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※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
M E N U
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注目の本(邦訳絵本) |
『おじいさんの旅』> アレン・セイ文・絵 ほるぷ出版 本体1,500円 2002.11.25 32ページ "Grandfather's Journey" by Allen Say Houghton Mifflin Company, 1993 |
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「広い世界を見てみたい」ぼくのおじいさんは日本からはるばる海を越えアメリカに渡った。それは、日本から外国へ行くことがまだまだ珍しい時代のことだった。広大な土地、雄大な自然、様々な人種の人々、おじいさんにとって異国の地の何もかもが刺激的で魅力にあふれていた。そしてその地に根を生やし家庭を築いていく中で、アメリカもまた大切な場所、故郷となっていった。しかし年を重ねるごとに、心はもうひとつの故郷へと傾き、おじいさんはついに日本に帰国する。ところが日本での時が流れるにつれ、今度はアメリカへの想いが募りはじめた――。
1994年コールデコット賞を受賞したこの作品は "Tree of Cranes"、"Tea with Milk" と共に、作者アレン・セイの自伝的絵本三部作といわれている。加えて本作品は、作者自身の手による初めての邦訳版である。作品に対しての想いの深さが感じられる。淡い色合いの水彩で丁寧に描かれた28枚の絵は、それぞれがまるで一枚の写真。おじいさんのアルバムを見せてもらっているような気がしてくる。セイが訪ねるたびに、おじいさんはアメリカの思い出を話してくれたらしい。幼いセイにはおじいさんの心の揺れがわからず、思い出話をただ楽しく聞いていただけだった。が、日本で生まれ育ったセイ自身も、親の都合で16歳でアメリカに移住する。セイにとっても日本とアメリカがふたつの故郷になっていったのだ。この経験を通して祖父の人生と自分の人生が重なり、祖父の想いを知ったのかもしれない。そして、この遠き故郷への想いを描くことは、結果的に、移民の多いアメリカでたくさんの人の支持を受けることとなった。
しかしながら、この作品は郷愁を感じさせてくれるだけの作品ではない。人は何かを選択しながら生きていく。いくつも選べる場合もあれば、たったひとつしか選ぶことの出来ないときも必ずある。そのときの切なさも同時に教えてくれる物語なのだ。
【文・絵】アレン・セイ(Allen Say)
1937年横浜生まれ。アメリカで育った日系人の母、上海で育った韓国人の父をもつ。12歳で漫画家の野呂新平に弟子入りし、絵を学んだ。16歳で渡米し、兵役を経たのち広告写真家に。本業の傍ら小説なども執筆していた。50歳を迎えようとした時期から絵本創作に専念。"The Boy of the Three-Year Nap"(ダイアン・スナイダー文)は1989年コールデコット賞オナー(次点)に選ばれた。邦訳に『はるかな湖』(椎名誠訳/徳間書店)がある。 |
【参考】 ◇アレン・セイ邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
『おじいさんの旅』 『ホワイト・ピーク・ファーム』 "Duck on a Bike" "Exodus" "Hole in My Life" 子どもに語る(6年生に絵本を読む) |
注目の本(邦訳読み物) |
『ホワイト・ピーク・ファーム』 バーリー・ドハーティ作/斎藤倫子訳 あすなろ書房 本体1,300円 2002.12.10 183ページ "White Peak Farm" by Berlie Doherty Methuen Children's Books, 1984 |
