言い出したのだ。リリーは怒りのあまり、出征する父親に「さよなら」さえも言えなかった。祖母とふたりの生活に、戦争が暗い影を落とす……。そこに現れたのが、アルバートという少年だ。ナチスに父母を殺されハンガリーから大変な思いをして逃げてきたが、たったひとりの妹はまだフランスにいるのだという。

 この物語の主人公リリーは、口から嘘が飛び出すのを押さえられないという、ちょっと困った子だ。サンプル品の口紅をぬってスパイごっこをしたり、口うるさい祖母に反抗したり、裏口から映画館にしのびこんだりする その姿に共感するのは、最初はなかなかむずかしい。でも、赤ん坊の時に母親が部屋の天井にはってくれた星のこと、母親のことを少しも覚えていないということ、祖母に泳ぎを教えてもらった時のこと……そんな話から、少しずつ彼女の気持ちが伝わってきた。
 一方、リリーと徐々に仲良くなっていくアルバートの心中も複雑だ。ぼくの両親はどうして、ナチスやヒットラーの悪口を新聞に書いて配るなんていう危ないことをしていたんだろう。おばあちゃんから、何があっても一緒にいるように言われていたのに、ぼくはどうして妹をフランスにおいてきてしまったんだろう。
 そんな2人が、リリーのついたひとつの嘘を仲立ちにして友情を深め、それぞれが乗り越えなければならないことに向かい合っていく。その様子には現実味があり、読んでいて心が痛むと同時に、心の底からふたりを応援したくなった。

(植村わらび) 2008年7月公開

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 1993年ニューベリー賞オナーブック

"The Dark-Thirty: Southern Tales of the Supernatural" (1992)
  by Patricia C. McKissack パトリシア・C・マキサック
  illustrated by Brian Pinkney ブライアン・ピンクニー

その他の受賞歴
 ・1993年コレッタ・スコット・キング賞作家部門


 村の権力者ホルトが殺された。Ku Klux Klanのメンバーであるフープは、皆から信頼の厚い黒人のアルヴィンを落とし入れようと、嘘の証言をする。だが警官により嘘は見破られ、アルヴィンは逮捕されなかった。怒ったフープはKKKの仲間たちとアルヴィンを襲い、殺してしまった。市長はアルヴィンがホルト殺しを自白した後、自殺したと公表する。その日から、フープは悪夢にうなされるようになった。なぜか磨いても磨いても窓ガラスが曇り……。(Justiceより)

 日が落ちてから、夜が来るまでの間の30分。昼でも夜でもない時間。それがdark-thirtyだ。南部のアフリカ系アメリカ人の間で、そのdark-thirtyの時間に語り継がれてきた、背筋がぞっとする不思議な話の数々が、この本には10話(詩を1編含む)おさめられている。怖い話が好きな子どもたちは、きっと大喜びだろう。だが、ただ怖いだけでは終わらない。これらの話には、アフリカ系アメリカ人たちが味わってきた苦難の歴史が練りこまれているのだ。奴隷制度、KKK、人種差別、そして自由を勝ち取るための戦い……。また、アフリカの先祖たちが信じてきた言い伝えを否定したために不運に見舞われる話や、不思議な力を持つまじない師の話もある。不思議な話、恐ろしい話に込められているのは、自分たちがくぐり抜けてきた歴史やアフリカにルーツを持つ文化を、後世に伝えたいという想いなのではないだろうか。ブライアン・ピンクニーによる、エッチングの挿絵が、不気味な雰囲気を更に盛りあげている。

(佐藤淑子) 2008年8月公開

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2003年ニューベリー賞オナーブック

"The House of the Scorpionn" (2002) Nancy Farmer ナンシー・ファーマー
『砂漠の王国とクローンの少年』 小竹由加里訳 DHC 2005(邦訳読み物)

その他の受賞歴
2002年全米図書賞児童書部門 ・マイケル・L・プリンツ賞オナー作品


 全米図書賞児童書部門レビュー集を参照のこと

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2005年ニューベリー賞オナーブック

"Al Capone Does My Shirts" (2004)
  by Gennifer Choldenko ジェニファ・チョールデンコウ
『アルカポネによろしく』 こだまともこ訳 あすなろ書房 2006
 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2005年2月号)