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ジーニーは、ダービーシャーの農場に生まれ育った。父方の先祖が何代にもわたって引きついできた農場だ。家族は父、母、兄、姉、ジーニー、妹。近くに住む母方の祖母とおば。その暮らしは永遠に変わることなく続くように思われた。だが、祖母が家を売って旅をするといいだしたころから、農場は急激に変化していく。
高校卒業前後の4年間を、ジーニーがふりかえって語る。ジーニーと家族それぞれの自己探求と成長の物語であり、家族の別離と再生の物語である。
「自分の内なる声に、しっかり耳をかたむけるんだよ。さもないと人生を無駄にしちまうから」と、祖母はジーニーに話してきかせ旅立っていく。祖母は若いころ、オックスフォード大学に入学したものの母親の病気で中退し、以来ずっと村で暮らしてきたのだった。その言葉には、すでに終わりかけている自分の人生への深い思いと、これから始まろうとしている孫の人生への強い願いがこめられていて、読むものの心の奥をうずかせる。この祖母と、祖母の妹で独身を通してきたおば。農場だけを見つめて生きる閉鎖的な父と、その父に口答えすることなく仕える母。農場で父を手伝う寡黙な兄とおしゃれで愛情表現豊かな姉。多感な思春期のジーニー。音楽好きな幼い妹。作者は、3世代の家族ひとりひとりの生き方を、ジーニーの目を通して映し出し、「内なる声に耳をかたむける」とはどういうことかを、静かに私たちに語りかける。
兄と姉がみいだした道は、父を憤らせ、母を悲しませた。だが子が巣立つとき、親もまた新しい人生を歩みだすのだ。長い試練のときをくぐりぬけ、自分自身と相手のことを見つめなおしていく両親の姿は感動的で、人がつねに成長しうることを感じさせてくれる。
そして、兄と姉に続いて巣立ちを迎えたジーニーは、未来への扉をあける一方で、自分のなかに過去が息づいていることを感じとる。農場とともに代々引きつがれてきた過去。家族が共有するその過去に、これからはジーニーがひとりで、自分の未来を積み重ねていくのだ。巣立ちは、孤独な旅立ちでもある。だが、ジーニーは羽ばたくだろう。内なる声に耳をかたむけて。
【作】バーリー・ドハーティ(Berlie Doherty)
1943年、英国リバプール生まれ。ダラム大学、リバプール大学、シェフィールド大学で学ぶ。ソーシャルワーカー、教師などの仕事を経て、1983年から執筆に専念する。『シェフィールドを発つ日』(中川千尋訳/ベネッセ)と『ディア ノーバディ』(中川千尋訳/新潮社)でカーネギー賞を受賞したほか精力的に執筆を続けている。ダービーシャー、ピーク地方在住。 【訳】斎藤倫子(さいとう みちこ) 1954年生まれ。国際基督教大学卒。『メイおばちゃんの庭』(シンシア・ライラント作/あかね書房)、『シカゴよりこわい町』(リチャード・ペック作/東京創元社)、『旅立ちの翼』(プリシラ・カミングズ作/徳間書店)などの訳書がある。東京都在住。 |
【参考】 ◆バーリー・ドハーティ公式サイト ◇バーリー・ドハーティ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) ◇バーリー・ドハーティ邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
『おじいさんの旅』 『ホワイト・ピーク・ファーム』 "Duck on a Bike" "Exodus" "Hole in My Life" 子どもに語る(6年生に絵本を読む) |
注目の本(未訳絵本) |
『じてんしゃにのったアヒル』(仮題) デイビッド・シャノン文・絵 "Duck on a Bike" text and illustrations by David Shannon Blue Sky Press 2002, ISBN 0439050235 32pp. ★2003年全米図書館協会優秀図書賞 |
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青空の下、アヒルが真っ赤な自転車にさっそうとのり、羽を振って、ごあいさつ。この表紙を見ただけで、何ごとか起きるぞ!と、わくわくしてしまった。
置きっぱなしの自転車をみつけた農場のアヒルが、ぼくだってのれるぞと自転車のりに挑戦する。最初に出会ったウシは、目をまるくしてあきれかえった。次に出会ったヒツジは、転んでけがをするのではないかと心配でたまらないようす。だんだん上手にのれるようになってくると、すごい芸当だとイヌが感心して追いかけてきた。でもネコは、時間の無駄よと、おかまいなしだ。スピードを上げるアヒルを見て、ウマは負けずに速足のご自慢。手放しのりもマスターし、アヒルの気分は最高潮! そして、見ていた動物たちもほんとうは……。
アヒルが自転車にのったらどうなるか。作者の想像力と描写力が愉快な絵本を生み出した。見開きいっぱいに色鮮やかな絵が広がる。その中でも印象的なのは動物たちの目だ。大きな目のコミカルな表情が、正確に描写されたリアルな姿の動物たちを、個性的なキャラクターに作りあげている。結末シーンには、その個性をいかした心にくいユーモアがたくさん隠れていて、発見するたびに笑いがこみあげる。
幸運にも、在米中の私はプロモーション中の作者にお会いすることができた。いかにも『だめよ、デイビッド!』のデイビッドがそのまま大きくなったようなシャノンさんは、この絵本についてユーモアたっぷりに語ってくれた。たとえば、ヒツジは臆病な動物だからアヒルの行動にびくびくし、ウマは内心アヒルの速さに脅威を感じている。シャノンさんのお気に入りは、芸当ができるからイヌ。絵本のイヌのほかに愛犬、白いテリアのファーガスも登場させているほどだ(さて、どこに?)。ファーガスは、シャノンさんの最近の全作品に登場している。アヒルの赤い自転車は、シャノンさんが子どもの頃お金を貯めて購入した愛車がモデルだそうだ。ハンドルについていたリボンの虹色の房も再現され、この動きがアヒルの速さをあらわしている。
動物の鳴き声を覚えたばかりの愛娘エマちゃんのために、この作品は描かれた。次作はエマちゃんをモデルにした主人公が登場するらしい。待ち遠しいかぎりである。
【文・絵】David Shannon(デイビッド・シャノン) 1959年ワシントンD.C.に生まれ、ワシントン州スポケーンで育つ。絵本の著作、挿絵を手がける。『だめよ、デイビッド!』(小川仁央訳/評論社)は1999年コールデコット・オナー(次点)、『あめふりのおおさわぎ』(小川仁央訳/評論社)は2000年ゴールデン・カイト賞受賞。ロサンゼルス在住。 |
【参考】 ◆デイビッド・シャノン インタビュー(SCHOLASTIC: Author Studies Homepage) ◇デイビッド・シャノン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) ◇"No, David!" のレビュー(やまねこ翻訳クラブ読書室) ◇『あめふりのおおさわぎ』のレビュー(本誌2002年10月号書評編) ◇『ストライプ』のレビュー(やまねこ翻訳クラブ読書室) |
『おじいさんの旅』 『ホワイト・ピーク・ファーム』 "Duck on a Bike" "Exodus" "Hole in My Life" 子どもに語る(6年生に絵本を読む) |
注目の本(未訳読み物) |
『ひとびとの地』(仮題) ジュリー・ベルターニャ作 "Exodus" by Julie Bertagna Macmillan Children's Books 2002, ISBN 0330400967 (UK)(PB) 343pp. ★2002年ガーディアン賞候補作 ★2002年ウィットブレッド賞候補作 |
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2100年、温暖化の進んだ地球では、海面が上昇し、陸地の大部分が失われていた。15歳の少女マーラの住む小島も、大海の孤島となって久しい。海は残されたわずかな陸地にも迫りつつある。島の長老から海上にそびえる大都市の話を聞き、その手がかりを探していたマーラは、サイバースペース(仮想空間)で謎の狐〈サイバーフォックス〉と出会い、空中都市ニュー・マンゴの存在を知る。島民はニュー・マンゴを目指し、命賭けの旅を決意した。いざ出発という時、突然の大波が家族を乗せた船を沖へとさらい、取り残されたマーラは、親友である双子のきょうだい、ローワンとゲイルの一家の船に乗ることになった。何日もの辛い航海の末、奇跡的にたどりついたニュー・マンゴ。しかしその足元には高い壁が張り巡らされ、海には難民があふれていた。空中都市の美しいきらめきを頭上に眺めながら、飢えと乾きに苛まれ、海上警察の発砲におびえる日々。ゲイルは汚染された魚を食べ、やがて命を落としてしまう。両親と幼い弟が旅の途上で死んだことも知らされた。絶望と悲しみの中、すべての人人が救われる道を求め、マーラは壁の内側に潜りこむ決心をする……。