その他の受賞歴 ・カーネギー賞ショートリスト
2004年度やまねこ賞未訳部門第5位 ・
2007年やまねこ賞読み物部門大賞

 サンフランシスコ湾の真ん中に浮かぶアルカトラズ島。ここには、アル・カポネを始めとする凶悪犯を収容するアルカトラズ刑務所がある。ムースの一家は1935年、この島に引っ越してきた。自閉症の姉ナタリーをサンフランシスコにある特別な学校に入れるため、父さんが刑務所の看守の仕事につくことになったからだ。島には個性豊かな子どもたちが住んでいて、船でサンフランシスコの学校に通っている。ムースはさっそく野球仲間を見つけて喜ぶが、仕事に出る母さんの代わりにナタリーのめんどうをみることになり、なかなか思うようにいかない。

 刑務所の島にやってきた障害児を抱えた家族というと重苦しい話になりそうだが、全編がカラッと明るいのは、語り手である主人公ムースの、正直な気持ちがまっすぐ伝わってくるからだろうか。遠い昔に実在したこの島の人々の暮らしが、目の前に見えるようだった。ナタリーのため、必死で生きる両親とムースの思いは、やがてまわりの人々にも伝わっていく。題名にもあるアル・カポネの存在が、物語のカギとなっておもしろかった。自閉症という病気を世の中に広く知ってもらうという意味でも、貴重な作品だと思う。

(大塚道子) 2009年4月公開

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1993年ニューベリー賞受賞作

"Missing May" (1992)
  by Cynthia Rylant シンシア・ライラント
『メイおばちゃんの庭』 斎藤倫子訳 あかね書房 1993
 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳1998年9月号別冊)

その他の受賞歴 1992年ボストングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部門
           1992年ペアレンツチョイス賞受賞フィクション部門

 (このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 母親を亡くした少女サマーは、親戚をたらい回しにされた後、6歳のときにメイおばさんとオブおじさんに引き取られた。それから6年、サマーを大切に育ててくれたメイおばさんが死んでしまった。オブおじさんはショックのあまり抜け殻のようになっている。サマーは悲しみに沈みつつも、そんなおじさんのことが心配でならない。おじさんが少しだけ元気になるのは、サマーの同級生クリータスと一緒の時だ。ある日おじさんはメイおばさんの霊があらわれたと言い出した。サマー、オブおじさん、クリータスの3人は、メイおばさんの霊と話すために、霊媒師がいるというウエストバージニアの州都へ向かうことにする。

 大切な人の死を受け入れ、その悲しみを乗り越える過程がしっかりと描かれている作品だ。死を扱っていても読後が温かなのは、サマーの周囲に愛情があふれているからだろう。サマーは自分の悲しみにふたをして、オブおじさんの心配をするような優しい子だ。そんなサマーが自分のなかの悲しみに気づいて泣き出す場面には、胸がいっぱいになった。サマーの夢のなかでメイおばさんが語りかける言葉には、愛情が満ち溢れている。サマーの優しさは、メイおばさんとオブおじさん、死んでしまった母親から、たっぷりと愛情を注がれるなかで育まれたのだろう。巻末に収録されている、作者によるニューベリー賞受賞スピーチを読むと、この愛情に満ちた物語を書き上げた作者もまた、母親からしっかりと愛されてきた人だということが分かる。愛情は優しさを育み、それは力となる。愛されて育つことの大切さについて考えさせられた。

(佐藤淑子) 2009年4月公開

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2003年ニューベリー賞 オナーブック

"Pictures of Hollis Woods" (2002)  NEW
 by Patricia Reilly Giff パトリシア・ライリー・ギフ
『ホリス・ウッズの絵』 もりうちすみこ訳 さ・え・ら書房 2004
 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳2003年3月号)

その他の受賞歴 
2004年オランダ金・銀のキス賞佳作
2005年(第52回)産経児童出版文化賞【賞】


 ホリス・ウッズは11歳。生まれてすぐ置き去りにされ、様々な里親のもとを転々としてきた。問題を起こしては逃げ出してしまうのだ。正式に引き取りたいと言ったリーガン一家のところでさえ逃げ出した。そんなホリスだが、絵を描く才能は飛び抜けていて、描きためた絵はリュックにしまって大切に持っていた。新しい里親に決まった彫刻家の老婦人ジョージーと暮らしながら、ホリスは自分が描いた絵を見つめ、リーガン一家と過ごした夏の日々を振り返る。