この作品は、温暖化や森林伐採のような環境問題や、難民・虐殺・奴隷労働といった人権問題を扱い、非人道的な能力主義や管理社会を批判し、さらに文化・芸術の重要性を訴え、科学万能主義に警鐘を鳴らす。驚くほどたくさんの社会的メッセージがこめられた物語である。一方ストーリーは、壮大なスケールでドラマチックに展開する。アクションあり、ロマンスありの近未来冒険ファンタジー。筋書きにはやや出来すぎの感もあるが、力強く、ストレートに胸に訴えかけてくる作品だ。
「誰一人死なせたくない」という思いにこだわり続け、マーラはがむしゃらに突き進む。愛する人を次々に失い、悲しみと孤独に押し潰されそうになりながらも、決してその理想を捨てようとはしない。そしてついに新天地 "The land of the people(ひとびとの地)" を見出すのだ。頑なで思慮も分別も足らない、ひたむきさだけが武器というこの少女に、作者は奇跡を起こさせた。熱く、力強いメッセージは、若者たちに勇気と希望を与えてくれる。
【作】Julie Bertagna(ジュリー・ベルターニャ)
1962年、スコットランド、エールシャーに生まれる。一時は教職についたが、「作家になりたい」という子どもの頃からの夢を捨てきれず、フリーライターとして新聞記事を執筆するようになった。2作目の小説 "Soundtrack" で、スコットランド芸術評議会の児童文学賞を受賞。その作品はティーンエイジャーから高い支持を得、数々の賞にノミネートされている。 |
【参考】 ◆ジュリー・ベルターニャのサイト ◇ジュリー・ベルターニャ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
『おじいさんの旅』 『ホワイト・ピーク・ファーム』 "Duck on a Bike" "Exodus" "Hole in My Life" 子どもに語る(6年生に絵本を読む) |
注目の本(未訳読み物) |
『人生にぽっかりあいた穴』(仮題) ジャック・ガントス作 "Hole in My Life" by Jack Gantos FSG 2002, ISBN: 0374399883 200p.
★2003年プリンツ賞オナー(次点)作 |
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この自伝には、たった一枚しか写真がない。しかもそれは人生最悪のときのもの。ガントスには児童文学者としてはめずらしい過去がある。「作家になるための学資稼ぎ」という名目で、一線をこえてしまったのだ。
高校生のガントスは親元を離れ、好き勝手に過ごしていた。スポーツカーを乗り回して酒やマリファナをやり、勉強はせずに本を読みふける毎日。夢は作家になることだったが、成績が悪く、手持ちの資金では地元大学しか入れない。そこには、創作文学を専攻したくても学科自体がなかった。
大学への進学は保留にして親元にもどり、父親の仕事を手伝いながらふてくされていた。そこに、怪しげな人物から大金を手にするうまい話を持ちかけられる。「その金さえあれば、作家になる勉強ができる!」なんとガントスは違法行為を安易に承諾してしまった。
ヘミングウェイを思わせるシャープな短い文章で鬱屈したモラトリアムが綴られるが、逮捕後は一変、戦慄が走るような現実が襲う。だが、ニューヨークの刑務所という恐ろしい環境におかれながらも、著者はユーモアを決して失わなかった。ガントスの中の作家が目覚めるまでの道のりは、一人の少年が大人へと成長していく過程と通じる面が多い。どん底まで行きながらも立ち直れたのは、一本筋の通った父親の存在があったからではなかろうか。定職にもつかず、世間的に誇れるような父親ではなかったかもしれないが、息子を育てる上で最も大切なところはおさえてあったのだ。
今年のALA賞(※)受賞作などには、思春期の子どもたちにとっての父親の存在の大きさ、重さを思い知る作品が多い。「父親育児教室」なるものが流行る今日、本来の父親の重要な役割について改めて考えさせられる。
※ALA賞:本誌(2003年1月号外)でお知らせした米国図書館協会が贈る児童文学賞
【作】Jack Gantos(ジャック・ガントス)
1951年ペンシルバニア州に生まれる。エマーソン大学在籍中、『あくたれラルフ』(石井桃子訳/福音館書店)でデビューし、ADHD(注意欠陥多動性障害)を抱える愉快な少年のシリーズ第2巻、"Joey Pigza Loses Control" がニューベリー賞オナー(次点)に選ばれた。半自伝的小説、Jack Henry シリーズも人気。 |
【参考】 ◆ジャック・ガントス インタビュー(LD OnLine Exclusive Interview) ◆ジャック・ガントス インタビュー(ACHUKA Feature) ◇ジャック・ガントス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) |
『おじいさんの旅』 『ホワイト・ピーク・ファーム』 "Duck on a Bike" "Exodus" "Hole in My Life" 子どもに語る(6年生に絵本を読む) |
子どもに語る 第3回 |
息子の通っている小学校で、読み聞かせの会に参加している。会が立ちあがったのは3年前。有志のお母さんたちの呼びかけで、50名近くのボランティアが集まった。以来、毎週月曜日の朝15分間、メンバーが各クラスをおとずれて絵本を読んでいる。児童数1050名(30クラス)という今どき珍しいマンモス校だが、グループのほうも今では総勢100名という大所帯なので、全クラスをカバーすることができる。
わたしの担当は息子のいる6年生。月に1度か2度当番が回ってくる。自分もいっしょに楽しもうという気楽な姿勢で続けているが、同時に、月曜の朝のスタートを気持ちよく切ってほしい、絵本を楽しんでもらいたいし、できればそれが頭の片隅にでも残ってくれたらうれしい、などという欲張りな熱意も少しはある。
しかしその気持ちが空回りすることも多い。6年生なら聞いてくれるだろうと思って長めのしみじみしたお話を選んでみたら、読み方がまずくて間のびしたり、面白いつもりで選んだら、季節や時間帯が合わなかったり。『くらーい くらい おはなし』を読んだときには、読みはじめてすぐに後悔した。その日は新学期最初の回。休みボケを吹き飛ばすようなパンチのきいたものをと思って、少しぞくぞくするこの本を選んだのだが、さんさんとさしこむ朝の光の中では「くらーいくらい……」というせりふが空しく響くばかり。子どもたちは、ぞくぞくするどころか、ぽかんとしていた。
6年生なりの難しさを感じることもある。わたしは会の立ち上げと同時に参加したので、この学年とは4年生以来のおつき合いだが、4年生のころにはクラスのほとんどが床にすわり、前へにじり寄ってくるような勢いだったのに、今では、部屋の隅に寄せた机の前にぽつんとすわってる子たちが、毎度かならず4、5人はいる。「見える? もっと前にくれば?」と声をかけても動かない。照れくさいのか、めんどくさいのか……。先週行ったときには、わたしの目のまえの床にすわって、こまかい数字のびっしり書かれたノートをのぞき込んでいる子がいた。宿題かと思ったらそうではなく、ゲームか何かのデータらしい。絵本を読みはじめてもノートを閉じる気配はない。なんとか目を合わせようとしたが、けっきょく最後まで顔を上げてくれなかった。
でもべつに、斜に構えていたり、冷めていたりするわけではない。基本的には、とてもよく聞いてくれる子どもたちなのだ。選書がうまく行って、読み手と聞き手の気持ちがかみあえば、目のさめるような反応を見せてくれる。昨年、圧倒的な共感を呼んだのが『けんかのきもち』だった。迫力のある絵、気持ちのいいせりふ。そして何より、子ども同士が本音でガンガンぶつかり合う骨太なストーリー。ページをめくるたび、せりふを読むたびにわっと盛り上がり、読んでいるわたしも熱くなった。