 物語はホリスが語り手となって、彫刻家のジョージーと過ごす現在の時間と、絵を通して回想するリーガン一家との日々とが交互に登場する。その構成は、複雑な思いが交錯するホリスの心そのもののようだ。本音では温かい家庭を夢見ていながら、また捨てられるかもしれないという恐怖心をぬぐえず、人と一歩踏み込んだ関係を築くことができないホリスの苦しみが伝わってくる。お互い家族になりたいとまで思ったリーガン一家のもとまで逃げ出してしまった原因はしばらく明らかにならないが、それもホリスが受けたショックの大きさを物語っているような気がした。そして、読み進めるうちに先行きをゆっくりと見守りたい気持ちになった。決してせかすことなく、ホリスが心を開くのを待っているリーガン一家やジョージーたちのように。絵の中だけに閉じ込められていたホリスの本音に気づいている彼らの存在にはほっとさせられる。やがて、彼ら自身も実はそれぞれ事情や悩みを抱えていることに気づき、ホリスの心が少しずつ変化していく過程が印象的だ。

(asayaka) 2009年7月公開

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2009年ニューベリー賞受賞作

"The Underneath" (2008) (未訳読み物)  NEW
 by Kathi Appelt キャシー・アペルト、illustrated by David Small デイヴィッド・スモール

その他の受賞歴 ・2008年全米図書賞ファイナリスト


 古い森に捨てられた身重の猫が、哀しくもやさしい歌声のような遠吠えにひきよせられてたどりついた先――それは、傾いた家でしいたげられて過ごす猟犬のもとだった。すぐに生まれた2匹の子猫も床下で元気に暮らしはじめ、4匹は固いきずなでむすばれる。「決して外に出てはいけないよ。ここには、冷酷な人間、ガ ーフェイスが住んでいるから」と、何度も念押しされる子猫だったが……。
 さかのぼること25年前。まだ少年だったガルフェイスは、ヒューストンから300マイルもの距離を歩いてこの森にたどりついた。父親に殴られた顔は醜く変形し、心も同じくらいゆがんでいた。ひどい嵐の夜に、森で一番背の高いテーダマツに雷が落ちて幹が折れ、木は半分の高さになってしまう。そのテーダマツのからまりあった根っこの間には、大きな壷が埋まっていた。中に、太古からの生き物が閉じ込められていて……。さらにさかのぼること千年。その生き物は、まわりの動物から「グランドマザーモカシン(スママムシばあさま)」と呼ばれ、あがめられる存在だった。近くにはカドー族の人々が暮らしていた。そして、そこに愛と裏切りの物語があったのだ。

 現在の物語、25年前の物語、そして千年前の物語が、つむぎあわされた作品。1〜4ページほどの短い章立てで、現在から過去へ、もっと昔からまた現代へと自由に時を移しながら、登場人物それぞれの状況や思いを、時代を超えて重ねあわせ、浮き彫りにしてみせる見事さに驚かされた。何かの下に身をひそめるものたちが、愛する人を失い、寂しさにくれ、怒りに燃え、妬みに目がくらみ、間違いを犯していく姿……。そこには必ず、恐れと、それを超えた愛のきずなが存在していた。
 太古の生き物とは何なのか? どうして壷の中にとじこめられてしまったのか? 作者はその謎を、なかなか明かしてはくれない。じょじょに語られるのを待つうちに、読者はこの不思議な世界にどっぷりとひたりきってしまう。自らを人の姿に変える力を持つ生き物たち、バイユーにひそむ巨大なワニなどが登場する、神話や伝説や先住民族の伝承のような世界だからこそ、愛と喪失、孤独と希望、裏切りと救いといったテーマが際立って見え、こんなにもひきつけられたのだろうか。
 これまでに文章を担当した絵本を何冊も送りだしてきた作者。小説を書いたのは本作がはじめてだというが、素晴らしい仕上がりだと思った。

(植村わらび) 2009年7月公開

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