逆に、静かな中にのめり込むような集中力を感じることもある。『ナイトシミー』を読んだときがそうだった。アンソニー・ブラウンのちょっと魔術的な雰囲気の表紙を見せたとたん、「ハリー・ポッターみたい!」と声があがり、一気に物語の世界へ。誰とも口をきかないエリックが、ひみつの友だち〈ナイトシミー〉を心の支えに、少しずつ周りの世界とのつながりを築いてゆくというお話。いじめやひきこもりに通じるあたりが、琴線に触れたのだろうか。
大人と子どもの狭間にいる12歳。深い話を受けとめる力もあるけれど、楽しい絵本に出会えば、まだ文句なしに笑いころげる。『だめよ、デイビッド!』は、どのクラスでも大人気だった。デイビッドのいたずらぶりに、「ウワァー!」「すごい!」と大騒ぎ。また『だじゃれどうぶつえん』も最近のヒット作だ。「おやじギャグ」なんて言葉があるけど、誰よりもだじゃれが好きなのは小学生。「シャンプー アンド リス」なんてフレーズで爆笑してくれたりすると、こっちまで朝からハッピーになる。
「今の子どもたちは、目のまえに話し手がいても、まるでテレビのスイッチを切るようにパチンと注意力を切ってしまうことがある」という話を、中学の先生からうかがったことがある。そうかもしれない、とも思う。荒れてる子や反抗してる子ではなく、普通の子が普通にパチンとつながりを断ってしまうのだ。先週、顔を上げてくれなかったあの子も、あるいはそうなのかもしれない(肩のあたりに、聞いている気配も漂ってはいたけれど)。
きっとそれは、現代における生活術なのだろう。四六時中、ありとあらゆる情報が頭の中に流れこんでくる今の時代、いくつかのことを同時進行でこなし、「おもしろさ」や「実用性」でチャンネルを切り替えていかなくちゃとても追いついていけない。それが由々しきことなのかどうか、わたしには言い切る自信がない。でもつぎはあの子にも顔を上げてもらえるような、面白い絵本を面白く読みたい、という願いはある。
素人のわたしたちが、教室で絵本を読む。上手であるに越したことはないけれど、とてもアナウンサーや俳優のようにはいかない。でも自分が本当に好きな絵本をいっしょうけんめい読んでいけば、何かしら感じてもらえることはあるだろう。そのうちに、チャンネルやスイッチを切り替えるだけでなく、自分から立ちあがって本を手にとってくれる子も出てくるのではないか。
さあ、6年生の教室で読むのもあと2回。心をこめて楽しい絵本タイムにしよう。そして4月、こんどは末っ子が入学する。1年生! ちゃんとすわっていてくれるだろうか? どんな本を読んだらいいんだろう? 考えるだけでわくわくしてくる。
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『おじいさんの旅』 『ホワイト・ピーク・ファーム』 "Duck on a Bike" "Exodus" "Hole in My Life" 子どもに語る(6年生に絵本を読む) |
●お知らせ●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
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●編集後記●
今月から、書評編の編集を担当することになりました。どうぞよろしくお願いします。(あ)
発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 吉村有加(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 赤間美和子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: | 蒼子 河まこ キャトル きら くるり さかな 小湖 Gelsomina sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー 月彦 どんぐり なおみ NON ぱんち みーこ みるか 麦わら MOMO YUU ゆま yoshiyu りり ワラビ わんちゅく |
協 力: |
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